123 努力飴
アーリントから聖水を購入し、本格的に薬作りを開始することになった。
父上に頼み、自然のハーブ園に連れていってもらってリバイブリーフを含む、多種多様の薬草を採取。家に帰ってテーブルの上に数十種近くの薬草を並べた。
使えそうなものは全て使うということでいろいろ作成せねばならん。
「さらに山を登った先にもハーブの群生地があると言っておったな」
これ以外の品種が見つかるかもしれぬ。成長し一人で山を登れるようになったら見に行くとしよう。
儂は薬研の車輪に手をかける。毎日欠かさず使うことで車輪を動かす筋力もついてきた。
「お~い、クロス。仕事に出るけど今日は行かないか?」
「うむ。作りたいものがあるゆえ今日は控えさせてもらおう」
「おっ! 今日は何を作るんだ? クロスはほんとすげぇな!」
ポンと父上が儂の頭を撫でてくる。
正直ありがたいのは父上も母上もこの薬作りに寛容だということだ。
前世の両親を思い出すと不要なものは捨てろ。動けるなら働けというタイプだったと思う。
ゆえに二歳であっても動けるなら仕事に出ろと言うものじゃ。
しかし二人は決して強要はしない。少なくとも10歳近くになるまで自然のままに育てるつもりのようじゃ。
子の才に嫉妬することなく、誇りに思う父上と母上は立派に思うぞ。
「努力飴じゃよ」
「なんだそれ? って説明いいや。出来たらまた教えてくれ」
「父上はもうちょっと学んだ方が良いと思うぞ」
「大人になってから勉強なんてしてらんねーよ。俺は妻と子を守らないとダメだからな」
儂は200歳まで常に勉強しておったがな……。
だが家庭を持つというのはそういうことなのかもしれない。家庭を持ったことのない儂には分からぬことだ。
それに父上が明るく振るまって働いてくれるからこそ母上も儂も生きていけるのだ。
そこを否定するのは良くないのぅ。
「今日は母上と待っておる、安全に行くのじゃよ」
「おう! じゃあ行ってくるな」
父上は行き、ようやく準備に取りかかれることになった。
今日のチャレンジは努力飴の作成だ。
これはとにかく早く作成を進める必要があった。
先日のハイウルフとの戦いで分かったが二歳の軟弱の体では満足に戦うことができない。
物は持ち上げられない、体力は少ない。魔力もない。剣を振っても力が出ない。
当たり前じゃが子供とは本当に軟弱な存在であるとひしひしと感じる。
筋トレをするのも一つじゃが、骨がぐんぐんと成長していく中、無理な筋力トレーニングは成長を阻害してしまう可能性がある。
ならばどうすれば良いか。
それは薬草の力を使ってステータスの基礎値を向上させれば良いのだ。これはそのための努力飴である。
「ま、儂も全てを解明しているわけではないが」
王国の研究者に説明した方が早く解明するのじゃろうが、前世では他人への伝承や解明に興味が無かったからのう。
今世では必要であれば伝えるのもありかもしれん。いずれ誰かの手によって解明されるのじゃろうが。
さっそく薬研にパワーハーブとマインドリーフ、そして他の触媒草を投入し、ゴリゴリとすり潰す。
地道な作業だがこれが大事なのだ。
前世の記憶を頼りに適量を混ぜ合わせて粉状にする。
器を移してアーリントの坊主から購入して聖水を加えて固めていく。
そうして最後に調整して丸薬として作成するのだ。
昔の儂なら1日2,30錠ほどはできたが……今の体力じゃあと2,3錠が限度かのう。
だがステータスを底上げできれば話は変わってくる。
出来上がった底上げ秘薬を見据え、ぱくりと口にふくんだ。
むっ!
「にげええええええええっ!」
うぅむ。前世では味覚が劣化しておったからそう思わなかったがやはり若い味覚だと苦みはつらい。
儂は随分と苦みに弱くなってしまったと思う。
これを毎日飲むのは酷じゃな。確か……上手く混ぜ合わせば砂糖の代わりになるシュガーリーフもあったはずだ。
今度はシュガーリーフも混ぜ合わせてゴリゴリと潰して底上げの秘薬を完成させた。
「よしもう一錠飲んでみるとしよう」
ぱくりと口にする。
むっ!
「あまぁぁぁいっ! むぅ、飴を食べてるみたいで心地よいではないか」
シュガーリーフの量で甘味は調節できたはずだ。あまり多すぎると素材がもったいないからのう。
ご褒美の甘めの丸薬と控えめの丸薬を使っていけば。
「あり?」
ポタポタと両鼻から血が出てきた。
それだけでなく、両目や皮膚からも出血したように血が出てくる。
ふむ、これはあれじゃな。
「刺激が強すぎたかのう」
200歳であれば2錠くらい問題なかったんじゃが、やはり2歳の体で2錠はきつかったか。
こういう薬による失敗は200年の歴史で幾度無く発生している。
今まで一番やばかったのは毒耐性つけるために毒薬飲んだら1週間昏睡状態になったこともあった。
あれに比べたら全身血まみれなど大したことないぞ。
とりあえず……血を拭かねばならん。まぁ……すぐに止まるじゃろう。
儂は部屋を出て、居間で作業をしている母上に声をかけた。
「母上、布巾を貸してくれぬか?」
「どうしたの、何か汚しちゃった? ってぎゃあああああああああああああ」
「うむ、血で汚れてしまったわ」
「いやあああ、いやああああ! クロス、死なないでぇぇぇっ!」
この後、集落中が大騒ぎとなり……儂は母上にめちゃくちゃ怒られることになる。
ちなみに血はすぐに止まったが反動でしばらく動けなくなってしまった。
薬の効果が強すぎたようだ。子供の体……やはり弱すぎる。





