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まだ、明日になる前に  作者: 桃柿モノ木
28/50

一本道 続

 ソレがまず思ったのは『なんだこれは』だった。

 

 「――――!?!?」


 敏感な髭を揺らし、頭部から背中へと抜けていく毛が一斉に逆立つような感覚。そして、目元の近くを一筋切り裂いた痛み。

 散々と追いかけまわした上で、垂涎の獲物をまさに食らおうとした瞬間の出来事であった。

 気が付けばソレは咄嗟に目を瞑り、動きを止めてしまっていた。


 「カザリ、走れ!」


 声は森の方から聞こえてきた。

 目を開ければ先に無視した人間が遠目ながら確認できた。


 「・・・・・っ!」


 そして、その人間の声を聞いてか獲物がまた走り始める。

 苦労して追い詰めた獲物が、挫いた気力を取り戻してソレの手が届かない範囲へと逃げて行ってしまう。


 「Gururuaaaaa――――」


 そんな事、あってはならない、と。

 喉を震わせようと腹に力を込めた所で、またコツンと顔面の傍へとぶつかってくる。

 間髪入れずに森に居た人間が鋭く叫ぶ。


 「発散(ノルン)!」


 「Gugaaaa!?」


 再びの暴風。

 横合いからの衝撃に体が思わず硬直する。意思によるものではなく、半ば無意識に本能が防衛を選んでの事だ。

 突然の暴風雨とかも見られるケルマ大森林では生存していく上で必須の機能ではある。だが、今はそれどころではない。このままでは追い詰めていた獲物が―――

 そう思って瞑っていた目を開けると、既にソレの手の届く半歩先へと走って行ってしまっているではないか。


 「そら、もういっちょ!」


 また何かが投擲される。

 森の中にいるヤツは徹底してソレの動きを抑え込もうと言う腹積もりであるらしい。

 油断なく、正確に狙いを済まして投げられるものはソレを捉えて、


 「―――――!!」


 そして、また肌に薄傷を負わせるような暴風が爆ぜて―――ソレは構わず前へと疾駆した。


 「・・・!」


 息を呑む音。投擲者の手が一瞬鈍るのをソレは確かに感じ取った。

 精査さを欠いた一投がソレの背後へと飛んでいき、後方で爆ぜた。本能が語る回路とは別の物を用いて導いた行動が、ソレを優勢へと立ち戻らせる。


 「Uraaaaaagaaaaaaaaaaaaa!!!」


 走った。

 それを追って二度、三度と煌めく小石が投げらる。その全てを腕で叩き落し、筋肉で跳ね返し、掠り傷が生まれるのも無視して前に突貫する。


 「Gaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!」


 最後に、顔面へと飛んできた三つの石を噛んで砕き、右の瞼、口の中から薄く流血する様となったソレは、


 「・・・・う・・・そ」


 逃げられた数十歩を、十歩の内に踏みつぶす。

 威圧するように木造の道を破壊して、獲物の目前へとソレは舞い戻った。


 「―――――。」


 恐怖の匂い。

 獲物を追い詰め、噛み潰した時に香る独特の匂いをソレは敏感な嗅覚で察知する。


 「.......Grauaaaaaaaa」


 肉を潰し骨を顎でかみ砕く感触の次に好ましい感覚。

 食肉前の・・・凍り付いた獲物が今わの際に放つ忘我、発汗、落涙、発狂、放尿、自死。それらが混ざり合った匂い。

 森の際に充満したものをソレは鼻腔一杯に吸い込んで、喜悦に口端を持ち上げる。

 

 「・・・・・・ぁ・・・・あ・・・・」


 か細い悲鳴を聞き流して、ソレは太ましい前足を振り上げる。

 今度は逃げられないように全身を叩き潰してから、ゆっくりと平らげる事にしよう、と。

 獲物へと意識を割いた瞬間を狙って、また小石が投げ込まれる。


 「........」


 コツン、と体に当たって跳ね返る軽い感触にソレは見向きもしない。

 何が起こるのかが知れているのなら身構える必要もないのだから。

 よって、今は目の前で震える獲物を優先して


 「目を閉じろ!」


 次に聞こえる叫びの意味を知る前に―――視界が白熱した。


 「Gyagaaaaaa!?!?」


 突如として目を焼く強烈な光が現れる。

 想定していたものとは異なる刺激にソレは獲物どころではなくなった。

 振り上げた腕は空を切り、真っ白に染まった視界は一向に元には戻らない。目の前にいるはずの獲物を仕留めそこなう。


 「今のうちだ、走れ!」


 また森の奥から声。

 意味など解さずとも、何を叫んでいるのか理解できてしまう。

 ふざけるな、逃がしてなるものか。ようやくここまで追い込んだというのに。

 しかし、


 「!?」

 

 顔面近くに、またコツンと小さく固い感触が当たる。


 「Gyaaaaaaagaaaaa!!」


 慌てて振り払う。

 続く炸裂に何が起こるのか、と。

 ほんの一瞬でも本能が恐怖してしまった・・・であれば、それは致命的であった。


 「―――――!」


 軽い足音が連続する。それに合わせて、匂いが離れていく。

 湿った暗い空気の充満する森の奥へと消えていってしまう。


 「Guuuuruuuaaauuuuu.......」


 そして、ソレの視界がよくやく戻ってくる。

 当然、目の前には何者もおらず、残ったのは肌に刻まれた生傷だけだ。


 「Graaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!」


 ソレは怒りを込めて咆哮する。

 見えない目を歪めて、必ず食ってやると意思を込めて喉を潰さんばかりに吠えたのだった。

 

本当なら間に合わせたかった部分です。

短いですけど、投稿してみます。

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