謎の結界と二人の孤立⑥
――あらすじ。
結界に閉じ込められて葉道歩夢と分断されてピンチになっていたその時、姫嶋かえでの秘めたるチートスキルが炸裂! 逆転大勝利したと思ったら謎の魔法少女と邂逅した。
* * *
魔物が実質無力化され、他に驚異となりそうな魔物もいなさそうなので休憩することになった。
というのも、実は俺が受けたダメージが思ってたより大きかったため、今のうちに回復魔法で治療してもらうことになったからだ。キュアオール以外にもちゃんと回復魔法があるんだなと妙に感心してしまった。
とはいえ警戒態勢は崩さない。黒衣の魔法少女ももちろんアンテナを張っているんだが、俺以上にさりげなく四方を監視している上にその範囲と密度がすごい。俺が全力で意識集中してるのと同じか、それ以上だ。
回復魔法を使いながらアンテナを張り警戒しつつ会話する――というマルチタスクをいとも簡単にやってのけるこの子は、やはりただの魔法少女じゃない。
「ところで、あの子は何者だ?」
「楓香のことですか?」
チラッと楓香を見ると、こちらを心配そうに見ていたので、大丈夫だと手を振って応える。
「なんだ、知り合いか?」
「ええ、まあ」
「彼女はどうしてここに? 連れて来たのか?」
「いえ、どうやら巻き込まれてしまったみたいです」
落ち着いてから改めて黒衣の魔法少女を見ると、その衣装は黒一色ではなく黒ベースに仕立てられたドレスといった感じだった。肩や胸に金色の菱形パーツがあるのはアクセントだろうか? 洋服にはさほど詳しくないので分からないが、それでもセンスの良いドレスだというのは分かる。
「巻き込まれた? おかしいな、ただの民間人であればこの結界に巻き込まれることなど考えられないが……」
「それは、私も引っかかってました。友だちと遊びに来ていたそうなんですけど、その友だちは巻き込まれずに楓香だけがここにいるというのが、どうも疑問で……」
「ふむ。ということは可能性として最も考えられるのは、楓香に魔法少女の適性があるのかもな」
「――強い器を持っているから。ということですか?」
「そうだな、恐らくそういうことだろう。結界に入れる条件が魔法少女ではなく一定以上の強い器だとしたら、10キロメートルエリア相当の強さがある器なら巻き込まれたとしても不思議はない。どの程度の強さかは詳しく調べないと分からないが」
あれ? ちょっと待て。これってヤバい流れなんじゃないか? もしこのまま楓香が本部に連れて行かれて調べられたら、ぷに助と俺の秘密が明るみに出てしまうのでは? そしたら俺は……。
「死……」
「ん? なにか言ったか?」
「あ、いえ別になにも」
落ち着け、とりあえず落ち着け。とにかく落ち着け。
まだ調べると決まったわけじゃない。それにこの魔法少女は話せば分かってくれるタイプのはずだ。今まで数々の(納品)危機を乗り越えてきた俺の弁論術(?)で華麗に切り返してみせる!
「この結界から出たら調べてもらうといい。このままでは危険だ」
デスヨネー。
切り返す猶予も余裕も暇もなかったよ。そりゃあそうなるよ、俺だって逆の立場ならそう言うよ。むしろ心配だからこそ……あれ?
「もらうといいって、あなたが連れて行くんじゃ?」
「すまない。私は事情があって今は本部に行けないんだ」
「事情?」
「ああ、色々とな」
なんにせよ助かった。連れて行かれないならいくらでも誤魔化しようはある。あとは脱出し次第、ぷに助に連絡してデータ改竄なりなんなりしてもらおう。
いや、その前に特大級の爆弾を処理するイベントが残ってたなぁ……。
……それにしても、頼れるけどある意味危険だなこの子は。
安納真幌が言ってた存在しないはずの魔法少女。俺もあのあと何回か「あれは白昼夢のようなものだったのではないか?」と思ったことはあったが、しかしこうしてまた目の前に現れた以上は間違いなく魔法少女として存在している。
なぜこれほどまでに強い魔法少女が、魔法少女フリークを自称する安納のデータベースに無いんだ? 実力的には100キロメートルエリア担当にも近いはず。しかもデュプリケートで戦うという特異な戦闘スタイルならなおのこと、知られてないのはおかしい。
つい考え込んでしまったか、じーっと見ていた俺に「どうした? 私の顔になにか付いているか?」と訊いてきた。
「あ、いえすみません。つい見惚れてしまって……」
「ふふ、それは恐縮だな」
見惚れてというのは、咄嗟の嘘というわけではない。あの日の月明かりで見たときも美しかったが、明るい場所で見てもやはり美しい。
歩夢もそうだが、本物の魔法少女は素の姿と見た目の乖離は特に無い。これだけ美人ならアイドルやモデルとしても一線級だろう。あるいは俺がそういった情報に疎いだけで、実際に有名人なのかも知れない。
