オレが悪いのか?
「ったいなぁ・・・・ったく、思いっきり殴りやがって」
レノは痛む頬を撫でる。
じくじくと発する痛みに嘆息して、その加害者へと非難の目を向けた。
「てか何が逃げた、だ。 あの時はオレが囮になればお前たちが生き残れると思って行動したまでで、一人逃げ出そうとしてた訳じゃない」
「そんなのいくらでも言えるじゃないですか。 ちょこっと振り返ったら一人だけ森の方に走って行っちゃってるし・・・・」
「そりゃ、わざわざ狙われやすいよう近づいたってのに無視して行かれちまったんだから仕方ないだろ!」
「だから、そんなのいくらでも言えるじゃないですかって話してるんです!」
ああ言えばこう言う。売り言葉に買い言葉。
『夫婦の喧嘩は犬も食ぬ』と面白いことわざがあるらしいが、いかにも食いようが無い有様だ。冗談でもこの二人を夫婦扱いしようものなら烈火のように怒るだろうけれど。
そんなこんなで二人を唯一止められるジルバは、
「お、あったあった」
暗闇でバッグを漁って、お目当てである花油ランプを取り出していた。
片手でマッチを擦り、ランプの硝子戸を開けて灯芯に火を付ける。揺らめく火によって視界を確保し、一息安堵して、
「二人とも落ち着いて」
慣れた様子で掴み合いでも始めそうなレノたちの間に入って仲裁をするのだった。
「あ、これ。 カザリさんの分」と火のついたランプをカザリに手渡すのも忘れず、「気を緩めすぎですよ」と少し強めの口調で語り始めた。
「あの大熊からはこうして逃げる事が出来た・・・でも、ここが危険な森の中だって事を忘れてるんですか?」
「あー・・・・」
「特に先生。 ここの危険性は誰より貴方が知ってるでしょ」
「・・・あぁ、そうだな」
「であれば一緒になって感情的にならないで下さい。 エルタも油断できない場所じゃないですか」
芯のある声色にレノも「・・・すまん」と返すしかない。
「カザリさんも」
「は、はい!」
「先生を殴ったのは・・・・まぁ、大体はこの人に責任があるだろうから攻めようが無いとして」
「・・・ジルバさん?」
聞き捨てないとレノが非難の声を上げる。それを華麗に流してジルバは「いいか?」と一段と落ち着いた声で、
「命拾いして一気に気が抜けてしまったのは仕方ない。 でも、これからも俺たちと一緒に生きていくのであれば森が危険だという事を正しく知って欲しい」
「・・・正しく、知る」
「そう。 ・・・ここが危険だって事はもう何度も言ってきたよな。 ここは些細な事で死にかねない場所、そんな所では休息一つ摂るにも気を配らないといけないんだ」
だから、と。
「・・・・喧嘩するなんて論外、ですか?」
「そう」
先んじて答えるカザリにジルバが頷く。
「わざわざ山頂に上ってから押し相撲するようなもん。 そんなの意味わかんないだろ?」
「・・・・・。」
コクリと今度はカザリが頷く。
自分の行動がカザリ自身を、そしてジルバも危険に陥れていたのだと気づいたようで、分かりやすく反省が現れている。
その様子を、一回りほども年の離れている愛娘と重ねて、ジルバは「分かってもらえたなら良かった」と笑う。
「ま、こんだけの危機を脱せたんだ。 後は村に戻ってゆっくり過ごそうや」
「・・・・はい。 ありがとうございます」
―――わしゃわしゃわしゃ
「あ、あの。 これって・・・・・」
「あ、すまん。 ついな・・・どうも君を見てると娘を思い出しちまって」
「いえ・・・・あんまり頭を撫でられる事がなかったので・・なんか、安心するなぁって」
「ぷ、なんだいそりゃ。 そんなにやんちゃしてたのか?」
「・・・ご、ご想像にお任せします」
「あっはははははっ」
はははははははははははは。
「・・・・・・・・・・・・いや、何それ」
と、一人蚊帳の外にいるレノは、
「なんだい。 オレは殴られ損って事か?」
呟いてみる。と、聞いていたらしいジルバがクルリと振り返り、
「・・・こればかりは先生にも責任があるかと思いますけど」
お前、今笑ってだろ? と、思わずにはいられない程度には冷たい声で答えてくれた。
「自業自得だと? おいおいジルバ」
そりゃないだろう、とレノは応じる。
「オレは自分が完璧なヤツだとは思っていない。 思っていないが、理不尽な怒りをぶつけられるような不出来は犯していないだろ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・えぇ」
「その間はなんだ」
苦々しい顔をするジルバに流石のレノも「はっきりと言いなさい」と詰め寄る。
「・・・・・・・・・・・・・・・・。」
思考。
眉間にしわを寄せてジルバは考えて、「あ」と
「共感性が皆無」
「・・・・考えてソレ?」
結局は否定を付きつけられるレノ。
「・・・もう少しこう・・ねぇ。 何かないのか?」
「んー・・・・・真綿で絞首刑を地でいく人、とか」
「悪化してるんだが!?」
というか何その趣味の悪い例えは、と。
ジルバの言動に愕然としてしまうレノだ。
「・・・・・・・先生を真似てみたんですけど」
「オレはそんなに常識のない言動してるか・・・?」
オレ、また騙されてる・・・? いやでも、ジルバがそんな事・・・ 、と。
何だか何もかもが信じられなくなってくるレノだ。
「ま、余談はこれくらいにして・・・先生」
「・・・・・・・・はい」
「先生は誤解されやすいし、誤解させやすい人です。 こういう話は今日に限った事じゃないですよね?」
「・・・・・・・・ありがたい事に」
「なので、ここは当事者同士で話をしてもらえれば」
「・・・・・・・・・・・・はぁい・・」
生気のない返事でレノは答えて、
「・・・・・・・・。」
もう一人の当事者、カザリは苦渋を呑んだ顔を浮かべていた。
短いまま投稿していますが、どうでしょう?
多分、読みにくいのかなとは思いますが・・・。
書けた所から出していくのを続けてみますね(止まると半年とか止まってるので)




