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まだ、明日になる前に  作者: 桃柿モノ木
18/50

お宅の前で

 カザリ・キリシアは今、非常に悩ましい状況にいた。

 まぁ、ついさっきまで村を出ようとしていた所をふらっと偶然に現れたアレン・メイズによって改心(?)させられた手前、誰に会っても気まずい事この上ないのではあって今更な話ではあるのだけれど。

 その気まずさも相まって、顔を合わせずらい人物がもう一人いるのだ。


 「・・・・。」


 カザリが居るのは一時の仮宿として寝泊りをさせてもらっているレノ・クラフトの自宅だ。

 エリィナ村の居住区、そこから離れた小さな丘陵の上に陣取る家は、レノとレイラの二人暮らしには丁度いい一階建ての平屋であった。

 キッチンや各自室がある母屋、それを囲む形で小さな小屋が二棟。

 どことなく雑多に薪割の道具が放って置かれていたり、屋根から突き出る煙突から煙が出ている様はどこにでもある民家の風体だった。


 「・・・・。」


 そのどこにでもある民家の玄関、朝にカザリがレイラと共に出た切りの見慣れないドアの前でカザリは途方に暮れている。

 理由は明白。

 レイラ・クラフト。

 カザリが気にしている人物とは、カザリと仕事をしていた同い年の彼女なのである。


 (・・・いや、だって・・・・・・)


 むぅ、と腕を組む。

 カザリが顔を合わせずらい・・・もとい、合わせる顔がないのはカザリが仕事中に倒れた事が原因だ。

 昼食後、レイラに連れられて来た擁白館なる建物で不気味な防護服に着替えさせられた後の事。

 

 『じゃ、このドアを抜けたら栽培区域になるから。 マスクは絶対に外さない事、外したら間違いなく錬樹館の時みたいに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、気を引き締めてね』


 『ぜっったいに、外しません!』


 『よろしい。 では、さっき言った他の注意事項を言ってみて?』


 『・・・えっと。 必ず二人組で常に行動をする事』


 『うん、正解。 これは防護服の緩みがないかの確認とかの意味もあるんだけど、前に一人で作業してた人が倒れてもすぐに発見できなくて、亡くなった人がいたから。 まぁ、今私たちは二人組だから問題ないね』


 『そんな事があったんですか・・・。 あー・・・次は、確か・・収穫する時は植えている野菜の状況に応じて順番に取る事、だっけ』


 『それも正解。 食べながらも話したけど私たちが食料として食べている物は基本的に有毒で、通常の栽培方法、調理方法では食べられないの。 でもそれ以外を食べるっていう選択肢がないから』


 『・・それぞれ種類の違う植物同士を並べて育てて毒を抜く、ですよね?』


 『・・・! そう! なんだカザリ~、分かってるではありませんか〜』


 『レイラさんの教え方が上手いんですよ~』


 『ふふふっ、嬉しい事を言ってくれるね。 さて、それじゃ最後は?』


 『目が合ったら諦めろ、でしたっけ? これって』


 『父さんが付け足した、警句? みたいなものだって。 まぁ気にしなくていいヤツだよ』


 『はぁ・・・?』


 『ま、兎に角は。 早速入ってみようか、ここで怖気ずいてても時間が経ってくだけだしね』


 『が、頑張ります!』


 『うんうん、その気! それじゃ行こー!』


 そんな会話をレイラと交わしたのだ。

 勿論、というか結果は知っての通り。

 威勢よく栽培地区とやらに足を踏み入れて物珍しく見まわしていくうちに『・・あれ』と気が遠くなっていき、部屋を跨いで数秒の後にバターン!と勢いよく倒れたのである。


 「・・・・。」


 故に。

 気まずい。


 (あれだけ注意をしてくれたっていうのに入ってすぐに倒れちゃって・・・)


 その挙句、自分の非を棚上げにして逃走を図る始末。


 (・・・・・・・・・・・・・合わす、顔がない・・)


 そもそも何を話したらいいのか分からない。


(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・医務室のベッドって空いてるよね?)


