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まだ、明日になる前に  作者: 桃柿モノ木
17/50

後悔

 もう駄目だと見切りをつけて。

 もしかしたらと勝手に期待して。

 その末に、手に残る物はないのだと分かってしまった。

 

 ―――ねぇ、私はどこから間違っていたのですか?


                    ▽▽▽


 月のない夜は風ばかりが冷たく、(かじか)む風を思い起こさせる。

 既に無いはずの赤切れた手の鈍い痛みが走っていくようで、無意識に手を擦るカザリは正面にいる青年をただ見据えて、


 「・・・こんばんわ」


 感情を排して、音としての意味だけを発した。

 

 「うん、昨日ぶりだね。 あれから体調はどう? 異常はなかったって先生は言ってたけど・・・」


 そう言って心配そうな顔を見せるのはアレン・メイズ、エリィナ村へカザリを連れて来てくれたもう一人の人物だ。

 少し大きめの上着を羽織って、右手には風に揺れる蝋燭を持っている。残った左手は蝋燭が吹き消されてしまわないように添えられていて、しかしやっぱり寒いのか、ちょっと薄着に見える上着の首元を時折、閉めて首を埋める仕草をしていた。そのため蝋燭の火は揺らめくばかりで、一息強い風が吹いたならすぐにでも消えてしまいそうであった。

 

 「・・・見ての通りです。 こんな風に歩き回れる程度には大丈夫みたいです」

 

 「えー・・・? 動けるようになったからって歩くにはまだ寒くない?」


 でも、まぁ平気だったんならよかった、と。

 もう火が消えるのは諦めたらしく、左が首元で完全に固定されてしまったアレンは人畜無害な安堵をこぼした。 

 その顔は心底、安心したという風な形をしていて。

 カザリもそれ以上に別の感情があるかなどは想像も出来ないくらい、読み取りようがないと確信をもって、


 (・・・・連れ戻しに来たのかな)


 より、一層、深く疑心が心臓に突き刺さる感じがした。


 (・・・あぁ、もうそんな時間が経ったのかな)


 曖昧な感覚のままに走り回っていたせいで正確な時間経過は分からない。

 もう一時間と経って、カザリを探し回っていてもおかしくはないだろうし、現にアレンは人通りがなさそうな所に居たんだし。

 それをただの偶然とするには出来すぎていると、カザリは思う。

 

 (手分けして探してるのかな・・・あの服装だと急いで出てきた感じがするし・・)


 家でくつろいでいた矢先にカザリが逃走したと知らせが来て、慌てて村の端から探し始める、と。

 想像してみても違和感なく、現状と一致する所が多々見受けられる。

 きっと、彼が今ここにいるのはそうした背景があっての事だと半ば確信するカザリは、


 「一応聞きたいんだけどさ・・・」


 「はい?」


 着々とアレンへの疑いを高めているカザリに、何だか控えめな、どこか申し訳なさそうに話かけてくる件の青年ことアレン・メイズ。

 あー、とか。うー、とか。意味があるのか分からない逡巡で間を置き、それを「いや・・」と断ち切って顔を上げる。

 カザリもその一挙手一投足を目に焼きつけて警戒しつつ、次の言葉を待った。


 「・・・もしかしてだけど、今日ってどこかで仕事してた?」


 「・・・え?」

 

 思いもよらない質問をしてきた。


 (働いてた?・・・って、え?)


 今、確かにレイラから借り受けた仕事着をそのまま身に着けている。病室から抜け出すときにわざわざ着替える暇なんてあるはずもなく、一日働き通しの姿でいる訳で。

 それは明確に何をしていたかを表してくれている、が。

 しかし、と。


 (なんでそんな質問・・・?)


 アレンは今日あった出来事を全て知った上で―――カザリ・キリシアが擁白館で触れた毒草に当てられて、その末にレノの下に運ばれたのだと、知っているのではないのか。

 それとも彼が言っている事はすべてカザリを揺さぶる意味を持っており、遅延性の毒みたいにカザリが気づいていないだけか・・・・。


 (・・・・いや、無いと・・・思うんだけ、ど?)


 警戒していた分、余分に回りすぎた頭はありもしない想像が巡るばかりで決定的な事実は紡いではくれない。

 何らかの揺さぶりであるかも、と考えてみたけどその手段を用いて得られる成果は何なのかすら思いつかない有様だ。

 ・・・というか、十中も八九もなくそんなものは在りはしない。


 (時間稼ぎ・・・? 応援を待ってる・・とか)


 それも考えずらい。

 いくら魔法使いであったとしても、カザリはただの少女でしかない。魔法の使い方などこれっぽっちも知らない身体機能的には人と遜色ない存在でしかないのだ。

 それ以前に、この村での凄惨とも表せる仕事を日常的にこなして、ついては森の中を籠に入れてではあってもカザリを持って帰ったのはアレン・メイズその人だ。わざわざ誰かを待ってカザリを捕えようとはしないのでは――?


