正直に答えて
――スレイプニルが楓人に報告する少し前のこと。
「かえでが見つかった!?」
魔法少女連続襲撃事件の調査報告に来ていた葉道歩夢は、用事があって魔法少女協会東京本部に来ていたスレイプニルと出会した。
「はい、姫嶋かえででしたら先ほど生存が確認されました」
「そう、良かったぁ……。それじゃかえでに会いたいって伝えてよ」
「……はい?」
「聞こえなかった? かえでに会いたいって言ったんだ。任務中にかえでの魔法の杖を見つけたんだけど、行方不明で会えなかったからさ。ぷに助なら連絡取れるでしょ?」
「でしたら、私が届けましょう」
「ぷに助」
「へっ?」
「アタシが届ける。連絡先を教えたくないならそれでいいから、かえでに会いたいって伝えて。明日の夜9時にH公園で待ってるから」
「ちょ、ちょっと、葉道さん!?」
スレイプニルの慌てたような反応で、歩夢は確信した。
――間違いない。
かえでは男だ。それも30過ぎの会社員。どうして大人の男性が魔法少女になったのかは分からないけど、とにかく会って確かめる。
歩夢は空羽の一件もあったからか、怒りにも似た苛立ちをぶつけるために魔物討伐へと向かった。
* * *
「ちょっと早かったかな」
かえでとの待ちあわせ前に魔物を数体倒してきたから、遅れたかなと思ったけど、H公園に着いてスマホで時計を確認すると、まだ夜8時前だった。
「……うーん、むしろ早すぎたかも」
周りを見渡すとカップルで溢れていた。S区のH公園と言えば人気のデートスポットなのだから当然か。
だからってデートするわけじゃない。単に家から近いからここにしただけだ。
「それにしても……」
人目をはばからずに周りでイチャイチャされるのはどうにも落ち着かない。なるべく人が少ない所を探してベンチに座る。
「ここにいる人たちは魔法少女なんて知らないんだろうな」
かくいうアタシだって、一年前まではファンタジーの世界だと思ってたな。突然ぷに助が現れて、魔法の杖を渡されて……。
イヤリングとして耳に付けてる魔法の杖を指で触る。
魔法少女になれるのは16歳までの女の子だけ。それは天界が生み出した魔法少女というシステムの大原則だ。例外は聞いたことがない。
「その例外が、出てきたってことかな」
だとしても、どうして隠す必要があるのか、それが分からない。
「……暇だからゲームでもしてよ」
《キュイン! キュインキュインキュイン!!》
「――っ!」
スマホでゲームでもしようと思った瞬間、魔法の杖から魔物の接近を知らせるアラートが鳴った。
すぐさま魔法少女へと変身すると、街灯に跳び乗って周りを警戒する。
「どこだ?」
魔力感知範囲を最大にする。紫ほどじゃないけど30メートル四方くらいなら感知できるはず。
「……」
見つからない――。
まだだ、もっと集中しろ。意識集中!
「……見つけた、右斜め前!」
街灯を蹴って直線距離で突撃する。魔力の気配が濃い。すぐ近くにいる。
――ガサッ
「そこかっ!」
葉音に振り向いて右ストレートを打ち込むと、そこにはかえでがいた。
「ええっ!?」
「うわっ!?」
既の所で拳は止まった。鼻先数ミリ、まさにギリギリセーフだ。
「かえで! なんでこんな所に!?」
「今さっき着いたんだけど、魔物の気配がしたから……そしたら歩夢さんのパンチが飛んできて、ビックリした〜!」
「あはは……ごめんね、アタシも集中してたもんだから」
って、呑気に話してる場合じゃない。色んな意味で。
「かえで、探知は得意?」
「やったことないけど、たぶん」
「まあ、アタシよりはイケるでしょ、頼んだ」
「分かりました」
かえでが意識集中に入る。横顔見ると、やっぱり可愛いな。なんて思ってたらすぐ目を開けたので、つい目をそらしてしまった。
「――いた」
「え、もう?」
「右斜め後ろ、4時の方向です。距離は10メートルくらい」
「オッケー!」
魔力を脚に3割乗せて加速し、7割を拳に乗せると、かえでの探知を信じて拳を打ち込む。
手応えを感じてそのまま振り抜くと、ステルス迷彩が解けて豹のような魔物が現れた。
「ラグートか!」
逃げようとしたところに横蹴りを入れると木にぶつかりダウンした。
「歩夢さん! 大丈夫ですか?」
「よゆーよゆー」
「この魔物、姿を消せるんですか?」
「そう、こいつは隠密行動を得意とするラグートって魔物」
「ということは、歩夢さんを偵察していた?」
「可能性はあるね」
「でも、誰がそんなことを……」
「魔物の中には高度な魔法を操る知能が高い魔物もいるからね、人間と同じような事をする狡猾な奴もいるんだよ」
「そんなすごい魔物が……。魔物を巨大化させるのも、そういった知能犯によるものなのかな」
「魔物を……巨大化?」
「はい。この前お話した一般人の警護任務の時にブルブッフと戦うことになって、その時に一体が巨大化したんです」
魔物を巨大化させる……付与魔法か。
そんな高度な魔法を操れる魔物は限られるはず。アタシが知る限りは、あいつしかいない。ということは……もしかして、最初からかえでに目をつけていた? 目的はかえで!?
「かえで、あんた一昨日ゲーム会社のビルで魔物と遭遇したんだよね?」
「え? はい」
「その時、なにか変わったことなかった? なにか言われたりしなかった?」
「変なこと……。そういえば、なぜか変身するのを待ってる様子でした」
「え?」
「なんだか魔法少女に変身して欲しそうな、挑発する感じで」
「魔法少女に変身するのを待っていた?」
「はい」
「かえでは変身したの?」
「いえ、なんだか怪しくて。罠かも知れないと思って変身はしませんでした」
「そっか……」
魔法少女に変身するのを待った? いったいなんのためにそんなことを? ……まあ、こんなところで考えてても仕方ないか。
ちょっと強引だけど、このままの勢いで本題に入ってしまおう。
「かえで、正直に答えて」
「え? はい、なんですか?」
「あんた、男でしょ」




