012 ポーションとスティラ
「儂はクロス・エルフィド。成人の式に参加するためにこの都へ来たんじゃ」
「そうなんですか! じゃあ、わたし達同い年なんですね。わたしもこれから式に出席するんです」
え、同い年なの?
スティラ・ポンポーティルは青髪のセミロングの可愛らしい顔立ちをしている女の子だった。
背も低く、童顔な所からぱっと見た感じ年下にしか見えないが。胸部の盛り上がりが強く目立つため……そこで年相応を稼いでいるのかもしれない。
儂とスティラは成人の式が行われる教会へ向かい、歩みを進める。
「クロスさんってどこから来られたんですか?」
「エストリア山を知っておるかのう。あのへんじゃよ」
「あの有名な霊山ですよね。龍脈の影響でマナが豊富だと聞いたことがあります」
秘境地であるエストリアが霊山だと知っているとはスティラはかなり勉強家っぽいな。
勉強熱心な若者は好ましいぞ。
「わたしも一度行ってみたいんですけど……もの凄く強い魔獣が多いって聞いて、立ち入りも制限されてるじゃないですか」
強力な魔獣は儂が全て倒したし今はもう安全の山となっている。
じゃがそうなってくると厄介な人間が入ってくるようになるので危険は残ったままと周囲には伝えていた。
「多分あの地方だと人の足で20日くらいかかりますよね……。そんなに前から出てきたんですか?」
「そーじゃのぅ」
儂の足なら余裕で1日でつくがの。
「クロスさんはどこで薬師術を覚えたんですか?」
この世の回復体系として、まず回復術師の回復魔法が古くから広まっている。
ただ外の傷は治せても体の内部に潜む病は回復術師には治せなかった。
そこで重要視されたのがその病に効く薬を作ることが出来る薬師である。
薬師は傷も治す薬も作れるので回復術師よりも重視される傾向がある。戦闘ではもちろん回復術師のが重要じゃが。
「薬師もおらん辺鄙な所じゃよ。だから儂が自己流で覚えて薬師の代わりをしておったんじゃ」
「すごいですね。ジング毒も見抜いてましたし、あの患者をフル回復させたお薬も……。クロスさんって凄い薬師なんじゃないですか」
「おぬしのポーションあってこそじゃよ。それにあくまで自己流じゃ。褒められるほどではない」
自己流といっても20歳くらいから学び始めたから今世も含めて200年近く学んでおるがな。
さて、次はこちらから聞くとしようか。
「ポンポーティル家とはあのポーションを作った家系で良いのか?」
「やはりご存じでしたか」
ポーションはここ50年で出来た液体系回復魔法薬じゃ。
それまでは存在せず、ポンポーティル家の現当主が生み出し、流通させて世界を変えたという話だ。
今やポーションはなくてはならないものとして王国騎士、冒険者問わず持っている。
儂は嫌いなのでもっとらんがな。
「私は現当主の姪孫になるんです」
「ほぅ、名家の関係者ということか」
「あはは……そうだと良かったんですが直系ではないので……雑用ばかりやらされてます」
ポーションの流通によりポンポーティル家は大きくなり、そして魔力を多く含んだネセス川の側に研究所を構えているゆえこの水都が大きくなるのは当然といえる。
農作物のいくつかはポーション作成用の薬草だと言われているんじゃ。
「将来はやはり薬師を目指してるのか?」
「はい! ポンポーティル家の者としてエクスポーションを何とか生み出してみたいです」
「エクスポーションとはなんじゃ?」
聞いたことあるような……。かなりの前の話だから多分ほとんど覚えてないのぅ。
スティラはにこりと笑った。
「現当主リドバさんが若い頃、液体系の回復薬の研究をされていたんです。それである時、赤色の純度の高いポーションを2個精製することに成功しました。50年経った今でも性能を維持した至高のポーション、それがエクスポーションです」
「ほぅ」
「一本は当時の国王に献上され、ポーションとしての価値とその効能でリドバさんは勲章を頂き、最高のポーションの作成者として名前を残したのです」
