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まだ、明日になる前に  作者: 桃柿モノ木
12/50

午後の時

 エリィナ村の西南。

 錬樹館と呼ばれた製鉄加工の工場から反対側はエリィナ村で唯一の耕作地が広がっている。

 村でも居住区を除いて最も広い敷地面積を誇る土地は、しかしその全容が直視できない仕様になっていた。

 耕作地として大きく開けた土地があるというのに、そこには耕された田畑は存在せず、代わりに奇妙な白い繭が横たわっていた。

 巨大な円柱を縦に両断したかが如きその白繭は、高さが人の身長を優に超えて、長さは人家の倍に迫る程である。それが所狭しと三十以上、土地を耕すでもなく人の行きかう隙間すら間引いて立っていた。

 レノ曰く、『ハウス』もしくは『コロニー』と名付けられた建物とも言うべきか分からない代物は、先に触れた珀鉄樹脂を用いて作られている。

 樹脂を急速に冷やし、二日寝かせる事でガラスや鉄とはまた違う、繊維質の性質を持つようになり、それを『カタルナの耽溺』に見られる枯れ木から採取した樹液、皮弛(ひし)食草の葉を煮詰めて濾した液を合わせて糸状にしていく。更にそれを織物みたく布に仕上げることで、ドーム状の『ハウス』が出来上がってるのだ。

 その朝霧が煙るかのような色の繭が、エリィナ村の食料事情を一挙に担う施設、擁白館である。


                    ▽▽▽


 既視感(デジャビュ)、といったものがある。

 それはたしかに初めて体感する事柄をまるで以前にどこかで経験したかのように錯覚してしまう現象である。

 その現象が起きるとされるのは、既視感を感じた状況に似た出来事が日常に溶け込んでいるとか。

 景色、人との会話などが記憶を想起させて、『あれ、知ってる?』と勘違いさせるだとかである。

 そのどれもがあくまで言われている程度の信用しかなく、事実などは分かったものでは無かったりするのだが、兎も角。


 既視感、といったものがある。


 それは初めて体感する事を、既に経験したものであると思い込んでしまう錯覚である。

 であれば、と。

 カザリ・キリシアは愚考する。


 (・・・・これって既視感というヤツなのでは?)


 日が高く頂点に上る、早めの昼食を終えた午後。

 いざ、仕事である、と腕まくりをして臨む玄人どもに混じってエリィナ村の道を歩くこと数分。レイラによって連れられて、村の外れにある耕作地区に来たまではよかった。

 僅かな時間であってもレイラとあれやこれやと気を遣わずに話が出来たのは、カザリにとっては正しく夢心地寸前といっても過言ではないほどに幸せであったのだから。


 『それじゃ、まずはここに入って着替えようか』


 ん?、と思ったのはこの言葉からであった。

 あれー? どっかで聞いたことのある台詞(セリフ)だなぁ?、と。

 首を傾げてみる事で零れたのか、答えにはすぐに思い至る事が出来た。

 

 『はいっ! 中に入る前にこれに着替えてね!』


 天真爛漫、しかし働く姿は大人顔負けのキユヒに言われたのだ。

 午前中、錬樹館と呼ばれる製鉄――もとい製()工場では扱う珀鉄樹脂が熱処理によって多様な変化を持つことから、可能な限り熱が逃げないように完全防寒処理が施された建物の中で過ごす事となった。

 その上で身に着けたのが通称、ビア樽こと防熱服であった。

 熱から中身を守るために一切の隙間なく体を覆いつくす形となっている服、というか鎧と言うべき鈍重は、明らかに人間が身に着ける重量を超えてしまっており、着ることが出来たとしてもまともに動くことなどは不可能だと分かりきっている代物だ。ついでに言ううならば、それを着こんだところで劇熱から身を守れたとしても完璧に遮熱できている訳ではない。

 着たら、着た分はやっぱり熱い。

 こまめに休憩を挟みながら作業しなければ、熱と重さで死に至ること請け合いなのである。

 服とは言い難い何かを着て動き回れていたのは間違いなく、気合とかそこら辺の情動的エネルギーを活用していたからに違いないカザリは、何やら背中を這って行く嫌な予感に首を傾げ、


 「レイラさん」


 「なに?」


 「えっと・・・・着替えるって・・・・?」


 「あぁ」


 聞いてみて、後悔した。


 ズドンッ!


 異様な音であった。


 「これこれ、これを着るの」


 「・・・・え?」


 次いで、よく分からない事を言われた。


 「・・・・・・・・え?」


 「・・? 着るんだよ?」


 聞き間違いではなかったらしく、トドメとばかりに繰り返し言われてしまった。


 (・・・・・・これは既視感・・・・じゃないな、多分この後もあるやつだ絶対)


 レイラが手短な棚から取り出したソレは、ぱっと見た感じで全身に装着するようであった。取り出した時の音から察するに、重量であっても折り紙付きであるだろう。


 「・・・・・・。」


 ぐっと持ち上げ、案の定な重みを腕に任しつつ、恐らくは頭頂部に当たる部位を見てみる。


 「・・・・・・・・・・・。」


 綺麗に収納されていた中から出てきたのは、目の部分に珀鉄樹脂のガラスを使い、口元にはゴツゴツとした覆いのような・・・・マスク、のようなものが取り付けられていた。

 そして、何より注目したいのが、そのマスクの内側にに伸びている―――どうも口に咥えて使用するらしい形状の、なんか、うねうねとした、芋虫っぽい・・・突起物であった。


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え、むり」


 一体何を間違えたと言うのか。

 午前中はそれこそ今までの経験なんかを総動員して走り回って乗り越えた。

 かなり現実的に死を実感する出来事であったりもしたが、それでもどうにか達成できたのだ。

 

