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まだ、明日になる前に  作者: 桃柿モノ木
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さて、何故でしょう?

 「よし・・保管したよ」


 「やったぁぁぁ~~~~・・・・!!」


 アレンが小さな木箱に採取したシュメイランを入れ、それを見守っていたカザリは思わずと喜びの声を上げる。

 カタルナの耽溺、その中心部にたどり着いて二時間と少し。

 凶暴な生物が徘徊している森の中での遠征としては悠長すぎて、しかしシュメイランなる怪奇な花を見つけるには短すぎる時間。

 ある意味で破格の成果を得られた二人は、危険地帯にいながらも喜びに浸らずにはいれず、


 「・・・まさか、こんなに早く見つかるだなんて思いもしなかったよ」


 「いや~・・・本当にラッキーでしたね・・!」


 間延びする声には緊張を欠いた色が多分に含まれていた。

 

 「・・・このシュメイランを求めて、去年は一週間連続で遠征に行ったんだけど。 こうもあっさりと見つかると拍子抜け―――というと違うか。 何かの間違いかと勘違いしそうになるね」


 「そ、そんなにですか。 時間の大小はあるにしても、時間さえ掛ければ見つかるものなんですよね?」

  

 「まぁ、その通りなんだけど・・・。 それにしたって、今日中に見つかるとは思っていなかったから。 食料とか、色々と準備してたんだよ」

 

 先生には無駄に詰め込み過ぎだって怒られそうだけどね、と。

 言いながら、アレンはバックを開いてシュメイランを入れた木箱をしまい込む。チラリと覗いたその中には整然と物資が詰め込まれており、それらが何なのか判断がつかなかったが、カザリの突発的な行動に対して入念な準備がなされていたのだと理解できた。

 

 (・・・私は単純に喜んじゃってるけど、アレンさんはどんな風に覚悟してたのかな)


 それを理解するにはアレン・メイズという青年の事を知らなすぎるし、カザリの理解度で解析できるものなのか、と。

 益体もない疑問が一瞬だけ頭をよぎる。

 

 「・・・・・・。」


 目を強く瞑ってそれを撃退し、蘇ってこないよう頭の隅っこにまで追いやる。

 そして、益のある方―――即ち、アレンの心配が杞憂に終わってくれた事にカザリは安堵した。

 

 「でも、これで皆さんを助けられますね」


 思った事は単純に口をついて、


 「あぁ・・・本当に、良かった」


 現実感が無かった様子のアレンも、カザリが言った事を聞いてようやく肩の力を抜いてくれた。

 それに少しの達成感を覚えて、カザリは短く息を吐いて、


 「あ」


 と、安心したついでに、先ほどまで気にしていた事を尋ねてみようと思い至った。


 「アレンさん、実は気になっていた事がありまして」


 「気になっていた事?」


 「はい、大熊が襲ってきた理由についてです。 普通なら何の理由も無く襲ってくるような動物ではないと思うので」


 ただ、この森の熊は特別で・・・となると話はそこまでなんだけど、と。

 内心で思いながら、対してアレンは「んー・・・・」と言葉を濁して、


 「今回の大熊が変異体だから何か変な特性をもっていたとしても変じゃないんだけど・・・まぁ、普通の個体では外の熊と大きく乖離してる訳じゃないよ」


 「それじゃ、襲われるような理由が・・・ある、って事ですか?」


 アレンはまた「んー・・・・・!」と唸り声を上げ、「ボクはその場に居なかったから詳しく分からないけどさ」と前置きをしてから、


 「聞くところによると、どうも順序が矛盾してるんだよね」


 「矛盾・・ですか?」


 「そう」とアレンは頷き、「考えてみるとさ」と続ける。


 「カザリたちが襲われる前―――この耽溺の中で暴れていた痕跡があった。 それもかなり広範囲に渡って。 ・・それって変じゃない?」


 「変・・・?」


 言われて少し考える。

 考えて、アレンの言いたいことが何なのかと悩んで、


 「・・・・私たちが襲われるより前に、何故か暴れていた」


 「そう」


 アレンが肯定する。

 

 「そもそも遠征隊が予定も半ばに帰ることになったのは、木をなぎ倒された跡が見つかったから。 そして、先生や君は痕跡の主を探していて襲われた・・・・どう考えても熊が先に暴れていた理由は人が原因とは考えずらいんだよ」


