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魔法少女かえで@agent 〜35歳サラリーマンが魔法少女やることになりました〜  作者: そらり@月宮悠人
第二章

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有栖川とランチタイム

 ――日曜日。

 待ちに待った休みの日! ……ではなく、ついにやってきた重要任務。有栖川HD(ホールディングス)の孫娘である有栖川(ありすがわ)彩希(さき)との会談(デート)だ。

 そしてパートナーはもちろん――


「お待たせしました。初めまして、ですね?」

「おはよう。()()姿()は初めてだね」


 S区にある有名な待ち合わせ場所。犬の銅像近くで待ち合わせした俺と(ゆかり)は午前10時30分に合流した。彩希との待ち合わせ時間は11時だが、余裕をもって30分前にした。

 待ち合わせのための目印は魔法の杖。魔法少女以外には見えない上に位置情報共有(ロケーション・シェア)で位置情報が分かるのでキョロキョロと探す必要もないという、最強の待ち合わせアイテムだ。


「休日でも着物なんだね」

「はい。慣れてるもので」

「似合ってて良いと思うよ」

「そう……ですか?」

「うん。それと、このあと名前出すから先に自己紹介しとくね、俺は樋山(ひやま)楓人(あきと)っていいます。楓人はかえでにひとって書く」

「樋山楓人さん……かえでさん?」

「ああ……まあ、そういうことだ」

「なるほど、では楓人さんとお呼びしますね」

「じゃあ俺は――」

(ゆかり)で構いませんよ」

「お、……うん。分かった」


 なんだか紫って本当に積極的だなぁ。見た感じ大人しそうな子なのに。それとも今どきの子はそういうものなのか?


「じゃあ、待ち合わせのカフェに行くか」


 待ち合わせ場所からそう遠くないオープンカフェテラスへと移動する。

 白を基調としたお洒落なカフェだ。普段こういった場所には縁のない俺は若干の緊張感でソワソワしてしまう。予約したテラス席には白いパラソルが立っていて夏の日差しを遮ってくれる。


「まったく、すごい店を指定するな……さすが有栖川か」

「……? 楓人さんはこういったお店は来ないんですか?」

「俺が行く店はスーパーかコンビニくらいだよ。独身の30代なんてそんなもんさ」

「そうなんですか」


 やや自虐的な言い方ではあるが、間違ってはいないはずだ。いや、そう思いたい。


「楓人さんは本当に男の人だったんですね」

「はは、信じられないだろ? 俺も未だに信じられないよ」

「魔法少女の器は、女性にしか存在しないはずなんですけどね……興味深いです」


 ああ、なるほど。合点がいった。

 俺の器――というより例外的な現象について興味があるのか。それで俺に対してこんなに積極的だったのか。


「それはぷに助も散々言ってたよ。魔法の杖が壊れた説とか、実は俺が魔法少女の生まれ変わりなんじゃないかっていうトンデモ説もあったな」

「結局のところは、原因不明?」

「みたいだな。今も一応調査はしてるらしいが……あまり期待はしてない」

「そうなんですか。……少し、いいですか?」

「え?」


 紫はスーツの上から俺の胸に右手を当てる。白いし細いし、歩夢よりさらにもっと繊細な感じがする。


「紫……?」

「……」


 なにやら目を閉じて意識集中(コンセントレーション)してる様子。でも魔法少女モードでもないのに、なにか分かるのか?


「……なるほど」

「なにか分かったのか?」

「いえ、なにも。確かにスレイプニルも苦戦するはずですね」

「紫は……魔法少女モードじゃなくても、なんかそういった能力的なのがあるのか?」

「ええ、まあ。大したことはありませんけど」


 なんかだか不思議な子だなと思ってはいたが、まさか本当に不思議な力を持っているとは。


「楓人さんは、気にしないんですね?」

「なにが?」

「私が変な力を持っていても」

「いや、まあ……魔法少女なんてものが実在することを思うと、霊能力やら超能力やらがあったところで驚きもしないというか」

「ふふ、そうですね。私たちはファンタジーの世界を見てますから」


 それから程なくして、その子はやって来た。

 遠目からでもそれと分かるほどに周りと違う。特に背中ほどまである銀髪はかなり目を引く。かといってハーフな顔立ちには見えない。二重の大きな目が可愛らしい印象で、あどけなさの残る女子高生といった感じだ。


「初めまして。有栖川彩希といいます」

「初めまして、樋山楓人といいます。どうぞこちらへ」


 促して対面の席へ座ってもらうと、紫の方を見やる。そりゃまあ気になるよな。


「そちらの方は?」

「私の遠い親戚の子でして……」

「……?」


 やばい! それ以外の設定を考えるの忘れてた! どうする? どうすれば紫がここにいるのが自然な感じになる!?


