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まだ、明日になる前に  作者: 桃柿モノ木
24/50

二つ目の理由は?

 「まぁ・・・まずはお前が疑問に感じた事―――アレク連合へ亡命した時、森について既に知っていたのか、についてだが・・・・率直に言ってしまうと『知っていた』になるな」


 と、いうかだな、とレノは言葉を繋ぎ、


 「そもそも亡命先としてアレク連合を選んだのも、半分はこの森が目当てだったんだ」


 はー・・・、と納得の声を上げるカザリ。

 「やっぱりですか」と想像通りの答えが返ってきた事に頷く彼女は「・・そうなると」とすぐに思案に沈む様子を見せて、再び不思議そうに首を傾げる。


 「前もって知ってた・・・・というと、どうやって知ったんですか? 普通は知らないって言ってましたよね」


 「それはまぁ。 オレは魔法使いだからな」


 レノは痺れてきた足を崩しながら、


 「こうした特殊な土地、人、物っていうのは、差異はあれど魔法使いにとっての研究、または収集の対象だ。 その情報となると同じ魔法使い間でもよく取引されていてな」


 チクチクと刺さってくる雑草をズボン越しに感じて、それに構わず大胆に足を広げる。

 そして、落ち着く位置を確かめて姿勢を楽にしてから、


 「何かに役立つかと集めていた情報が、命からがらになって意味を持ってくれたって訳だ」


 「はぁ・・・」


 「・・・魔法の話になると露骨に無関心になるんね」


 そんなの当然です、と憮然とカザリは目を怒らせて、


 「第一にそうした話はしないって約束でしたから。 ・・・それを無理やりにでも聞かせるのなら、これ以上の対話は無意味になると思ってもらえれば」


 「・・・・・・一切合切容赦なしだな」


 取りつく島すらないカザリの言動にため息を吐くレノ。

 まぁ辛うじてでも会話が成立してるだけ、これは成長だろう、と思うようにして、


 「・・・ところで」


 「ん?」


 カザリから控えめな声。それを短い言葉で受け取って、


 「・・・もう一つの理由がそれなんですか?」


 どうにもそこが気になっていたのだと、見ようによってはソワソワとするカザリに


 「いや、そっちは偶然の話。 本題はまた別だ」


 思わずレノは笑いそうになるのを何とか我慢して答えた。


 「今、笑いませんでした・・・?」


 「いやー? そんな事はないぞ?」


 自称、嘘の見抜けない少女は勘が鋭いらしい。

 何事もなかった風を装った半面で、冷や汗が流れる思いのレノである。


 「それで、皆さんが森に来た理由っていうのは何なんですか?」


 まぁいいか、とレノの反応を気にせずにカザリから質問の催促が来る。

 レノは少しの安堵を覚えながら「・・あぁ、それだよなぁ」と如何にも困ったとでも言わんばかりに腕組みし、


 「どうも簡単に語るのが難しそうなんで・・・先に、何で亡命するしか無かったについて話そうか」


 「・・それって」


 カザリは一瞬、口ごもって


 「犯罪者がどうのってヤツですよね・・・?」


 「あぁ、正にその話。 気になってたろ?」


 さて、とレノは崩した足を再び組み直して「・・とか勿体ぶるような話じゃないんだがな」と付け足し、


 「オレと、あいつらの子孫は国家転覆―――国を崩壊させようと目論んだのさ」


                    ▽▽▽

 

 「―――――な」


 もう何度目かの弾かれるような一声。

 レノがエリィナ村の事情を語るごとに困惑と驚きに満ちた叫びを上げているカザリは、今回もその通例に倣うように大きく吸い込んだ空気を勢いよく吐き出すように――


 「――――――――な、んで・・そんな事をしたんですか?」


 「―――おぉ」


 と、そんな慌てたカザリを想像し、余裕をもって受け止めようと心づもりしていたレノが思わずと唸った。

 

 「なんだ、思ったよりも慌てないんだな。 まぁ、今回はこんな話ばっかりだったからな~」


 流石に慣れてきちまったか、と勝手に解釈して笑うレノに、カザリは何故だかわなわなと手と声を震わせて


 「・・・・いいから続きを話してください、もうそのまま飲み込まないと頭がパンクしそうなんです」


 ・・・あーこれは逆か、全く余裕がないのか、と。

 よく見れば、それこそ言葉通りに欠片ほどの余裕もないようなカザリと目が合った。

 目は口ほどにも云々とは言ったものではあるなぁ、と浮かんだ感心を元あった所へと仕舞い直してレノは居住まいを整えた。


 「・・・まー。 何でそんな事をしでかしたか、だな」


 言ってしまえば単純というか・・、と自らの過去を言語化しようと試みて、


 「あの国が存在している事が許せなかった・・・とか?」


 「・・・・・・・・・・・・・。」


 何故だか疑問形で口から出てきた。

 