 「何でそんな事を・・」


 だから、気が緩んだからではなく純粋な疑問でもって聞き返してしまっていて。


 「・・・・っ!」


 「え、何でって」


 慌てて口を押え――ても、飛んでいった言葉を飲み込むことは出来ない。

 あーもう何考えてるの!? 色々考えた結果だよ致命傷だよ! と。

 内心でキレ散らかしても仕方ない。

 それがあまりに迂闊で、自分が呪わしくって際限なく頭が痛い事実だとしても。


 (・・・いい・・・もういい、気になることだったし。 この際はっきりとしておこう)


 妥協というには考えなし、楽観極まる結論を最善策として。

 それにも巧妙に蓋をして、形だけの理論武装をするカザリ。

 対して、今獲物が自ら首を差し出す絶好の機会にアレンは、


 「・・・あーごめん。 実はさっきまでずっと寝てまして・・・」


 「・・・・・・・・・・・・・・・。」


 空気が、固まった。


 「えっと・・・なんて?」


 「・・・い、意外と意地悪だよねカザリさん」


 気まずそうに苦笑いするアレン。

 カザリとしては決して意地悪をして聞き直しているのではなく、純粋に『聞き間違いであって欲しい』という願いを基にしている訳であって、そうした何とか誤魔化そうとする意志を正面から砕こうとするのは不可抗力なのである。

 

 「・・・・・・・・・。」


 故に、こちらも必死なのである。あしからず。


 「・・・・・。」


 「・・・・・・・・・ぅう・・」


 それでもって短い沈黙を超えて「分かりました・・・」とアレンが折れた。


 「・・・・今日は一日、働きもせずに部屋に引きこもっておりました。 ・・ですから、外の事情とか全く知らないので、その恰好からするともしや昨日の今日で働かされてるのかなと思って聞いたまでです、はい・・・」


 「・・・昨日の今日って?」


 もう遠慮なく聞いてしまおう、と。続けて聞いた。


 「・・・? 森から戻ってすぐにって意味だけど・・」


 最後は不思議そうに答えてくれたアレンに「ありがとうございます・・」と形ばかりのお礼を伝え、一番聞きたかった言葉を聞くことが出来た。


 (・・・・・・・・・なんか、こんな感じの緩急・・・身に覚えがある)


 確かレノ何某だったろうか。

 それとも何某レノであったか。

 まぁ、定かである意味も理由も欠片ほどだって無いんだけれども。

 思い出したくもないトラウマまがいの出来事が脳裏をよぎって、何とも言えない苦い気持ちになるのであった。


 (・・・まぁいいか)


 そんな事より、と。

 今、アレンから聞き出せた話をまとめると、どうも前提から話が違っていたようであった。

 カザリの視点では、アレンは今日あったカザリが仕事中に倒れたという話を知った上でこの場に居るのだと思っていた。しかし、そんな事はなく、アレン曰く、ついさっき起きたばかりで着の身着のままで外に出たことでカザリに出くわした、と。

 

 (・・・そう言えば、いくら急ぎで飛び出したっていってもあり得ないか・・)


 「あっ」と遂に蝋燭の火が消え、ますます首を縮み込ませるアレンの服を改めて観察する。

 薄手の上下はよく見れば同じ柄、まるでと言わずとも寝間着として使われているようで、その上に羽織った上着も外に出る用途とは言い難い心もとない厚さだった。

 というか、冷静さを取り戻してみれば寝間着姿以外に見えないのであった。


 (・・・・流石に気を張り詰めすぎたかな)


 小さく息を吐く。

 それとアレンの休日の過ごし方が思ったよりもくたびれているんだなと、人は見かけには寄らないなぁと――


 (・・・・あれ?)


 しかし、と。

 何かが引っ掛かった。


 (確か・・・昨日に急遽宴会が開かれたから、今日は非番の人も強制的に引っ張りだされた・・って)


 昼食の際。

 午後からはカザリと共に働くのだと浮かれていた時に、そんな話をレノがしていたのを聞いた、気がする。

 何かと話をしたがるレノが鬱陶しくて、右から左へと聞き流していたからはっきりとした記憶がない。

 だから、聞き間違いであったのかもしれなかったけど、


 (・・・なんで?)


 それが、無償に、きになって、ててててててっててて???


 『これは■■■の分だ』


 『黙って受け取れ』


 「・・・・・・?」


 何か、思い出しそうになった。


 「カザリさん?」


 「・・・え?」


 声に釣られて顔を上げ、心配そうな表情のアレンと目があった。


 「あ、いえ・・・なんでも、ない・・です」


 「そう・・?」


 なんだか辛そうな顔してたよ? と。

 声に出さずとも顔面に明瞭かつ端的に張り付けて、アレンは主張してくる。

 それに不自然さを混ぜないように、顔面に苦笑を張り付けてカザリは「ホント、大丈夫ですから」と応じた。

 

 (まぁ兎に角・・・この人は私が今日、倒れたってことを知らないんだ)


 嘘を見破る術は、カザリには存在しない。

 そういう腹の中を探るみたいな芸当は全く持って性格的に合っていないというか、自慢ではないが肉親相手にすら発揮されることのなかった短所――他人からすれば騙しやすいといった意味で長所、なのである。

 勿論、誰かを疑うことは人並みに経験してきているとは思う。

 『あー! わたしの色えんぴつ取ったのだれー!?』から始まり、『・・私のだけケーキ小さい?』、『・・・いや、どう見ても一口齧ってあるよね?』と遍歴をたどり、『誰!? また私の服、勝手に着たでしょ!?』と。

