107 恋のライバル(※シャルーン視点)
私はこの時ほど自分の行いに失敗したと感じたことはない。
大叔母様と会わせてはならなかった。会わせなければ……こんなことにはならなかったのに!
学園に戻ってきた私はいつのまにか寮に戻ってきていた。
想いを寄せる彼のそんな姿を見たくなかったからかもしれない。
「シャルーンさん!」
寮の部屋にいたらスティラが乗り込んで来た。
「さ、さっきクロスさんと会ったんですけど……何があったんですか!」
「実は……」
王居での話をスティラに伝える。
当然スティラも時が止まったように混乱していた。
「年上好きなのは知ってましたが……まさかプロポーズまでするなんて」
「ええ、私もクロスの年上好きを軽く考えていたわ」
「もしかして結婚しちゃったりするんでしょうか」
「……さすがにないと思うけど」
王国の法律では成人すれば一応結婚はできる。
大叔母様が70歳でクロスが15歳。さすがに55歳の年の差婚はどうかって話だけど……。
「どうしようスティラ。何かいい方法ないかしら」
藁にも縋る想いでスティラに問いかける。
するとスティラはにこりと笑った。
「ありますよ。とっておきの方法があるんです!」
「えっ、どんな方法なの!」
さすがS級薬師だわ。その才能からとんでもない秘策が出てくるに違いない。
「わたし達も老婆になればいいんです」
「は?」
「クロスさん好みの年齢まで老いることができれば。あの薬草と薬草を組み合わせて細胞を衰えさせることができれば再現! フフフ」
「スティラっ! それは本末転倒っていうか。人生かけちゃダメっ!」
クロスのことで私よりもスティラの方が混乱しているのかもしれない。
この件、早くしないとスティラがとんでもないことをやらかすかもしれない。
惚れ薬とか媚薬ぐらいだと思ってたけさすがS級薬師、ぶっ飛んでるわ。
スティラが混乱してる分私が落ち着いて来た。
「クロスに会いに行ってくる」
知り合いを通じて、クロスが校内にいることが分かり探す。
今日の内に話をつけておかないとダメだ。
「いた」
クロスは空を見上げ、大叔母様のいる宮殿の方を眺めていた。
あなたのそんな姿見たくないのに!
「クロス」
「む? シャルーンか。どうした」
「何を考えていたの」
「そうじゃな。フェルーラのことを考えていた。学園に戻ってからも再び会いに行ってしまったわい」
しまった。一度学校に帰ってきた私達だったけど、私が寮にいる内に大叔母様の所にまた会いにいったんだ。
どんな話をしたんだろう。
「クロス、実は大叔母様には好きな人がいるのよ」
「なんと!」
こんな手を使うなんて私らしくない。でも……嫌なの!
大叔母様が話してくれた初恋の話をクロスに伝えた。少しでも気持ちが揺らぐことを願って。
クロスは再び空を見上げた。
「フェルーラの心に想い人がいても変わらぬよ。儂がそれ以上に彼女を愛せば良い」
「……本当に大叔母様が好きになったのね」
「ああ、彼女ほど心が美しく強い女性に会ったのは初めてかもしれぬ……。初恋の時以上のトキメキを感じてしまうとはな。しかし」
クロスの言葉のトーンが変わる。
「初恋の男がなんて言った?『鍛錬に励むが良い』 かーっ! 浅い男じゃのう。儂に分かる! そんなこと言う男は童貞拗らせて自分勝手に生きてきたボケ老人じゃわ。やめとけやめとけ」
「言いたい放題ね。鍛錬ってあなたも良く言うじゃない」
「儂は良い」
どんな理屈よ。クロスって自分が間違ってないって思い込んでる所あるわよね。たまにお祖父様と喋ってる感覚に陥るわ。
「ま、そんな所も好きなんだけど」
「何か言ったか?」
「なんでも」
私は王国最強と呼ばれているから上から目線でこられるくらい強引な方がいいの!