 「そんな顔をしないでくれ・・・いや、これでも真面目に答えたんだぞ?」


 「・・それが真面目にお答え頂いた結果なら正直がっかりです」


 口にしたのが誰もが考えられるような理由(言い訳)でありながら、結局は疑問になってるとかふざけてるんですか? 、と。

 言外にそう言われた気がするレノは、


 「・・いやまぁ・・・・本当に理由とかはそんなんしかなくて・・さ」


 しどろもどろで答えるばかりだ。

 ・・・というか、本当にレノがそんな行動を起こしたなんてのはそれ以上にないのだ。


 「無いものは答えようがないんだよなぁ・・・・」


 呟いてはみるが、相手に伝わりようがないようで。


 「・・・・・・・・・・・。」


 じっとレノの目を見つめて―――どこか愛娘を彷彿とさせる圧の掛け方でカザリが無言の要求をしてくる。


 「・・・・・・ん・・・と、だな・・・」


 レイラがオレの扱いを教えたな・・と確信し、これまでにも何度も味わった腹の内側から冷えていくような感覚に屈しそうになるレノは、


 「・・・・・・・・・オレは本当に何かの目的があっての事じゃなかったんだよ」


 あ~ぁ、抵抗しといてダメなのかよダッサ、とか。

 誰が罵るでもなく、自らが犯した妥協に心底嫌になりながら、あまり言いたくはなかった当時の所感を述べていた。


 「・・じゃぁ何でそんな事をしたんですか?」

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・八つ当たり?」


 えぇ・・・・・・・・・、とまさかの答えにさしものカザリが顔を引きつらせる。


 「そんな社会に適応できなくて引きこもってる人みたいな理由で・・・・?」


 「お、っま! 流石に言い方ってものがあるだろ、そりゃぁ!」


 差別的なのにも限度ってものがだなぁ! 、とその言動は許容できないとレノは声を上げて、


 「じゃぁ何が違うんですか?」


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・的確な表現だと存じています」


 『変に口答えしたらまた話を聞かなくなるのでは?』と一抹の不安がよぎって、あえなく撃沈した。

 まるで人質でも取られたような状況に、何故だかセルフで陥っているレノは『人でなしめ・・!』と勝手にカザリを内心のみで罵倒し、当事者でありながら全く関係のないカザリは『・・妙に物わかりのいいのね?』と首を傾げていた。


 「・・・・まぁいい。 オレたちは国家を崩壊させようとし、それに失敗―――失敗したからこの森に居る、ここまではいいな?」


 「もうそこはいいですけど・・」


 呆れ半分のカザリの返事を聴き流し、脱線しきりの話を本題へ戻そうと仕切り直す。

 いらない恥を、と。

 これではカザリを笑ってはいられない。

 ただの問答であるはずなのに既に互いに傷を負ってしまっている。これ以上の無駄な問答は、要らぬ傷ばかりを増やしていくのではと危惧せざるを得ない。

 よって素早くこの質疑を終えるべく、レノは緩んだ気を引き締めて、


 「――先に、このケルマ大森林があったから亡命先として選んだって言ったよな?」


 「? はい、確かに聞きましたけど・・」


 「亡命先を選んだ・・・なんて言ったが。 その〝選んだ〟って言葉が掛かってるのはオレだけなんだ」


 妙な言い回しにカザリが困惑した顔になる。

 少し考え込むように目を瞑って――が、腑に落ちないのか「えっと・・?」と呟く。

 

 「・・変な言い方をして悪いな。 だがまぁ言葉そのまま、裏表もない――オレはこのアレク連合国へ逃げようと選び取った、がその他はその限りじゃなかったのさ」


 「・・・・それ、って」


 カザリが言いよどむ。

 今度はレノの意図する所に触れたらしく考え込む表情が徐々に神妙なものへと変わり、


 「村の・・・・皆さんのご先祖さんたちは、違っていた・・?」


 思い至った事を口にし、レノが「その通りだ」と肯定する。


 「そもそも国を転覆させるような事をして・・・・国外へ逃げ出せるような事が出来るものなんですか?」


 レノが「まさかだ」と断じる。


 「計画する、集会を開く、実行に移す・・・その行いがどの程度にあるのかは関係ない。 国家の威信を維持するためなら手段は選ばず、かつ徹底的にが原則だ。 例え幼子であっても一族もろとも処刑台送りは免れないさ」


 「・・・それは、そうですよね。 でも――」

 