 (魔法使い(わたし)であっても受け入れてもらえるように・・・・)


 すべてはそう、人ではなくなったカザリが村人に受け入れられるようにする為。

 人が生み出したとされる最悪の癌、その魔法を駆使する存在である魔法使いなど殺意は抱けど、好感を持たれることなどはないのだから。

 そりゃぁ確かに、と。

 レイラには姉妹みたいに接してもらえて、髪なんかも結ってもらって、ついでに一緒の仕事場で働けることになって浮かれていたのは事実だ。その道中などは仲良く並び歩いて仕事と関係のない話を延々としていたくらいだ。

 そんでもって『レイラさんと一緒でしょ? どんな事でも掛かって来いよ!』とかバッチリ油断もしていたりしたのだ。

 

 (え・・いや、気持ち悪い・・・・何なのその形は・・・・あり得ない)


 だからこそ、その落差――倫理観を破壊しうる醜悪な形状はカザリの心を抉るには十分なのであった。

 そして、着替えるよ、と渡された何かを手に持ったまま固まっていると後ろから声が聞こえた。


 「カザリ? 着方が分からない?」


 うぐっ、と息が詰まる。

 未だに着替え始めないカザリを不思議に思ってレイラが声を掛けてきた。


 (・・・・まずい)


 もし、今「手伝おうか」などと言われてしまえば断る事なんて出来ない。

 それはつまり、なんとまぁ皮肉なことにカザリの唯一癒しであるレイラの手によって最期を迎えることを意味している。


 (それは・・・あんまりだよ・・・)


 残酷すぎる・・・、と。

 形容しがたき物から目を逸らし、潰れてしまえと恨みを込めて握りしめる。


 「・・・レイラさん」


 少しの躊躇いに後ろ髪を引かれたが、意を決して振り返り、


 「んー? なにー?」


 「――――。」


 しかし、心に決めた決意を伝える前に霧散し、ついには何も言葉に出来ないのであった。


 「・・・? カザリ?」


 そう言って振り返るレイラは正に『着替えるよ』とレイラに伝えた通りの格好をしていた。

 上着として来ていたシャツは脱ぎ払い胸元を覆う下着のみの上半身に、下半身もまた厚手のズボンから用意された鎧モドキに足を入れかけた状態で止まっている。腰を押し出すような姿勢のレイラはあまりに扇情的で、すらっと覗く足は驚くほどに白く目に焼き付くようだ。服の上からでは控えめな主張に収まっていた胸部の膨らみもまた目を引き付けられて離せない。

 二の腕や、鎖骨に掛けて色分けられている日焼けも健康的な美を象徴し、今にも匂い立ちそうな色気にカザリは眩暈を覚えるようであった。


 「・・・おーい」


 解かれた金髪の滑らかに流れる様は、光り輝く金弦のハープを思わせ、今にも優美な音色を奏でてくれるかのようで。


 「・・・・・かーざりー」


 その完璧ともいえる女性的な体のシルエットは同姓であるカザリであってさえも、いけない欲求を喚起させるには十分すぎる魅力であった。


 「・・・・・・・・。」


 ・・・・さらに言うならば、カザリが同姓であると安心しきった故の羞恥が外れた行動は如何せんともし難く理性を揺らがせる。これが異性同士であったならば森でレノ達に発見されたカザリ同様に甲高い声を上げて体を隠し―――いや、寧ろそっちの方も捨てがたい。どうせなら嫌悪感たっぷりの眼差しでもって射殺さんばかりに睨みつけられるのも魅惑的な選択でも・・


 「か、ざ、り!」


 「みゅひぐぃ!」


 と、勝手に自分の世界へとどっぷり浸かっていたカザリは、両頬に掛かった引っ張りによって現実へと戻された。


 「・・・・いい加減、返事をしないかね」


 「しゅ、しゅみまへん・・・」


 ごく自然に距離を詰められてしまったカザリは半ば現実感のないまま謝った。

 それをお気に召さないのか「ん~・・?」とジト目で覗き込むレイラは更に近づいて密着する態勢になって、


 (えちょっと待って近い近いやわらかい待って待って待って!!!??)


 理性を蕩かせるのであった。


 「・・それじゃ、着替えちゃうよ?」


 「は・・・」


 ただ、その一瞬だけは冷静さが戻ったようで、


 「はいぃぃぃぃぃぃ・・・・」


 次の瞬間には取り戻した冷静さを、レイラの体が触れている箇所に神経を集めるために費やして、同様に溶けるのであった。


みっっじかいです。

・・・いつもながらすいません。

これからは短めにまとめつつ、更新スピードを上げたいな・・・とは思っています。


ただ、この体たらく。

まぁ呑気でもいいので頑張っていきます。


それでは、よろしくお願いします。

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