謎の結界と二人の孤立①
最初に違和感を覚えたのは、道端に倒れてるかえでを家に運ぶ時。
魔法少女は魔物を倒すと変身を解除できる。でも例外として、気を失うことで変身が強制解除される。なのにかえでは魔法少女のままだった。
最初は強い意志で変身が解けないからかと思った。任務中に倒れたんだろうと考えてたから。
もう一つは目覚めてから。
あの時は気にしなかったけど、女の子の部屋に寝ててごめんなさいなんて普通言わない。「歩夢さんの部屋で寝てしまって」ならまだ分かるけど。
それに、あの時はぷに助も変だった。かえでの名前を聞いて一瞬誰のことか分からない様子だったし、かえでが泊まろうとした時に制止したようだった。
他にも細かい違和感はいっぱいあるけど、それら全てが「男だったら」と考えると辻褄が合う。謎解きゲームをクリアしたように、霞が晴れるように、スッキリする。
本当に中身が男だったとして、どうするのかはまだ分からない。でも、ハッキリさせたい。だからここで姫嶋かえで本人に問う!
「あんた、男でしょ」
「……へ?」
「テキトーに言ってるわけじゃないよ。アタシなりに真剣に考えて出した結論。だから、正直に答えて。姫嶋かえで、あんたは男なの?」
「えーと、その……なにがあったのか分かりませんけど、一応女ですよ」
「……本当に?」
「……はい」
「いい? 事情がどうあれ、今ならアタシは許すしちゃんと受け入れる。これからも友達として付き合う。でも嘘を通していつの日かバレたら、庇わないし許さない。友達だと思ってた子に裏切られる気持ちは、大人の男なら分かるでしょ? ……もし本当に本物の女子だったら、アタシを思いっきりぶん殴っても構わない。絶交されるのも覚悟だよ。いい? よく考えて。言っておくけど、これは最初で最後のチャンスだからね」
「……」
ポケットからかえでの魔法の杖を取り出して、かえでの手に握らせる。
「アタシを納得させて欲しい。だから今ここで、目の前で変身解除して」
「……分かりました。でも、その前に魔物を浄化しないと」
「ああ、そうだね。じゃあ――」
ラグートを浄化してもらおうとして、そこにいたはずのラグートがいないのに気づいた。
「いない!?」
「……気配も消えてます!」
「そんなバカな! ステルス迷彩どころか動くのも難しいはずなのに!」
何が起きてる? 瀕死の状態からどうやって物音立てずに動いたっていうの?
「かえで、とりあえず話は一旦保留。警戒して!」
「はい!」
「こちら葉道歩夢。本部聞こえますか?」
〈……〉
「本部、応答願います!」
〈……〉
「ダメか!」
通信が通らないってことは、おそらく結界が張られてる。アタシらに気づかれないよう展開するなんて高度な魔法……あいつしかいない。あの不気味な謎の魔物だ。
それにこのタイミングでの発動、やっぱり狙いはかえでか!
「かえで、アタシから離れないで。……かえで?」
振り返ると、そこにかえではいなかった。いくら呼んでも返事が無い。魔物の気配も無い。完全に自分一人だけという感覚。
「どういうこと……?」
感覚を遮断する魔法というのはある。でもそれは結界とか空間魔法とはまた別系統のもの。ということは、魔法を複数同時に使ってる? でもそれだけじゃラグートとかえでが消えた説明がつかない。
「困ったなぁ、アタシこういう状況を打開する手段無いんだよね……」
* * *
「歩夢さーん!」
何度か呼びかけても返事が無い。それどころか周りには公園にいたはずの人間の気配すら無い。こんな明らかな異常事態、魔法しか考えられない。例の知能犯か?
「しっかし、やっぱりバレてたか」
今までなんとか誤魔化してたつもりだが、やはりオッサンが女の子になるのは無理があるのかな……。
だが歩夢は、正直に打ち明けてくれれば許してくれると言う。ならいっそ男であると認めてしまって歩夢を味方に付けた方が得策なんじゃないのか?
この妙な空間から出られたら、すぐにぷに助と相談しないとな。
「ん? そうか、ぷに助を召喚すればいいんだ」
魔法の杖を返してもらって正解だったな。
ボタンを3連打して信号を送る。
「これでよし」
ところが、待てど暮らせどぷに助はやって来ない。
「どういうことだ? ……まさか通信できないのか!?」
状況を整理すると、なんらかの魔法で俺と歩夢は隔離された上に通信不能空間に閉じ込められたってことか?
ということは、おそらくさっきの魔物、ラグートだっけか? あれは歩夢を誘い込むための罠か!
「くそ! 歩夢が危ない!」
しかし助けたいのは山々たが、俺はまだ魔法というものをよく知らない。特にこういった特殊な状況を打破するような魔法なんて教わるどころか見たことも聞いたこともない。
「そういえば週末、優海さんに魔法について教わる約束あったっけ」
こんなことなら、もっと早くちゃんと魔法について教わっておけばよかったな……。
「――!」
なんて考え事をしていたら、後ろからガサガサと物音がして振り向く。
人の気配は無かったのに……誰だ?
「かえでちゃん?」
「なっ!?」
そこに現れたのは、俺が守るべき使命の相手――。
間宮楓香だった。
最後まで読んで頂いてありがとうございます。
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これで書き溜めたストックは終わりです。この間も続きを考えてはいるんですが、やりたいことが多いのと別のことが忙しいのもあってなかなかプロットが作れないでいます。
またお待たせしてしまうかも知れませんが、ご容赦ください。