 人の歴史を紐解けば見えてくるものがあるのだろうけど、カザリ・キリシアの積み上げた歴史などはある一点においては正直者と称していいものであると言える。それがただ、嘘を見抜けずにずる賢い同郷の幼馴染たちによる搾取(よこどり)の結果であったとしても、だ。

 そして、それ故に――


 (なら、この人はただ本当に偶然で通りかかっただけなんだ)


 人を疑っても、その心意が覗けないのであれば、その人を信じることがカザリに出来る最善策となる。

 例え、愚直以前に愚かな行為そのものであったとしても。

 少なからず、これまでの人生で培われた経験則的には『それ以上考えて無駄なら考えることを止めるべし』と結論を出しているし、何よりカザリとしても誰かを疑っているよりも信じていた方が精神衛生上、健全であるのだから。

 ただ、それにおいても今は優先すべきことがあって、


 (すぐに捕まることはないにしても早く離れた方がいい・・・)


 カザリはもう、この村から離れると決意してしまった。

 それが揺らいでしまう前に、可能な限り、手遅れなくらいに村から離れなければならないのだ。

 だから偶然にしろ、そうでないにしろ、出会ってしまった何某とは早々に話を終えて


 『納得いかないと?』


 『・・・・・そうじゃないですけど』


 「・・・・・。」


 「カザリさん? どうしたの? ・・・やっぱり辛いんじゃない?」


 声がして、声の方へ顔を向けて、


 「・・・・・・・アレンさん」


 「何?」


 勝手に、言葉の取捨選択は行われていた。


 「・・・どうして・・どうして、今日は寝て過ごされたんですか?」


                    ▽▽▽


 ――聞く必要のないことだった。


 そんな事、考えるまでもない。

 全くもって無駄な寄り道、要らない過程。余分すぎる思考だった。

 カザリ・キリシアはアレンを疑う余地なしとしながらも、この期に及んで何故、自身の決めた決意を揺るがすことを言ったのか・・・?


 「ぁ・・・い・・・え」


 今は少しでも早く壁を超えるべきだ。

 アレンがカザリの捜索を目的としていないと言っても、その他の人々が同じとは限らない。

 

 『これ以上、危険があるなら一緒にいられない』


 『事故だといっても、私たちの命は一つきりなんだ先生』


 断片的に聞こえた拒絶の声。

 彼らにとってカザリが居なくなってくれるのは何より万々歳な事だろう。厄介な客人が自ら居なくなるならなお良しだ。

 ―――しかし、そうした排斥思想があるのだとすれば、それ以上に危険な思いだって浮かぶことだってある、と。

 少なからず、忽然と人から魔法使いになんてなってしまったカザリには、そうした想像を膨らませるだけの事情がある。

 だから、カザリとエリィナ村の人々とが円満な別れ方をするためには、今を置いて他には無く、


 (わ、たし・・・何を言ってる・・・の?)


 茫然と、自分の吐いた言葉を吟味し・・・・それで全く意味が分からなくなってしまった。


 (だって、今はそんな事を聞いてる暇なんてないんだし・・・)


 この場面では『寒くなってきたので帰りますね』が正解だ。アレンもそれ以上は深く聞きはしてこないと思われ、すぐ一人になりたいのであればそれが最短だ。


 (・・・それに今更、休みの日の過ごし方なんて聞いてどうするの? 疑問点がまず分からない)


 それはきっと些細な勘違いに起因しているに違いない。そもそも、そうした疑問があったとして()()()()()()()()()()()と何故思ったのか。


 (・・・・意味ない・・・ない・・ないの・・・無いはず)


 ・・・・大丈夫、なんにも無い。あるはずがない。だって彼と知り合ったもなにも森の中で会話とも言えない、やり取り未満の一方的な発信の仕合しかしていないのだから。お互いに顔を知っている程度の関係、思い入れが生まれるような余暇が挟まる隙間はなかったのだし。確かに助けてくれた人。命の恩人。でも、だとしても。まともに話をする機会がまるでないまま既に二日。お礼を言いそびれて気まずくなるのは分かる。実際そういう感情もある。でも・・()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 「カザリさん・・?」


 はっとする。

 目の前には先ほどと一緒な心配の顔。

 そりゃ、深刻そうに黙りこくっていたなら声だって掛けたくなる。


 「あ、いや」

 

 視線が合って、次いで口ごもり、気の利いたセリフなんかは浮かぶはずはなく――瞬間的に誤魔化してしまおうと考え付く。


 「・・・・・ぇっと・・」


 でも、何と言えば良いのかが思いつかず、


 「・・・・・今日寝てたのは、森での疲れとか怪我が原因でね」


 「・・・・・・あ・・」


 困り果てたカザリは、慈悲に満ちた優しい声を聞いた。


 「本当は今日も普通に仕事が入っててね。 外回りっていうそこそこキツイ予定が組まれてたんだけど『何言ってる。 大事を取って寝てろ寝てろ、もうお前の変わりは用意しちまったんだ』って先生が」


