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まだ、明日になる前に  作者: 桃柿モノ木
14/50

訪問者

 「失礼します」


 そう言って入室してきたのはユシィナ・エプソン。

 この灯定館にてレノと同じく村で起こった様々な雑事を収集して、解決策を用意しては実施、監督に加えて収拾を報告書として残すことを仕事としている、何でも屋の従業員、その二である。

 

 「レノさん、少々よろしいでしょうか?」


 神経質そうな眼鏡、折り目正しく支給品のシャツを着こなして、エリィナ村の主婦層が『ちょっとくらい(うち)のも見習ってくれないかしら・・・』と評する丁寧な口調でもって話しかけてくるユシィナ。

 その姿からも内面の生真面目さを存分に発露し、こちらも同様に分厚い紙束を抱えて待つ青年をしり目に、

 

 「どうした? 厄介事か?」


 レノはほぼ反射的に、ユシィナがいかな難問を持ち込んできたのかと察して待ち構えていた。――主に事態収拾を諦めて、事後処理で誤魔化す算段を決めるという後ろ向きの姿勢で。


 「・・・・何もそんなに警戒しなくてもいいじゃないですか」


 「・・・いや、だってお前。 お前がこの部屋に持ち込むものって基本的に一人で処理しきれなくなった案件とか、頭の痛くなる問題ばっかりじゃねぇか」


 そこまで酷くはないでしょう・・・、と納得いかないといった顔をするユシィナに、しかしレノはにべもなく「いや」と一言。


 「北側の壁が一斉に壊れた時とか、擁白館の食物全滅事件とか、ムベムベが一斉に村の外へ逃走を図った事件とか・・・・」


 どれも村人総出で対処しなければならなくなった出来事ばかりで、事が起きて既に数年が経過してものもある中で、住民から『未だに夢に見る・・・』とレノが相談を受ける秀逸な事件だ。

 正直、レノとしても夢に出てくるほどではないにしろ好んで思い出したいとは思えない出来事である。


 「・・・・挙げればまだあるぞ」


 ユシィナに責められるべき失態はない。

 ただ、事の発端がすべて彼からの報告から始まっているというのはレノにとっては何とも言い難い、古傷が開いたような鈍い痛みを想起させるのだ。

 八つ当たり半分、抗議が半分で応じてしまう。


 「・・・・いえ、もう充分です」


 その返答で言わずとも察したのか、ユシィナはそれ以上の言及を避けるように両手を挙げて降参を選んだ。

 そして、「んんっ」と仕切り直す咳を一つ挟んで、「それで」と。


 「先生、鎌を掛けると言われていましたが成果はどうだったんですか?」


 茶化すレノとは正反対に、まっすぐ一直線に執務室に訪れた理由である問をレノに投げかけた。


 「・・・・。」

 

 まるっきり主語が定まらない、意味不明な問いかけ。

 無駄を極力省いた、と言うならば聞こえはいいだろうが、聞く人によれば何を意図した問であるかも分からないユシィナの悪癖を多分に含んだ言動に、レノは戸惑うことなく意図をくみ取り口元を歪めた。

 ついでに額に皺も寄せるおまけ付きで。


 「・・・・・・結果は十分に知ってるはずだろ」


 「いえ、あくまで自分が又聞きした程度の話ですし、細部で先生が主張することが違ってきているものと判断しての事です。 やはり直接、当事者に聞かなければ意味はないでしょう?」


 結果は知ってる、でもそれはそれで()()()()()()()()()()()()()、と。

 あまりに慈悲深い本音が見え隠れして、レノは真面目と評されるユシィナの評価を改める必要に駆られた。

 これでは真面目というよりも冷酷と言う方が的確なのではなかろうか。

 

 「・・・・はぁ」


 溜息。

 幼い頃には『先生、先生』と後ろを付いてきた少年の面影がなくなっていくのに、頼もしいやら、寂しいやら複雑な感情になるレノだった。

 

 「率直に言って、カザリ・キリシアが第三者と結託して侵入を試みた魔法使いだとは考えにくい」


 「・・・考えにくい、ですか」


 求めた答えが私見や曖昧さを含むものであったからだろう。

 ユシィナが如何にも納得いかないといった風に呟く。それに「お前も分かってるだろうが」と前置きをしてレノが続ける。


 「第三者の介入のあるなしは、現状では確かめようがない。 そもそも裏に魔法使いがいるなら記憶の改ざんくらいの処置は施してるはずだしな」


 「・・・改ざん云々は分かりかねますが。 確かにどう尋問を駆使したところで明らかに出来るものではないとは分かります。 魔法について知識はないですが、()()()()()()とは思いますから」


 「まぁ、何の脈絡もなくこの森に表れたんだからな。 それ自体は偶然であると考えるのが自然だろ」


 何しろ、と。

 無意識的にレノが窓の外を見やる。

 視線の先には森に生い茂る木の一本、その枝に止まる小鳥だ。

 何をするでもなく、ちちち、とそれらしく鳴いて、くちばしを器用に使って羽を整える姿はどこの世界にも有り触れたもので、今更何らかの感傷を持つ光景ではない。

 が、レノはそれを注視し―――小鳥の体がふらっと揺れたかと思うと、引き寄せられるように地面に落っこちていったのを見た。

 火定館の建物からではそれ以上確認のしようはない。

 しかし、もし落下した近くに行ったならば、小鳥の体から黒々とした牙が突き出て、中に巣くっていたナニカが出てくるのを見ることが出来るはずだ。

 そんな確かめようもない、自明な末路を見届けてレノは事実を口にする。


 「このケルマ大森林は魔法使いであっても迂闊なことをすればすぐに命を落としかねない場所だ。 滑落した現場近くに居たことも含めて、馬車に乗車していたんだろうよ」


 「そのことは確かめられたんですか?」


 あぁ、とレノは視線を戻して、


 「宴会だーってはしゃぎ始める前に一通り聞き出した。 真偽はさておいて、魔法使いにいつの間にか成っていて、村に居れなくなったから隣国のリュメインに逃げる途中だったんだと」