ふと、今さらながらに思ったが、俺の魔法少女としての体はいったい誰がモデルなんだ? 衣装はなぜか楓香がデザインしたものらしいが……。そういえばそのことをぷに助に言うの忘れてたな。
「よし、これで動けるようにはなったはずだ」
言われて身体を動かすと、先ほどまでの辛さがほとんど無くなっていた。これだけ回復できる魔法があるのなら優海さんに教わろうかな。
「ありがとうございました! ……ところで、いくつか聞きたいことがあるんですけど」
「構わないよ、なにかな?」
「名前をまだ聞いてなくて」
「ああ、そういえばそうだったか。そうだな……私のことは少女Aとでも呼んでくれ」
「しょ、少女A?」
「事情があると言ったろう? 残念ながら本当の名前は言えないんだ」
「それにしても少女Aはちょっと……」
「そうか? なら、エースでいいか?」
「それなら。エースさん、でいいですか?」
「ああ、いいよ」
「じゃあエースさんで。――いったいどんな事情なんですか?」
「いずれ、その時が来たら分かる。気になってしまうのは分かるが、今はまだ姫嶋の立ち入る領分ではないよ」
俺が立ち入る領分じゃない、か。どうやら思ってた以上に深い秘密がありそうだ。本当は存在を消している事にまで触れたかったが、安納に迷惑をかけるわけにはいかない。
「じゃあ、もう一つ。この結界? はなんなんですか?」
「それは難しい質問だな。姫嶋はどう思っているんだ?」
「え?」
「先入観のない姫嶋の意見を聞きたい」
それはつまり、エースもこの結界がどういったものなのか分からないのか? ……いや、それは考えづらい。単純に俺を試しているんだろう。
「最初は、歩夢を襲うために分断したんじゃないかって思いました」
「今は違う?」
「違うというか……妙な感じがするんです」
「というと?」
「蜂みたいなバヌッツという魔物のボスを倒したのに魔法少女ポイントが貰えなかったんです。逃げられたんだろうとも思ったけど、手応えは確かにあったし二人でアンテナ張って見つからないなら倒せてるはず」
「なるほど」
「それと、ゼノークスは暗闇に紛れて人を襲う魔物のはずなのに、こんな明るいところで堂々と現れるなんておかしい。だからもしかすると、ここにいる魔物は本物じゃなくてエミュレータのような仮想敵なんじゃないかなって」
「ほぅ……」
なんの目的かは分からない。だがこの仮説が正しいなら大きな疑問が解決する。『冥府ノ誘』だ。
ゲームやアニメに出てくる武器の特殊スキルは、いくら魔法少女でも再現できないはず。それを再現できたのはその謎エミュレータのおかげなんだろう。俺が紅のヤシオをかなり忠実に作れたからっていうのもあるかも知れないが。
「話には聞いていたが……やはり姫嶋は逸材だな」
「え?」
「とても魔法少女になりたての答えとは思えないよ」
「えっ!? あ、あはは、よく言われますー」
とにかく笑って誤魔化すしかないのが泣けてくる……。
「それで……ん?」
「どうした?」
「なんか今、ギギギ……て軋むような音が聞こえたような」
「……どうやら誰かがハッキングしているようだな」
「ハッキング?」
「要するに、誰かがこの結界を外部からこじ開けようとしているんだ」
「誰かって?」
「魔法少女協会の誰かだろうな」
「ということは、助けに来てくれた!?」
「そういうことだろう。――私もそろそろ離れるとしよう」
「他の魔法少女に見つからないように、ですか?」
「そうだ」
「あの、この結界って結局なんだったんですか?」
「姫嶋の意見は核心を突いている。それがヒントだよ」
もっと訊きたいことは山ほどあったが、地震のような揺れが発生して危なくなってきた。
「姫嶋! 楓香を守れ!」
「は、はい!」
「私のことは、皆には内緒にな」
「はい!!」
人差し指を立ててウィンクするエースがまたなんとも可愛い。
急いで楓香のとこに駆け寄ると、天変地異のように地割れしてきた。
「かえでちゃん!」
心細かったのか、ひしと抱きついてきた。
「ごめんね楓香、もう大丈夫だから」
言葉は冷静だが脳内は「いい匂いが! 胸が! 胸がー!!」と軽くパニクっていた。
そして、そんな事情などお構いなしに結界は崩壊した。
To be continued→
最後まで読んで頂いてありがとうございます。
応援よろしくお願いします。
次で謎の結界編は終わりになる予定です。孤立といいながら楓人の方だけ二人も増えてしまったので、サブタイ見直そうかな?
結界編が終わったら、ようやく歩夢との対決です。長かった……。そして決着がついたら新章に突入予定ですが、そこでちょっとお知らせがあります。といっても書籍化ではないです。書籍化したいなぁ。