そんな想いを察してかクロスがいつのまに私の前に立っていた。私を見下ろすように正面に立ち、私の頭を急に撫でてくる。
「な、何よ。そ、そんなことしても嬉しくないんだからね」
嘘です。すっごく嬉しいです。
好きな人に撫でられて嫌に想わない子がいるわけないじゃない。
そりゃ誰もかれも撫でまくる男だって分かってけど……。
「やはりおぬしは特別に可愛いと思う」
「そ、そう?」
そんなこと言われたら顔が真っ赤になっちゃう。もう胸の中の炎で脳が沸騰しちゃいそう!
クロスはにこりと笑った。
「おぬしが結婚した折には儂はフェルーラと一緒に親族席で結婚式に出てやるからな……安心せい!」
「私を孫扱いするなぁぁぁっ!」
「ごふっ!」
気づけばクロスの腹にパンチをぶち込んでいた。
そんな馬鹿な話があってたまるか。クロスを大叔父様って呼ぶ……そんな未来は絶対許せない!
「大叔母様のところに行ってくる! 絶対私は認めないんだからね!」
◇◇◇
私は急いで王居に向かい、フェルーラ大叔母様と話を合わせないといけない。
クロスがごり押しした所で大叔母様がそっけなく振れば問題ないのだ。
だからこそ話をつけないといけない。
「大叔母様っ!」
「シャルーンどうしたの慌てて。王女なのだから礼節を持たなきゃダメよ」
「……」
大叔母様が住む離れの扉を開けるとそこには……20代中盤くらいの若い女性がいた。
声色や髪色、そしてそのオーラはまさしく大叔母様。
「ま、まさか!」
「ええ、あなたも知っての通り【全霊力】を細胞の活性に使用したわ」
そう剣聖と呼ばれているフェルーラ大叔母様。
その本質は体内にある魔力を霊力という形に変えた能力者だった。
私が紅蓮の剣聖姫と呼ばれているのと同じで大叔母様の本当の二つ名は【霊華の剣聖】。
すっかり忘れていた。大叔母様は70歳なのに体年齢は20歳半の半分化け物みたいな存在だった。
「70歳なのにこの容姿は変だから年相応の姿にしてたけど……やっぱり女子は綺麗に見られたいじゃない」
「大叔母様はクロスと結婚するんですか!?」
それに対しては首を振って否定した。
「さすがに無理ね。独身といえど私は王族。年の差がありすぎて結婚や交際発表なんてしたらあなた達に迷惑がかかるわ」
それは良かった。でもだったらなぜ若返る必要があるのか。
大叔母様は話を続ける。
「でも良い関係でいるくらいは許されるわよね」
「はぁっ!?」
「シャルーン。あなたクロスくんのこと好きでしょ」
「うっ! ってクロスくん!? 感性まで20代半になってますよねっ!」
「いいじゃない。老い先短い身よ。たぶんあと五十年くらいしか生きられないわ」
「充分でしょう!?」
この人が霊力をフルに発揮したら120歳くらいまでは絶対に生きられる。
「私が死ぬまでは清い交際をしたいと思ってるの。死んだら後はあなたに任すわ」
「その時私65歳だからね! 初恋の人はどうしたんですか! いつまでも想い続けるんじゃなかったの!?」
フェルーラ大叔母様は振り返り空を見上げる。
「あの御方のことは今でも想っているわ」
「だったら」
「それはそれ。これはこれ。この歳になってようやく気づいたのよ。好きだと言われることの嬉しさ……。クロスくんがどことなくあの人に似ているからかしら」
ダメだ。大叔母様はクロスの求愛を受ける気満々だ。
結婚や交際しなくても……クロスにとって一番の人になるのは間違いない。
だったらここで押さえ込むしかない!
