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影は斬られる  作者: 鈴藤美咲
不二
30/33

繋ぎ目

 事案に関わる被疑者を特定するには情報収集。すべてを一致させるには、様々な協力が必要だ。中でも“御用聞き”の活動は、重宝している。


 奉行所の会議室にて、茶太郎と葉之助の立ち合いで通報者の声と共に録音されていた“障り音”を、作蔵が再生機器に繋げたヘッドフォンで聴いていた。

「面白いのが聴けた。おまえに聴かせるには、葉之助の通力が必要だ。どうする、茶太郎」


「葉之助」

「御意。作蔵さん、手順のご説明をお願いします」

 茶太郎と葉之助は目を合わせて頷き、作蔵へと振り向く。


「“障り音”を俺の中に入り込ませて音量を下げてやる。その“音”を葉之助、おまえの“念録の術”で録してくれ。あとはおまえが分かりきったことをすればいいさ」

 作蔵は頸に手を添えて「ばきっ」と、関節を鳴らす。


「兄貴、今度こそ聞けますね」

「ああ。頼むよ、葉之助。任せたぞ、作蔵」


「おう。任されるぞ、茶太郎。と、いうことで、おっぱじめるぞ。葉之助」

 作蔵はヘッドフォンを着け直す。


 ーー術、念録……。


 葉之助は通力発動の詠唱を口遊む。そして、作蔵の背中に手を押し当てる。


 ーー源、音喝破。


 同時に作蔵も通力発動の詠唱を口遊んだ。


「……。なんと」

 作蔵の中の“音”を吸い上げる葉之助が、驚きが隠せない呟きをしたーー。



 ***



【天明】地区で発生した事案に於いて、真相に辿り着く為の執り行いは着々と進められた。


「皆、よく頑張ってくれてありがとう。今から被疑者御用に於いて、打ち合わせを始める。その前に其々で遂行して得られた結果の報告を述べて欲しい。先ずは、葉之助」

「はい。作蔵さんご協力での“障り音”を解読致したところ、被疑者のものと思われる情報が含まれていました」


「詳しい結果内容は、報告書に記載されているのだよね。次、門倉」

「万楽寺。被害者に付着していた、被疑者のだと思われる痕跡を調べたよ。だけどーー」


「……。なるほど。では、照斗」

「はいよ、だんな。あれ、ただの落とし物じゃなかったばいた。事案の発生瞬間が、くっきりと表れたと。だんな、()()()が言うとったことは、出鱈目だった。と、たいっ」


「さて、皆からの報告は言い尽くされたようなので、これから本題に入らせてもらうよ」


 こうして奉行所の会議室での夜は更け、それから茶太郎を残してがらんと、なった。


「作蔵、私だ。……。そうか、貴様からの度重なる協力、心より感謝申し上げる。では、明日の日没時に事案の現場にて」


 茶太郎は奉行所の固定電話を使用して、作蔵と明日の被疑者御用に向けての、打ち合わせをしたーー。



 ***



 今宵は寒の戻りで身体に堪える。ここ数日は日中の気温が上昇していたのがあってか、通り道沿いの河川敷では菜の花が黄色く咲き誇っていた。しかし本日の最高気温は一桁でしかも小雪が舞っていた。


 戻ると言えば【天明】地区の事案だ。野次馬が群がる中での現場検証、そんな状況であったにもかかわらず現れた目撃者はたった一人。因みに通報者は別人。被害者と被疑者の接点は明確になっていない、猟奇的な犯行。


 目撃者、通報者。双方のどちらかが事案の第一発見者として見なされ、同時に容疑を掛けられる。そして、これもよく聞くことだ。


 被疑者は犯行現場に留まっている、戻るは悪業を犯しての防衛的な露出行動。

 どんなに言葉巧みで着飾るをしても、必ず剥がされる。



「こんな夜分遅くにお困りごとですか。よければ、ご相談に乗りますよ」

 第一段階は、ふりをして近付く。

「え、ええ。実は、数日前に落し物をしましてね。ないと分かっても……。」

 警戒されると思いきや、あっさりと応じられてしまう。

「探したかった、ですか」

「片っぽだけあったのはよかったのですが、考えたら眠れなくて此処に来たのです」

 証拠を残していなかっただろうかと恐れたのだ。それにしてもよく喋る、こっちから聞く手間が省ける。

「実は私も探していたのです。ものはものでも、あるものをです」

「……。もの。そう、ものなの」

「例えると、猫かぶりですね。いいですか、猫かぶりですよ」

「猫、猫。しつこいわよっ」

 第二段階である、誘導。何か思い当たりがあるらしく、感情が籠っての反応を示した。


「失礼、正しくは()()()()です」

 第三段階。事案の被疑者であると確定させる為、畳み掛けるを始める。


 ーーあんたは引っ掻くでは済まさない。あんたが言った通り、皮を剥ぐから……。


 ついに尻尾を出した。丁度よく、月が蒼く照りだした。

「作蔵っ」


「おう、待ちくたびれるところだったぞ。茶太郎」

 呼びに応じた“蓋閉め”が「かたん」と、一本歯下駄を鳴らせる。



 時は深夜の刻。茶太郎と作蔵は、ひとつの“化け”に挑むーー。

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