 アレンさんには救ってもらいましたがそれはそれで心が折れそうな時だってあるのです、気まずいとか通り超えてもう胃が痛いのです、これは合理的な撤退なのです・・・、と。

 暗くなった道中は危ないからと付いてきてくれたアレンが「鍵が掛かってる・・・ごめん、ちょっと周りを見てくるから待ってて」と家人が居ないからと更に気を遣って探してくれている――その最中で思いつく事としては最悪な部類の弱音を、口には出さないようには努めつつ、カザリは折れそうになっていた。


 「・・・・はぁ・・」


 今まで溜め込んできた思いを吐き出して楽になったところで、長年の生によって培われた性質が改変されるほどの衝撃には・・・まぁなり得ない。

 せいぜいが元からの性格とかを表に出してもいかと悩めるくらいにはなっただろうか、と言ったとろ。

 レノに連れて来られて、村人と話した瞬間から自分を偽っていたカザリとしては、本性とまで言わずとも怠け癖のある性格を明かそうと悩むだけでも十分な進歩である。

 

 ただ、それでも心を入れ替えようと決心して間もない状況で、いざ本番に臨める強靭な精神は持ち合わせていないのである。


 ――そんなこんなでレノ・クラフト宅、玄関前よりカザリはどうしようかと決めきれずに棒立ちしていたのだ。


 「・・・・やっぱり、今日は戻ろう」


 明日に改めて出直して迷惑を掛けた事を謝って、またレイラと一緒に仕事をしたいと、この村で生きていきたいと伝えよう、と。

 周囲を探し回っているアレンを呼んで、来た道を引き返そうと後ろ向きな心を決めた時。


 「カザリ・・・?」


 背後から声が聞こえた。


 「・・・・・・・。」


 聞き間違うはずもない。


 「レイラ、さん・・・・」


 ゆっくりと振り合えりながらその名前を呼ぶ。

 案の定、小麦色の流麗な髪を、その奥に見える悲壮を湛える瞳と目があった。それこそ捕らえられてしまったみたいに、目が離せなくなる。


 「・・・・・ぇ・・・っとぉ・・・」


 タイミングというか。

 何だろうか、間の悪さがここ最近、極端に悪い気がするカザリである。


 「・・・お、おはよう・・ございます?」


 そんで勿論、話さなければならない事は明瞭であっても、それを話すためのクッションはまだ用意できていないのであって。

 寒空の月のない夜。

 狙いすましたような状況に、混乱しきったカザリはまずは挨拶をと、ふと浮かんだ経験則を実行していた。

 

 「・・・・・。」


 「・・・・・。」


 あ、ヤバ間違ったぽいわ、と。

 クスりとでもしてくれたなら救いがあったものを、逆に口元を引き締めて俯き加減になってしまうレイラを見て、『完全にやらかした』とカザリは血の気が引いていくのを体感した。

 

 (・・・お、怒ってらっしゃ・・る?)


 暗いのと俯いたのとで表情は全く見えない。

 ので、真意を測ることは出来ないのだが――ぷるぷると震える肩に、何やら力強く握りこまれた拳を見るからに顔が見えないのは幸運とも言えるのではないのでしょうか・・?


 (お、オコッテラッシャル!?)


 まずいと思った所でもう遅い。

 カザリが立つのはレノ宅を背にしたレイラから三メートルの距離。

 そこからではたった数歩の歩みでもってカザリの退路を断ちつつ、お説教の射程範囲に収められる位置関係になってしまっている。


 (・・・・・・・ありゃぁ・・)


 かねてより何かと怒られる機会が多いカザリはその事実を即座に理解し、恐らくはレノさえも押し黙らせてしまう圧でもって、お説教という名の私刑が執行されるのだろうと確信してしまうのであった。


