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まだ、明日になる前に  作者: 桃柿モノ木
22/50

森にて語る その2

 「このカタルナの耽溺と名付けられた森。 その意味そのものと言えるのがこの泉だ」


 「・・・・・・。」


 「ほら、あそこ。 枯れ木の枝みたいのが泉から顔を出してるだろ? あれがこの泉を作り出した本体だ」


 「・・・・・・・・・。」


 「名前をシュセンジュ。 見た目は老木だが、あれの正体というのが――」


 「・・・・・・・・・・・・・・・。」


 場所は変わらずカタルナの耽溺。

 泉の近くで楽な姿勢で休んでいるカザリは何故だか、背中越しにレノの雑談に付き合っていた。

 記憶が正しければ『エリィナ村について話をしよう』と言われていたはずなのだ。

 だというのに、レノの口から紡ぎあげられる情報の数々は村についての話へと一向に寄って行かず、今カザリが足を踏み入れているカタルナという場所に関する話しかしていない。

 それも、話を途切れさせる事無く延々と続けている。呼吸の合間すらも厭わしいと言わんばかりに次々と列挙される語録に、カザリの脳はもう処理を諦めた。


 「・・・って、聞いてるのかカザリ? 折角、オレがこの森が如何に危険かを懇切丁寧に解説してやってるというのに」


 「・・・・・・・一応は確認しますけど。 それって突っ込み待ちとかじゃないですよね?」


 念のため、万が一、大事をとって・・等々。

 カザリは思いつく限りの理由を想起して、何かの間違いがあっての事と信じる気持ちをかき集めて聞いてみる。

 砂粒ほどの可能性はないと断じる心が大半をしめていても、憂慮するにはまだ早いと奮起して、


 「突っ込み? 何の話だそれ」


 「・・・・・・・・・・・・うわぁ・・」


 な? 期待しても無駄だったろ、と。

 肩を気軽に叩かれて、虚脱感溢れる笑顔を向けられたような・・・妙に生々しい幻覚を見たように感じるカザリ。

 事も無しげにしているレノを尻目にどうしたものかと考え――いや、もう考えるのもしたくないと思うのである。


 「―――あぁ、話が遠回りし過ぎたのか」


 「・・・あれで説明をしていた気でいたんですか?」


 今更に何かを呑み込めたらしいレノの呟きに、食ってかかるようにカザリが返す。

 そも遠回りとはなんだろうか。その説明がエリィナ村を語る上でどうしても必要な話だと言う気なのだろうか。

 だとすれば一体どこまで話をしようとか考えていたんだろうか。


 (問いただしてやりたいけど・・・聞くだけ怖い物見たさみたいなもんか)


 聞いてみたらそれこそ、その説明をするために別の話をし始めかねない。

 そんな愚は侵さぬと誓ったカザリは口を閉ざし、代わりに悩まし気に腕くみするレノは「んー・・」とうなり声を上げて、


 「これでも多少は端折ったりしたんだがな」


 「それでいきなり別の話題を出すとかどうかしてるんですか・・・?」


 いやどう考えてもどうかしてるに決まってる、と。

 怖い物見たさの先に触れた気がしたカザリであった。

 

 「どうしても前もって説明しておく必要があったんだが・・・」


 と、やはり納得いかなそうなレノではあったが、「まぁいい」と頷いて、


 「気になっている話をわざわざ遠ざけるのも悪辣ってもんだ。 生徒の初歩ってのは好奇心から始まるものだよな」


 謎の得心を得たり、とよく分からない理論を語って勝手に折り合いをつけてたらしかった。

 「端的に言おう」と要望をくみ取った返答に、ため息を零しそうになるカザリは、のど元まで出かかった文句をいったん保留し、


 「エリィナ村の住人―――ま、厳密に言ったら彼らの祖父母。 と、オレはとある国から亡命してきた・・・いわば犯罪者だ」


 「―――っごほ!?」


 違うものが喉元に突っかかり、カザリは盛大に咽こんだ。


                   ▽▽▽


 「は」


 まず第一声は、


 「犯罪者って・・・何がどうしてそんな!?」


 予定調和気味な驚きを持ってレノの耳朶に届けられた。

 

 「驚き過ぎだ」


 レノはその声を苦笑で受け止め、たしなめるように短く返す。


 「い、いや・・・そんなの慌てるに決まってるじゃないですか!」


 犯罪者って何がどうなってそんな事になっちゃったんですか!? と。

 レノの制止は案の定に届かず、これもまた予想した反応でもってカザリはレノの首根っこを掴んで揺さぶらんとせん勢いで迫ってくる。

 背中越しに話をしていたのがバカらしくなるほどの急接近に、『もうと早くにこの話題を出しておくべきだったかな』と反省交じりに「待て待て」とレノは、


 「まずは落ち着けって、な?」


 平静に戻るようにと、手のひらをカザリに向ける。


 「・・・だ・・だって・・・あんな良い人達が・・何で・・・」


 が、カザリは混乱するばかりで、こちらに話の続きをする気が無いのだと勝手に理解すると自分の世界に閉じこもろうとする。

 目まぐるしく頭を回して焦る顔をして―――その様子を目の前で見つめるレノは、「聞いてくれ・・・」と零して息を吐く。


 「カザリ」


 「・・・・・・。」


 無反応。うつむき加減に何やらぼそぼそと口を動かしている。


 「・・・・・はぁ・・・。 カザリ、エリィナ村の奴らとオレが亡命してきたのはアレク連合国からじゃない」


 「・・・・・・・へ?」


 今度は視線が合った。


 「・・・・。」


 『あんな良い人たちが』云々と狼狽えるカザリの言。

 そこに込められた感情を想像し、『彼らはアレク連合国から亡命してきた』『そこで償い切れない罪を犯した』などと誤解したのだろうとレノは考えた。

 アレク連合国、その平凡な村で生まれ育った娘であるカザリは、魔法使いに変成してしまったとしても長らく培ってきた倫理観―――魔法を邪悪なものとする価値を捨てることなく、ここまでたどり着いた。

