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魔法少女かえで@agent 〜35歳サラリーマンが魔法少女やることになりました〜  作者: そらり@月宮悠人
第二章

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悪夢にうなされて・後編

「どういう意味――!」


 気がつくと、現実世界へ戻っていた。不思議な夢――というより意識だけが別空間にいたような感覚。なにを話していたのかが鮮明に思い出せる。


「天界をあまり信用するな? ……いったい何者なんだあの声は……」


 一つ大きなヒントはあった。魔力の波長という聞き慣れない単語だ。


「ハロー、メイプル」

『ご用ですか?』

「今何時だ?」

『午前1時13分です』

「だいぶ寝たな……。魔力の波長って分かるか?」

『はい。魔力には波長というものがあります。器から湧き出る水の波紋をイメージしてもらうと分かりやすいかと思います』

「あー、なんとなく」

『波長は個々人で異なるので、魔法を使う時には天界の規定波長に合うよう魔法の杖で調整しているんです』

「そんなことしてたのか」

『以前はその調整を手動で行っていたようです』

「え? 昔は魔法の杖なかったのか?」

『はい。魔法の杖がまだない時代は魔法陣を使って魔法を発動していたので、波長調整用の術式を組み込む必要があったんです』

「へー、昔の魔法少女は魔法陣でやってたのか。そういえば確かに魔法使う時に魔法陣って無いな。見たことあるのは術式くらいだし……全部魔法の杖の内部でやってくれてたのか」

『そういうことです』

「あ、でもぷに助が結界を張ってくれた時はあったな。遮音結界も魔法陣が必要だと言ってたような」

『天界の者は魔法の杖を使うことができないので、今でも魔法を発動するには魔法陣を使います』

「それでか。ぷに助も大変なんだな」

『ところでマスター、波長というマニアックな用語はどこから聞いたんですか?』

「うーん、夢の中――かな」

『夢、ですか? 夢とは記憶の整理と聞きますが……』

「俺もよく分からないんだ……風邪で頭が混乱してるのかもな」


 体調が落ち着いてるうちに起きてトイレを済まして下着を着替える。一日中寝てたから喉もカラカラで2リットルのスポーツドリンクをコップで注いで一気に飲む。


「……はぁ、生き返るわ」

『――応援要請を受信しましたが、今回も見送りますか?』

「緊急じゃなきゃ無視していい。俺は寝る」

『分かりました。おやすみなさいマスター』


*   *   *


 けたたましいアラート音で目が覚める。まだ夜が明けてない……夜明け前か?


「なんだ? メイプルか?」

『はい、おやすみのところ申し訳ありません。緊急事態です』

「なにがあった?」

『ランク不明、正体不明の魔物による甚大な被害が出ています。すでに高位(ハイランク)以下の魔法少女に死傷者多数。なおも被害は拡大してます』

「死傷者って……死んだ子がいるのか!?」

『はい。魔法少女全体ですでに100名以上が殺されています』

「そんな……っ!?」

『緊急招集のコールが入ってます』

「行くしかない、だろうな……!」


 起き上がってみると、意外と体が軽い。もう良くなったのか?