 「・・・・。」


 だから、潔く沙汰が下されるのを待つことが最善であると悟り、


 「・・・・・・・・・。」


 流石に怖くて目を瞑って、


 「・・・・・・・・・・・・・。」


 待っているのだけど、


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」


 一向に来るべき衝撃というか、その前兆が来ないのである。


 「・・・・レイラ・・さん?」


 もしかして許してくれますか~・・・?的な都合のいい未来を夢見て薄目を開ける。

 

 「・・!」


 そして捉えたるは目の前にまで迫った影。

 もう避けようがないまでに近づいた何かは迷う事なくカザリの元へと飛び込んで――


 「ごめん・・カザリ・・・!」


 涙声に、柔らかい感触を受け止めて、カザリはレイラが抱き着いてきたのだと走る影の正体を知るのであった。


 「・・・ホントにごめんね、カザリ・・」


 「・・・え・・・あ!? いや!?」


 首に腕を回され必然と顔が至近距離になり、それだけ近くにいるという事はレイラの未だ誰にも触れられていないであろう無垢と、それとは反転する蠱惑の密に揺れるたわわと実ったソレが押し付けられることを意味する。

 

 (へ!? え!? ぬえぇぇ!?!?)


 そしてまた当然のように一瞬でカザリは頭の中が沸騰したような熱量が走り抜けていき、


 「・・・・ごめん・・・ごめんね・・」


 その震える声で冷静になった。


 「レイラさん・・?」


 「・・・・ごめん・・・私が一緒にいたのに無茶させちゃって」


 「・・・・・・い・・え」


 震えているのは声だけではなかった。

 首に巻き付いているレイラの腕からは小刻みな震えが伝わって、まるで迷子の子どもを抱きしめているみたいだ。

 いつも落ち着いた雰囲気の彼女からは想像できない幼さに触れて、カザリは迷いながら彷徨わせていた両手をレイラの背に回した。強く引き寄せる事はちょっと出来ないから控えめに、優しく撫でるように手を動かして。

 それが契機になったのかレイラは控えめに話を始めた。


 「・・・私・・多分、浮かれてたみたい」


 「・・・浮かれて・・ですか?」


 「うん・・」と暗い声でレイラは返す。


 「カザリみたいな子が来てくれて・・・嬉しくって・・何年同じ仕事をしてたんだよって、ね。 完全に気が抜けちゃってたんだよ」


 「・・・。」


 そんなことはない、と気軽には言い返せなかった。

 

 「このエリィナ村ってさ。 高い山に囲まれてただでさえ他の土地から来るなんてのは無理で、どうしたって人間関係が限定されちゃうんだよね・・・」


 「・・・・聞きました。 そもそも人里があるって事も知られてないって」


 そうそう、とレイラが頷く。


 「・・・だからさ。 この百人いるのかいないのかって小さな村だと人との関係って固執しがちになったり、極端に反発しちゃったりすることもあるんだ」


 「・・・・はい」


 それが誰の事をしているかは分からなかったが、少数の村で関係が拗れるというのはカザリにも身に覚えのある話であった。

 このエリィナ村ほどではないにしろカザリが育った村も周囲には他の村や街は無く、誰と誰が仲が悪いなどはよく耳に入る話だった。


 「だから、ね? 嬉しかったんだ、何のしがらみもない同い年の子が来てくれたって・・」


 何の気兼ねなく、気を遣う事もなく話せる人はいなかったんだ、と。

 言外に表すレイラは、より声の音量を下げて、・・・・だからね、と。


 「私がもっとしっかりとしていればカザリが苦しむことは無かった・・・私が・・気を付けていれば防げた事故だもの」


 カザリの首に巻き付く腕が今一度強く締まり、すっと力が抜ける。

 限界まで近づいていた顔は離れ、腕もほどけたところで一歩、レイラは距離を取った。

 もうレイラから震えが伝わらない。それは物理的な意味合いでも、彼女自身の心情に元ずく意味でもっても一致していた。


 「カザリ・・・」

 