 それは必ず自己否定へと昇華し、破滅へと繋がる選択だった・・・そんな分かりきっている事だとしても、彼女がその価値を捨てきれなかった理由が自らに起きた無理解の事象。知らぬ間に魔法使いに変成してしまったという出来事だ。

 魔法に関わる者は須らく悪だ、と刷り込まれ、まして自分が魔法使いそのものに成ってしまうなど、穏健な表現をしたとしても『死刑宣告』と幾何ほどに違いがあるだろうかと言ったところだ。

 そんな彼女が慌てふためいて平静を保てない。

 であればとレノは彼女が想像し得る最悪の可能性を考えて、それを否定したのだ。

 あくまで杞憂と断じながら――だが。


 「・・・説明を端折ったオレも悪かったとは思うが、そこまで思い込みの激しいお前もどうかと思うぞ?」


 否定の言葉を聞いて硬直するカザリを見て、レノは「まじかよ・・」と呆れの感情を多分に含むため息を吐くしかなかった。

 カザリが思い込んだ話、エリィナ村の住人がアレク連合国で悪さを働いて亡命せざるを得なかったとする誤解は、彼女にしてみれば最悪の可能性であったと言える。

 アレク連合国で生きているとは魔法使いに対して想像を絶する苛烈さを内包する事と同義であり、それ故に醸造された意志を反する事へ強迫観念めいた拒絶を持つようになる。それはレノに対する拒否反応が証明している。

 魔法使いに身を堕としながらも連合国民としての意義を持ち続ける彼女にとってエリィナ村の住民は変成した後で初めて自分を受け入れてくれた人々だ。その彼らが、本当は彼女の主義を根底から否定しているのだと・・・想像してみれば、どれほどに恐ろしい事か。

 ただ、まぁ、しかし・・・それは誤解であって。

 一瞬の内にエリィナ村の人々がアレク連合国の信念に反しているだとか、そんな事を思いつくとは被害妄想じみた感性が染み付いているというか。


 「そこまでいくと才能だよ・・」


 言ってしまってもいいものか、考えた末にレノは愚痴を零すように呟いた。


 「・・・・・・・・・・。」


 何の事か。

 理解させる意図を持たない言葉にカザリは首を傾げる。

 いくら慎重にかみ砕こうと理解不能であるはずの語録を前にして、思い至る節を辿るように思いを巡らし―――


 「~~~~~~~~~っ!」


 した所で、顔を真っ赤にした。


 「だ・・・だっていきなり犯罪者とか言われたら戸惑うでしょ!?」


 「そこは悪いと思うがな・・・一番最初に、その可能性があるとか思わんだろ」

 

 「国名も言わないで亡命とか言うから!」


 「・・・つっても、ここもアレク連合国内だからな? 冷静に聞いて、この国の事じゃないと分かるはずだろ?」


 「あ、あ、あ、あ、あ・・・・」


 あわあわと口ごもるカザリ。

 ついには言い訳も無くなり、レノには責めるつもりは無くとも追い詰めるような形になってしまった。

 

 「・・・・バランスが悪い・・か」


 「・・・・・・・はい?」


 恥ずかしさで顔を赤くしたままのカザリがレノの呟きに反応する。

 「いやな」と苦い顔で応じるレノは、


 「・・・レイラに言われたんだよ。 『二人はいがみ合ってる事が多いけど、距離感が違うというかバランスが悪いと思うのよ』って」 


 「・・・バランス、ですか?」


 いまいち要領を得ないといった風にカザリは呟き、レノは「要はな」と続ける。


 「どっちもどっちで何かを理解したり、認識に隔たりがあって噛み合わない・・・みたいな事を言っているんだと、思うんだが・・」


 「段々と自信が消えていってませんか・・?」


 「・・・んんっ」


 咳払い。

 余計な事は聞かない主義だ、とカザリの言葉を無視し、

 

 「・・・今、話をしてみて分かったが互いに重要としている事項をオレたちは随分と違えてしまっている」


 「はぁ・・・」


 対してカザリは気の抜けた声で応じる。

 良くない意味で肩の力が抜けそうになるのを堪えて「・・つまりは、だな」と、


 「このままだらだらと話をしていても効率が悪い。 ので、手法を変えよう」

 

 「手法・・?」

 

 あぁ、と短くレノは頷く。


 「カザリ、エリィナ村について疑問に思うことを質問をしてくれ。 それをオレが回答する形で話を進めよう」

一か月振りの更新です。

相も変わらず中々筆が進まないでございます。

一章はすぐに書き終えるとか思ってた二年前が懐かしい・・・。


まぁ、こんな感じで少しでも書き進められればいいなぁと・・・思う所存です。

それでは、よろしくお願いします。

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