月見里との一夜・後編
「月見里さんも優海さんに教わったんですか?」
「そうですよ」
おいおい、優海さんとんでもねーなあの人。教えた人が漏れなく昇格してるって藍音の話はどうやら本当のようだ。
「私の場合は技能試験を待たずに昇格してしまいましたが、基礎と基本は間違いなく優海さんの指導のおかげです」
「すごく分かりやすいですよね、優海さんの指導」
「ということは、姫嶋さんは私の妹弟子ということになりますね」
「そう……なりますね、恐縮です」
「葉道さんも昇格を目指しているんですか?」
「はい、一応は」
「技能試験の成績はどうですか?」
「今のところは一勝一敗ってとこです」
「ということは、年内に2連勝ですか」
注文した飲み物が届いたので一口飲むと、爽やかなハーブの香りがふわっと広がる。
「美味しいですねこれ」
「くぅーっ! やっぱりコーラは最高だなぁ!」
「歩夢そんなにコーラ好きなんだ?」
「うん、大好き! 冷蔵庫に常にストックしてあるし」
「すごいね……糖分大丈夫?」
「家にあるのはゼロカロリーのだから大丈夫だよ。それに何杯も飲むわけじゃないし」
「月見里さんのは……?」
「私のはコーヒーをベースにしたオリジナルのノンアルコールカクテルです」
「うわっ、オシャレー! それも無料なんですか?」
「もちろん無料ですよ。私のは名前からイメージしたものらしいです」
なるほど、恐らくコーヒーは千夜から連想した夜をイメージしてて、上に乗ってる生クリームは月のイメージかな?
「いいなー、アタシもカクテル作って欲しい」
「じゃあ、頑張って昇格しないとね」
「かえでもね!」
「あはは……。そうだ、月見里さんはアノバリウスをどうやって倒したんですか?」
「どうやって?」
「魔力が無効化される攻撃があるので、どう対策されたのかなと思って」
「かえで、アノバリウスと戦ったの?」
「うん、ちょっと応援頼まれてね」
「単純なことです。情報は貰っていたので、角を破壊してそのまま両断しました」
「そんなあっさり……ということは、月見里さんが到着した時には無効化フィールドは消滅していたんですか?」
「そうだと思いますよ、攻撃が派手なだけで影響はありませんでしたから」
「全体攻撃は確かに派手でしたね……ちなみになんですけど、アーガネイルは手強かったですか?」
「それについては、語るより記録を見てもらったほうが早いと思います」
「え? 記録って見れるんですか?」
「魔法少女協会の端末から見ることができますよ。――他に質問はありますか? せっかくですから答えられる範囲でならお答えしますよ」
「じゃあアタシから一つ。殺人剣の使い手っていうのは本当?」
「殺人剣!?」
月見里が答える前に驚いてしまった。
「そういう噂があるんだよ」
「あ、そうなの……」
「あながち間違いではありませんよ」
「えっ!? 本当なんですか?」
「厳密に言うなら、月見里流剣術五宝天真です。敵を殺すための剣術なので殺人剣でも語弊はありません」
「じゃあ、月見里さんがその剣術の継承者ということですか?」
「はい。第十三代目です」
「そんなに古くからの剣術なんですね。でも殺人剣である剣術が現代まで残ってるなんてすごいですね」
「今は殺人剣としては伝わっていませんよ」
「え? どういうことですか?」
「五宝は“護法”、天真は“転身”、月見里流護法転身という護身術として伝わっています」
「それは……現代には需要がないから、ですか?」
「そうですね。時代と共に必要とされる形に変わっていったわけです」
「じゃあ、月見里さんはどうやって、誰から学んだんですか?」
「誰もいませんよ。私は倉庫に眠っていた開祖が残した書物から会得しただけです」
「え……自分一人で会得しちゃったんですか!?」
大昔の剣術を書物だけで一人で会得して、さらに魔法少女として特例昇格で15歳にして100キロメートルエリア担当になった?
本物の天才だ……。
「ですから、皆さんと比べて特例昇格がしやすかったのはありますね。戦い方を模索するところからスタートする皆さんとは違って、優海さんに基礎と基本を教えてもらってからは剣術に応用するだけでしたので」
なるほどな、五宝天真という剣術を会得した月見里は、意図せず魔法少女としてのスタートダッシュを切れたのか。
「他に無ければ、そろそろ解散しようと思いますが」
「じゃあ最後に一つ、連絡先交換してもいいですか?」
「構いませんよ」
「じゃあ、アタシも」
LINEを交換して飲み物を飲み終えると、マスターの長谷川さんにお礼を言ってカフェを後にする。
「では、私はこれで」
「ありがとうございました」
「……かえですごいな」
「え? なにが?」
「月見里さんに連絡先交換してもらうなんて、ビックリしたよ。アタシもついでに交換しちゃったけど」
「どうして?」
「月見里さんはあまり人に関心が無いことでも有名なんだよ。魔法通信も普段は閉じてるらしいし」
「えっ、魔法通信って回線閉じれるの?」
「うん。まあ普通はやらないけどね」
「そうなんだ……」
たまたま、なんだろうか? それとも気に入ってくれたのか?
そういえば紫と連絡先交換した時もそうだったけど、俺の方からこんなに積極的に言えるなんて信じられないな。普段は話しかけることすらハードル高いのに。
これも魔法少女になった副作用みたいなものか?
* * *
「珍しいな、月見里」
千夜がロビーに下りると、顔なじみの魔法少女がそこにいた。
「お前が他の魔法少女と一緒にカフェなんて。それも新人二人と」
「別に、スレイプニルからの紹介だったので」
「スレイプニルが? へー、珍しいこともあるもんだ。それで、どうだった?」
「一人は素質はありそうでしたよ」
「どっちさ?」
「『 』のほう」
「ふーん? あたしにはまだなにも感じないけどね」
「まだ力は奥底に眠ってます。いつ目覚めるかは分かりませんが、近いうちに高位に来るのかも知れません」
「――てことは、そろそろ落ちる頃合いか?」
「誰かが死なない限りは」
「高位の特権については話したのか?」
「話しましたよ、とりあえずカフェについては。福利厚生の一環として」
「いいね。楽しみにしようじゃないか、どこまでやれるのか」
二人は本部を後にして夜のスクランブル交差点へと出ていく。
「魔法少女は、高位からが大変ですよ」
誰に話しかけるでもなく夜闇に呟いて、月見里は家路につく――。
To be continued→
最後まで読んで頂いてありがとうございます。
応援よろしくお願いします。
最後に謎の新キャラが登場です。顔なじみというだけで外見情報は非公開です。そして数々の意味深な発言はどういうことなのか……。
今後もお楽しみに。




