路の整理②
「うーん……」
魔力の路を整理しようと意気込んだはいいが、やればやるほど難しい。というのも路は切り貼りができないから、邪魔な路を削除するような手術的な力技ができない。
紫の言ってた『路を一本化することはできません』というのは、こういう意味なんだろう。
「ここをこうして……ここを止めて……んでこっちからこう流して……」
とにかく何回も試行錯誤するしかない。例えるなら迷路を組み替えてゴールまでの最短ルートを模索していく感じだ。マッチ棒を一本だけ動かして別の意味にしろ、的なものにも近いかも知れない。
「これでどうだ?」
赤いラインがスーッと青くなっていき、ゴールである魔法の杖まで辿り着く。ロス率は40.9%と出た。
「ぐぬぬ……40%の壁が……」
『そろそろお昼の時間ですが』
「あ、やべ。もうそんな時間か。……とはいっても食料が……」
『東山さんが買ってきてくださったのでは?』
「え? 食料も?」
言われてダイニングに行くと、そこには冷蔵庫と電子レンジがあった。
「……なんで?」
対面キッチンのテーブルにメモ用紙が置かれている。そこには「ついでだから引っ越し祝い置いとくわ。今度HuGFの皆とパーティしましょう。早く元気になってね」と書かれていて、最後にサインと可愛らしいハートマークが描かれていた。
「なんというサインの無駄遣い……」
東山のサインは印刷物ですら数千円から数万円、ネットオークションならさらに倍以上の値段が付くというのに、まさかの手書きサイン。
「でもこんなメモ用紙あったかな?」
よく見るとメモ用紙というより、薄く花柄のある可愛らしい便箋だった。
「まさかこれ、東山の私物……?」
……もしこれオークションに出したら……。
いや、やらないよ? やらないけどね。
「この冷蔵庫と電子レンジが引っ越し祝い……?」
引っ越し祝いダイナミック過ぎるだろ。いったいどこにそんな金が――そうだった、あの子超人気アイドルだった。これぐらい買える金はあるか。羨ましいぜ……。
明らかに一人暮らし用の大きさじゃない冷蔵庫を開けるとコンビニ弁当とお粥と飲み物と、一週間くらいは余裕で過ごせる食料があった。
「ありがたい。早速頂くか」
念の為にお粥から食べることにした。いきなりガッツリ系弁当食べる病み上がりの女の子なんていないだろうし。
「冷蔵庫もすごいけど、電子レンジもこれ5万くらいするやつじゃないか?」
10万円分(推定)の家電と一週間分の食料か。どうやってお礼返そう……。
とりあえずレンチンしたお粥を頂く。こんなにお粥が美味しいなんて思ったのいつ以来だろうか、あっという間に完食してしまった。
「そういえば魔法少女モードのままだった」
少食なのはそのせいか? それとも食欲はまだ戻ってないのか?
しかしどの道しばらくはこのままでいないと、もしおっさんの状態で東山が来たらアウトだ。かといって人形をベッドに置いとくのも色々とマズい。
つまり小細工や策を弄すると後が大変だし絶対ロクなことにならない。
「さて、続きをやるか」
お粥の容器を洗ってベッドに戻ると、魔法の杖で魔力の路のシミュレーターを起動する。
「そういえば、最初にクイックドロウが成功した時の路ってどれなんだ?」
確かあの時は、なんとなく最短コースだろうと直感したラインに魔力を通したんだよな。
「えーと、確かここからこう来て、ここら辺を通って……」
記憶と感覚を頼りにルートを検証していく。するとあの時はボンヤリと感じていたルートが見えてきた。まだハッキリとは決められないが、ようやく一つの路を確立できそうだ。
「よし……よし、これだ」
シミュレーションを開始すると、今までにないくらいスムーズにラインが青くなっていく。あの時の感覚が脳裏に蘇る。無駄が無い美しくクイックドロウの感覚が――。
ロス率は21.3%という自己ベストを記録した。
「やったー!」
『おめでとうございます』
「よーし、次は20%切りを目指すぞ!」
要領は分かった。俺の場合は感覚で捉えた最短コースをシミュレーターで再現すればいいんだ。
「……これかな?」
別ルートでの最短コースを見つけ、シミュレーターでその感覚を頼りにルートを構築していく。そしてシミュレーションを開始する。
「ロス率……20.7%か、惜しいな!」
その後も何度か同じことを繰り返すが、今度は20%の壁を突破することができない。
「うーん、なんでだ?」
俺のやり方は間違ってないはずだ。実際にシミュレーターだけでルート構築するより感覚で見つけたラインを構築したほうが速い。それはもういくつも証明している。
だがこれ以上先に進むためには、なにかが足りない。あるいは見落としか? とにかくピースが一つ足りないんだ。小さいけど大事な、重要なピースが。
「なんだろうなぁー、分からねー!」
仰向けにベッドに倒れる。今日は一日中ずっと路の整理やってたな。とりあえず目ぼしい路は登録しておいたが……正直試し撃ちしたい。
「近くに魔物いないかなー?」
『現在、近辺では発生していません』
「こういう時に限っていないよな。最近出現頻度高いくせして」
『そうですね、近年でも魔物の発生件数は最多を更新しています』
「なんでだろ? 魔王が本気出したとか?」
『なくはないと思います。魔物には繁殖や分裂機能は無く、魔王が究極魔法の一つである創造魔法で生み出す存在です。なので発生件数が多いということは、それだけ魔王が活発だということになります』
「……前から疑問だったけどさ、魔王ってなにがしたいんだろうな?」
『それについては未だハッキリとしません。調査報告などは機密扱いなのでアクセスできません』
「まあ、そこまでして知りたいわけじゃないけど」
魔王と呼ばれる魔法少女の存在――。
そういえばすっかり忘れてたな。究極魔法なんてものを使えるんだし、恐らく高位なんだろう。
「もしかして……」
ふと思い浮かぶ容疑者。そう考えると確かに怪しいんだが、でも一方で「あの子が? ないない!」と否定する自分もいる。
もし本当に魔王だとしたら、俺にはなにができるんだろうか……。
To be continued→
最後まで読んで頂いてありがとうございます。
応援よろしくお願いします。
引っ越し祝いにまさかの冷蔵庫と電子レンジ。
電子レンジも今は多機能なものがあって、センサーが対象物を見極めてそれぞれに適した温め方をしてくれるものがあるそうです。欲しい……。
あと、冷蔵庫もIoT家電になってて扉を開けなくてもアプリで中身を確認できたり温度管理できたりするそうですよ。扉を開けないで確認できるのはいいですよねー、賞味期限や消費期限を登録しておくと切れる前に通知してくれたり。欲しい……。




