表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法少女かえで@agent 〜35歳サラリーマンが魔法少女やることになりました〜  作者: そらり@月宮悠人
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

74/259

久しぶりの残業

「先輩、引っ越すって本当ですか?」


 早速聞きつけた新島が訊ねてきた。狭い社内、噂なんてのはあっという間に広まるものだ。まあ事実なんだけど。


「ああ、本当だよ」

「どこですか?」

「M区のセレスティナ浅部(あさぶ)ってマンション」

「M区のマンション!? どどど、どうしたんですか!? 急にそんな高級マンションなんて、宝くじでも当たったんですか!?」


 うん、そういう反応になるよな普通。


「いやいや、宝くじ当たってもそんな高級マンション住まないよ。知り合いがしばらく海外出張することになってさ、その間住まわせてもらうことになったんだ」

「へぇー、もしかしてタダでですか?」

「はは、さすがにそれはないよ。けど今のアパートと同じくらいの家賃でいいっていうからね」

「……そういえばアパート行ったことない」

「ん? なんだ?」

「ああ、いえ! それはすごく好条件ですね」

「そうなんだよ、職場も近くなるからラッキーだ」

「先輩って、最近ついてますよね」

「え?」

「だって、有栖川HD(ホールディングス)の案件は巡り巡って先輩になりましたし、HuGFのプラチナチケットも譲っていただけて、今度は高級マンションじゃないですか。今年はいい年なんじゃないですか?」


 そう言われてみれば、確かにそうかも知れない。魔法少女にしても死にそうなると必ず誰かに助けてもらってるし。――かと言って油断はできないが。

 35年生きてきて、ようやく俺にも春が巡ってきたのか?


「おい、樋山」

「上木さん? なんでしょうか」

「ちょっと来い」


 明らかに褒められる雰囲気じゃない。この会社に10年以上いれば嫌でもこの先の展開が見える。


「……はい」

「先輩……」

「心配するな、ちょっと行ってくる」


 上木について行くと、いつもの会議室へと入る。


「失礼します」

「樋山、これはなんだ?」


 上木がノートPC(パソコン)を開いて見せたのは、俺が今担当してる有栖川のプロジェクトについての中身だった。


「有栖川HD(ホールディングス)に依頼されたシステムで――」

「そんなことは分かっている!!」


 強く鋭い語気で遮ると、「これを見ろ」とプログラムコードの一部を色を変えて分かりやすく示す。


「お前は本気でこのコードのまま進めるつもりか?」

「……っ! まさか!?」


 そこには、本来であればあり得ないコードが書かれていた。当然、そんなものを書いた覚えはないしテストした時にはなんの問題もなかったはずだ。


「あり得ません! 私がテストした時には――」

「あり得ない? ふざけるなよ樋山……ここにこうして書かれてるのが現実だっ!! 俺が見つけてなかったら、このままプロトタイプとして渡っていたんだぞ? そしたらどうなるか、お前でも分かるだろう?」


 上木が怒るのも無理はない。プロトタイプとはいえ、有栖川がこのプログラムを起動したらシステム障害を起こしても不思議はない。

 まさか、上木が仕込んだ? ……いや、流石にそれは無いか。俺を(おとしい)れるためなら課長や他の社員の前で言うはずだ。それにこんなシャレにならないミス、それこそ万が一このまま有栖川に渡ったら会社(うち)が潰れかねない。


「……はい」

「すぐに修正しろ。いいな?」

「分かりました」


 今ここで俺じゃないと抗うのは得策じゃないし意味がない。とにかく早く修正を――


『……まさか、塩谷さんか!?』

『声が大きい。……どうかな、その線が無いとは断言できないが……とにかく妨害がある可能性は高い。気をつけろよ』


 ……まさか、本当に妨害工作が!?

 だとしたら、やはり怪しいのは塩谷さんか。動機は十分だし、そういった嫌がらせは過去何度かあった。今回の有栖川騒動で()()()としても不思議じゃない。

 プログラムコードだけの妨害ならなんとかなる。と高を括っていたが思った以上に狡猾(こうかつ)で上手い。正直、上木が見つけてくれなかったら発見できてたか怪しい。

 ――浮ついた気持ちになって足元を(すく)われてしまったか。


「気合を入れ直さないとな」

「先輩、なにか言われました?」


 開発室に戻ると新島が心配そうに訊ねてきた。


「プログラムコードの中にミスがあったんだ。それの指摘だよ」

「でも、ただならぬ雰囲気でしたよ?」

「まあ、けっこうやらかしレベルのミスだったからな」

「えっ? そんなすごいミスありましたか?」

「とりあえず修正は俺がやるから、新島と皆はいつも通り仕事してくれ」

「……はい、分かりました」


 プロジェクトメンバーを守るのが俺の仕事。――だったよな、雷都。


*   *   *


 プログラムの修正が思ってたより長引いてしまい、久しぶりの残業になってしまった。

 最近は残業してはいけないといった空気感があるので残るのは難しいかと思ったら、上木が口利きをしてくれたようで特別に許可された。


「……あ、そういえば東山に連絡しとかないと」


 LINEを送ろうとして、どう言い訳しようか考える。本当ならシンプルに残業してるから遅れると言えばいいんだが、まさか14歳の女の子がそんなこと言うわけにはいかない。


「どうすっかな……」


 散々悩みに悩んで考えた言い訳が「体調が悪いので今日はお休みしたい」という無難でベターなものだった。まあ下手に凝った言い訳して疑われるよりはマシだろう。


「……お、返信早いな」


 そこには「お大事にね、ちゃんと休んで早く治すのよ」という返事とスタジオで撮影したメンバー全員の集合写真が添付されていた。

 すごく嬉しい反面、なんだかものすごく申し訳ない気持ちになる。本当はただの残業なのに……。


「さて、頑張って終わらせるか」


 いつもは缶コーヒー飲まないとスイッチ入らないのに、今日は気分軽く残業ができる。これがアイドルの力なんだろうか? ……いや、HuGFの皆のおかげかな。


 ――ところが、その翌日に言い訳が現実になってしまう。


To be continued→

最後まで読んで頂いてありがとうございます。

応援よろしくお願いします。


まさかの妨害工作により残業を余儀なくされた楓人。それにしても本当に久しぶりです。ていうかブラック企業戦士が売り(?)なのにホワイト化してて大丈夫なのか……??


お陰さまで、この頃は日間ランキングに何回か浮上してます。日間では浮き沈み激しいですが週間ランキングにはしぶとく居座ってます。


20万文字を超えてランキングに入ることができるようになったのは、本当に嬉しいです。読者の皆さんに支えられてるなぁ……と実感します。完結まで走り続けますので、よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↑にある☆を★★★★★にして応援していただけると嬉しいです。無限エンジンの燃料になります。 script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