東山の双剣術
魔法少女モードの東山は黒いドレス姿で両手に細身の剣を持っていた。
「かえでさん、大丈夫?」
「ゲホッゲホッ、助かりました……」
「体調が悪いとは聞いていたけど……診てもらったの?」
「はい。……安静にして声を出さないようにと」
「なら早く帰って寝ないと。帰れそう?」
「ゲホッ、少し……休んでからに……します。飛べそうにないので……」
「そう……。じゃあ、すぐ終わらせるから、待ってて」
「すみません……」
離れたところで休憩していると、戦闘が始まった。
そういえば東山が戦ってるところをまだ見たことがない。この前のドラゴン戦では満足に見れなかったからな。
「さて、かえでさんを早く帰してあげないとね」
接近すると双剣を振るう。魔物は器用に魔力の爪で受けるが東山の斬撃に削られていく。
一方、東山はアスファルトやコンクリートを砕くほどの破壊力がある魔物の爪を双剣で受ける。あんな細身の剣でよく折れないな……それだけ上手く受け流しているんだろう。流麗な動きはまるでステージで踊ってるようだ。
「千散華」
双剣に術式が走ると剣がブレたようなボヤけた感じになる。それを振るうと、ガガガ! ギキキィーン! と、ものすごい剣撃の多重奏が聞こえる。魔物への削りも倍以上になった。
「ウグ……! ガッ……アァッ……!」
明らかに苦しむ魔物は後方へ跳んで逃れる。近接は不利だと判断したようだ。
「すごいな……ケホッ、……あんなに強かったのか」
柳のように攻撃を受け流し、烈火の如く攻撃する。攻防一体の双剣術というわけか。ぷに助が一級品と言ってたのも頷ける。
「飛燕――」
別の術式が双剣に走る。ブレが無くなりハッキリと見えた双剣を構えると、交差させながら素早く空を切る。
「双閃!」
見えない刃が飛び、魔物――男の体をXの字に刻む。
「離れれば安全。そう考えてしまうのが罠なのよ」
男は意識を失ったのか、膝をついてそのまま倒れた。だが魔物の気配は残っている。
「かえでさん、まだ動ける?」
「……はい、なんとか」
「そのままじゃ帰っても困るでしょ、そこからピュアラファイ撃って浄化しちゃって」
「いいんですか……?」
「うん。ほら、早く」
魔法の杖を構えようとするが震えて狙いが定まらない。うつ伏せで撃ちたいところだが、それはそれでなんとなく止めたほうがいい気がした。
「メイプル……頼む」
『分かりました。照準はお任せください』
メイプルの言葉を信じてピュアラファイを撃つと、見事に魔物に命中した。
「すごいわ! さすがね、かえでさん」
すると、なにを思ったのか東山は俺の――かえでの体をお姫様抱っこよろしく抱える。
「ひゃ!? ひ、東山さ、ゲホッゲホッ!」
「ほら、大人しくして。家まで送ってあげるから。家はどこ?」
家まで!? まずいな……まだ準備できてないのに……。かといってあのボロアパートに行くわけにはいかないし……。
「……M区の――」
* * *
ボロアパートか準備不十分な新居か、どちらか選ぶとしたら新居しかない。
「さすが三ツ矢学院に通ってるだけはあるわね、いいマンションじゃない」
管理人に事情を話して鍵を開けてもらい、部屋に入る。まだ家具も電化製品も置いてない殺風景な部屋を見た東山は、「なにこれ? 泥棒に盗まれでもした?」と斜め上のコメントをした。
「まだ、引っ越し終わってないんです……ケホッ」
「冷蔵庫も無いじゃない。あるのは……ベッドだけ?」
なにかあった時に床で寝るのは厳しいからと、一応ベッドの手配だけはしておいた。
「とりあえず変身解除して、ベッドに寝なさい」
「はい……」
魔物を浄化してはいるが、東山がいるのでフェイク機能で衣装だけ変更する。
「本当になにもないわねー、買い物行ってくるわ」
「そんな、別に……」
「病人が遠慮するんじゃないの」
遠慮じゃないんだけどなぁ……。
「そういえば薬は?」
「あー、ええと、まだ貰ってなくて……」
「じゃあ代わりに受け取りに行くわ。病院前の薬局でいいんでしょ?」
これはまた困ったな……。俺の名前で受診したから処方箋も俺の名前だ。このままだと盛大にバレてしまう。
「あ、いえ、別の薬局です。ケホッ、あとで届けてくれるそうなので……」
「あらそうなの? じゃあ買い物行ってくるから、待ってて」
「すみません、お願いします……」
参ったな……応援の魔法少女が来るでの間、時間稼ぎするつもりで魔法少女に変身したのが仇になるとは……。
しかしあのまま放っておいたら確実に怪我人が出てたし、下手すれば死者も出かねなかった。俺の判断は間違ってなかったと思いたい。
どちらかというと薬を受け取れてないのが後悔しかない。この姿で行くわけにはいかないし……。
「ハロー、メイプル」
『はい。大丈夫ですか?』
「ああ……一応まだ生きてるよ。ケホッ、……人形の楓人に連絡取れるか?」
『少々お待ち下さい。……繋がりました』
「もしもし」
『こちらスペア楓人。緊急でしょうか?』
スペアっていうの、なんだか嫌だな……。
「今から言う薬局に行って、薬を受け取ってきて欲しい。場所は――」
『――分かりました。いつ頃お届けしますか?』
「なるべく早めで。……そうだ、薬の患者名のとこ偽装しといて、姫嶋かえでに、ゲホッゲホッ! ……書き換えて。それと、東山に出会したら兄とでも言って誤魔化しておいてくれ」
『分かりました』
ふぅ……。これで偽装工作は完璧だろ。
頭痛いし寒気するし節々痛いし……悪化したんじゃないかこれ? あとで天界に労災でも申請するか……。
その後、東山が戻ってきてなにか言ってるようだったが、もう限界だった俺の意識はそこで途切れた――。
To be continued→
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双剣使いというのは何気に初めてです。ちなみに今回はランクAですが上位種ではないので一人でも余裕で勝てました。上位種とそうでないランクAとはけっこう難易度に開きがあるんですね。




