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まだ、明日になる前に  作者: 桃柿モノ木
41/50

危機的

 「発散(ノルン)

 

 いつか聞いた単語と輝く石。

 それを扱っていたのは誰だったかを—――想起するよりも早く、事態が動いたのが先であった。


 「Graaaaaa!!!」


 カザリたちを狙って振るわれていた攻撃とは比べようも程に早く、大地を揺るがすほどの一撃が投げられた魔法石を正確に砕いた。

 

 「・・・っ!」


 危機感に体を強張らせる間も、瞬く隙も与えてはくれない無情で、絶対の一薙ぎ。

 力任せに振るわれた腕は深々と地面に埋まって土ぼこりを上げ、その余波からか近くに立っていた木がバリバリと悲鳴を上げて折れ曲がる。

 何から何まで想定外れ、現実離れした攻撃にカザリは心臓を握られるような感覚に陥った。


 「Groooooooo・・・・」


 先の出来事がまるで児戯・・・いや、獲物を弄んでいただけであったのだと確信できてしまう。それほどに、今振るわれた腕に込められていた殺意は絶対的で、


 「発散(ノルン)


 そんな大熊の様子などは気にもしていないと言わんばかりに、アレンから次の魔法石が投げられる。

 

 「Gruaaaaaaa!!」


 それを過敏に感じ取って、大きな腕が振るわれる。その巨大さからは想像できないような器用さを発揮して、空中を二転三転と回る石を正確に狙い撃つ。

 

 「発散(ノルン)発散(ノルン)発散(ノルン)


 その間も次々と石を投擲していくアレン。

 空いた左腕でカザリを後ろに下がらせながら、二人は静かに後退していく。

 そうやって十メートルほどの距離が生まれた所で、


 「Graaaa!!」


 やっとの事で生まれた隙間を、たったの一声、一歩で叩き潰される。


 「・・・っ!」


 カザリの息が詰まる。

 いくつも投げられていた魔法石が全て大ぶりな腕の一振りに打ち払われる。そして、邪魔するものが何も無くなった空間に熊が躍り出て、逃げる事は許さないと凶悪な意思を見せつけるように、


 「・・・発散(ノルン)


 そうして安易に距離を詰めた代償だ、と。

 上空―――あらかじめ山なりに投げられていた魔法石が重力に従って、大熊の鼻先に落下する。

 避けようが無い必中の距離。

 警戒の隙間を掻い潜る一手が大熊の眉間に突き刺さろうとして・・・がりっ、と何の躊躇も無く、大熊が口を開けて落ちてきた魔法石をかみ砕いた。


 「・・!」


 まるで投げた軌跡を知っているかのうような挙動に、じりじりと引き下がっていたカザリも声も無く立ち止まってしまう。

 少し後ろを行くアレンもまた同様に動かず、何かを耐えるように押し黙ったままで、


 (・・・そんな)


 人の気などよく分からないカザリをしても、簡単にアレンの内心を想像できてしまう。

 投擲された魔法石は全てで五個。

 それらは一つの漏れも無く、打ち飛ばされ、砕かれて無力化された。続けてアレンから投げられる物は無く、それはつまり・・・抵抗はこうして無駄になったのだと、それが間違いなく現実なのだと確信して—――

 