「それはそれで助かるか」


 魔法少女に変身すると窓から飛び出す。魔物の場所は、訊かなくても分かった。

 ズシッと重い空気。遠くに見える天変地異の前触れのような赤紫色の雲。そしてなにより、この距離でも魔法の杖が強く反応している。


「まるでこの世の終わりだな……」


 その中心地は、まるでグラウンド・ゼロのようだった。周囲は建物も大地も破壊し尽くされ、何十人もの魔法少女が(たお)れていた。


「……っ!」


 あり得る光景だと、いつも考えには過ぎっていた。しかし実際に()の当たりにすると想像を超える凄惨(せいさん)さに吐き気がする。


「私一人で倒せる相手じゃあないだろうな……でもここまで来たら、腹をくくるしかないか――!」


 目の前にいるその魔物を正面に捉える。思ったより小さい人型の魔物だった。赤い髪に白と黒が入り交じる身体。しかしその両手は真っ赤に染まっていた。


「……アナライズ」


【ERROR】


「え? エラー?」


 こんなことは初めてだ。イクサみたいに無効化じゃなくてエラー? ……そうか、なるほど。だからランク不明で正体不明なのか。


「……」

「ん?」


 試しに全力でピュアラファイを撃とうとして、魔物がなにかを言いたそうにしている様子を見て躊躇(ためら)った。


「……シタ」

「した?」

「ダマシ……タ」

「騙した? なんのことだ」

「アタシ……シンジ……テ、タノニ……」

「誰に騙されたっていうんだ? 魔王か?」

「――カ・エ・デ」


 時が止まった。音も、匂いも、全ての感覚が無くなる。時間にして恐らく一秒も無かっただろうその一瞬は、俺の中でまるで永遠のように思えた。

 そして、時が動き出したと感じた刹那には同時に死が歩み寄る。


「――シネ」


 頑張って会得した短縮技、クイックドロウがここで活きた。わずかコンマ1秒の差が危機を回避する。

 ギリギリのところで魔法(ピュアラファイ)を撃って相手の攻撃を逸らすと、一歩下がって距離を取る。


「――っ! はぁ、はぁ」


 呼吸さえも忘れていた。焼け野原となった赤い空気を吸い込むと胸が痛むような気がした。いや、実際空気は最悪だろう、その空気で肺を痛めたんだ。


「歩夢……なのか?」

「――オワリニ……シヨウ」


 ローレスらしき魔物が右腕を天に向けて上げると、その手のひらに黒い太陽が生成される。


「……どう見ても、やばいよなぁ」


 一つ。たった一つの望みはあった。


徹甲弾(アーマーピアシング)を装填」

《セット完了》


 今の俺に撃てる最大の攻撃はこれしかない。魔力を限界いっぱい注いで相殺する!


「デア・エル・マグナ」

「いっけえええええええええ!!」


 赤い閃光と黒い太陽が衝突する。意外にも力は拮抗していて太陽はまだ落ちない。


「ぐっ……うぅ……!!」


 だがそれは一時的なものだった。徐々に、しかし確実に破滅の足音は近づく。

 出力が足りないのかとも思うが、魔法の杖は限界だ。これ以上は出力が上がらない。


「ちくしょう……! メイプル!」

『――ザザッ……』


 魔法通信が不安定なのかノイズが強すぎてなにも聞こえない。つまりバックアップは期待できない。


「くぅ……!」

「シネ」

「歩夢! 聞こえるかぁ!!」

「――!」


 一瞬、力が緩んだような感触があった。


「……そうか、やっぱり歩夢なのか」

「……」

「すまない歩夢。全部俺のせいだ。俺があの時、勇気を出してちゃんと打ち明けていたら……」

「そうだよ、あんたのせいだ」

「……」

「全部、ぜんぶゼンブ全部みんな! あんたのせいだっ!!」


 歩夢の感情にシンクロするように黒い太陽が爆発する。暗黒が広がり、あらゆるモノが燃やされていく。

 そして世界は破滅を迎えた――。


 

最後まで読んで頂いてありがとうございます。

今日の投稿でちょうど一ヶ月、6月は無事完走できました!


去年は書き溜め失敗しましたが、今回はちゃんと毎日更新が続いてます。これも皆さんからの評価ポイントとブクマ、いいねが励みになったからこそです。本当にありがとうございます!


今回の悪夢は病んでローレスへと堕ちた歩夢。実際に起こり得る大惨事、ifの世界線を悪夢の形で描きました。そしてお気づきかと思いますが「To be continued」は意図的に抜いてます。


下の方にある「ポイントを入れて作者を応援しましょう!」の星を★★★★★にして応援してくださると馬車馬のように執筆します! ブクマもお忘れなく! 


※21時43分 追記

7月1日の更新は夜になります。

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