〈私がわがまま言って付いて来た。ということにして下さい〉

〈――! ありがとう〉

「どうしても一緒に行くと言って聞かないものですから。同席のまま続けてもよろしいでしょうか?」

「そうなんですか、私は構いません。お名前は?」

「……松野紫と申します」

「紫さん……。どこかでお会いしたことありませんか?」

「いいえ、初対面ですよ」

「……そうですか。では早速ですが本題に入らせてもらいます。私は今回のプロジェクト、樋山さんに担当してもらいたいと考えてます」

「え? それはどういった意図で……」

「個人情報管理システム、“管理人”。ご存知ですよね?」

「え、ええ。うちで開発したものですので」

「そして、あなたが手掛けた作品でもある」

「まあ……一応メインで作りましたけど」

「“管理人”は有栖川HD(ホールディングス)でも採用しているんです」

「そうなんですか! ありがとうございます!」

「なぜ採用したか、分かりますか?」

「えーと……機能を気に入って頂けた……とか?」

「それもありますが、とにかく他社製品と比べて圧倒的にトラブルが少ないんです。うちのエンジニアも絶賛してましたよ、とても丁寧に作られていると。だから私が採用するよう推したんです」

「あ、ありがとうございます……」

「なので今回のプロジェクトを貴社に提案したんですが……あまりにレベルが違っていて驚きました。あれほど完成度の高い製品が作れるのに、プロジェクト担当者が送ってきたプロトタイプはバグだらけ。うちのエンジニアは中学生でももっとマシだとドン引きしてました」


 ああ……確かに塩谷さんは雑なんだよなぁ。平然と()()()()()()()()のまま提出したりするし。


「そこで、“管理人”を作ったSE(システムエンジニア)に会いたいと言ったんです。直接お会いしてクレームと担当替えのお願いをしたくて」

「そうだったんですか……それは大変ご迷惑お掛けしました。私の方から上に報告しておきます。それから私への担当替えの件ですが、弊社としましてもかなり大きなプロジェクトなので私の一存では決めかねます。ですので一度社に持ち帰り相談したいと思いますが、よろしいでしょうか?」

「分かりました。あなたのような誠実そうな方なら信用できそうです。よろしくお願いします」


 参ったなぁ、そうは言うけど大変だぞ。塩谷さんはただでさえキレやすいのに担当替えなんて言ったら下手したら暴力沙汰になりそうだ。本人に言う前に課長に伝えるか。


「……少し時間が余りましたね、ちょうどいい時間ですし、このままランチにしませんか?」

「私は構いませんが……」


 と、紫を見遣る。すると紫も「私もご一緒します」と言うのでランチタイムにすることになった。


「ここはパンケーキが絶品なの。樋山さんもどう?」

「え?」

「ん? どうかした?」

「いや、急に言葉がフランクになったなと……」

「だってもうビジネスモードは終わりでしょ? あたしオン・オフはハッキリしてるから」

「そう……なんだ」

「樋山さんも楽にしていいよ、娘くらいの年の子に敬語なんていいって」

「ならまあ、お言葉に甘えて。……娘はいないけど」

「えっ? いないの!?」

「なんでそんな意外そうなんだ……」

「だって、樋山さんモテそうだし、普通に結婚してるかと思って」

「モテてたらとっくに独身は卒業してるよ……。指輪だって無いだろ?」

「結婚してても指輪してない人いるよ?」

「そうなのか?」

「あたしの知り合いにもけっこういるよ。邪魔だとか落としたり失くしたら困るからって」

「ああー、それは納得」

「紫ちゃんも好きなの頼んでいいからね、あたし奢るし」

「いやいや、ここは俺が出すよ」

「いいってそういうの。呼び出したのはあたしで、ビジネスで無理お願いしたのもあたしなんだから、それぐらいは当然よ」


 さすが有栖川の孫娘……すでにもうデキる女だ。全てに筋が通っていて反論する隙間も無い。こういう上司となら仕事も楽しいんだろうなぁ。

 注文を終えると、じーっと俺の顔を見つめる。顔になにか付いてるのか?