 「オレたちは今こうして逃げられている。 そこが何でか、って話だな」


 一息、レノは呼吸を整えて「・・それは、だな」と慎重に言葉を選び、


 「あいつらの高祖父母は、その国における高貴な血統だったからさ」


 「高貴な・・血」


 復唱するようなカザリの呟きにレノは頷き、


 「・・・ごめんなさい。 それがどうしてこの森に来る理由になるんですか?」


 「・・・・・・・・・・・・・・・。」


 が、情報の不足―――とすらも言えない抽象的すぎる物言いはカザリには響いてくれないようだった。

 んん~・・・? 、と今度はレノが首を傾げて、


 「・・・・・あぁー・・・っとだな。 つまり、あいつらは貴族だとか言われていた特権階級に属していたって事でな。 そんな・・国に生活や人生そのものを強固に保証されてる連中が国の崩壊を企てていた訳だ」


 「ふむふむ」


 「国の政と直結しているような立場の人間たちが反旗を翻す・・・・それも、より国の中枢をになっていたヤツらが。 そうなった場合、一国の主はどうしたいと判断が傾くと思う?」


 「ふむふ・・・・む・・・!?」


 質問が来るとは思ってなかったのか慌てるカザリ。

 む、む、む・・・・と幾何か考える時間があり、その末「わかりません・・・」と小さく答えが返ってくる。その自信のなさが滲む声に「難しく考える必要はない」と一声添えて、


 「国の特権階級の反乱なんてのは、次の反乱の種火になりかねない。 だからこそ、取られる手法としては完全に一切を焼き尽くしてしまうか、すべてを隠して隠滅するか、だ」


 「・・・・・。」


 「そして、結果は知っての通り」


 レノは一息、呼吸を整えてから


 「―――オレたちは地位を剥奪され、宣戦布告の準備をしていたアレク連合国へと送られたって訳だ」

 

 つまり、と。


 「無為に死ぬべくして、この地へ来たのさ」


                    ▽▽▽


 「・・・・・・・・・。」


 咄嗟に、何を言われているのかカザリは分からなくなってしまった。


 (死ぬ・・・ため・・?)


 それはどういう事だろう、とカザリはその意味を掴み切れないでいた。

 カザリは初等教育は収めているが、基本的な所で理解を終えてしまっている。国の政治であるとか、経済であるとか複雑な話となると点で分からない。

 だから、とある国の貴族が死刑を免れて他国へと追放される事の意味がまるで分からないでいた。


 (・・さっきは生きるためだって言って・・・・)


 よってカザリにとってレノの語る言葉は矛盾したものでしかない。

 生きる、死ぬ。その双方が同一の理由として挙げられるなど信じられないのだ。

 しかし、

 

 (宣戦布告の準備・・・?)


 紡ぎあげられたレノの言葉でも耳に居残るものを慎重に無意識から引き上げる。

 いつにも増して動きの緩慢な頭は単純な命令しか受け付けてくれず、ちょっとした刺激で端切れてしまいそうになる。

 ―――だから、切っ掛けを逃さないように、痺れた足をゆっくりと伸ばし解す心持で解読して、


 (・・・・・・確か・・セビニア戦争の・・)

 

 何が、どうして気になったのか。

 引き上げる事に成功した言葉をかみ砕いて、自分の理解の内側に収まるよう組み直す。そこから分かる事をゆっくりと飲み込み、


 「・・・・皆さんの母国って」


 何を問うべきかも形に出来ていないまま、半ば呆然と言葉が出てきていた。


 「・・・・・・・・・・・・。」


 そのカザリの様にレノは何も言わず、それにはカザリは気づかず、


 「もしかし、て」


 ぴゅー・・・ぴゅー・・・


 「・・・・・・・。」


 言いかけたカザリの声に被さって甲高い鳥のような声が響く。

 間延びして千々と消えていくそれを聞いて、


 (・・・・・・ここって鳥が殆どいないって)


 そう、思うより早く目も前から緊迫した声が掛かる。


 「カザリ、今すぐに支度しろ」


 「・・・え?」


 「―――緊急事態。 この鳥笛はその報せなんだ」


 言うが早いか、動くが早いか。

 それだけを言い残すとレノは素早く荷物をまとめて歩き始める。


 「え、ちょっと・・!?」


 驚く声にも振り返らず、レノの背中が小さくなっていく。

 あまりにの変わり身の早さに目を回すカザリは、仕方なくとその背中を追いかけて、


 「あれ・・?」


 その方、池の対岸で作業をしていた人々も既に居なくなっている事に気づいた。


 「・・・・・。」


 急速に、人の気配が遠のいていく。

 それと同時に全身が冷え切っていくような、生中ではない緊迫感が迫ってきているのを感じてしまった。


 「・・・・っっ・・!」


 カザリはそうして急かされるように、レノを追いかけていった。

ようやく話が動くような予感・・・・・。


よろしくお願いします。

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