 心配性だよね、と。

 苦笑するアレンに、しかし何と返せばよいか分からず愛想笑いを浮かべるカザリ。


 「・・実際に大した怪我とかは無かったんだ。 確かに、君から受けた()()()()は相当効いたけど、それ以前に立った二人での遠征は負担が大きかった。 ・・・自分から計画しておいてなんだけどちょっと無理があったんだ」


 元々はね、と。


 「この時期は森が冬季から春季に変わる境目、森の環境が劇的に変化していく期間なんだ。 だから、そっちの調査とかで出払うことが多いし、本当ならボクもそれに付いてくのが通例なんだ」


 「・・・それでも無理を言って物資調達の遠征・・・・あぁ、ここではカザリさんが乗ってた馬車が落ちたのが数日前に確認されててね、そこから使えそうな道具とかを拝借することがあるんだ。 あー、でね。 その遠征に行こうってボクが言って・・それでも十分な人が確保できないからって却下されてたんだけど、先生が『オレが付いてく』って言ってくれて」


 「それで少数精鋭ってことで二人で森に入ったんだ。 ・・・ま、結果は行きだけでヘトヘトのフラフラでさ、自業自得ってやつなんだけど」


 「そこからはカザリさんも知っての通り。 ・・・あぁ、あの時はごめんね、気が利かなかったというか・・・それ以前に怖かったよね・・・・ホント! ごめんなさい!」


 「・・・・・それから帰る時も。 安全のためではあっても、あんな・・・縛り上げて籠に閉じ込めるなんて・・・・それについても、本当にごめんさない・・・」


 「あ・・・・で。 そんな感じ、です。 大事を取るだなんて聞こえはいいけど、今日は一日さぼりだった訳だ」


 だからね、と。


 「カザリさんは何も気にしなくていいんだよ。 これはボクと先生が償うべき責任の一端なんだから」


 だから・・さ、と。


 「・・・そんな、怖がらなくてもいいんだよ」


 そういってアレンはまた、柔らかく月の光みたいな優しい顔で笑った。


 「・・・・・・・。」


 それを見て、カザリは、


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・っ・・・」


 「・・・? カザリ、さん?」


 その、どこかで聞いた湿った音にアレンは戸惑った声で名前を呼んで。


 「・・・っ・・さ・・い」


 「・・・え」


 もう、堪えられなくなった堰があふれた。


 「・・ごめ・・! ごめん・・・なさ、い・・・ごめんなさい・・・っ!」


                    ▽▽▽


 私は、カザリ・キリシアはメテリアという小さな村で生を受けた。

 平凡な農家の一人娘。唯一と言っていい不幸は、カザリが生まれてすぐに両親が共に事故によって旅立ってしまった事。

 一番の幸福は、祖母や祖父、村の人たちに一人では抱えきれないくらいの愛情を貰った事。

 お陰様で生まれてこのかた十数年、なに不自由なく、存分に伸び伸びと感性的にも物理的にも育ててもらった。

 間違いなく、私――カザリ・キリシアにとっては最愛の人たちとの過ごした何物にも代えようがない大切な時間であり、これからも変わらず一緒に過ごしていけると、疑うことなくただ漠然と信じていた輝ける過去だ。

 そう、過去。

 もう手に入りはしない、戻ることの出来ない思い出だ。


 あの日―――いつもの自室で目が覚めた、雲一つなかった爽やかで焼け付くほどに鮮やかな朝日を見たあの日、その時がくるまでは。


 私は何を間違えてしまっただろうか。


 エリィナ村に来て、何一つとして理解しないままに宙ぶらりんな亡霊みたいな状態で、それでも嫌われたくないと思った一心で作り上げた仮面を被った事か。


 たかだか数週間の経験でもって培った()()使()()としての生き方に則って、望んで働きたくもないのに我慢して、頑張って身を粉にした事か。


 それとも、それに反して十八年の内に積もり積もった倫理で、正義で、誰の物とも分からない義務感と怒りでもって、命の恩人であるレノ・クラフトを拒絶し続けた事か。


 ・・・それとも。


 見るからに怪しい男の金言に(そそのか)されて、案の定見事に騙されて、リュメインへ向かう馬車に荷として積まれた事か。


 あの、魔法使いを滅ぼしたいと願う狂気を、初めて怖いと思ってしまった事か。


 あの焼け付く青空の下で、目に鮮やかな世界を眺めて、魔法使いに成ってしまったあの瞬間に、躊躇わずに喉を突いて自決しなかった事か。


 ・・・これは月並みではあるけれど、きっと間違いはなかった、と思う。


 あの日、魔法使いに成った日。

 その時に死ななかったのは間違ってない。

 昔から祖母に言われていたのだ『誰かの役に立つように生きなさい』『恥をかいてもいいから、誰かを貶めて笑うような人間になるな』って。

 私は努めてそうした人にならないようにしてきた訳じゃない。真っ当に生きていくと、誓って成し遂げるような決意なんてした事などない。

 でも、だからこそと言うべきか。

 碌に祖母の言う事を聞いてこなかった。だから、もう。手遅れになってしまったけど。

 もう、一緒に生きる事が出来なくなった手前、自身が費えるまでの時間は祖母の言葉に真摯でありたいと思ったのだ(――ただ、死にたくなかっただけなのだ)。

 だから、あの日死ななかったのは間違ってない。まだ私はおばあちゃんに誠実に在れている――ソレが一番大きなキズなってしまったケド、まだ大丈夫。


 村から逃げる途中、立ち寄った街。

 そこで迎えた独立記念は村で迎えたものとは規模も賑やかさも桁違いで、飾り付けられた自由を表す青い花、それと対を為す赤い鎖は目に鮮やかで思わず見とれてしまった。

 出店で作られる伝統の菓子、その土地の特産だという色とりどりの果物に、食欲をそそる芳醇な香りを漂わせる肉や野菜をふんだんに使った焼き物。そのどれも、見るだけで、嗅いでしまうだけで唾液が止まらないラインナップに、元から軽い財布の紐が緩んでしまいそうになって、


