謎の結界と二人の孤立③
――あらすじ。
魔法少女・姫嶋かえでの正体は30代のオッサンだと葉道歩夢に見抜かれた樋山楓人は、歩夢に呼び出されて行った先の公園で魔物と遭遇した。
難なく倒したと思ったら、謎の結界によって歩夢と隔離されてしまった上に通信も通らず途方に暮れていたところ、結界に巻き込まれた間宮楓香と邂逅する。
楓香を守る使命を帯びる楓人は、楓香を守りながら新たに襲い来る魔物と戦うことに――。
* * *
「アタッカーモード!」
魔法の杖が光りながら片手剣に変化する。本当はデュプリケートの恐れがあるから使いたくはなかったが、走りながらこの小さくて速い魔物にピュアラファイを当てる自信はない。
なら多少のリスクを負っても、小回りが効いて初心者にも扱いやすいだろう片手剣で対応したほうがいい。
「すごい、剣になるんだ」
「うん、まあね」
「カッコいいね」
「ああ、これはゲームにあった剣をイメージしただけだよ」
昔流行ったMMORPG(大規模多人数同時参加型オンラインRPG)で最強の剣と対になると言われた隠し武器で、確かオリジナルのやつだったな。デザインも性能もなかなかに作り込まれていて評判が良かった記憶がある。
「ううん。そうじゃなくて、かえでちゃんが」
「……へ?」
女の子に格好いいなんて言われたことあるわけない俺は、頭がフリーズして何も考えられなくなってしまった。
「危ない!」
「う、うおおおおお!!」
楓香の声で我に返ると、襲ってきた魔物を慌てて武器化した魔法の杖で切り払った。
「あっぶな! なんとかやれたかな」
「ごめんね、私が変なこと言ったせいで……」
「ああ、気にしないで、単に免疫が――」
「免疫?」
「いや! えーと、褒め慣れてないだけだから!」
あはは、と誤魔化して笑う。
危なく女性に免疫が無いから〜とか特大級の自爆ワードぶち込むところだった。
「そうなの? かえでちゃん言われてそうだけど」
「え? 言われてそう?」
「うん。可愛いとかカッコいいとか」
「まさかー、今まで言われたことないよ」
「そうかな? たぶん、かえでちゃんが意識してないだけだと思うよ」
そういえば、魔法少女としての俺――つまり姫嶋かえでの評判は聞いたことがなかったな。俺個人は当然格好いいとか言われた経験は皆無なんだが、あるいは姫嶋かえでの方がモテるのか?
……いや、それはそれで複雑だな。
「と、お喋りはここまでにしよう」
公園奥の方から次々にバヌッツが飛んで来る。恐らく巣が近いんだろう。
「ちゃんと私に付いて来てね!」
「うん!」
正直、魔法少女としての能力全開でやれば巣まで一瞬で肉薄できる。しかし今は楓香を守りながら戦わなければならない。
なので、付いて来いと言いつつも楓香の速度に合わせて走る。
「せいっ! はっ!」
前言撤回だ。楓香の速度に合わせようとしなくても、飛んで来る魔物を切り払いながらだとどうしても足が遅くなる。でも楓香に対して変に気遣わなくていいから、むしろ楽か?
「くっ! このぉ!」
いや、全然楽じゃないわ。巣に近づけば近づくほど数が増えるから魔物だけに集中してても相当辛い。
このまま丁寧に処理してもいいけど、そうするとゆっくり散歩するくらいの速度になってしまう。巣まであと何メートルだ? あと何回剣を振ればいい?
「どうしたものか……」
「もしかして、私が足枷になってる?」
声に漏れてしまったのか、楓香は察したようだった。
「気にしないで、どうせ、巣まではもう少しだ……しっ!」
「でも……」
「これは私に問題あるだけで、楓香の責任じゃないよ」
タイミングが悪かった。優海さんとのデート――もとい、訓練を先にやれてれば、あるいはもっと他に良いやり方もあったはず。
俺が持ってるカードは、強い器による恵まれた魔力量に頼った魔法しかない。せめて剣道やってたり、この片手剣に特殊能力あったりすれば……。
「そういえば、あったな」
確かこの剣、APを消費して発動するスキルがあったはず。
「って、ゲームの設定だしなぁ」
……だがもし、万が一武器化した元ネタを魔法で再現できるとしたら、この場を切り抜けられる。
「まあ、試すだけなら。……冥府ノ誘!」
…………。
「やっぱダメじゃん! ただ恥ずかしいだけじゃん! 痛いやつじゃん!」
「かえでちゃん! 後ろ危ない!」
後ろを振り向くと、魔物が大群で襲ってきた。
「やばっ!」
『ピュアラファイを拡散させて撃て!』
「――!?」
頭に直接響くような声に一瞬戸惑ったものの、危機的状況をなんとかするため、その声に従う。アタッカーモードをマジカルモードへチェンジして構える。
「ピュアラファイ!」
できるだけ広範囲に拡散するように撃つと、大群の魔物は全滅した。
「ふぅ……」
「すごい!」
楓香には俺が咄嗟に機転を利かせたように見えたようだ。
「ありがとうございます、助かりました」
小声で謝意を伝えると、『まだ終わってない。君はそのまま巣を叩け。あとは民間人を守ることに専念しろ』と言われた。
「は、はい」
通信らしき声は消えた。
この声、どこかで聞いた覚えがあるんだが……誰だ? それに、どうしてここに居ないのに的確な指示が出せたんだ? どうして民間人と一緒なんて分かるんだ?
「……まあいいや」
疑問は次々と浮かぶが、こんなところで考えていてもしょうがない。他にやることもないし素直に巣を叩こう。
「よし、もう少しだ。行こう楓香」
「うん!」
大群を一気に撃ち落としたからなのか、魔物が消えてる。今なら……!
「楓香、私にしっかり掴まって!」
「う、うん!」
「――いっ!?」
「ど、どうしたの……?」
「ううん、な、なんでもないよ!」
背中に強く胸の感触が……! 首筋には吐息が掛かりクラクラしそうになる。自分で言っておいてなんだが、これはヤバい!!
我慢しろ、耐えろ、今は魔物だけに集中しろ!
「うおおおおお!!」
魔法少女の力を爆発させて一気に巣へと迫る。直径2メートルほどの大きなスズメバチの巣のようなものが木にぶら下がっていた。
「これか!」
目の前にあるのなら、ピュアラファイで焼き払える。
「ピュアラファイ!」
強めに撃つと、大きな巣は白い光の中に消え去った。
「ふぅー」
「終わったの……?」
「うん。楓香は大丈夫? 怪我はない?」
「大丈夫。かえでちゃんが守ってくれたか――」
「どうしたの?」
「今、なにか小さいのが巣? から飛び出してったような……」
「えっ!?」
そういえば、魔物を浄化した時のアナウンスが流れない。まさか巣を盾に脱出した?
「まずい、もし他にも同じような巣があるとしたら……!」
しかし、悪い予感に反して攻撃は来そうにない。ただ逃走しただけなのか?
「はぁー、助かった。あとは楓香を守ればいいか」
「……あのさ、かえでちゃん。こんな時なんだけど……一つ訊いてもいいかな?」
「なに?」
「かえでちゃんって、本当は何者なの?」
To be continued→
最後まで読んで頂いてありがとうございます。
応援よろしくお願いします。
危うく痛い人になりかけながらも、なんとかバヌッツを撃退することに成功した楓人。しかし今度は楓香から問い詰められることに!? そして通信してきた謎の人物は誰なのか……?
相変わらずの不定期更新ですが、お楽しみに。




