103 お茶会
国王陛下の妻であり、王妃のイベリナ殿下。そして隣はシャルーンの姉であるピュリウム姉殿下
王妃は銀髪だが、ピュリウム殿は国王陛下と同じ暗色系だ。
しかし瞳の色はシャルーンと同じで姉妹だということが分かる。
王妃もピュリウム殿もさすが王族、見た目が非常に麗しいな。
シャルーンと一緒で老いれば絶世の美女となるだろう。
ま、先代王妃殿下ほどではないがな。
2人とも煌びやかな私服に身を包んでいる。さすが王族というべきか。
この格好で決闘はないか。三姉妹で戦えるのはシャルーンだけと聞くし。
姉君が儂の手を引く。
「お題はお茶会ですわ」
お茶会ですかぁ。
そんなわけで宮殿の外のテラスで儂と王妃、姉殿下はテーブルを囲む。
侍女達がコーヒーとケーキを持ってきてテーブルに並べていくのだ。
うーむ、前世で世捨て人だった儂がファーストレディ達とお茶をすることになるとは……。まぁ飲んでるのはコーヒーじゃけど。
王妃もそうじゃがシャルーンの姉君であるピュリウム殿も相当人気があるとか。
フィラフィス王国の最近の抜本的な改革はこの姉君が主導で行っているとか。知性に優れている話は本当なのじゃろう。シャルーンも姉君は名君で尊敬していると言っていたな。
「クロスさんにはお礼を言わねばなりません」
姉殿下は優しげな笑みを浮かべた。
「先の王城でのパーティで公爵家同士のいざこざ……クロスさんも手助けしてくださったのでしょう?」
儂は何もしておりませんって言いそうになったがこういう席で嘘を言うのは違う気がする。謙遜程度にしておくのが吉か。
「たいしたことはしておりません。事件解決はシャルーンや薬師のスティラの力あってのものでしょう。やはり王家としてもあの事件の影響は大きいのですか?
「はい……。わたしの場合はあの時、婚約破棄を言い渡された子、ミューラス公女は親しい友人なのです。その子とは貴族院で毎日のようにお茶会を開いていたので……本当に婚約破棄になっていたと考えるとぞっとしますわ」
「ですな。未然に防げて良かったです」
あの時儂が指摘しなかったら本当に婚約破棄がなされていて、公爵家の間で争いになったのは間違いない。そうなるとそれをまとめる王家も忙しくなったじゃろう。
シャルーンも学園に通っている場合ではなかったかもしれん。
「ご友人はどうですか。心を痛めていなければ良いのですが」
「ええ、幸いすぐに解決したおかげでフェーデル公子様との関係も回復しましたわ。ただ魔族の魅了の影響でフェーエル公爵家の方々は大きなダメージを受けてしまいました」
「そうですか。早く回復すれば良いですな」
そんな儂とピュリウム殿の会話を和やかな笑みで王妃殿下は見ておられた。
少し話題が進んで、会話が途切れたタイミング。
「クロスさんは随分と場慣れされているのですね。シャルーンと同い年とは思えません」
「貴族の方ではないと聞いていますわ。振る舞いも完璧で妹達に学ばせたいくらいです」
礼儀というのは年の功とは言わんが長く生きればそういうことを覚えるタイミングは来るもんじゃ。
前世で世捨て人になる前は儂もいろんな国を転々としていたからのう。
王族と茶を飲む機会は無かったが……失礼の無いように覚え込んだ時期はあった。
あの時は不要だと思ったがこうやって役に立ったんならあらゆることに無駄はないなと思う。
「どちらで学ばれたのかしら」
何気ない質問だったのだろう。恐らく強い意図がないのは目を見れば分かる。
だが儂はチャンスだと思った。
「儂の母が元貴族令嬢でして幼少の頃、振る舞いを教えてもらったのですよ」
「あら……そうでしたの? もしかして言いづらいことだったかしら」
「いえ、そんなことはありませんよ。それに母は言っておりました。昔、貴族院で王妃殿下と仲良くされていたとか。体の弱い母は王妃殿下に頼りっぱなしで申し訳なかったと言ってましたね。先日帰省した時にも話をしました」
「え」
王妃殿下の表情は変わる。
ある人物を1人思い出したのかもしれない。そう、それは儂の母上だ。
母上と王妃殿下は友人同士だったと帰省した時に言っていた。
だからこそぶっ込んでみたのだ
「あの……クロスさんのお母様のお名前を聞かせて頂けませんか」
「エレナと言います。旧姓はエレナ・ミストラルですね」
「エレナお姉様!? エレナお姉様はご存命なの!?」
お、お姉様? ちょっと予想外の言葉に儂は戸惑ってしまう。
確か在学中は王妃殿下が年下と言っておったか。
姉君もびっくりして唖然としているじゃないか。
「え、ええ……元気にしております」
「エレナお姉様は美しくて、お優しくて……私の憧れのお姉様だったの。お体が弱くて体調を崩すことも多かったけど芯が強くて私はそんなところも憧れでした。なのに」
にっこりとしいていた王妃殿下の顔が般若のようにゆがむ。
「あの優男が甘い言葉でお姉様をたぶらかせてぁぁぁぁっ!」
あ、これ父上だ。
「ちなみに儂は拾われっ子ですので実の子ではありません」
父上の代わりにぶん殴られそうだったので否定はしておく。
「ごほん、ごめんなさい。お姉様があの男と駆け落ちして、私も卒業後に王妃になって忙しかったからそれっきりになってしまったのです」
王妃殿下はその後父上達が捕まって、エストリア山に追放されたことは知らんようだ。
ま、当然か。
「でも良かった。生きていてくれて……。20歳まで生きられないって聞いていたから」
「ええ、元気になりました。今は実子である妹を産んで元気にしておりますよ。母上そっくりの金髪で今年で12歳になります」
「アニエスと同い年じゃない! はぁぁ、お姉様のお子様を見てみたい。きっと天使のように可愛くてお優しい子なのでしょう」
可愛いのは間違いないが、それ以外はどうだろう。
おかしな機械を錬金術で作るわ。わがまま言い放題だわ何とも言えん。
これを言うと父上の血のせいと言われるんだろうが。
「母上の実家、ミストラル侯爵家はどうなっているのでしょうか。母上は都合上今いる場所を離れられないのですが……実子のルーナは侯爵家の血を引くので先方が望むならお会いさせたいのです」
「……何か事情があるのですね。分かりました私がミストラル侯爵家との仲をとりまとめましょう」
さすが王妃様、察してくださって助かる。
王家の情報網ならいずれエストリア山への追放のことも分かるじゃろうし、儂から言う必要もない。
それにこの件を言う相手にはこれから会うんじゃ。
「クロスさんはシャルーンだけでなく、王家と関わり合いのある方になりそうですわね」
「儂はさっきも言うとおり実子ではありませぬ。たまたまですぞ」
「わたしはそうは思いません。あなたとはこれからも長い付き合いになるでしょう」
姉君は立ち上がり、向こうの扉を指さす。
「第四関門突破です。さぁ……最終関門へ挑戦ください」
「ようやく最後ということですか」
「あ、まだ父様。いえ国王陛下が王城から戻ってきてないのでゆっくり向かってくださいね」
「時間稼ぎだったのですね、コレ」
王族のお遊びに巻き込まれたような気がする。
王妃殿下、姉殿下に礼をし儂は最後の扉を開けた。
王の執務室と書かれたフロアへたどり着く。扉の前に最後の砦がいたのだった。
「最終関門の相手はわたくし、第三王女アニエスです! クロス様勝負するのです!」
かわいい門番じゃのー。





