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魔法少女かえで@agent 〜35歳サラリーマンが魔法少女やることになりました〜  作者: そらり@月宮悠人
第二章

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守りたい、あの笑顔

 ――あらすじ。

 ()()()()()()()()に姫嶋かえでが樋山楓人(ひやまあきと)に戻る瞬間を目撃され、その事実を追求される。崖っぷちに追い詰められた楓人は……。


*   *   *


 どうするどうするどうする!?

 考えろ、脳細胞が焼き切れるぐらい考えろ!


 ――なんて、頭脳バトル系マンガじゃあるまいし、DEATH(デス) or(オア) DIE(ダイ)なこの状況で都合良く天才的頭脳が目覚めるわけもない。


「ちょっと、場所を変えていい?」

「構いませんよ」


 ロビーから離れて空いてる部屋に入る。ホワイトボードや折りたたみ式の長机とパイプ椅子。いかにも会議室って感じだ。


「ちょっと待ってね」


 これ以上は俺一人で対応するのは無理だ。魔法の杖のボタンを三回連打する。


「……?」


 不思議そうにこちらを見る魔法少女……そういえば名前を聞いてなかった。


「あの、お名――」

「くぉらぁぁぁ!!」


 仰角45度からの飛び膝蹴りを喰らって、パイプ椅子を巻き込みながら倒されてしまった。


「ってぇなこの野郎!」

「黙れこのどアホがー! 気軽に呼び出すなと何度言えば――」


 分かるんだ! と恐らく言おうとしたところで、ぷに助はもう一人の魔法少女に気づいた。


「な、なな……なんであなたがここに!?」

()……つつ、知ってるのかぷに助?」

「スレイプニルだっ! この御方は廷々(ていで)(ゆかり)という、唯一の純血の魔法少女だ!」

「じゅ、純血? だって魔法少女って魂との魔法契約でなるんだろ? 血統なんてあるのか?」

「……私の家系は、女が全て魔法少女なんです」

「なん……っ!?」


 ありかそんなの? 一家全員魔法少女なんて……。


「そんなことよりも、説明。していただけますよね?」

「ん? かえで、どういうことだ? そもそもお前のその喋り方……まさか――!」

「ああ、そうだよ」


 スレイプニルにあの夜のことが全てバレてしまったことを説明した。もちろん例の動画を見せて。


「な……な……!」

()()()()()()()()()があったみたいだな」

「ぐぬぬ……」

「私のレーダーは、どんな異変も見逃しませんから」

「もういいな? 俺から話すぞ」

「俺……?」

「実はな、俺はIT企業に勤めてるサラリーマンなんだ」

「……はい?」

「35歳サラリーマンの樋山楓人ひやま あきとはブラック企業戦士として日夜働いていた。そんなある日、残業を終えてアパートに帰ると、リビングで見覚えのない魔法の杖を見つける。不審がりながらも遊んでみると、なんと女の子に変身してしまった! ……ってこれ、あらすじじゃねーか!」

「ノリツッコミ……?」

「いや、そうじゃなくて……。まあとにかく、そうとは知らずに魔法の杖を使ったら意図せず魔法契約を結んでしまったわけだ」

「……つまり、かえでさんとあの男の人は、同一人物……?」

「そうだ」

「……つまり、かえでさんは変態?」

「そう――って違あああう!! なんでそこでボケるんだよ! すっげー重い空気でシリアスな流れだったろうが!」

「場を、(なご)ませようと思いまして」

「はぁ……。まあそんなこんなで魔法少女代行(エージェント)になったわけだ」

「代行?」

「そう。実は別の女の子が魔法少女になる予定だったらしい。それなのになぜか俺のところに魔法の杖が来てたんだ」

「誤配送でしょうか?」

「いや、荷物としてじゃなく、まんま魔法の杖が床に落ちてたというか置かれてた? そんな感じだったよ」

「……不思議ですね」

「あーあ、これで俺は人生終了か」

「どういうことですか?」

「ぷに――スレイプニル(いわ)く、俺は正体バレたら人生終了っていう地獄のようなハードモードなんだとさ」

「そうなんですか? そんなハードモード、聞いたことありませんけど」

「え? おいぷに助、どういうことだ?」

「廷々さんが知らないのは当然です! これは前代未聞のイレギュラーなので、天界の特別ルールと申しますか……」

「しかし、これほど優秀な人材を失うのは、天界としても痛手なのでは?」

「それは……」


 どういうことだ? 俺を(かば)おうとしてくれてる?