 その祭りの大目玉、これ見よがしに広場で掲げられた人形―――張り付けになった魔法使いが火に掛けられる姿を見て、お祭りのごちそうは食べ損ねてしまった。


 毎年見ていた景色だった。

 メテリアの村でも、この街の祭りほどではないにしろよく見ていた。祭りの最後、人ならざる者らからの脱却を誓う炎でもって来期への希望と報復の成就を託す。アレク連合に所属する国であればごくあり触れた習慣。

 ・・それでも、食べた物を吐くことを我慢できなかった。


 でも、間違ってない。


 だってカザリ・キリシアは既に人ではないのだから。

 身の安全が脅かされてるかもしれないというのに心穏やかに過ごせる生き物はいないだろう。

 それと同じだ。

 たとえ、道行く子供たちが魔法使いと騎士ごっこで魔法使い役となった子を複数人で追い立てて、『ぎゃーつかまったー』と横たわる子に無邪気におもちゃの剣を突き立てる姿に血の気が引いてしまうのも。

 酒を飲んで気が大きくなった幾人かの男が大声で、いかに魔法使いが残酷で、残忍で、いかな地獄の底に落ちようとも雪がれる罪はないのだと力説しているのを見て気分が悪くなるのも。

 (たった数週間前には自分も同じような考えを持っていて、それを自然な事だと、『昔は私もやったなぁ』とか『・・お祭りだもんなぁ、お酒って美味しいのかな?』くらいの感想しか浮かばない光景だったのに)それでも、カザリにとって間違った感性ではない。

 怖いと思うってしまうのは仕方のない事だ――当たり前ダとする感情ト、拒否スル感情とがひしめきアッて、ドッチが自分の感情かワカラナクなるけど大丈夫。


 どうにかして国境を超えないとと考えていた時。

 笑顔の胡散臭い、妙に身なりのいい男に騙されたのだって、間違いじゃない。

 だって私は魔法使い(この国の怨敵、相容れない厄介者)本当なら殺されて然るべき存在だ。

 それでも慈悲深くも『顔はいまいちだが、こういう田舎者は頑丈なのが一番の売りだ。 あっちの国ならそこそこ需要がある。 いいねぇ、今年は豊作だなぁ!?』困っていた私を隣国に連れて行ってくれるそうで『・・・すぅぅぅはぁぁぁ・・あぁ、こいつは処女の匂いだぁたまんねぇ!』それはそれは丁重に『おいおい、大事な商品だぞ? また指を落とされたいか? あ?』身の安全は保障してくれてるようで『そんじゃ適当にクスリ嗅がせて寝かせとけよ、手足を縛るのも忘れんな!』手足ばかりか目隠しとくつわもされて動けなかったけ・・ど。


 (気持ち悪い気持ち悪いキモチワルイ!!!)(あらい鼻息がかかってる)(さわんないで!)(ありえないありえないありえないありえない)(今すぐに死んじゃえ!)(腕いたい・・)(もういや何でこんな)(絶対に許さない)(助けて誰か助けて誰でもいいから早く!)


 それでも・・・間違いではない。

 だってこの人たち(ケダモノ、お前たちなんか魔法使い以下の存在だ!)はカザリを殺そうとはしなかったのだから。

 一たび存在が知れたなら、あの祭りの、間抜けな飾り物と同じ運命を辿るのだから。

 命をウバワれなかっただけでもカレ等は理性的であったと(理性? そんなものあるはずない! 頭が下半身にあるんじゃないかってくらい獣じみたクソ野郎どもよ!)思うのだ。


 だから。


 エリィナ村に連れて来られて・・何がなんだか分からず、誰とも知らない人々に優しくされたら、それをずっと欲しくなってしまうのは間違ったことだろうか?

 ―――嫌われたくなくて、その人達が好んでくれそうな顔を作って、元のカザリを蔑ろにすることになってしまっても。


 カザリを外からも、内からも苦しめる存在である魔法使いを。命の恩人でもあるヒトであっても嫌ってしまうのは間違っているだろうか?

