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まだ、明日になる前に  作者: 桃柿モノ木
31/50

暗闇にて

 「その言い方は先生が悪い」


 「いや当事者同士で話をさせるんじゃないのかよ」


 三人がそれぞれ花油ランプを揺らしながら暗い森を歩く中、賑やかに声が響く。

 黙って我関せずを貫くのかと思われていたジルバは、がっつりと二人の会話に交じって、あれやこれやと突っ込みを入れる。その結果、レノは二人から一方的に攻められる――という事態になっていた。


 「・・・もう何度目だよ」


 「それは俺たちのセリフでもあるんですがね、先生」


 愚痴っぽく呟くレノにジルバが苦笑する。

 それはどちらについての笑いであるのか問い詰めたい所ではあるのだが、それどころではない。


 「・・・・・・。」


 レノの後ろを歩いているカザリ曰く、レノはカザリに対して大変に侮辱的な言動をしてしまったらしい。

 

 『この村で生きてくんだろって煽ったと思ったらお前には関係ないって意味わかんないです』


 『何なんですか。 私を認めてくれてるのか、引き離したいのか分かりません』


 『それに私の事を忘れてたとか言ってたの忘れてませんからね? というか、本当に死ぬかと思いましたよどうしてくれるんですか?』


 ・・・・以上、カザリが怒りのままにレノへぶつけてきた文句の抜粋だ。

 心当たりのあるものもある。

 が、それはこの体質に問題があるとしか言いようがないと言うか。改善しようがない部分だってあるので、


 「・・・第一、オレが『気にするな』って言ったのはカザリの重荷にしないためであってだな」


 言い訳できる箇所に重点を置いて話していくしかない、と。

 レノは腹を括る。


 「それが共感できてないって所ですよ先生。 先生がこの遠征に彼女を連れて来たのは『この村で生きていくなら』って言い含めてだって事じゃないですか」


 「・・・いや、だからってここまでの大事に巻き込むとは思ってなかったんだよ。 それとオレは別に突け離したくて言ったんではなく――」


 「いやいや、カザリさんの気にもなって下さい。 いきなり『お前には関係ない』だなんて言われたら拒否されてるのかと思っちゃうもんでしょ?」


 「・・・・・・・・・・。」


 三人の先頭を歩いていたレノはぴたりと動きを止めて、


 「・・・・・・・・・・・関係ない、までは言ってない」


 「ふてくされても可愛げないので早く進んで下さいね」


 そして、ガクリと肩を落とす。

 何を言ってもエリィナ村出身のジルバには響くものではない。レノが何か言うたびそれ以上の返礼で押し返されてしまう次第だ。


 「・・・・・・・。」


 それに先まで文句を捲し立てていたカザリが不気味に黙り込んだままだ。

 何を考えているかを察せられない。そもそも、それが出来ていたらすれ違いを起こしてはいないのだから。

 その上で彼女の考えそうな事を想像するのなら・・・レイラと結党して徹底的に(精神を)痛みつけらえる様子だろうか。


 「・・・・・・・・・・・・。」


 形勢逆転は困難・・・を超えて至難である。早々に撤退が無難だ。


 「・・・・オレが全面的に悪かった」


 よって、予定調和。

 一方的に攻められるレノが観念する事で丸く収まった。


 「今回は長引かなかったですね、良かったです」


 「・・・・ジルバよ。 オレにだって傷つく心はあるんだぞ?」


 全く容赦などするつもりのないジルバの言動にレノも思わずぼやく。

 最近思った事なのだがエリィナ村の村人たちはレノに対して尊敬の念が足りないのではないのかと、しみじみと感じてしまう。


 「・・・まぁ、それを言うとまた共感がどうのと言われちまうんだろうけど」


 言わぬが正道、生きる道だ。

 誰が言ったか多弁は銀・・・・細かい意味やら出自は知らないけれど。

 余計な一言が多いと自覚するレノは自重を覚えて、


 「・・・・・・?」


 ふと、それにしても静かなカザリが気に掛かった。


 「・・あー、この際だから聞いてみるけどな。 他にオレに対して不満とか言ってくれ」


 「・・・・・・・? 先生が大人しい?」


 「ジルバよ、今は黙っといてくれんかの?」


 敏感に反応してくる屈強男を言い留める。

 顔は見えなくとも不思議そうに首を傾げている様子が手に取るように分かってしまい、それを悔しく思うのだが、


 「それで。 どうなんだ、カザリ?」


 今、レノの後ろを歩いているカザリに向けて聞き直す。

 その反応いかんによっては今後のカザリとの関係を大きく見直すはめになるだろう、と。密かに危機感を持ちながら、レノは言葉を待って、


 「・・・・・・・・・。 ・・・・・・・・?」


 やはり、何もカザリから反応が返ってこない。


 「カザリ?」


 不審に思ってレノが立ち止まって振り返る。

 最後尾に続いていたジルバも異変に気付いたようで、ランプでカザリの様子を伺おうと腕を突き出している。

 仄かに揺らめく火にカザリの顔が浮かび上がって・・・


 「・・・・・っ・・・っ・・・」


 「お・・おい!」


 細い肩を抱いて震える姿が、そこにあった。


 「カザリさん!」


 すぐジルバも声を上げ、慌てた様子で背負っていたバックを降ろして中身を漁り始める。上衣、水筒を取り出しているようで、すぐに体温を上げるための処置をすべく行動している。

