116 お薬作り
「そんなわけでヒーリング草とマジックリーフを用意したのじゃ」
父上に頼んでヒーリング草と品質が悪くて廃棄処分待ちのマジックリーフを大量に用意してもらった。
品質が悪いといってもこの山で育ったマジックリーフのを基準にしているので十分じゃい。
むしろ魔力がよく詰まって扱いやすいのでこんなものがタダで手に入るなんて良い里じゃよ。
「クロスは何を作ろうとしてるの?」
儂のやることを見守ってくれるのが母上である。
「傷薬じゃよ。ヒーリング薬を擦り付けるんなんて原始的ではなく、しっかりとした塗り薬を作ろうと思ってる」
「そんなことできるの!? どこでそんなの覚えたの」
「母上の腹の中にいる時に覚えたのではないか?」
「最近、私相手でも軽々言うわよね」
どこで覚えたのなんて正直どうでもいいんじゃ。
使える技術、知識をフルで使う。これが大事なのじゃよ。細かいことなど気にしてたら生きてはいけん。
最近はそれを連呼したおかげで儂の知識に対する追求ほぼ無くなった。半端に情報を与えるから疑われるのじゃ。
儂の作製する仙薬にはキーとなる基礎薬と追加する薬草、そして水と火が必要じゃ。
「まだ子供に火を使わせたくないんだけどね」
「安心せい。危ないことはせんよ」
「クロスを信じているけど……一応あなたまだ2歳だからね」
火の取り扱いが心配なのか母上がチラチラ見てくるが……まぁ、仕方あるまい。
今は亡きミランダの家にあった薬草を混ぜ合わせ、車輪を使ってすり潰す器具の薬研を使い、薬草を混ぜてゴリゴリとすりつぶす。
うーむ。体が2歳になったから効率が悪いのう。車輪の取手が大きく、重たい。
「手伝おうか?」
「……母上お願いする」
人を頼る生き方をしてこなかったゆえに人の頼り方がまだ分からぬ。
しかし赤子の体ゆえに頼るのは仕方ないのじゃ。自分の力だけだと時間がいくらあっても足りぬ。
車輪を動かす筋力がつけば、難なくすり潰すことも可能じゃろう。
薬草同士を前世の記憶通りに混ぜ合わせて水を加えてかき混ぜる。
「あとは形を整えて乾燥させれば完成じゃ」
「思ったより簡単そうね。私にもできるかな」
「うむ、調合は薬師の腕がもろにでるからのぅ。効果の高いモノは難しいが、簡単なものなら儂が教えるぞ」
「調合って難しいイメージがあったから手が出せなかったの。知ってる人もいなかったし」
やってみたら意外に簡単だったってことはよくあるものだ。
ミランダも器具や書物を持っていても薬学にはそこまで通じていなかった。
「母上、軟膏を作りたいのだが蜜蝋はあったりするか?」
「蜜蝋ってなに?」
「蜜蜂が巣を作る時に分泌する蝋のことじゃよ。軟膏作りに適しておるんじゃが……。その感じだと無さそうじゃな」
「ごめんね……お母さん世間知らずで」
母上は意外に物を知らない。
この2年間一緒に過ごしてきて分かったことである。
基本教養は優れており、この集落でも数少ない識字能力があるのじゃがな。
昔やんなき身分だったという話が事実なら箱入りで育ったのかもしれぬな。
それがなぜこのような辺鄙な所にいるのか……。今の儂が聞いてもはぐらかされてしまうだろう。
「集落の住民も持っているじゃろうか」
「そうね。エルゼさんとかなら持ってるかも」
ふむ、ミランダが逝き、この集落で次の権力者となったエルゼなら持っているかもしれんな。
彼女は孫までいる肝っ玉の強い女子よ。様々なものを持っているかもしれん。
だが在庫を分けてもらうだけではいかん。
「継続的な入手となると行商人を使う方が良いかもな、この集落には確かに2ヶ月に1回行商人が来る……で良かったかのう?」
「アルデバ商会の人ね。まぁここは高山だからそんなにたくさんなものは取引できないけどね」
蜜蝋以外にも欲しいものをいくらでもある。
上手く交易できればこちらとしてもありがたいのう。
正直治癒薬の作成など大したことではない。2歳の体でなければもう少し上手くやれたんじゃがそこは仕方ないか。
もう少し大層なものを作りたかったのじゃが仕方ない。
「クロスは賢いね~。うん、凄い凄い」
母上が褒めて頭を撫でてくれるのが非常に心地よく感じるのも事実。
儂は情緒も若返っているのかもしれんな。