 「・・・確かに」


 先に、カザリは熊が暴れていた理由は人なのではと推測していた。

 が、それはあまりに早とちりだったと、アレンの言に納得して・・・


 「・・・・・・じゃぁ、何が理由だったんでしょうね?」


                    ▽▽▽


 「ちょ、先生! そんなに急いで森に入ろうとか・・・・・って、聞いて下さいって!」


 「ギード、悪いが事態は一刻を争うんだ。 邪魔しないでくれ」


 エリィナ村。その火定館の外へと続く門の前で押し問答が響く。

 

 「いやいや! 何の説明も無しにいきなり『森に出る』とか言われたら止めるしかないだろ!? アレンさんたちも見つからないし・・・それで先生にまで何かあったら俺たちどうすりゃいいんだよ!」


 大声を上げながら両の腕を広げて通せんぼしている少年はギード・レプス。

 十五歳の誕生日を迎えてから責任ある仕事を任されるようになった彼は、倒れて動けなくなっている大人たちに代ってレノの奇行を―――もとい、一人きりで森へと入ろうとするレノを止めようと奮闘していた。

 

 「オレにもしもがあった所でユシィナが居てくれるだろ。 別に自殺しに行こうって事じゃない・・・ちょっと森に入っている馬鹿どもを連れ帰ってこようってだけで」


 「それが無理だってんだろ!?」


 対して、レノ・クラフトはマイペースに、少年の必死の抵抗も虚しく、パッと体を入れ替えてかわしてし行こうとする。


 「・・・てか、アレンさん達って森の中!? そんなの助かるわけ・・・」


 「それこそ、ここで論じた所で意味ないだろ? ほら大人しくどいてくれ」


 「いやいやいや・・・・まっ、待ってって!」


 かわされた分を体力でカバーして再びレノの前に出るギード。しかし、あざ笑うようにレノはぐいぐいと体で押しやり、今度は力づくで逃れようとする。

 

 「あっ、ちょっと・・! ダメ、だめだって!」


 「ギードよ、学習しなさい。 お前はついこの間に十五歳になったばかり、これから体格が良くなってくる頃だ。 力技に持ち込まれた時点で勝ち目は薄いぞ?」


 「うっさい余計なお世話だわ! 俺だって兄貴たちと一緒で身長もぐんぐん伸びて・・・・あ、待って待って! いーかーなーいーでー!」


 力技・・・かと思わせて横合いをすり抜ける。あっという間にレノが門側、ギードが火定館を背負う立ち位置になってしまい、ギードが最後の手段だとレノの腰に巻き付いて引っ張り始める。

 が、ズルズルと引きずられて行くだけで全く止められていない。


 「あとちょっと! あとちょっとだけ話を聞いて! それで説得できなかったら諦めるからぁ・・!」


 「ほうほう。 つまり後少しで大人たちが到着するんだなー、なるほどーなー」


 「何っでバレてるんだよぉ・・・!?」


 それは年の候というか君が分かりやすすぎるのが問題だなー、と。

 年相応に知恵を働かせてくるギードを微笑ましく思うレノは、しかし一切の容赦はせずに、


 「だが残念ながら誰も来ないぞ? 何てたって、ここに来る前にムベムベの納屋を全て開け放っておいたからな」


 「人手がギリギリの状態で正気かよ、あんた!?」


 策略の全てが筒抜け、対策も万全。

 取れる手段が無くなってギードは愕然と倒れ込みそうになる。


 「・・・・・・・・・って。 いやいや! それでもダメだって・・! すげーでっかい熊なんだろ!? そんなのに襲わてちゃ先生だって助からないだろ!」


 「・・そこは大丈夫だ。 少なからず、オレがあの熊に襲われる事は無い」


 「はぁ・・!?」


 必死にしがみ付いてくるギードを引きはがしながら、ついでにとレノは口を動かす。


 「ギード、魔法使いの身体の特徴はなんだ?」


 「は・・? え、えーと・・・確か、怪我をしても勝手に治るだとか」


 「そう。 厳密に言うなら、人体の大部分を欠損しても自己治癒力が働いて絶命しない・・・かねてより人々が望んでやまない不死の再現だ」


 「・・・っ。 それでもダメだ!」


 だから食われたとことでオレは死なない、という風に説得でもされると思ったのかギードが声を荒げる。


 「俺が生まれる前だけど・・・先生は村の人をかばって食われて、半年近く森の中で動けなくなった事があるって聞いた! 不死だろうが、森で死んじまえば帰ってこれないのは一緒だろ!」