 それを流し見て、レノは手に持ったランプを掲げてフードを被ったカザリの顔を確認した。

 血の気の引いた白い顔。唇はすでに紫色をしていて、吐く息は弱々しい。

 間違いなく、体温が低くなりすぎている時の症状だ。


 「・・・・ふた、りは・・・何で、へいき・・」


 「それよりなんで何も言わないんだよ!」


 レノは苛立ちとともに叫び、ジルバから投げ渡されるようにして貰った水筒の蓋を開ける。

 そして、そのまま「口開けろ」と動きが緩慢になっているカザリの顎に手を置き中身を飲ませた。


 「・・・っ・・ん・・・っん」


 「中身は温水だ。 ゆっくりと飲み込めよ」


 無事に嚥下できているのを確認しながらレノは水筒を傾ける。

 何度か喉が水分を呑み込むために動き、カザリの方から手が伸びてくる。その意をくみ取ってレノは手を放して任せては、


 「・・・ちょっとはマシになったか?」


 顔に少し色味が戻っているのを見た。

 そして、盛大にため息を吐いて、


 「急に静かになったとは思ってたが・・・何を思って黙ってたんだよ、お前は」


 「だって・・・二人して平気な様子だし・・・・。 私だけが変なのかなって」


 「だとしても『寒い』の一言くらい言ってくれ。 背中の大業な荷物は飾りじゃないんだから」


 後ろから上着をカザリに掛けているジルバが「まぁまぁ」とレノを宥める。


 「カザリさんにとっては何事も新しい事。 彼女は今、ここでの常識を学んでいる最中なんですから」


 「・・・それにしたって凍死しかけるまで我慢するってのはな」


 「・・・・わる、かった・・・ですね」


 調子が少しは戻ってきたのかカザリから反応が返ってきた。


 「・・二人が、我慢してるかと・・思ったんですよ・・・・・」


 「我慢て。 こんな真冬なみの気温の中なんて耐えようがないだろ」


 「・・・なら、何で平気なんですか・・・・」


 おかしな事を言うな、とレノがカザリの前に跪く。

 同じ視線になってレノは自分の緑衣の端を持ち上げて「これを着てるだろ?」と見せつけて、


 「そ、れが・・何です?」


 なんとも寂しい反応が返ってきた。

 嘆かわしい、とため息を付いて、


 「この緑衣は見た目が植物に擬態できる以外にも色々と機能を付け加えてるんだよ」


 「そう、なんですか・・?」


 「今まで着てて、その反応とか流石に泣くぞ・・・」


 例えばな、とレノは呆れ交じりに、


 「ほら、見てみろ。 上着の表面で水が弾けてるだろ? 染料に特殊なものを使っててな、ちょっとの雨くらいじゃ浸透しないような作りになってたりな」


 「はぁー・・・」


 「・・・・・しょうもないとか思てるだろ」


 あんまりに興味なさげなカザリに、その後方からジルバが「これ若い子らに不評ですもんね、色が派手過ぎとか」などと追い打ちが入る。

 全く必要のない所で息ピッタリな二人の有様に「お前らなんなの・・・」とレノは心底から呆れて、


 「・・・というか、これには保温機能も付いてるんだぞ? お前に支給したヤツは事前にオレが確認をして――――」


 レノは震えるカザリの緑衣を無遠慮に掴んで――そこで動きを止めた。


 「・・・? 何ですか?」


 自分の着ている上着を持って硬直しているレノにカザリが訝しむ。

 何かを言いかけて、動きを止める。何か気になる事でも見つけたのかとカザリは不思議がるが、


 「――わっぶ」


 「これも着てろ」


 そんな風に思ったのも束の間。

 乱暴に二枚目の上着を頭から被せられる。


 「水筒の中身は全部、お前が飲め。 ・・ジルバ、経路を変更するぞ」


 「この先の分岐、ですね。 でもいいんですか? 村の近隣に出る道の方が安全なんじゃ――」


 「いや、」とジルバの声を無理やりに切って、レノは立ち上がる。


 「上着をいくら増やしても、ここの寒さじゃすぐに限界が来る。 多少は危険でも森を抜けるぞ」


 そう言うや否や、これ以上は時間の無駄だと言わんばかりに歩き始める。

 その変わり身の早さにカザリは舌を巻かれてしまい、


 「ほら、カザリさん。 行きましょ」


 ジルバから促されて、しゃがんだ体を起こす。

 しかし、チラリと振り返って見えたのはジルバの困惑した顔であって・・・


 (・・・何だったの?)


 カザリは首を傾げるしかなかった。

続きです。

こうやって数だけ出してると更新の頻度があがったような錯覚してしまいますね。

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