質疑、応答
「・・・・・・・。」
「・・・・・・・。」
レノ・クラフト。
そして、カザリ・キリシアは鬱葱を生い茂る草花を絨毯にして座り込み、正面切って向き合っていた。
「では――」
口火を切ったのはカザリから。
真剣な面持ちでレノを見つめては、
「質問をさせてもらいますね」
有無を言わせない迫力で言い放った。それに対してレノは「あぁ」と短く頷いて、
「――どうぞお手柔らかに」
どこ吹く風よ、と。
余裕たっぷりに笑って見せる。
そして―――
▽▽▽
「早速、質問なんですけど・・・」とカザリは前のめりに姿勢を崩して、
「この森って何なんですか?」
と、一つ目の質問をレノに投げかけた。
それに対するレノは「お?」と意外そうな反応を示して「そこから聞くのか・・」と、どこか褒めるような響きを含んだ呟きを零した。
かと思えば、ニヤリと口端を歪めて、
「なんだ、話の流れとしては変わったチョイスじゃないか」
「別に・・いいじゃないですか」
その意地悪く笑うレノから居心地が悪そうにカザリは目を反らす。
その様を見て「ほーん」と揶揄うように声を上げるレノは、
「ま、どんな質問でも答えるって趣旨だからな。 ご要望に応えて説明していこうか」
それ以上の追撃はまた話の脱線になるだろうと、咳ばらいを一つ。
改めてカザリを見据えて話を始めた。
「さて・・・まず確認したいんだがカザリ。 ここ、ファイド自治領とリュメインとの国境線。 アシルファー山脈に大きな森があるって話を聞いた事があるか?」
「いえ、無いですけど・・・・というか、知らないから聞いてるんですよ。 私が知ってる事と言えば大きな山が長ーく連なってるってことくらいで」
「うん、まぁそれくらいが普通だろな」
と、レノは頷いて、
「よく調べてみれば噂話くらいは聞くこともあるかもしれんが・・・実際、この山脈がリュメインへ繋がる街道として機能してた頃は森なんてものは無かったからな」
「森は無かった・・・?」
どういう事ですか? 、と暗に疑問を投げかけるカザリに「そのまんまの意味だよ」とレノは続ける。
「このケルマ大森林という広大な森林地帯はな、カザリ。 街道が使われなくなった百年あまりの年月で突如として発生したものなんだ」
「・・・・・・・・・・え?」
「そんで。 ついでに言うなら、この森林地帯が広がる巨大な盆地だってもとから存在してた訳じゃない―――これも同じく百年の内に地殻変動で出来たと思われる」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
カザリは何も言わずに、ひと、ふたと指を折って何やら数えて、
「・・・・!?」
一呼吸を置いて瞳を驚愕に見開いた。
「は!? え、そんなありえな―――はぁ!?」
「おぉー、いい反応をしてくれるじゃないか」
先ほどの慌てようが可愛く見えるほどの狼狽えようを見て満足そうに頷くレノ。
「まぁ当然だがな――」と前置いて、
「人にとっては二人分の人生が送れる年月に当たるが・・こと自然の世界にとってはたかだか百年だ。 その程度の経過で森が生まれるだとか、山一つが消え去るほどの地形変化が起こる訳がない」
「え・・あ、はい。 そうですよ・・ね?」
「が、確かにこの土地には森は無かった。 それは間違いない事実だ」
「・・・・。」
「じゃぁ最初の問いに戻るぞ。 ――この森は一体なんなのか、だ」
一息、短く呼吸を整えてレノは語った。
「世界と摂理を繋げるマナ・・・世界の法則が乱れ、生まれた歪によって成された場所なんだ」
「法則の・・・乱れた場所?」
カザリの呟きにレノは頷く。
「禁則地、人食いの地・・・言い方は様々あるが、こう呼ばれる場所は各地に存在していてる。 そして、どの場所においても特異な現象を引き起こすといった事象が確認されているんだ」
「・・・つまり、変な現象が起きやすい土地ってことですか?」
カザリの問い。
レノは「概ねその認識で間違ってない」と肯定した上で、
「このケルマでは動植物の異常な成長と山を削り去ってしまう規模の地形変革が見られている。 後者に関しては実感しようがないが。 ここまで森の中を歩いて来たんだ・・・お前が知ったる森とは違うって分かるんじゃないか?」
「それはもう・・十分に」
もうホントに疲れました・・・と、言わずとも伝わってしまったカザリの主張を苦笑でもって返答する。
「ま、法則が乱れたとかいうのはあまり覚えておかなくていいさ。 ここが一風変わった場所なんだと、そこだけを知ってていてくれれば」
そんで、と一度言葉を切って、
「魔法に関する事を省いての回答だとこんな感じだな――質問を続けるか?」
「はい」
勿論です、とカザリは意気込み十分に頷いた。
「じゃぁ・・」と少し考えるように俯き、すぐにまた顔を上げて、
「次は、どうして皆さんがこの森で住んでいるかを聞いていいですか?」
「――あぁ、いいぞ」
▽▽▽
「一応の確認だ。 オレたちがこの森にエリィナ村を建てたのは、祖国に居られなくなって・・・逃げ出すしかなかったってのはいいよな?」
念のためにと投げかけられる問いに目前に座るカザリが「はい」と頷く。
「この質問会・・・みたいなのが始まる前にしてた話ですし、忘れようがありません」
「まぁ、それもそうだわな」
そりゃまぁ分かっていますよね、と。
そんな意味が含まれるような呟きに、カザリは眉を潜めて「当り前じゃないですか」と恨み節が籠る声で答える。
「・・・いきなり犯罪者がどうのとか言ってきた事は忘れようがないです。 お陰様で、いらない恥じもかきましたし・・・」