「クロスは私のリンクパートナーなんです! 絶対渡さないんだから」
その時だった。大叔母様の瞳から霊力が溢れ、オーラを放ち始める。
それは霊華の剣聖の本気。今まで私が修行で立ち会ってくれていた大叔母様の姿とはまるで変わっていた。
「良い歳だし次世代に託そうと思ってたけど止めにするわ。シャルーン、王国最強を返上しなさい。私がそれを再び手にするわ」
大叔母様は霊力を発揮し、私に向かって剣を握る。本気で私を倒そうとしている。
王国最強の証とクロスを奪おうとしているんだ。これが本当の大叔母様の本気なのかもしれない。
「そんなの絶対許せない!」
奪われてなるものか。好きな人も強さの証も。私は王国最強のまま彼と添い遂げるんだ。
「大叔母様、あなたの本気を今日打ち砕きます!」
「いいでしょう。あなたと私はそう」
私は騎士剣を抜き、思いっきり飛びかかる。
「恋のライバルね」
「大叔母様が恋のライバルとか絶対嫌アアアアアアア!」
大叔母様との死闘が始まった。
そして離れは壊れ、宮殿に損害が出て。
大叔母様はお祖父様に。私はお父様に。
めっちゃ怒られた。
◇◇◇
「何がまずかったんじゃろうなぁ」
シャルーンにぶん殴られたクロス・エルフィドだったが、当然すぐに復帰し、シャルーンが走り去った方を眺める。
その先には愛しき人がいる……と思われる。
「クロス、こんな所で何をしてるんだい?」
声をかけてきたのはクロスのルームメイトであるジュリオであった。
クロスの隣へと近づく。
「孫娘との付き合い方は難しいなと思ったじゃ」
「どうせまたシャルーンに余計なこと言ったんでしょ。話はさっきスティラから聞いたよ。なんか怪しげなことしようとしてたから説得したけど」
「怪しげ? スティラに何かあったのか。心配じゃのう」
「当の本人がこれだもんなぁ」
ジュリオは友人達の奇行を思いためいきをついた。
「本当にシャルーンの大叔母様、剣聖フェルーラ様を好きになったの?」
「うむ。彼女ほど素晴らしい女性は存在しない」
「ふーん」
「何か機嫌悪そうじゃのう」
「シャルーンやスティラほどじゃないよ。僕はここで踏みとどまって良かった気もするけど……。じゃあクロスにとって初恋の人になるのかな」
「……初恋はまた別じゃった。素晴らしい女性は存在しないって言葉は大げさすぎた。彼女もまた……素晴らしい女性じゃった」
「どんな人だったの?」」
「そうじゃのう。彼女は……。うむ、せっかくじゃちょっと昔話をしてやろう。あれは儂が生まれて1歳半になった頃の話じゃ」
「いつまで遡るの!? それって絶対長くなるよね!」
クロス・エルフィドの幼少期の話が今、語られる。
クロスは老婆が好きなのではなく、生きた年月がお顔に表れてる美しい人が好きなのでフェルーラの見た目だけが若返っても問題ありません。
若返るフェルーラのイメージは幽遊白書の幻海さんが若返った感じが近いです。それを参考にしてます。
次から3章と言いたい所ですが過去編、間章となります。
なぜここで間章が入るか。重要な話がある……ことはなく。
単純に書き溜めがないのと2作の書籍化作業で3章の続きをすぐに投稿できないのが原因です。
本作は元々他のサイトで幼年編、少年編、青少年編を構想して投稿してたんですがあまり反響が良くなく、少年編の途中で投稿を取りやめました。
なろうではその教訓を生かしていきなり青少年編からスタートしているのです。なので幼年編の原稿がまるまる残っているので間章という形でリメイクして投稿しようと思います。
戦闘シーンもしっかりあるのでちゃんと面白いと思っています。
投稿間隔も申し訳ないのですが週1くらいになるかもしれません。
その間にいろいろ書き溜めておこうと思うので書籍がある程度決まったらまた更新頻度を上げることになると思います。
申し訳ありませんがご理解頂けると幸いです。
では明日からの投稿を宜しくお願いします。
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