 「・・・旧街道ですか。 確かに密入国するというのであればあの道しかないですけど」


 「筋は通ってる、一応はだが」


 そう言って肩に圧し掛かる重みから逃れるように、ぐっと背を反らして伸びをした。

 

 「そんで、根拠だったか」


 「はい・・・考えにくいと言われた理由はなんでしょうか?」


 伸びたままに情けない声のレノ、それとは対照的に真面目な声でユシィナは応じて。

 お前も知ってることだ、と。

 レノが言った。


 「あいつの行動そのもの・・・・村での行動が丸っきり魔法使いとしてのものではない、それが根拠だ」


 「・・・えっと」


 まぁ当然として戸惑った声で、


 「・・・・それは前にも言ってませんでしたか?」


 疑問をぶつけてくるユシィナである。

 しかし、


 「ふっ・・・ユシィナよ、お前も分かってないな」


 何やら達観した風のレノが、一体どこの立場から言ったのもか不明の言動で笑うのであった。


 「・・・では、先生には何が見えているというのですか?」


 これには流石の真面目青年も声に若干の険を覗かせて聞き返し、その声に満足したようにレノは更に笑みを深めて、


 「・・・・・・・・・・・・・・取り入ろうとする奴が・・・人を壁にめり込ませる訳ないだろ」


 全てを諦めように、小さく呟いた。


 「・・・・・・・・。」


 「・・・・・・・・。」


 余談ではあるが、昨夜レノはカザリとの口論の末、大岩を持ち上げられる腕力をこれでもかと言わんばかりに行使され、民家の壁にめり込んで動けなくなっている。

 少女の一撃とは思えない威力を食らったレノは当然として気を失い、森からコツコツと運んできた木材で作り上げた家壁に数センチも埋め込まれびっくりオブジェに早変わり。

 その周りで事を見ていた聴衆(ギャラリー)たちは「あらー・・大変」と、心配してるのが壁なのかレノの身なのか分からない驚き方をして。

 最後にめり込ませた本人が「あ・・・・」と茫然自失と固まってしまったらしい。

 その後に、慌てるカザリを宥めつつ「どうするのこれ?」と話し合いが持たれたとの事であるが、結果はレノがめり込んだまま朝を迎えたというだけで語るまでもないだろう。


 「先生は・・・・このままでいいか。 風邪引かないしね、この人」


 「それより速攻で後始末しなきゃ」


 「えー・・・これ今から片付けるの?」


 「当たり前でしょー?」


 「ほらほら、さっさと動くよ。 明日の仕事にも響いてくるんだから」


 「助け出そうにも男連中がこの有様じゃむりだしねー」


 こんな会話があったかは定かではないが、再現するならばきっとこんな感じになるはずだ。

 かくして、レノ・クラフトは朝焼けの日と打ち据えられたような痛みで目を覚ますことになった。

 そのあんまりな結末に誰もが涙を禁じ得ないはずだ。

 ・・・・・まぁ、爆笑の末に、なんて枕言葉が付属するが。


 「・・・・とまぁ、そんなんでカザリ・キリシアが間者だっていうのは薄い線だろう、と」


 「・・・・・えぇ、そうかも・・・ですね」


 詰まる所、レノが語らんとした事は、誤解を招いてしまった森での恐慌は仕方ない出来事であるにしろ、事情を共有しあまつさえ協力を図ると約束した相手をこれでもかと痛めつけるなどは通常考えられない愚行であるだろう、と。

 まぁ、それは置いといて少しくらいは心配してくれてもいいんじゃないか?、と。

 苦楽を共にしてきた経験を生かしてレノの真意を掘り起こし、ついでに知る必要のなかった傷跡(トラウマ)まで突き出してしまい、後悔に打ちひしがれるユシィナであった。


 「・・・・。」


 「・・・・。」


 そしてまた沈黙。

 それでこの話は終わりとなった。


 「・・・・えーっと・・先生」


 「・・・・なんだねー・・・・・?」


 見事に地雷っぽいものを踏み抜いてしまったユシィナは気まずく控えめにレノに呼びかけ、生気のない声でレノが答える。


 「・・・実はですね。 食堂でミアさんから軽食とお茶を貰いまして」


 「・・・ほう」


 「よければ休憩にしませんか、と・・・」


 部屋に訪れたのはそうした背景があっての事でもあったらしい。

 恐らくは、食堂で何も食べずに消えたことに気づかれたのだろう。挙げられたミアの名前に、流石だな、と感心して、


 「あぁ、そういうことなら少し休もうか。 ついでに詰めておきたい案件もあるしな」


 「・・・そうですか。 それなら下の部屋に準備してるので」


 「おう」


 先ほどのやり取りは目をつむって、それでいてこれ以上の討論は意味をなさないと悟って、二人は部屋を移動することにし、


 「先生っ・・・!」


 ばん!、と。

 遠慮なくレノの執務室の戸を開け放つ影が一つ。

 

 「カザリさんがっ!」


 ―――凶兆が舞い込むのである。

お久しぶりです。


PCのハードが壊れる。

某月のゲームが発売される。

色々と事情があって更新できませんでしたがやっと出せました(本当にすいません・・・)


まぁ、いつものんびり投稿ということで。


前回にも書いた気がしますが、更新頻度を上げたいです・・・はい。


それではまたよろしくお願いします。

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