104 目覚め
「アニエス、おぬしが最後の砦になったのか」
「そうなのです! クロス様が本当にお姉様のパートナーに相応しいか家族みんなで判断してもらったのです」
「ここまで来たということは相応しいという判断でええんじゃろうか」
といっても何したって会話×2、侍女を選ぶ(選んでない)、手袋キャッチボールしかしてないんじゃが。
気持ちの問題なんじゃろうけど。
アニエスは社交パーティの時とは違いお嬢様風なワンピースに身を包んでいた。
しかし胸元が大きいせいか溢れてしまっている。アンバランスな幼児も可愛いのう。
「アニエスはまだ儂のことは認めてないのか?」
アニエスは少し顔を伏せ、気まずそうに表情を変えた。
「社交パーティの一件であなたの実力知りましたから。言うとおりお姉様の影で支えてくださるならわたくしは認めてもいいと思っているのです」
「ほう、ならば最終関門は何をすればいいのか。おままごとか? ボール遊びか?」
「クロス様は完全にわたくしを舐めてるのです!」
アニエスは強気に前へ出る。
「わたくしにまいったと言わせる。それが最終関門のお題なのです!」
なるほど……さて、どうしたら参ったと言わせられるか。
「クロス様の得意なことでわたくしを参らせたら勝ちとなるのです」
「そうかそうかまいったのう。ほんとまいったまいった」
儂はアニエスは柔らかい銀の髪を撫でてあげる。
年下の幼児の頭を撫でることなどたやすいもんじゃ。
「な、なんですかいきなり。撫でられるのは嫌ではないのですが」
「アニエスの髪は柔らかくて肌触りがいいのう。とても気持ちがいい」
「姉様方のようにわたくしも頑張っているのです。兄様は年がかなり離れていますし、年の近い兄様が欲しかったなぁって思うのです」
「そうか。儂がシャルーンのパートナーとして兄代わりになっても良いぞ」
「別に必要ないですが、まぁ……たまには甘えてやってもいいのです」
よし、心のガードが開いた気がする。
幼児相手の駆け引きは楽しいのう。一生愛でてあげたい気がする。
「じゃあ儂のためにまいったと言ってくれるか」
「分かりましたです。まい……って言うわけないのです!」
「ほっほっほ、アニエスは可愛いのう」
「クロス様、わたくしのこと絶対舐めてるのです!」
からかうのはこのあたりにしようか。
あれから時間も経ったし、すでに執務室には国王陛下がおられるに違いない。
待たせるのは失礼だし、さっさと最終関門をクリアするとしよう。
「絶対簡単には言わないのです! いーっだ!」
アニエスは両手を広げてその先へ行かせないように守ろうとした。
そういえばルーナも儂を外に行かさないようにこうやって妨害しようとしてきたっけ。
言葉で宥めたり、ルーナのわがままも聞いてやったりしたがめんどくさい時はこうやって無理矢理を押し通ったな。
両手を広げてるアニエスの脇の下に手を入れてこちょこちょとくすぐる。
びくんと体を震わせ。
「ひゃあああっ!」
甲高い声をあげる。
へなへなと力弱く倒れるアニエスを押し倒し、ぐりぐりと指を動かす。
「やああああっ! きゃはははっ、やめるのですっ! 何するのですっ! そこは弱いんですっ」
「知っておるぞ。さすが姉妹じゃな。シャルーンと弱点が同じとは」
「くっ……うぅ……。あぅ、絶対まいったと言わないのです。くふふふっ」
「なかなか耐えるじゃないか。じゃが甘いな。我慢されるほど笑顔をみたくなる」
儂ほどの実力者となると擬似的に両手を何本も増やすことができる。
実際は増やしているのではなく増やしているように見えるほど早く動かすのだ。
これをやることで4本くらいの刀を同時に扱うこともできる。
これを応用すれば4本の手で同時にアニエスの苦手なポイントを攻めることができる。
武器もなければ最大8本の手を同時に動かせるのじゃ。
「シャルーンもルーナも屈服した儂の最大奥義を食らうがいい」
「ふぇ」
両手を素早く動かして8本のように動かし、アニエスの脇の下や脇腹あたりを一気に責め立てる。そんなことをすれば当然アニエスは強く反応した。
「ああああああああっ! これは無理ですっ無理ですっ! きゃはははははっ! あああっ!」
「まいったと言え、言えばやめてやるぞ」
「まいったのです! まいったのです!」
「……」
