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魔法少女かえで@agent 〜35歳サラリーマンが魔法少女やることになりました〜  作者: そらり@月宮悠人
第一章

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謎の結界と二人の孤立⑦

 ――少し時間を(さかのぼ)り、楓人(あきと)の所にゼノークスが現れた頃のこと。



「やぁ、ご苦労さまですよぉー」


 山田一千花(いちか)が現場の公園に着くと、周辺警戒していた漆間(うるま)華夜(かよ)と杉下燐音(りんね)が出迎える。


「お疲れさまです。……あの、他の(かた)は?」

「今回は(わたくし)だけですよぉ。安全確保はできてますかぁー?」

「はい。周囲に魔物の気配はありません」

「まあ、そうでしょうねぇ」

「え? 分かってたんですか?」


 キョトンとする燐音に、円縁眼鏡を中指でカチャッと上げて「空間魔法というのは面白い特性があるんですよぉー」と語る。


「まぁ、それはともかくとして、現場に案内してください」

「現場?」

「杉下氏がモワワワ〜と感じた場所ですよ」

「あー、それならこっちです!」


 公園の真ん中から少し外れた場所まで行くと、「この(へん)です!」と燐音は両手を広げてアピールする。


「……」


 一千花は目の動きだけで周囲を見ると、魔法の杖を取り出した。


「あれ? 山田さんの魔法の杖、なんかあたしらのと違くないですか?」

「これですかぁー? ちょっとだけ改造(いじ)ってあるんですよぉ」

「ちょっとだけ……?」


 魔法少女になる契約時に天界から貸与(たいよ)される魔法の杖は楓人(いわ)く、おもちゃ売り場にありそうなファンシーな杖。魔法少女は全員同じ魔法の杖を持っていて、もちろんデザインも同じ。

 ところが、一千花の杖はハートの飾りが欠けて禍々しい片翼が付いてたり、天辺のクルクル回る星の代わりに(フクロウ)がいたりと、ちょっとどころではなく改造(いじ)られていた。


「魔法の杖としての機能が正常に働きさえすれば、外観なんてどうでもいいんですよぉー」


 一千花は器用に杖をクルクルと回すと地面に突き立てた。


「アドバンスド・アナライズ」


 魔法を発動させると一千花の周りにディスプレイと丸い機械、照明機材のようなものが現れた。


「なんですか、あれ?」

「さあ……」


 二人は初めて見る魔法に興味を()かれたが、「ちょっと集中するので、念のため守ってくださいねぇー」と言われて周辺警戒に入る。


「……フフフフフぅー、これは興味深い」


――空間魔法だけじゃないですねぇこれは。

 魔法の構成としては結界と異空間。もう一つはデータに無くてよく分かりませんが……そこに演算(えんざん)術式が十重二十重(とえはたえ)に組まれている。こんな複雑で面倒くさい魔法は一日や二日じゃできないはず……これは相当昔から準備してますねぇ。


 一千花はブツブツと独り言を言いながらディスプレイに表示されるキーボードを高速タイピングしながら他のディスプレイも操作する。

 その様子を、周辺警戒しながら二人は見ていた。


「すごっ」

「山田さんが仕事しているところ初めて見た。すごい……」


 高位(ハイランク)魔法少女でありながら前線に立つよりも技術研究に没頭する山田一千花(いちか)は、普段ほとんど研究室に()もっているため、魔法少女としての実力を知る者は少ない。

 戦闘力は未知数であるものの、魔法を分析している様子を見るだけでも実力の一端をうかがい知ることができる。


「……なにか来ますよぉー」

「え?」


 一千花の呟きに華夜が反応した。しかし『なにか』と言われても警戒している周辺には異常は無い。


「ということは……」


 もしやと思い上を見ると、遠くの空から攻撃が飛んで来るのが見えた。


――まさか、あれに気づいたのか!?

 あんなに魔法の分析に集中してるはずなのに、私たちの警戒網より外からの攻撃を察知したってこと?


「ウソでしょ……」


 あまりのレベルの違いに一瞬、呆気にとられるもすぐさま燐音に「行くぞ!」と声をかける。


「りょーかい!」


 空に上がった華夜はバリアで砲撃を防ぐと、「防衛は私が受け持つから、攻撃してきた魔物を探して!」と燐音に指示する。


「分かった!」


 二人が対応に向かうのを見て、一千花は仕事を再開する。


――まさか攻性防壁とは。

 どうやら演算(えんざん)術式の中に組み込まれていたようですねぇ。ここまで複雑に構築したのはこの魔法を隠す意図もあったというわけですか。この分だとまだまだトラップがありそうですが……。