「それに関しては自滅なので問答は受け付けんので悪しからず」
「んんー・・・・・っ」とカザリは文句たっぷりに顔をしかめて「・・・後で絶対に質問するのでそのおつもりで」と更に恨みの籠った声を放った。
その声に「おぉ怖い」とレノは笑い、
「そんじゃ本題だが・・・まずオレたちがこの森にやってきた理由ってのが幾つかある」
「いくつか、ですか」
レノは指を立て「具体的には二つだ」として、指を一本残してカザリに示し、
「一つ目の理由。 それは大人数での亡命だったことだ」
「大人数・・・ですか?」
カザリの疑問符に「あぁ」と頷いた。
「具体的な人数はちょっと曖昧なんだが・・・ま、ざっと五百人くらいの規模で移動を繰り返してたな」
「それは・・アレク連合の中をですか?」
「あぁ、勿論。 ・・・今で言うペルヌイスの辺りから歩いて三か月くらい掛かったから、ざっと百キロちょっとを移動してた感じだな」
「そんなにですか」と驚くカザリに「まぁ・・・・」と、どことなく遠くへと視線を傾けるレノ。
「当時は、それだけの人数が固まって亡命して来るってのは珍しくなくてな。 数万人が一挙にアレク連合へ押し寄せるなんて事もあったくらいだ」
「へぇー・・・」
「・・・・・・・いや、関心してるけど学校とかで習わなかったか? そんな単位での人の移動だなんてそう聞かないだろ?」
「・・・・・・・・・・・・・・えっと?」
こいつ、歴史の授業とか寝て過ごしてたな、とレノは確信し、ため息とともに、
「前にちょこっと触れたろ? オレがこの森に入って七十年になるって」
「それが?」
「・・・・七十年前にあった大きな出来事。 というか戦争は?」
そこまで言われると流石に分かったのか。カザリは「あー・・」と頭上に浮かばせた疑問符をかき消して、
「セビニア戦争・・・・でしたっけ?」
「あぁ、合ってるぞ―――自信なさげなのは気のせいだよな・・?」
「・・・・・・・・・・。」
カザリは目を反らして答えなかった。
「・・まぁいいか。 話を戻すが、その当時はセビニア戦争・・・または第二次北上戦争。 オレたちがアレク連合国の国境を超えたのは開戦直前でな。 かなりの厳戒態勢の中での越境だったんだ」
法律ギリギリの方法まで使っての亡命だったんだもんだから本当に苦労したりしてな・・と、レノはため息交じりにその時の事を思い出し、
「そんな感じで、どうにか国に入れはした・・・・・が、その直後に開戦、と同時に大々的な亡命者に対する隔離対策が行われてたんだ。 ま、そんなものは名ばかりで、結局は怪しい者を晒上げて合法的に亡命しようとする人の流れを抑えるための政策だったんだが・・・」
「・・・それで。 それが何でこの森に来る事に繋がるんですか?」
「おっと」と余談に流れそうになる話をしていたレノは「悪い、悪い」と平謝りし、
「あーっと・・・それで、戦争の余波で迫害されかけたオレたちは『それならば誰とも関わらずに生きれる場所に移ってひっそりと暮らそう』と考えた。 だが、そんな都合のいい場所なんてそうありはしないし、あった所で越境して数日の新参者が思いつくような場所ではすぐ追手に迫られて詰みだ」
しかも、とレノは続ける。
「人数は五百人あまり・・・それだけの人間がまとめて共同生活が可能となると更に条件は厳しくなっていくばかりでな。 ・・ただ、そうした厳しい条件であっても唯一、全てに合致していたのが―――」
「このケルマ大森林だった・・?」
ようやく腑に落ちたという風のカザリが我慢できずにポツリと零す。
レノは「あぁそうだ」と笑って、
「住居、飲み水の確保なんかの生活基盤は自力で作り上げるしかなかったが、他者の介入を許さないという言わばオレたちにとっての安全性。 それが保証されているこの森は、これ以上ないくらいに求めてやまない場所だったのさ」
さて、と一息区切って、
「これがまず一つ目の理由だ。 ここまではいいか?」
「それは、まぁ・・・」
納得は出来ましたけど、と歯切れ悪いカザリはまるで逆のことを言っているようで、「言動と顔が矛盾してるぞー」とレノは思わずと突っ込んでしまった。
「納得してますよ。 ・・・ただ気になるというか、新しい疑問が浮かんだだけで」
「ならそうと言ってくれ。 説明不足だったかと心配になる」
取り超し苦労ならいいんだ、と呟いては「で?」と、
「気になる事ってのは? 関連することなら続けて答えるぞ」
「・・・・・・。」
カザリは一瞬迷うように口元を引きむずび・・・しかし、やはり聞いておくべきだと判断したのかレノと視線を合わせて、
「・・・この森についての話で、ここは一般的に知られていないと聴きましたけど・・なら、村人の皆さんとあなたはどうやってここへたどり着いたんですか?」
「・・・・・。」
カザリは「それに」と繋げて、
「あなたの口ぶりでは元々、この森について知っている風に話をされていました。 ・・・私の気のせいでなければ、ですけど」
そんな自信なさげに、それでいて誤魔化しきれないような鋭さも宿した疑問を投げかけた。
対してレノは、
「・・・・あー・・」
少し困ったように頭を掻いて、
「ま・・・話そうとは思っていたことだからな」
と、白旗を上げた。
お久しぶりです。
またある程度、書けたということで更新します。
書き方を忘れかけていた所でしたが、ようやくと調子が戻ってきているような・・・・そんな気がします。
本当に気長な話ですけれど。
そんな感じです。
また、よろしくお願いします。




