109 初恋のあの人
「うーん、困ったね」
そこには三人の女子達がおった。
いずれも3,40くらいの年頃の女子達じゃ。
気になったので立ち寄る。
「どうしたんじゃ?」
「あら、クロス。え、えーとここは……その、何でもないのよ」
何だか慌てた様子を見せた。
隠すようなものではないと思ったがここの場所を見て気づいた。
「屠畜場じゃろ。別に儂は気にせんよ。生存競争ゆえに肉を喰らうのは仕方なきこと。なるべく肉や皮、骨と全てを使ってあげるべきじゃがな」
「……クロスくんっていくつだっけ」
「今年で1歳半じゃ。儂の年などどうでもよかろう。何があったんじゃ」
この場所は山で捕まえた魔獣や鳥類を解体するところである。
血肉の匂いがきついが……儂も狩りをよく行っていたから慣れっこじゃい。
「罠にね。シェルバードがかかったのよ」
「ほう!」
奥には手足を縛られた鳥の魔獣がおった。
「シェルバードの肉は柔らかくて美味って聞くから上手く解体したいんだけどね」
うむうむ分かるぞ。滅多に取れないから儂もたまにしか食えんかったな。
どう調理しても美味しいから是非とも食してみたいものじゃ。
別の女子が声を上げた。
「でもシェルバードって羽に毒があるって聞くし、解体方法を間違えると毒を浴びることになるのよ」
「この山で毒になると……ちょっとね」
なるほど。確かにシェルバードの一部の羽には対敵用の毒が仕込まれている。
儂もくらったことがあるが痺れるような痛みで女子供にはきついかもしれぬな。
「さすがに健康に変えられないし、売りに行こうかしらね」
「そうね。美味しいって言っても普通の鳥と変わらないでしょ」
「それはもったいない!」
シェルバードは本当に良い肉なんじゃ。
あの味は食べてみないと伝わらない。若い女子だからこそ良いものを食べて後生に繋げていかねばならんのだ。
「シェルバードの毒部分は尾の方にある。不用意なことをせねば大丈夫じゃ。それより肉が本当に美味で絶対食した方がよい!」
二人の女子達が儂をじっと見る。
「クロス、どこでそんなの覚えたの?」
「胎内教育以下略」
微妙に信用されておらず、面倒くさかったので儂が鳥を絞めてやろうと近づいたらさすがにやらせないと女子達が動き始めた。
鳥の首を落とし、血抜きをする。問題は次の脱羽である。普通にやっては毒羽にやられてしまう。
なのでお湯に解毒のハーブを加えて一緒に混ぜると毒を中和することができる。こうなると普通の鳥と変わらん。
このあたりのやり方をざっくりと伝えてシェルバードの解体は完了した。
「体大丈夫?」
「うん……全然なんともない」
「中和されたお湯は川などには流さないようにな。冷やすと毒が湧き出す時がある」
「へぇ~そうなんだ」
「なんで私達1歳そこらの子に教えてもらってるんだろ」
このあたり、儂がもう少し育てば違和感が無くなるじゃろう。
女子の一人が袋に鳥の肉体を詰める。
「はい、ビスケスさんところの分。クロスくんが手伝ってくれたからちょっと多めにしておいたよ。エレナちゃんにも宜しくね」
「かたじけない。頂いていくぞ!」
おっと、思ったより時間がかかってしまったな。早く先へ進まないと……。
儂は二人の女子に手を振り、屠畜場から出ることにした。
「不思議な子ね。一歳とは思えくらいしっかりしてるわ」
「ええ。でもあの知識は胎内教育って言ってたけど」
「エレナさんって屠殺したことあるのかしら……?」
「病弱な箱入りお嬢様って感じの人なのに意外よね~」
ようやく目的の家にたどり着いた儂は声をあげる。
「ミーナ氏、おられるか!」
「はいはい~」
一軒家の扉が開かれて、赤子を担いだ娘っ子が出てきた。
彼女はミーナ氏。年の近い母上と仲の良い一児の母である。
「母上からの頼まれ物じゃ。受け取ってくれい」
「ありがとう~!」
「テレーゼの風邪は良くなったのか?」
「うん、おかげさまでね。元気になったよね?」
「だぁっ!」
赤子のテレーゼが風邪を引いて、集落中が大騒ぎとなっておったからのぅ。
医者がおらぬゆえに病気になると治すのが大変らしい。限界集落の問題点よのう。
ミーナ氏に抱えられたテレーゼが儂に向かって手を差し出す。
「テレーゼも随分と大きくなったな。ほっほっほ、子供の成長とは早いものよ」
「あの……達観してる所悪いけど、テレーゼとクロスくんって1つしか変わらないからね」
テレーゼの成長はごく一般的なもの。0歳半だったら実際こんなもんじゃろう。
ミーナ氏は屈んで、手を差し出してくるテレーゼの手を合わせる。
「テレーゼ、早く大きくなるが良い。儂が集落を案内してやる」
「……やっぱりクロスくんが成長が早すぎるよね。エレナに相談してみようかしら」
お使いを終え、日が暮れるまで暇となる。
早く父上と農作業に明け暮れたいものだ。
農作業は心身の成長に大きく左右するからな。早く大きくなり、小太刀が扱えるようになればこの山の魔物を狩ることも容易くなる。
腰に携えたシルフィードダガーに触れる。
前世で儂が扱っていた武器の一つ。重さをほとんど感じない風の精霊石を使って作ったので1歳でも扱うことができる。
最低限の護身用じゃな。
今の体じゃ鍛錬もなかなかできぬ。怪我をして成長を阻害されてしまっては元も子もない。結局は体を成長させなければならんのだ。
武器なしで戦えればいいのじゃが……。
気付けばサザンナの里の奥深くに来ていた。
「ふむ、やはりここに来てしまうか」
この魔物が多く住む山で集落が襲われないのは結界が張られているからである。
その結界を張っているのは誰か……そう、それがサザンナ集落に住む唯一の魔法使いである彼女だ。
儂は外に出られるようになって毎日、彼女の元へと通っている。
彼女は今日も庭で花に水をやっていた。
優しげな表情とゆったりな振るまいは皆から親しまれ尊敬されている。
年相応な笑顔は魅力的で彼女はとても素晴らしい女性であると思う。
彼女が儂の姿に気づく。
「おや、クロス。こんにちは」
「ふむ、ミランダ。ご壮健で何よりだ」
集落唯一の70代であるミランダ。
どうやら儂は彼女がとても気になるのだ。
もしかして恋というやつかもしれん。
やれやれ年下好き過ぎるのも困ったもんじゃな。
書籍化作業も少しずつ進んでいます。
どのイラストレーターに担当して頂けるのか嬉しい悩みとなりますね。
書籍化版は運び屋になって以降、WEB版と大きく分岐すると思います。
フラグクラッシュはWEB小説慣れしてるから伝わる要素だと思っているので多分調整することになるでしょう。
予定では1章以降は設定を継承しつつ、かなりの量の書き下ろしになると思うのでお楽しみくださいませ、