「とはいえ、仕掛けがあると分かればもう私には通用しませんよぉ」


 怪しい術式は()けて、遠回りしながらも最短ルートで解析を進めていく。――しかし早々にまた問題が発生する。


「……なんとも捻くれた製作者(ひと)ですねぇ」


 遠距離砲撃を防ぎに行った二人に魔法通信で話しかける。


〈こちら一千花。攻撃は止みましたかぁ?〉

〈こちら華夜。今のところ来そうにありません〉

〈そうですか。では空の守りは漆間氏に任せますので、杉下氏をこちらに回してください〉

〈魔物が出たんですか!?〉

〈魔物かどうかは分かりませんがぁ……どうやら()けては通れないようなので、お願いしますよぉ〉

〈分かりました。燐音!〉

〈聞いてたよー! 今行きます!〉


 周辺警戒で飛び回っていた燐音は、そのまま一千花のすぐ後ろに降り立つ。


「お待たせしました!」

「今からなにかしらのアクションがあるはずなので、上手く対処してくださいねぇー」


 一千花の指がディスプレイのキーに触れると、黒い犬のような魔物が二人を取り囲むように現れた。


「わぁ、いっぱいいますね」

「どうやら番犬のようですねぇ……お任せしていいですかぁー?」


 燐音はアナライズで魔物の情報を把握すると「これくらいなら大丈夫、いけます!」と、魔法の杖をハンマーへと武器化する。

 ピンク色をベースにデコりまくった、数ある武器化の中でもかなり派手なものだが、()り方はぶっ叩くのみという実にシンプルで強力な武器である。


「ガウッ!」

「ぅりゃあああ!!」


 襲いかかる魔物をハンマーで殴ると、「え、軽っ!?」と驚く。魔物はそのまま吹っ飛んで木に激突してガラスのように砕けて消えた。


「えっ、消えた……!?」

「どうやらこの術式によって作られる魔物は形を()しているだけで中身の無いモドキのようですねぇ」


――でもアナライズはできた。

 ということは、魔物の情報は正確にインプットされていて再現性が非常に高い。やはりこの魔法を仕掛けた製作者(ひと)は天才の(たぐい)ですか。間違いなく高位(ハイランク)相当の実力者ですねぇ。