 「・・・学習能力が高いって聞いてたけど、ここまで凄いのか」


 どこか感心した風に呟くアレンの、あまりに場違いな感嘆の言葉。


 「・・へ?」


 釣られてカザリも素っ頓狂な声を上げる。

 思わず、熊を視線から話して振り返ってしまう程に驚いてしまい、


 「大丈夫だよ」


 そこに緩く、らしい笑みを浮かべるアレンの姿があって、


 「・・Gyau!?」


 その笑みの答え合わせが聞こえてきた。

 後ろを向いていた首をゆっくりと戻すと、魔石を過剰に怖がるあまりに小池の淵に後ろ足を落し—――身動きを取れなくなっている大熊の姿があった。


                    ▽▽▽


 「これは・・・」


 一体、


 「どういう・・・」


 事だろうか、と。

 目の前でもがき苦しむ大熊をカザリは見る。

 件の大熊は前足の爪を地面に突き立てて全力で前進しようと力を込めている。後ろ足は右足で踏ん張りを利かせて、残る左足は小池の中に浸かってしまって—――


 「・・・何あれ」


 熊の左足――小池の水が強力な粘性を持って足に絡まり、あまつさえ引きずり込もうと流動している、ように見えた。


 「カザリは先生から聞いてなかったんだね、このカタルナの耽溺について」


 「・・・・・え。 ・・あ、あぁ確かに聞いてないかも、ですね?」


 完全にカザリの意識から外れていたアレンから声が掛かる。

 何を思ったか苦笑を浮かべて、アレンはとても端的に


 「ここ、カタルナの中心地にある()()()()()()()()は全て植物の樹液なんだよ」


 「・・・・はい?」


 何を言っているんですか、と見上げてくるカザリに、アレンは苦笑で応じて、


 「カタルナの耽溺、その名前の云われだよ。 ――あそこ、池の真ん中辺りに枯れ木みたいなのが見えない?」


 大熊の暴れる音が聞こえる中で、アレンが指さす先に視線を向ける。

 アレンが言うように、白い歪んだ枝が伸びているのが見て取れた。


 「アレがこの池に見えるモノを作り出して、周囲の植物に毒性を与えている元凶。 名前をシュセンジュと言って・・・」


 言って、アレンの視線がゆっくりと下がる。

 それに見習ってカザリも下を向き、鏡面のように光を反射している水面を見た。見て、浮かび上がるソレらと目が合った。


 「・・・あれって」

 

 麦色の尾、偶蹄類の足、鳥の翼、モザイク状に浮かび上がる羽虫の数々。

 水面の下には、かつて生き物であった何かの残骸が沈むでもなく、浮くでもなく、時間を忘れたように停止していた。


 「あれがシュセンジュの本性。 毒で惑わせた生き物を根こそぎ自分の樹液の中に沈めて、ゆっくりと溶かし、養分とする。 この森が耽溺と呼ばれる理由だよ」


 「・・・・・・。」


 言葉も無く、カザリは見つめるだけとなってしまう。

 

 (・・・確かに、熊は池を渡って近づこうとしなかった)


 今になって思ってみれば、と。

 あれだけ傍若無人に振舞っていた熊にしてみれば大人しい動きでなかっただろうか、と。

 

 (あ、そう言えば・・・あの人とここで話をしていた時に、何か言っていたような)


 薄い記憶を辿って、それっぽい何かを思い起こす。

 どうにも霞がかかったように曖昧なものではあったが・・・


 (・・・・って、あの熊の動きを止められるんだったら、人にしてみればメチャクチャ危ないんじゃない!)


 何故、危険だという事を真っ先に教えなかったんだ、と。

 ムカムカと理不尽な怒りをまたしても貯め始めて、


 「・・・Guruuuuuuuaaaaaa!!」


 「・・!」


 思っていたところで、案の定というか大熊が唸り声を上げて池の水―――もとい、強力な粘性を発揮する樹液から逃れようともがいていた。


 「・・と、流石に気を抜き過ぎたね。 カザリさん、ここは早く離れよう」


 「ま、また追いかけてくるんですか?」


 「その心配はないと思うけど・・・・まぁ、万が一があるから」


 そう言って二人は動けなくなっている熊から離れていく。

 最後にカザリは振り返って、


 「・・・・・・・・。」


 無機質で、獲物を捕らえる事しか映っていなかった大熊の眼を見た。

 そこには確かに空腹ばかりでない、殺意と呼べる激情の色が浮かんでおり、


 「・・・・・。」


 その様に似た何かを思い出しかけて・・・考える事を止めた。

 そして、もう振り返ることなくアレンの背中を追ってカザリは森の中へと姿を消した。


 「Gruuruuuuuuuaaaaaaaaaaaaaa!!!!」


 遠く、遠くまで響くような叫び(こえ)が森に木霊していった。

黒神話 悟空 面白いです。

はい、遅れた理由ですね。


すいません。

今回も短いです。

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