「まいったと言ったのにぃぃぃ、あひゃひゃひゃっ!」
やはり幼児は笑顔が一番じゃのう。
もうちょっとだけ笑わせてやるか。ほれほれどこが弱いんじゃ。ここか? ここかぁ。
「きゃはははは! わたくしが悪かったですぅ。まいったのです。きゃははははっ!」
声が出なくなったあたりで止めてあげることにした。
まいったと言わせたし、儂の勝ちだな。
そういえばまわりに侍女もメイドもおらんな。人払いさせていたのかもしれない。
アニエスは咳き込みながらも大量に汗を流していた。
ワンピースのスカートはめくり上がり、ピンクの下着が見えてしまっていた。
大人びたものを履いておる。同い年のルーナはくまさんパンツじゃぞ。
「あひ……、あひぃ」
「ふむ」
アニエスの体をざっと眺める。年齢の割に体の成長が早いせいか成長痛が各所で見られる。
骨格が少し歪み始めているな。まったく王家の医者は何を見ておるんじゃ。
気づいてしまったなら仕方ない。全身のコリをほぐしてやった方がよさそうじゃな。
まずは一番こっている肩を揉みほぐす。
「あ……っ! そこは……すごくいいのです」
「まだ若いのに随分こってるのう」
「急に肩がこり始めたのです……。正直困っていて」
「しかし、大きいのう。ルーナも発育がいいがアニエスはそれ以上か? どうなっておるんじゃ」
「あぁん! ど、ど、どこ触ってるです!? えっち」
「安心せい。大胸筋と乳腺の接合部をしっかり伸ばして自然な形にしてるだけじゃ」
「それっぽい言葉ですけどやってることはただのやぁん!」
ふむ、12歳でこの大きさとはな。幼馴染のテレーゼが見たら泣いてしまいそうじゃな。
「やぁ……」
「幼児相手の整体は妹達で散々試したから安心せい」
「……でも気持ちいいかも」
アニエスは嬉しそうに呆けた顔をしていた。よほど気持ち良かったのか震えておった。
男女共に成長期が著しい子には適した整体マッサージが必要なんじゃ。
よし、処置完了。
「一気に処置することは出来ん。今度会った時に続きをしてやろう」
「……」
「聞いておるのか?」
呆けておるアニエスの脇腹あたりを優しく揉んでやる。
「あひゃひゃっ! それはダメなのですっ!」
アニエスはぴくりと起き上がり慌てて離れてしまう。
「な、なんてことするのです。姉様に言いつけてやるのです!」
「この前にシャルーンにも同じことをしたぞ。だから王女には二回目じゃから言いつけても問題ないな」
「姉様にまでアレを!? 体中をこちょこちょ揉み揉みされて発狂しそうになったのです。あ、でも体が凄く軽いのです」
「当たり前じゃ。途中からしっかり施術してやったんだから」
「で、でもぅ」
アニエスはかぁっと顔を赤くさせ、手を頬に当てる。
お腹まわりに指を当てるとびくんと震えるから可愛かったのう。
「ちょっと気持ちよくなってて……、あんなことされたらもう嫁ぐしかないのです」
何か似たようなこと直近で言われたよう気がしたがやはり姉妹じゃな。
性感ポイントが似ておるのかもしれんな。
何だか感激しているような感じがするな。まぁええじゃろ。
「じゃあ儂は国王陛下に謁見してくる。汗はしっかり拭って風邪引かんようにな」
アニエスが儂の服を引っ張ってくる。
「あ、あの……気持ちよかったのでもうちょっとだけダメです?」
「これ以上はダメじゃ。おぬしの体に負荷がかかる」
「うぅ……! 何だか寸止めくらった感じなのです」
整体はやり過ぎるわけにはいかぬ。特にアニエスのような幼児相手にはな。
せっかくだしちゃんと体を整えてやりたいの。幼児の成長期は重要なんじゃ。
「おぬしの姉のパートナーとして後日ちゃんと整えてやるから、そこまで待つんじゃ」
「分かりましたのです。絶対お願いするのです」
アニエスはぱぱっと儂から離れていく。
視界から消える前に儂の方を向いた。
「クロス様は姉様のパートナーであることをわたくしは認めるのです。だから」
アニエスは続けた。
「またわたくしをこちょこちょしていいですよ。クロスにいさまぁ」
アニエスはそのまま儂の視界から離れていった。
なんだかにいさまの後にハートマークがついてそうな言葉遣いじゃったな。
しかし何か変な扉を開けさせてしまったかもしれん。
「まあええか」
幼児とふれあえて楽しかったわい。さぁ……決戦の場に行くとしよう。