「ポーションが流通され始めたのがそれからだったか」
それまではヒーラーの回復魔法がなければ薬草をすり潰して飲んだり、塗りつけたりするのが主流じゃったからな。
50年前に作られた飲むことで傷を治すポーションというのは画期的だったに違いない。
ま、儂は100年以上前から生み出すことができておったが。
「本当は赤色のポーションが流通するはずだったんですが、50年経った今でも効果の低いポーションが市場に出回ったままなんです」
「なんじゃ量産できなかったのか」
「本人は奇跡の産物と言っていました。作ったはずのリドバさんが再現できなかったんです」
「ふーん」
普通は再現できる気もするが、不思議なことじゃの。
「ちょっと回復する程度なら今のポーションで十分じゃろう。だがポンポーティル家としてはということか」
「はい赤色のポーションを作ることを至上と考えています。私も解析したかったんですけど……やっぱり直系ではないからほとんどポーション研究をやらせてもらえなくて」
もったいない。先ほどの毒でやられた若造に飲ませたポーションは大したものだった。
この子であればちゃんと研究すれば赤色のポーションなど容易く精製することができるじゃろうに。
「リドバさんも自分の孫……次期当主の再従兄弟に家を継がせるみたいなので」
「もしや現当主に嫌われているのか?」
「リドバさんは兄……先代の当主だった私の祖父を嫌っていたようで、祖父母、お父さんとお母さんが亡くなってから居場所が本当になくて」
「ふむ……」
胸くそ悪い話じゃな。
血の繋がらない儂を父上も母上も愛してくれているのにスティラは血が繋がっているはずの現当主から嫌われている。
「でも最近ポーション以外にも気になる回復薬ができたんです!」
スティラは急に目を輝かせ始めた。
「アルデバ商会って知ってますか!」
「王国中に拠点を持つ有名な商会じゃろ。儂の里にも行商人が来ておったわ」
「実は5年ほど前からごくわずかだけ入荷している回復薬があるんです。ヒーリングサルブと言うんですけど」
「塗り薬か」
「ええ。瓶詰めにされた塗り薬で3ヶ月に10個だけアルデバ商会に入荷されるんです。その効能が凄まじいんです」
「ほー!」
「その件があってポーションが回復薬のトップシェアだった業界でヒーリングサルブが注目されるようになってリドバさんが激おこなんです」
はぁっとスティラはため息をついた。今までの話からやつあたりをされたんだろうなと思う。
「他社が作ったヒーリングサルブはあんまり使えないんですよね。だけどアルデバ商会に10個だけ入荷されるヒーリングサルブ効果は段違いで、わたしは作った薬師さんをすっごい尊敬してるんです!」
「ふむ」
「一度でいいから会ってみたいなぁ」
うん、多分それ儂かもしれんのう。
エストリア山は先も言った通り、霊山でマナが溢れておる。ゆえに薬草の質が非常に良く、回復薬を作るのに適した環境じゃった。
それで小遣い稼ぎをしたくて里に来た若い行商人と専属契約を結んで3ヶ月に10個納品しておるんじゃ。
もっと数を求められてるがめんどくさくてのー。王都に住んだ折には考えねばならんの。
「その薬師さんなんですけど、ほんと凄いんですよ!」
ふむふむ。
「そのヒーリングサルブは一塗りで傷が全回復しちゃうんです」
やはり儂が作った奴か?
「塗り薬が残ってる回数分使えるから、高位冒険者や騎士達が血眼になって入手しようとしてるんですよ」
それも聞くし儂が作った奴じゃないかと思う。
「何と保存も利いて1年経っても効果が落ちないんですよ!」
儂が作った奴で間違いなさそうじゃ。
「私、行商人さんから聞いたんですけど」
スティラは小声で誰にも聞こえないように喋った。
「薬師さんは20歳くらいの人らしいですよ」
儂じゃなかったわぁ!
「クロスさん、もしかして知り合いだったりしません?」
「知らんな」
儂じゃないなら分からんのー。





