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魔法少女かえで@agent 〜35歳サラリーマンが魔法少女やることになりました〜  作者: そらり@月宮悠人
第二章

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素敵な夜に・前編

「遅くなっちまった!」


 メイプルのサポートもあり、無事にコアを破壊して魔物(ギュネイブ)は浄化できた。コアの損壊率は13%だから報酬も期待できそうだ。

 一方で気を失った陽奈をリネさんのところへ運んだり事後処理部隊を呼んだりしてたら、かなり時間を食ってしまった。

 トイレで変身を解除すると急いで彩希のもとへ戻る。


「お待たせしました!」

「大丈夫ですか? お腹の調子が悪いとか?」

「え? ええ、まあ。でもスッキリしましたので」

「なら、良かったです。――じゃあ次はあたしの仕事部屋行きましょう」


 エレベーターに乗ると、さらに上の階へ行く。エレベーターを降りればそこは別世界のようだった。


「また雰囲気が違うね」

「いいでしょ? ここだけはあたしがデザインしたの」


 廊下の壁はダークブラウンで床は赤い絨毯が敷かれていて、天井近くの間接照明が神秘的な空間を演出していた。


「お客様ですか?」


 奥へ行くと、受付のような部屋に燕尾服を着た長身スマートの執事のような若い男がいた。


「ええ、()()()ね」

「えーと……」

「ああ、紹介するわ。あたしの窓口役を務めてくれてる敷根(しきね)よ」

「初めまして、敷根来馬(くるま)と申します。お見知り置きを」

「どうも、初めまして。樋山楓人と申します」

「樋山様……ああ、彩希お嬢様が推薦された方ですね」


 どうやら彩希が俺を推してくれたというのは本当のようだ。嬉しいような恥ずかしいような……。


「例のプロジェクトの進捗状況がとてもスムーズだと、彩希お嬢様も大変喜ばれておられました」

「そうなんですか?」

「……ただの事実よ」


 なんだか素っ気ないようでいて、照れている……のか?

 なんにせよクライアントに直接褒めてもらえるなんて嬉しい限りだ。


「ところで彩希お嬢様、今夜はエリューリ・ラウスの社長と会食がありますので――」

「今夜はキャンセルしておいて」

「えっ!?」

「承知しました」

「えええっ!?」


 なんか今さらっととんでもない決断しなかったか……?


「ビジネスは即断即決よ」

「いや、それは分かるけど……なんでキャンセルを?」

「もう忘れたの? 今夜はお楽しみがあるって言ったじゃない」

「え……俺のために……?」

「もちろん」


 嬉しいけど、なんだか物凄く申し訳なくなる……。


「ちなみにその、エリュー……リ? というのは?」

「エリューリ・ラウスは、今の若い女性に大変人気のコスメブランドです。この(たび)、彩希お嬢様がプロデュースされるコスメをエリューリ・ラウスと共同開発することになりまして。その打ち合わせを兼ねた会食でございました」

「そんな大事なことを俺のせいで中止させちゃ駄目だろう!?」

「問題ないわ、スケジュールなんていくらでも調整できるから」

「……なんか、本当申し訳ない。敷根さん」

「いえ、お気になさらず。(わたくし)の仕事ですし、もう慣れましたので」


 笑顔でそう言うが、言葉の端からは諦めと苦労が垣間見えたような気がした。即断即決は凄いが、実際に調整するのは敷根さんだもんな。大変そうだ……。


「では、(わたくし)は予定変更の連絡などありますので失礼します」

「ええ、よろしくね」


 スマートな執事が別室へと消えると、「じゃあ、先にフロアへ行ってて。すぐに行くから」と彩希は楽しそうにどこかへ行ってしまった。


*   *   *


 地上100メートルの夜景はまるでどこかの高級バーのようだ。貸し切りではないので他の社員もいる中、彩希が現れた瞬間――その場の時が止まり息を忘れた。

 美しい花柄刺繍が施された薄紫色のパーティードレスに身を包む彩希はまるで妖精のようで、目の前に来るまで金縛りは解けなかった。


「こんばんは、樋山さん」

「――あ、……こんばんは」


 まるで彩希の声が呼び水になったかのように、ようやく声が出た。


「どう?」


 笑顔で小さく首を傾げると、クリスタルのイヤリングが揺れる。果たしてこれは現実なのだろうかと、思わず疑ってしまうほどに現実離れした可愛らしくも美しい少女。ビジネスの時とは打って変わって可憐な乙女だ。


「え……と、……その。か、かわ……いいと思う」


 女子耐性ゼロな俺には眩しすぎて、刺激が強すぎて、やっとの思いで言葉を絞り出す。


「本当?」

「ほほ、本当、本当だって……!!」


 ち、近いっ!!

 一歩近づいて確認してくる彩希からはすごく良い香りがフワッと鼻腔(びくう)に入ってくる。心臓はいつ破裂してもおかしくないくらいバクバクで口はカラカラに乾く。


「……嬉しい」


 誰にも聞こえないような消え入りそうな声で呟くと、「飲みましょう」とカウンターに座る。

 え? もしかしなくても、隣で飲めって!?

 だがしかし、いくら俺でもここまで来て「やっぱ帰ります」はマナー違反だと分かる。こうなったら覚悟を決めて飲むしかない。接待だと思えば行けるはずだ!


「えーと、ビールを――」

「ねぇ、せっかくだからカクテル飲まない?」

「カクテル? そんな洒落たもの飲んだことないな」

「お客様はビールがお好きですか?」


 本部にあるカフェ【シンフォニー】とはまた違った女性バーテンダーがいた。七三分けくらいのビシッとした髪型に淡いうぐいす色のジャケットが印象的な美しい女性(ひと)だ。


「そうですね、普段はビールばかり飲んでます」

「それでしたら、ビールのカクテルをお作りしましょうか」

「そんなのあるんですか?」

「はい。カクテルというのは、お客様の仰るようにオシャレなものというイメージもあります。でも、実はニ種類以上の物を混ぜるだけでカクテルになるんですよ。例えば水割りも立派なカクテルです」

「へぇー、それは知らなかった」

「お嬢様はいかがなさいますか?」

「そうね、この素敵な夜に合わせたものをお願いするわ」

「かしこまりました」


 そんな抽象的な注文でいいのか!?


「そういえば、彩希はまだ未成年じゃ……?」

「ノンアルコールカクテルというのがあるのよ。ビールにもあるでしょ?」

「あー、そういやそんなのあったな。――て、なんでそんなこと知ってるんだ」

「前に花田さんに作って貰ったことがあるのよ。とても美味しかったわ」

「ありがとうございます」

「へぇー……色々あるんだなぁ」

「――お待たせ致しました。ビールと白ワインのカクテル『ビール・スプリッツァー』でございます。お嬢様にはダージリンのシャンパンティーカクテルを」


 彩希がカクテルの入ったグラスを俺の方に向けるので、俺もグラスを持って近づける。


「乾杯」


 カチーン、とキレイな音がして夜は始まった――。



 To be continued→

最後まで読んで頂いてありがとうございます。

応援よろしくお願いします。


最近はアルコールのカクテルを飲んだことがなくて、バーに行きたいなーと思う今日この頃。ちなみにバーテンダーは実在の人物をモデルにしています。いつかお会いしたい方です。

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