 ―――その嫌悪が、十八年のうちに醸造された純正の物だけではなく、自己嫌悪が混じってしまう物であったとしても。


 カザリ・キリシアに間違いはない。

 既に取り返しのつかない程に矛盾し、自分自身の行動と心とが剥離してしまって治癒の見込みはないけれど。


 ――大丈夫。


 人じゃ無くなって、それでも死にたくなくて、祖母の言った言葉を今更のように引き合いに出し言い訳に使てまで生き残ろうとするロクデナシだけど。


 ――大丈夫、大丈夫。


 でも、それとして多くの人に疎まれることが怖くなって、挙句そうした拒絶が当たり前の世界だったのに、その一切が許容できなくて逃げ出したけど。


 ――大丈夫、だいじょうぶ。


 そんな事を言っておきながら昔の価値観を忘れることが出来ずに自棄になって、自分から清算する気などなくフラフラと彷徨って、危険だって分かってて怪しい男に付いて行って・・・。


 ――ダイジョウブ、ダイジョウブ。


 ツいには誤魔化しキレなくなって、訳がワカラナクなってしまったケド。

 

 きっと、何一つとして。

 間違いはなかったのだ。


 「カザリさんは何も気にしなくていいんだよ」


 間違い、など・・・。


 「・・・・そんな、怖がらなくていいんだよ」


 だから―――だから、だから。



                    ▽▽▽


 「ごめんさない・・・ごめんなさい・・っ」


 ようやく声に出せた謝罪はみっともなく涙に濡れていた。


 「え・・あ、いや!」


 アレンが戸惑いに声を上げる。

 それは驚きだろうか、それとも『謝る必要なんかないよ』と言いたかったからこその否定だったのだろうか。

 

 「・・・・っ・・!」


 首を振る。

 その意図する言の端は上手く掴めていない。だから――いや、彼が放つ言葉は全部カザリを気遣ったものばかりだった。だから、今も泣き出すカザリを落ち着かせようと優しい意味を持ってくれてるに違いない。


 「ごめん・・なさい・・っ!」


 それだけは分かったから。

 一際強く首を振って、彼の優しさが来る前に伝えるべき感情を吐き出した。


 「・・・私が・・悪くって・・・っ」


 ここまで来るまでの一か月。

 魔法使いとして生きることとなった一か月。

 それはどこまでも平面的で、夜な夜な祖母が読み聞かせてくれたおとぎ話みたいな・・・血の通わない、どこかで聞いたことのある台詞に、どこかで見たことのある場面が延々と続いていくみたいな、生の実感からは最も遠い感触のする時間だった。


 「私が・・っ・・・あの時・・」


 息を吸い込んいるのに、肺は新しく取り入れられた空気で一杯になってくれてるのに。

 心臓はちゃんと正常に一定で脈を打っているのに。

 息苦しさが、体の気怠さは抜けてくれず、座り込んでしまったなら二度と立ち上がれないような重さがあった。

 日に何度も吐き気が込み上げることも、誰かが話をしている姿にどうしようもなく恐怖を感じることも。日を追うごとに、そうした体の変調は増していったのをよく、覚えている。


 「森で・・・、初めて会った時に・・っ!」


 「・・カザリさん、もういい。 もういいから」


 「よくありません! ・・だって私はあの時たしかに」


 荒んで、擦りつぶれそうになって。

 もう、自分でさえも・・・いや、自分こそが一番信用ならない存在になってしまって。


 「私はあの時・・・二人を・・殺そうとしたんです」


 だから、それは間違いなく、カザリが侵した罪だと告白した。


                  ▽▽▽


 決定的なカザリの言葉に、アレンは「でもそれは・・」と真っすぐにその潤んだ瞳を見据えて言葉を選んだ。


 「でもそれは結果として、だよ ・・・普通はここがどういう場所なのかなんて知りようがない。 外の人からは知りようがないって先生の折り紙付きだし、そもそもあの森で騒ぎを起こすことが即命を危険に晒す行為だなんて誰も思わないでしょ?」


 知りようがない物をどうして罪とすることが出来るの?、と。

 しかし、カザリは再び首を横に振った。


 「・・・結果とか、そういうことじゃないんです」


 大事にしたい所はソコではない、と。


 「あの時、私には確かに殺意がありました」


 目を覚まして、服を着ずに横たわっていて、どこぞの川辺に投げ出されていた。

 状況は混乱極まって、思い出せる最後の光景と今目の前にある景色が全く一致しないことに、泣き出すくらいには訳が分からなくなっていて、


 『ちょっと! キミ!』


 『あ・・』


 それでも。

 その時に何をすべきなのかを、カザリはすぐに理解してしまっていた。


 「・・・私はあの時、とても冷静に『何をすれば殺せるか』って考えたんです」

 

 恐慌の最中では無かったとは、口が裂けても言えやしない。

 迫ってくる二人はカザリを国外に運び出そうとした一団であると思っていたし、何より服も着ずにいる自分に近づく男とはそれだけで恐怖の対象だ。

 本当に怖くて、どうにかなってしまいそうではあったけど。

 それでも確かに言えることは、


 「・・森の危険性がどうこう以前に、私は『絶対に殺してやる』って思ってたんです・・・・」


 引き出された、おぞましいモノ。

 カザリはそれを自らの意思で見ず知らずの二人に差し向けたのだ。


 「でもカザリさん。 それなら尚更、カザリさんには責められる謂れがないじゃないか」


 しかし、と。

 アレンはカザリの正当性を語る。


 「この森の事情は知りようがないのは勿論、ボクと先生が君を捕まえようとした誰かだって考えるのも自然なことだ。 カザリさんが気にする必要なんか――」


 「違うんです」


 でもそれは、残酷なのです。

 ここで言う正当性とは、正しさの調停とは即ち、如何に回避不可能な出来事であったかという証明だ。

 それはつまり人が生み出した法律、理性に根差した恩寵なのだ。


 ―――だからこそ、それはこの場において最も相応しくない。


 何しろカザリは、人の持ちうる理性、人を動物から一個の意志ある生命として確立させている武器でもって話をしていないのだから。


 「・・・私は・・・私はただ許したくなかったんです」


 「・・どうして?」


 それは、と。


 「私が謝りたいって思ったのが・・・アレンさんに〝怖がらなくていいんだよ〟って言われたからなんです」


 「・・・? それって」


 どういう、と。

 アレンが意味を飲み込めずに聞き返そうとするその時、ずっと俯いて見えなかったカザリの濡れた瞳と視線があった。

 