 その声が求めているものはすぐに分かった。

 ・・・だってそれは、先ほどまでカザリがアレンに対して抱いていた感情と一緒なのだから。

 告解と処断。

 その罪を償いたいのではなく、許してほしいと思っている訳ではない。ただ単純に、誰かに『お前が悪い』と言われたいだけの告白。

 鏡合わせ、そう言う他に無いくらいに今のレイラは、村を逃げ出そうとしていたカザリと同じ心境にいるのだと分かってしまった。

 ――まぁ、だからと言うべきか。


 「・・・・・カザリ?」


 話は先刻に戻るのであるが、


 「・・・・・っ・・ぅ・・・」


 「・・・カザリ? 泣いて――」


 人はちょっとやそっとの衝撃などでは性格は変わらないものである。


 ――それを証明するかのように体の方は意識せずとも動き出していた。


 「ごめんないさい・・! ごめんなさい・・・っ!」


 一歩離れたレイラを引き戻すみたいに抱き着く。

 普段であれば絶対にできないであろう芸当は、カザリなりに激情に身を任せた結果だ。

 それでもって、もう出し切ってしまったと思っていた涙はあっという間に瞼に溜まり、一緒に緩む洟をすすっては、


 「ごめ・・なさい・・っ! ごめんなさい・・・!」


 アレンに見せたような痴態を晒して、一心不乱に謝るのである。


 「か、カザリ?」


 当の抱き着かれたレイラは、どうしてカザリが泣いているのか見当もつかず戸惑うばかりであった。

 それでも自然とカザリを落ち着かせようと背を撫でているのは、やはり持ち前の人の良さというか、場慣れしているといった所だ。


 「ごめんさい・・っ・・わ、私が悪いんです」


 「・・・・カザリ」


 「もっと話をちゃんと聞いていれば・・・・気を付けていれば・・・! レイラさんと一緒だって浮かれて・・・なけれ、ば・・」


 「そんな・・・こと、ないよ・・」


 「わたしがぁ・・・わたしっ・・・が・・・!」


 しゃくり上げて涙するカザリに目を白黒させるレイラ。

 つい数舜前にはレイラが抱き着いて謝っていたというのに、今となっては立場が逆どころの騒ぎではない。カザリ・キリシアが擁白館で昏倒したのは間違いなくレイラの責となる所であると、寧ろ出会う前には彼女が持ち得る怒りをどう受け入れるかと覚悟していたくらいで・・・

 

 「・・っ・・れ・・レイラ、さぁん・・・」


 「・・・なぁに?」


 そんな、悩む余地もくれないカザリの口調に合わせて適当に返して、


 「・・・嫌いに・・・ならないでぇ・・っ」


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」


 本当に子供をあやしているのだったかと錯覚してしまうそうな――幼い、要求がなされた。


 「かざり・・?」


 「・・・私っ・・が・・・悪かったので・・・嫌いにっ、嫌いにならないでください・・っ!」


 「・・それって」


 どういう意味?、と。

 戸惑いから混乱へ。

 何を思ってそんな事を言うんだろうかと、冷静に受け止めようとして、


 「あれ?」


 何故かレイラの目にも涙が溜まっていた。


 「・・あれ?」


 別に感動的な事があった訳でも、心から悲しいと思った訳でもない。


 「・・・・・あれ・・?」


 ただ、それがレイラの聞く、初めてのカザリの本音なのだとは分かって、


 「・・・・・・・・・・あ・・・れ?」


 『私のせいだ』と言っていたのが結局は建前で―――本音はカザリと同じ、嫌いになって欲しくないと思っていたのだと――


 「・・ぅ・・・っ・・・・・・~~~~~~!」


 カザリに釣られて、レイラも泣き出す。

 そうして声を押し殺して泣く二人、どちらが許すとか、許さないとか建前を語る前に、違えたわけでもない二人は仲直りするのであった。

あけまして・・・まぁ三が日は過ぎ去って久しいですね。

・・・お久しぶりデース。


えぇ、こんだけ待たせてこれだけです、はい。

今月末にちょっと試験がありまして・・・その関係です・・はい。


もっと早く書きたいです。


それではよろしくお願いします。

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