「魔物のレプリカってことですか!?」

「この程度なら簡単に一掃できるでしょうが……」

「え……まだなにかあるんですか?」

()()辿(たど)り着くまでにあと数カ所トラップと思われる術式がありましてねぇ……なにが起こるか分かりません」


 話してる間にも襲ってくる魔物モドキを撃退しながら燐音は、「大丈夫ですよ! あたしが全部叩きますから!」と意気込みハンマーを振り回す。


「それは心強いですねぇ……では、行きますよぉ?」


 次々と術式を突破して本命である異空間魔法へと近づいていくと、異変が起きた。魔物モドキの様子が変わったのだ。


「なに……?」


 さっきまで、ただ突っ込んできていた魔物モドキが急に行動パターンを変えた。ジグザグに動いたりジャンプしたりと、燐音は対応に追われることとなった。


「んにゃろぉぉーーー!!」


 飛び上がった魔物モドキをハンマーで叩き落とすと、その感触に違和感を覚えた。


「え? こっちは本物?」


 先ほどまでの軽いのとは違ってしっかり手応えがあった。地面に落ちても砕けることはなく、起き上がって向かってくる。


「そうこなくっちゃね!」


 ハンマーの()に術式が走ると、頭部に青い波のようなラインが浮き上がる。魔物モドキを迎え撃つと今度は鈍い音がしてバラバラになった。


「っと、やっぱり倒してもポイントにはならないんだ?」

「あくまで術式による再現ですからねぇー、……そろそろまた変化しますよぉー」


 一千花が術式を突破すると魔物モドキの体が変化し、まるで(よろい)(まと)うかのような姿になった。


「なーるほど、攻略するほど番犬の強さが上がってくってことね!」


 強化された魔物モドキは、燐音のハンマーを(はじ)くほどに堅くなっていた。


「ぐぅっ! なら、これで……!」


 ハンマーの柄に新たな術式が追加されると、今度は頭部の波ラインが黄色へと変わる。


「どうだぁーっ!!」


 先ほど弾かれた魔物モドキに再度振り下ろすと、その鎧ごと叩き潰した。だがその横を別の魔物モドキがすり抜けてしまう。


「やばっ!」


 急いで対応に向かおうとしたが間に合わない。

 だが、魔物モドキの牙は一千花に届くことなく真っ二つに両断された。


「華夜!」

「まったく、困った時はすぐに呼べと言ったろう」

「上はいいの?」

「山田さんに呼ばれた。そろそろこちらが佳境(かきょう)に入りそうで、燐音も苦戦しているから手伝いに来てくれとな」

「山田さん、後ろにも目があるの……?」

「まったく、高位(ハイランク)魔法少女というのは誰も彼もバケモノだな」


――私は、本当にあそこへ行けるのだろうか。

 憧れの人に追いつきたくて必死に頑張ってきた。しかしこうも差を見せつけられると……正直、心が折れそうになる。


「……今は任務に集中しないとな。行くぞ!」

「りょーかい!」


 華夜が一閃、()ぐと魔物モドキが数体バラバラになった。そこから(のが)れて跳び上がった一体を、燐音は見逃さなかった。


「ぇやあああ!!」


 燐音が魔物モドキをハンマーで叩き落とすと、また変化が始まった。


「今度はなに!?」

「――!」


 身構えていると、魔物モドキが突然加速して華夜の横を通り抜けた。(かす)った(ほお)から血が(にじ)む。


「くっ!」


 華夜は反応できなかった自分に一瞬、怒りを覚えたがすぐに「ならば対応するまでだ!」と気持ちを切り替える。

 ところが、相手の動きがまた変わった。今まで一千花(いちか)を狙っていたのが今度は二人を取り囲み、翻弄するように立ち回る。


――なんだ!?

 スピードが上がったのなら直接山田さんを狙えばいい。そうしないということは、明らかに戦術的意図のある動きだ。スピードだけじゃなく、命令が変わった?


「せいっ!」


 斬り込んでもヒラリと(かわ)される。


「これは……戦わないつもりか?」


 時折(ときおり)突っ込んで来ることはあっても、先ほどまでのような積極的な攻撃はして来ない。このまま膠着(こうちゃく)状態が続くなら一千花の仕事が終わるまで待てばいいが、華夜は嫌な予感がした。

 そんな中、一千花はいよいよ解析の最終段階に入ろうとしていた。


「さぁて、残るは一つ」


 十重二十重(とえはたえ)に構築されたトラップだらけの術式を最短ルートで突破した一千花は、歩夢と楓人(あきと)が閉じ込められている異空間を特定した。


「フフフフフぅ、見つけましたよぉー」


――さて、ここからですねぇ。

 このまま一気に解析してお二人を解放してあげたいのは山々なんですが、これほど見事な魔法を構築した製作者(ひと)がここでなにも仕掛けてないはずがありません。ほぼ100%なにかしらのトラップがあるはず。


 だが、異空間周りの術式や構成を見ても、これといった違和感は感じられなかった。数々の魔法分析・解析をしてきた一千花でもここまで完璧に敵意や悪意の痕跡(こんせき)を消し去ったトラップは初めてだった。

 本当にトラップが無いという可能性もあるが、一千花は確信を持って(のぞ)む。


「二人ともいいですかぁー? (おそ)らく最後のトラップになります。なにが起こるか分かりませんので、気をつけてくださいねぇ」

「分かりました!」

「いけます!」


 一千花の指がディスプレイに表示されるキーに触れる。と、画面にノイズが走り大きくドクロが現れた。しかも見覚えのあるハートと翼のイラストが朽ちたような加工をされて一緒に描かれている。


「これは……デスマーク!?」


 一千花は表情を一変させるとディスプレイのキーボードを激しく叩く。画面には『5』という数字も表示されていた。あからさまなカウントダウンである。

 そして背後でもまた異変が起きていた。


『4』……


「――そういうことか!」


 魔物モドキが動きを止めてバチバチと光り始めたのを見た華夜は、今までの魔物モドキの動き、戦術的意図が一気に理解できた。


「燐音! レベル3で蹴散(けち)らせ!」

「りょーかい!」


 ハンマーの()にさらに術式が追加されると波ラインが赤くなる。


『3』……


「いっくよー! 怒りの鉄槌!!」


 ハンマーをブンブン振り回して勢いをつけ、地面に思いっきり叩きつける。すると地面が爆発して周囲を強力な衝撃波が襲う。

 怒りの鉄槌は全体攻撃のため、一千花が巻き込まれないよう華夜がバリアを張る。


『2』……


「ぐぅ……っ!」

「まったく、緊急事態とはいえ無茶しますねぇ。まぁおかげで間に合いましたが」

「山田さん、大丈夫ですか……!?」

「ええ。良い仕事しましたよぉー二人とも」


『2』


 カウントダウンが止まると、魔物モドキが数体消えた。


「杉下氏の攻撃でシステムが一瞬ダウンするなんて、さすがに予定外でしょうねぇ。――トラップそのものを解除するのが難しくても、ある程度の解析ができれば逆操作くらいできるんですよぉ? ……ご自分のトラップでお逝きなさい。フフフフフぅ」


――『1』


「なんて言ってる場合じゃないですって! 伏せて!」


 残った魔物モドキ数体が光り輝くと、一斉に大爆発を起こした。


To be continued→

最後まで読んで頂いてありがとうございます。

応援よろしくお願いします。


結界編、今回で終わるかと思ってたんですが、終わりませんでした←


次回で終わらせて歩夢とのお話になると思います。

お楽しみに!


※2022年4月14日 追記

「……今は任務に集中しないとな。行くぞ!」

「りょーかい!」

ここから1600文字ほど加筆しました

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