 「私は申し訳なくなって誤ってるんじゃないんです・・・言った通りです、私はアレンさんに一番欲しい言葉を貰ったから・・謝らないとって、思ったんです」


 「・・・・。」


 順序が逆なのだと、カザリは言った。

 今まで謝りたくって、それでアレンから欲しい言葉をもらったもんだから心が溢れて謝りだした、のではない。

 申し訳ないと、そんな感情はそこそこにあったものの直に会って謝る気などは更々なく、あわよくば有耶無耶にしてしまいたいと、レノの事と一緒にして無かった事にしてしまいたいと。

 本当は、そんな風に思っていたのだ。


 「誠実さの欠片もない・・・」


 助けてもらっておいて、恥さらしもいいところだ。


 「無責任極まりない・・・!」


 大きくなったのは体だけ。一体何をして生きてきたのか、カザリの中身はどこまでも幼稚で、直視するにはあまりにも耐えがたい。


 「短絡的で・・・」


 楽観主義。後先考えないで突っ走っていくのは健在で、メテリアに住んでいた時は友人に、今はこの村人に愚かの代償を肩代わりさせようというのだろうか。


 「頭が悪くて・・」


 それに限る。誰かの思いに共感できるのは誰しも必ず持っている人としての機能だ。それすら欠いているカザリ(おまえ)は本当にどうしようもない。


 「・・・・・・・・ごめんなさい・・」


 「・・・・・。」


 また視線が切れた。

 カザリは俯いて、暗い足元を見つめたまま動けなくなってしまった。


 「・・・・・・。」


 「・・・・・・・。」


 それでどちらも黙り込んでしまって――また、涙がこぼれた。


 (・・・・・・・・なに? ・・・言いたいことは言ったよ?)


 ぐずぐずとまた一粒。

 拭って拭って、きっと赤くなっている目元から頬を伝って、鼻も鳴らす。

 唇を噛んで我慢しようとしてみたけど、止まってくれない。次々とまた溢れてくる。


 (言ったじゃん・・・言いたいこと・・・・・アレンさんを困らせるって分かってて、思ってること全部言ったんじゃん・・)


 それでも胸中はスッキリしてくれない。寧ろ、暗雲が立ち込めるように苦しくなるばかり。


 (だから、止まって・・・とまってっ・・・もう・・泣きたくない・・・!)


 「・・・・っ・・ぅ・・・!」


 でも、思いは届かずくぐもった声が漏れ出て、


 「カザリさん」


 だから、アレンはもう一歩、歩み寄らなければいけないと、声を出す。


 「我慢しなくていいよ」


 「え・・・?」


 「カザリさんが叱られたいのは十分わかった。 ・・・叱られでもしないと壊れてしまいそうなのも、ね」


 だから、と。


 「今度は、カザリさんが言いたいことを聞かせてよ」


 「・・・・・・なに・・を・・」


 言っているのか、と。

 聞き返してみたつもりで声を出してみたけど、最後まで言い切る前に途切れて落っこちてしまった。代わりにと、アレンが続く言葉を紡ぎ上げた。


 「カザリさんが言いたいことを。 ・・・ボクなんかでは頼りないかもしれないけど、言ってみるだけいいかもしれないよ?」


 だから、それは何の事を指しているのですか。

 主語を言ってくれなくては伝わらない事だってあるんです。大体、私は人の嘘とかも見抜けないくらい心情とかを読み解くのは不得意なんだから、そこら辺を考慮して――


 「・・・・・ぅ・・」


 ――考慮して、


 「・・・うううううぅぅぅぅぅぅ・・・っ!」


 考慮して、考えて、かんがえて、考えて。


 「何で私だったの・・・っ!」


 緩んだ琴線は戻ることなく、はち切れるようにして――。

 もう、留まることを忘れた水源が岸を乗り越え、決壊はあっけなく訪れた。


 「私、なんにも悪いことなんかしてない・・・!」


 「もっと他に居たでしょ!?」


 「世の中さがせばもっと魔法使いに相応しい奴とかいくらでも!」


 「起きたら魔法使いでした、とか・・・ふざけてる!」


 「いつバレるか怖かった・・・!」


 「わたしを否定しないでよ!」


 「わたしに構わないでよ・・・っ」


 「・・・・何でわたしだったのよ・・!」


 それはたった一か月。

 それでもカザリにとっては気の休まる時のない、地獄を歩くような日々だった。

 ただの一遍も、掛け値なしに言える。

 あの時、目がくらむような朝日が昇った日。

 その時から今、この瞬間まで、カザリは内と外からの害意に怯えて、あるいは実際に刺殺されて過ごしてきた。


 「こころが痛かった・・・人の心が怖かった!」


 だから、ちょっとでもカザリを知る者がいない場所へと目指して彷徨った。


 「嘘を付かないでよ! 助けてくれるんじゃなかったの!?」


 怖かったから、縋りつきたかった。だから、見透かされて、弱いところを利用されて捕まった。


 「なんにも考えたくなかった・・・・っ!」


 それ以上、悪意に触れていたくなかった。

 他人の腹からこぼれる、腐臭とにちゃつく粘液みたいな悪意に。

 何より、自分の内側から無制限に表れる悪意に。

 