「ねぇ、樋山さんって恋人もいないの?」

「いないよ。そういう有栖川さんは――」

「彩希って呼んで」

「え?」

「有栖川って、得体の知れないバックがいるようでイヤなのよ。だから個人的に仲良くしたい人とは下の名前で呼んで貰うようにしてるの」

「俺と仲良くしても、あまりメリットは無いと思うけどな……」

「いいの、あたしが仲良くしたいって思ったんだから」

「じゃあ、彩希さんで……。彩希さんは恋人いないの?」

「あたしに言い寄る男って有栖川の名前しか見えてないのよ。だからまともに付き合ったことは一度もない」

「てことは、付き合ったことはあるんだ?」

「一人だけね。別れさせられたけど」

「どういうこと?」

「祖父――有栖川会長が手を回したらしくて、なんの前触れもなく目の前から消えてしまって音信不通になったの」

「そんな……! なんのためにそんなことを」

「さあ? あの人の考えなんて常軌を逸してるから、あたしら凡人が考えるだけ時間の無駄よ」


 いや、俺からしたら彩希さんも十分に非凡な人に見えるんだが……。


「紫ちゃんは? 恋バナとかないの?」

「私は……恋というのが、よく分からないので」

「あー、そういうタイプかぁ。じゃあ気になる異性とかは?」

「気になる……」

「年上とか年下とかは?」

「そう……ですね、どちらかというと年上でしょうか」

「あー、やっぱりね! 分かるー」


 一気に女子会の空気になってきて俺は縮こまってしまう。

 そうこうしているうちに注文したパンケーキがやって来たので頂いてみた。何気にパンケーキは初めて食べる。


「……美味しいな」

「でしょー?」

「はい、とても美味しいです」

「ここはあたしのお気に入りなの。今度またプライベートで来ましょう。連絡先教えて樋山さん」

「え、俺?」

「そうよ?」

「えーと、ちょっと待って下さい……LINEですか?」

「あはは! なんで急にビジネスモード?」

「ああ、いや……つい、反射的にね」

「とりあえずLINE送るね、あとで電話番号も教えるから。ほら紫ちゃんも」

「私もですか?」

「もちろん! これからも仲良くしてくれると嬉しいな」

「……すみません、私はスマホ持ってないもので」

「……?」

「そうなの? 珍しいね。じゃあ連絡は樋山さん通してかな」

「はい、それでお願いします」


 食べ終えてコーヒーを飲んでいると、課長から電話が掛かってくる。


「ちょっと失礼します」


 席を外して電話に出ると、居ても立っても居られないような焦った声で「どうだ!?」と訊いてきた。


「詳しくはまた明日お話しますが、契約そのものは問題ありません」

〈本当か!? よくやった!〉


 電話越しでも本気でガッツポーズしてるのが分かる。まあ気持ちは分かる。これほどの大きな案件はなかなかチャンスがないからな、しかも今後のビジネスにも大きく響くのは確実だ。


「ではまた明日」

〈うむ。有栖川の孫娘にもよろしくな!〉


 電話を切ってため息をつく。

 有栖川の孫娘、か。()()()()()()なんだよな課長は。


 席に戻ると、「そろそろ行きましょうか」と彩希は会計に行ってくれた。16歳の女の子に奢ってもらうとか、社の連中――特に課長が聞いたら怒るだろうなぁ……。


「ごちそうさまでした。次回は俺が奢りますよ」

「そう? じゃあ高級フレンチを予約しないとね」

「えっ!?」

「あはは! 冗談よ。樋山さんのおすすめのお店、教えてね」

「はぁ……。分かったよ」

「じゃあね!」


 仕事の話だったはずが、どうしてか友だちとランチしただけのような感じになってしまった。まあプロジェクトはちゃんと話せたからいいんだけど。


「紫も、今日はありがとう」

「いえ、思ったほどお役に立てず申し訳ありません」

「いやいや、そんなことないよ。仕事以外の話題で盛り上がってくれたのがすごく助かった。……そういえば、スマホ持ってるよね?」

「ええ、もちろん。楓人さんとLINE交換しましたよ」

「じゃあ、なんで?」

「連絡先を交換すると、素性がバレてしまうので」

「そういえば名前気にしてたよね、松野とか偽名使って。有栖川には知られたくないってことか」

「そうですね、楓人さんにならお話してもいいかも知れません」

「いいの?」

「そんなにややこしい話ではないんです。私の祖母の姉――大叔母(おおおば)様が有栖川に嫁いだという、それだけのことなんです」


To be continued→

最後まで読んで頂いてありがとうございます。

応援よろしくお願いします。


今回は思い切って分割無しで投稿しました。

有栖川HDがなぜ小さな会社へ依頼したのか、その理由が有栖川彩希です。直接的な接点はないものの、楓人の仕事を評価してその腕を見込んでの依頼だったわけです。


ちなみに“管理人”は元々は全く別の仕事で作られたものですが、世の中こういった『風が吹けば桶屋が儲かる』というか『バタフライ・エフェクト』というか、そういった回り回った縁というものは不思議とあるものです。福運とも言えるかも知れません。


そしてしれっと明かされた、まさかの廷々紫が有栖川の親戚という衝撃的な事実。楓人の本業としても魔法少女としても大きな繋がりになりそうです。彩希との絡みも今後増やしていきたいと思います。

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