 「そらまた随分と昔の話だな」


 懐かしそうに呟くレノに、ギードがキッと怒ったように眉間に皺を寄せて、


 「ただ、その話がしたいんじゃない。 取り敢えず、聞いてくれ」


 「・・・っぐ」


 全身を使ってレノを押しとどめていた体勢が『裏目に出た・・』とギードを確信させる。

 嫌が応なく密着した体にレノの手が頭に、肩に触れる。

 抱きとめられるような形になって、突き飛ばすべきか、それとも逃げられるのを考えてそのままでいるか・・・・そう思考を始めてしまったところで、レノの思うつぼであった。


 「オレは直接、その大熊に対峙してな。 四足歩行の時点で頭が二階建ての建物と同じ高さにある――見上げるばかりの巨体だった」


 「・・・・。」


 「木をなぎ倒したり、雪解けの激流も物ともしない膂力。 そして執拗に獲物を追いかける凶暴性・・・どれをとっても警戒するには十分すぎる要素だ」


 「・・・それをわざわざ言うのは、やっぱり止めて欲しいって事ですか?」


 違うからな? と苦笑して、レノは「よく考えてみろ、変なことがあるだろ?」と促して、


 「変なところ・・・?」


 「今は冬季を超えて春季の頭だ。 この森の熊ならば冬眠から起きているにしても早すぎるし、飢えてるのであれば活動的すぎるだろ?」


 「・・・・・言われてみれば。 それに森の木を蹴倒すにしても、そんな体力って残ってるもんだとは思えないし」


 「加えて見上げんばかりの巨体だ。 普通なら、そこまでの体を維持するためにも膨大な食料が必要だ。 しかし、木の実なんかも今からが芽吹きの頃だ」


 「ん・・・?」とレノから告げられる奇妙な点を前に、ギードが眉を寄せる。

 そして、いつも間にか一歩離れて疑問を解くべく思考を巡らしているギードを見つめているレノは、


 「冬眠明けにも関わらず体重を維持している巨大な熊。 ・・・相手が変異体であるって事を考慮しても、今回のような状況になるとは考えずらい」


 「・・・・。」

 

 ギードが無言のまま頷く。

 それに頷き返して、


 「ただ、それらの条件を満たしうる要件がある―――つまる所、ヤツは冬眠をせず、冬の間も安定して食料を得られていた、と考えられる」


 「・・・・・・・・・は? ・・・・あ、え?」


 ギードが何かに気づいたように息を呑む。

 その様子をさして気にした風も無く、レノが続ける。


 「さて、最初に問うた設問に戻るぞ。 —―――魔法使いの肉体はどのような特徴を持っていた?」


 ギードがレノの問いに、一歩下がる。

 引きつった顔をした少年を前にしてレノは「オレが熊に襲われない理由が分かったか?」と一言。


 「・・・・・・・・・・・・・・・・。」


 「分かったようで何より。 それじゃ、オレはアレン達の救援に向かう、留守は任せたぞ」


 言うなり頭を撫でられ、レノは森の中へと走って消えてしまう。

 ただ一人、取り残されたギードはただ一つの事実を反芻して・・・体の震えを覚えていた。

 

 ―――今、アレンと共にいるカザリ・キリシアは魔法使いで、森の中から救助されてきたのだったな、と。


                    ▽▽▽


 「・・・?」


 そうして耳に捕らえられたのは、焼けた薪が弾けるような音だった。

 

 「・・・・なん、の」


 言うと、答えるようにまた音が聞こえてくる。

 それは徐々に大きく、はっきりと形を取って、


 「カザリっ・・!」


 アレンの焦った声。

 それに合わせてカザリは納得を得られた。

 聞こえてくる音の正体―――それが木々の頑丈な幹が力任せに叩き折られる音なのだと。


 「・・・・・・・ぁ」


 そして、池を挟んだ向こう側の森が、そこを構成している木々がはじけ飛ぶ。

 現れたのは真っ黒な巨体。


 「・・・Grooooooooooo」


 カザリたちを追い回した大熊が、そこに立っていた。

やっとここまで書けました・・・・。


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