 「こわくて、こわくて、こわくて、こわくて、こわくて!」


 誰かの笑顔が、投げかけられる挨拶が、無遠慮な視線が、毎夜見る夢が、、触れる手のひらが、意味を持つヒトの声が。


 「うん」


 短いのに温かい音。

 気づけばまた、あの優しい微笑と目が合っていた。


 「・・・・私は死ななきゃいけなかった」


 「・・・うん」


 「・・・・でも・・死にたくなかった」


 「うん」


 「・・・・・森で助けようとしてくれたのに、石を投げてごめんなさい・・」


 「うん」


 「・・・・・・・・謝ろうとしなくて・・・・ごめんさない」


 「・・・うん」


 「・・・無知でごめんなさい・・・・意味わかんなくてごめんさない」


 「うん」


 それから、それから。


 「助けてくれてっ・・・ありがとうぅぅ・・・・っ!」


 最後の最後、涙で濡れすぎた顔で言う事が出来た。


 「・・・・はい」


 顔と同じくらいぐしゃぐしゃの感情で、浮かんだ言葉だけを形にする。

 理性の伴わない子供っぽい感情を振るうだけ振るわせて――その受け皿たるアレンは、それでも笑みは絶やさずに、短くカザリを受け入れた。

 

 かくして、逃げるがどうとか、居るべきじゃない云々は頓挫し、カザリ・キリシアは泣き崩れた。

 でも、その、多分・・・、と。

 カザリは、自分が謝りたかったのではなくお礼をいいたかったのだと、今になって自覚したのであった。


                    ▽▽▽


 「はぁー・・・・」


 木々の隙間、二人がいる場所よりもずっと暗い帳の奥。

 一部始終を覗いていた何者かは心底と、もいっこ心底を付け足した安堵を吐いた。


 「いやー・・・冷や冷やした・・」


 らしくもなく走り回った代償で未だに呼吸は乱れて、しかし見つかる訳にはいかないと必死で呼吸を落ち着かせる。

 意識して肺を動かないようにと勤め、その結果として不審者っぽく肩を震わせる何某は、何も伝わない冷たい頬を静かに震わせて、それでも影から見つめることを止めなかった。


 『と、取りあえずは・・・ここは冷えるから、ね?』


 『はい・・・はい・・っ』


 「誘い慣れてないのバレバレだなあいつ・・・」


 何やらダメ出しもしつつ、視線の先にいる二人がぎこちないながらも歩き去っていくのを見守って、


 「・・・・・はぁ・・」


 もひとつ溜息。

 

 「ちゃんと・・・帰ってくれたな」


 それでようやく肩の力を抜いた。


 「はぁ・・・ふー・・・」


 ダメ出し追加の溜息。

 ついでにしっかりと肺一杯に空気を吸い込んで、呼吸が落ち着いたところで寄りかかっていた幹から体を離そうとして、


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」


 相当焦っていたからか、体には思うように力が入らずまた体重を木の幹に預けるのであった。


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」


 いやーしかし不思議なこともあるもんだ、と。何某とは()()()()は思う。


 (いつもの彼なら、あーいう如何にもな青少年、少女のための青春劇的な出来事には『ぶち壊してやるぜ』みたいなノリで突撃をかましていくというのに)


 彼らしくない、と。誰かは首を傾げた。


 (・・・あぁ、もしかして)


 これは伏線なのかもしれない・・・!? 、と。


 (そう! これは今後の物語に関わってくる伏線! 娘と同い年の少女、危険な森から連れ帰って始まりはお互いに最悪の印象だった)


 ところがどっこい、と。


 (片や憎き魔法使いの一人、片や出自不明の新人魔法使いちゃん! 必然、ともに行動していく時間が増えて・・・それで男の方がいつぞやの()()と姿を重ねる訳だ)


 しかーし! と。


 (男がその感情に気づく前に、もう一人の青年と彼女はいい仲になっちゃう! 嫉妬に狂い、汚されることを知らない無垢な恋心・・・それを年の差なんて考えないエゴでもって、そりゃもう()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なラブロマンスが――)


 「・・・これで、第一工程」


 ま、そんなものありはしないんだけどね?

お久しぶりです。

またこんな感じ、です。


・・・大丈夫ですかね、これ。

ちゃんと整合性とれてるのか判断が出来なくなってきました・・・。ふふふ。


まぁ・・・兎も角は。

またよろしくお願いします。


追記。

やっとこさこれで完成(?)です。

・・・これでいいはず。多分。


えっと、では。

よろしくお願いします。

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