115 薬草採取
儂の聴覚はその言葉を聞き逃さなかった。
集落の若衆に声をなげかける。
「今、ヒーリング草と言わなかったか」
「クロスどうした。ヒーリング草がどうかしたのか?」
「父上、もしかしてこの山にはヒーリング草が群生しているのか」
「ああ、そこら中に生えてるよ。俺達にとっちゃ何よりの治療薬だな」
ヒーリング草はその名の通り、傷を癒やす効能の持つ薬草だ。
ポーションの原料にもなり、用途は広い。
マジックリーフよりも育てやすい薬草だが平地に多く群生するイメージがあったため高山にあると思っていなかった。
さすがエストリア山。様々な薬草があるのじゃな。
「この先がヒーリング草の群生地だ。行ってみるか?」
「うむ!」
男衆から離れ、儂と父上はヒーリング草が大量に生えている場所へと向かう。
生い茂る高山植物をかぎ分けて進んだ先には原っぱがあった。
そこには大量のヒーリング草が存在していた。
儂は父上から降ろされて、それらの薬草を摘み取る。
「すごいのう。自然にここまで育つものなのか」
「品質はそんな良くないみたいだけどな。人数がいればこっちに手を出してもよかったんだが」
マジックリーフの方が利益が出るのだから仕方ない。
自然に育ててこれだけ薬草が生え揃うのはそう無いことだ。
魔獣達がいた痕跡もある。魔獣達も治療に使っておるんじゃろうな。
「ほぅ、山菜もあるではないか」
「ああ、食べられるのも結構ここで取れるんだぜ。食卓に上がってくるのはこのあたりで見つけたやつなんだ」
食べられるものは何でもか……。
街から離れたこの場所では食べものの入手も一苦労だ。
特に冬などは春~秋で収穫したものを保存し食べるので山菜の量も重要になってくる。
他にも良さそうな薬草がありそう……。
「クロス! そろそろ日が暮れるし帰るぞ」
「うーむ」
惜しいが仕方ない。今度行くとしよう。真っ暗になってしまっては危険じゃからな。
帰り道、父上に背負われた儂は……さっきのハーブの群生地でのことを思い出す。
「あそこは面白いのう。あれだけ多種多様なハーブがあるとは思わなかった」
「へ? ヒーリング草と山菜以外ただの草だろ?」
「馬鹿者! こんな貴重なハーブを草と評すとは何を言っとるんじゃ!」
「クロスって俺にすっげー冷たい時あるよな」
しょぼんとしてしまう父上。
まぁ父上は小童の年齢ゆえに仕方ないか。
「ちらっと見ただけでパワーハーブにマインドリーフ、強走薬の素材となるスタミナグラスもある。あとリバイブリーフも」
「聞いたこと無い草だな」
「ヒーリング草と違ってそれ単体では何もできんからな。ただ混ぜ合わせると凄いものが出来上がるんじゃ」
「どこでそんなの覚えたんだよ」
「母上が腹の中にいる時に教えてくれたんじゃないのか」
「エレナは山菜の区別もつかねぇぞ……。だから俺にはそのネタいらねーぞ」
そこを掘り下げられても仕方ないので放置するとしよう。
しかしエストリア山がここまで薬草の宝庫であったとは……。200年生きていても知らぬことばかりじゃわ。
儂が200年で培った薬師術を上手くやれればいろんなことを進められるかもしれん。
帰ってたらさっそく準備をしよう。
楽しみでにやけそうじゃわい。
「くっくっく」
「クロスがまた2歳らしかぬ笑いをしてやがる」





