気になる話
「・・・はぁ・・・・はっ・・・さむっ・・」
「もう少しの辛抱だ。 この道を使えば二時間は早く森から出られる」
暗闇の中、ランプの僅かな明かりを頼りに歩いて一時間が経とうとしている。
景色といえば当然に代り映えも無く、明かりに照らされて浮かび上がる太ましい幹に、細い橋が延々と続いていくのみだ。
それに合わさるのは足の下を轟々と流れる水の音で、寒さも相まってカザリは気がめいってしまいそうだった。
「・・・何か、話をしてください」
ので、その提案とも無茶ぶりとも言える一声がふとカザリの口から零れた。
「何かって・・・どんな話がいいんだよ」
「それは、お任せします」
「一番厄介な事を言うんじゃないよ・・・」
『面白い話をして~』的な理不尽さを感じ取ってレノがぼやく。
「・・・それ、言われた方は困り果てる文句だって知ってるか?」
「・・知らないで使ってる人は、いないと思いますよ」
体の震えを抑え込んだ声で、こっちの体が震え出すような事を平然と言ってくるカザリ。
傍若無人とは正にこの事だろう、とレノは静かに確信し、
「せめてヒントは無いのか」
仕方がないと付き合ってやることにするレノだ。
まぁ、わざわざレノに話を向けてきた辺り、寒さが限界になってどうにかして紛らわせようと考えての事だろう。
道のりは通常と比べて短いものになっているが、それでも日の光が当たる場所へと出るにはしばらく掛かるのだから・・・とまで考えて、
「・・・いや、それを考えて下さいよ」
「・・・・・・・。」
あんまりに正直な反応に、レノは頭痛を覚えた。
「ジルバぁー・・・何かアイデアあるなら聞くぞ」
「こっちに振らないで下さい」
「コイツと似た年代の娘がいるだろ。 オレより適任のはずだが?」
「それを言うなら先生にもレイラちゃんっていう娘がいるでしょ。 年齢の近さで適切さを図るのなら先生の方が向いてるはずですよ」
「・・・・・・。」
出した助け船が陸地へと着く前に座礁してしまった。
素気無くジルバから断られてしまったレノは、
「・・・・・じゃぁ」
と、真剣に考えてみる事にした。
そして、
「・・・・ムベムベの自然分娩に係る注意事項について――」
「先生」
ジルバだ。
「それは面白くないです」
「・・・・・・・・・・・・。」
はっきりと、バッサリと切り捨てられてしまった。
というか、この場合はカザリから文句が出されるかと思ったら、まさかの方からダメ出しであった。
「・・・・・はぁ・・」
じゃぁ何がいいんだよ、と。
勢いで口にしかけて、無理やりに留める。言った所で『だから、それを考えて下さい』的なニュアンスで言い返されるに違いないのだから。
「・・・無言でやり過ごすっていうのが無難な選択に思えてきたな」
「諦めないでくださいー」
後ろから力の入っていない応援が聞こえてくる。
疲れからか、いつもの彼らしい精細さが欠け落ちた言動が目立つ・・・が、それはそれとして『そんなんだから娘に無視されるようになったんだぞ』と、必ず折を見て叩きつけてやろうとレノは心に誓った。
(同族嫌悪? はっはっはっは、上等だ)
そうやって暗い笑みを浮かべていると、「そう、言えば」と背中越しにカザリが呟いた。
「この、服に掛けていた・・・? 魔法は何で壊れてたんですか?」
「・・・・それは完全に整備不良だったと言ったろ。 その分も謝罪したんだからぶり返さないでくれよ」
カザリの身に着けていた緑衣についての事だ。
レノ、ジルバも含めた全員が着ている緑の上衣にはレノが語ったように、森の中での行動を保証するために様々な機能が据え付けられている。
雨に降られた時の撥水機能、肉食動物から隠れるための擬態機能、そしてある程度の寒さに耐えられる保温機能だ。
レノがせっせと一着ずつ魔法を施した手製の代物である・・・のだが、先に触れたように何故だかカザリに貸し出したものだけが、それらの機能が破損してしてしまっていたのだ。
「・・まぁ、カタルナの毒香も防げずに行動させていたとなると、いくら謝っても足らないと思われても仕方ないが」
「あの、幻覚も・・予防できるもの、なんですね」
カタルナの耽溺に群生している植物が発する独特な香りには強い幻惑作用がある。あの中をレノたちは平気な様子で歩いていたのは緑衣があっての事で、それが損なわれていたカザリは幻覚に彷徨いかけてしまった訳だ。
レノにしては珍しく申し訳なさそうな声で、それに対してカザリは怒り――よりも驚きを滲ませる声で呟いた。
「これ意外に・・高性能?」
「意外は余計だ」
気になったのはソコかよ、とレノは内心で突っ込みを入れる。これでは何だか謝り損な気がしなくもないが・・・。
(・・・・いや、いい。 他の事で気になる所がないのならそれで)
レノはそうやって納得して、
「あ、そうだ」
・・・しようとして、カザリが何やら思い出した声を上げた。
「・・何が『そうだ』なんだ?」
嫌な予感が付きまとうのを感じながらレノは聞き返す。
レノの内心など知らず。猫のように気まぐれに、好奇心の赴くままに、カザリはいつぞやのように瞳を煌めかせて言った。
「どうして『エルタ』、『カタルナ』なんですか?」
「あ?」
予想外の問いにレノは一瞬思考が止まり、聞き返されたカザリは「・・だから」ともう一度口を開いて、
「名前・・・この森の各所に付けられた名前がどうして『エルタ』と『カタルナ』なのかな、と」
「あ・・・・・あー、それか」
ようやくと言葉を呑み込んでレノは頷く。
「そりゃぁ、お前なら知ってて当然か。 寝物語にでも聞かされたのか?」
「・・はい」
問いかけを問いで、ついでに何ら具体性の無い聞き方でレノは尋ねて・・・しかし、その意味を知っているカザリは首肯する。
「『七人の魔女』ですよね? この名前の由来って」
すいません。
まだ書くつもりでしたが、上手くいかずここまでを先に出します。