「廷々さん……はどうしてそんな、ていうか驚かないのか?」

「いいえ、十分驚いてます。ですが、私は気にしてませんので」

「どうして?」

「かえでさんの正体が男の人だとしても、こうしてここにいる魔法少女かえでは確かな戦力です。高位(ハイランク)の器は大変貴重ですから」


 大人の対応だ。ものすごく冷静に理解した上で受け入れてくれてる。うちの上司に爪の垢を煎じて飲ませたいぜ。……いや、こんな可愛い子の爪は飲ませられんな。


「……ん? ()()?」

「歩夢さんは、とてもかえでさんを気に入っています。もし歩夢さんにバレたら、悲しませてしまう」

「――! それは……」

「詳しいことは、あえて聞きません。なんらかの手段で歩夢さんを納得させたのでしょう。ですが、いつまでもバレない保証がないことは、お二人も承知のはず」

「……その通りだ」

「ちなみに、今のところ秘密を知っているのは?」

「スレイプニルと天界の一部って話だ。あとは三ツ矢学院か」

「そこをテキトーにするでないわ! 天界では私の上司と一部上層部、三ツ矢学院では理事長、それと一部生徒だ」

「生徒って、大丈夫なのか?」

「心配いらん。その生徒も魔法少女だし、正体までは知らんからな。事情があって守ってやってほしいとだけ伝えてある」

「……ということは、魔法(M)少女(G)協会(A)の中にはいないんですね?」

「そうです。関係者は可能な限り少なくしたいですから」

「では、私が協力者になりましょう」

「……今、なんと?」

「ですから、私が協力者になります」

「そんなわけには――!」


 廷々は、人差し指を立てた右手をスッとぷに助の前に出して制止する。


「今後のことを考えると、魔法(M)少女(G)協会(A)の中にも協力者は必要になるでしょう。私なら色々とサポートできると思いますし、なにより――」


 廷々は伏し目になり「歩夢さんを悲しませたくありませんから」と、静かに語る。


「……俺は賛成だ」

「またお前は――」

「いいか、ぷに助! お前はルールだルールだと言うが、それは正しい!」

「お、おおぅ」

「だがな、こうして二人目にバレたってことは三人目も四人目もあり得るってことだ。その(たび)に誤魔化してたらそのうち必ず行き詰まる。(さいわ)いなことに廷々さんは俺のことを受け入れてくれた上に協力を申し出てる。それも()()()()()()()()()()()という共通の目的があるんだ。それに――」


 チラッと廷々を見やる。おっとりしていて天然ぽさはあるが、芯がある。なにより考えが大人で頼れる。


「廷々さんは頭がいい。正直俺は頭が良くないし、ぷに助以外にブレインとしてサポートしてくれる人がいると助かる。純血の魔法少女が味方になってくれるなら天界も心強いんじゃないか? バレる危険性が減るはずだ」

「……私の独断では決められん。この話は一旦天界に持ち帰る。それでいいな?」

「ああ、頼む」

「お願いしますね」

「では私は報告に行く。廷々さん、まだどうなるかは分かりませんが、このアホをよろしくお願いします」

「分かりました」


 ぷに助が天界に戻ると、俺たちも会議室を出る。


「協力してくれるのは嬉しいけど、本当にいいのか?」

「ええ、もちろん。それにあなたなら、もしかしたら……」

「え?」

「いえ、なんでも」


 廊下を歩いていると、前から歩夢がやって来た。


「ん? かえでじゃん! もう来てたんだ!」

「歩夢も来てたんだ」

「あれ? 後ろにいるの紫?」

「こんにちは」

「なんだ、二人とも知り合いなの?」

「いえ、たまたま()()()()()()()()()答えてもらってました」

「ふーん、そうなんだ? じゃあ紹介するね。この子は姫嶋かえで。アタシの友だちだよ!」


 友だちという言葉に、俺は心苦しくなった。


()()()()()廷々(ていで)(ゆかり)と申します」

「あー、こちらこそ。()()()()()。かえでです。よろしく」

「かえでってすごいんだよー、あの三ツ矢学院に通ってるんだって!」

「まあ、三ツ矢ですか」


 それから歩夢は俺の――いや、かえでのことを嬉しそうに話す。

 疑いは完全に晴れた。……だが廷々にもバレたことで、それがまるで命綱なしの綱渡りのようだと改めて実感した。


「じゃあ、またあとでね!」

「はい。では(のち)ほど」


 歩夢が立ち去って、廷々が口を開く。


「守りましょう、あの笑顔を」

「ああ。――それにしても、よく初めてのリアクションができたね」

「演技には自信がありまして。それに――」


 間を置くと、俺の方を見て「女子は皆、女優なんですよ」と意味深に笑みを浮かべた。

 怖ぇ……。この子には逆らわないでおこう。


「それと、私のことは紫で構いませんよ」

「いいの?」

「ええ、もちろん。秘密を共有する共犯者ですから」

「共犯者って……。そういえば、どうしてお――私が高位(ハイランク)の器を持ってると思ったの?」

「私は、一目見ただけで相手の素質を見抜ける特技があるんです」

「地味にすごいな……」

「なので、あなたに興味が湧いたんです。上に報告しなかったのは、あなたを見極めてからでも遅くないと思ったから」

「てことは、認めてもらえたんだ?」

「はい」

「そうだ、連絡先交換してもいい?」

「いいですよ。……では、私も用事があるのでこれで」

「分かった。ありがとね」


 動画を見せられた時はどうなるかと思ったが、頼もしい協力者を得ることができた。


「さて、練習に戻るとするか!」


To be continued→

最後まで読んで頂いてありがとうございます。

応援よろしくお願いします。


秘密の共有というか、協力者を得るというのは前から決めていました。誰を協力者にするのかはずっと悩んでいたんですが、結界編の終わり頃にパッと浮かんだのが廷々紫です。しかも同時にこの話のプロットもパッと浮かんだので即決でした。紫はおっとり天然ですが、芯がある頭脳派でもあるのでサポートとしても適任でした。


今後は廷々紫のお話も増えると思いますので、お楽しみに。

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