プライドを理由に
「かえでー! こっちこっち!」
煌梨が手を振って呼ぶ。駅から急いで走って、ようやく会場である体育館に着いた。
「はぁ、はぁ、はぁ……。間に合ったー!」
「なんで全力疾走? サブタンクはあるでしょ?」
「そ、それが、私もサブタンクの魔力で飛ぼうと思ってたんだけど、さっき確認したらタンクも空っぽで……」
「一体なにしたらそうなるのよ……。まあいいわ、とにかく今はリハーサルよ!」
「うん!」
体育館の中は設営が進んでいた。すでに半分以上はできているようだ。
「かえで! ダンスの確認するよ!」
「明音はもうスイッチ入ってるね」
「ええ。今日は張り切ってるわ。ここに着いてすぐスイッチ入ってたもの」
楽しみにしてたってことかな?
「かえでー!」
「今行く!」
ステージに上がると、前回のライブ会場とは違った景色が広がる。ここに660人の生徒が集まるのか……。
「本番に向けた最後のリハーサルだよ。気合い入れてね!」
「うん!」
スポットライトが当たり、曲が流れる。サプライズだから大きな音では流さずBGM程度だ。
協力者の人たち、他の生徒、優海さん……。皆、喜んでくれるかな?
* * *
夕暮れ時の校長室で、北見は客人に紅茶を淹れる。
「いよいよね。あなたは見ないの?」
「興味はあります。ですが、私は表に出れませんから」
「そうだったわね。あなたも三ツ矢女学院に来てくれたら良かったのに」
「私が三ツ矢女学院の生徒なんて、似合いませんよ」
「あら、制服似合うと思うわよ」
「御冗談を。それで、私に頼みたい事とは……このイベント絡みですか?」
「そうなの。気持ちよくライブさせてあげたいじゃない?」
「それなら、魔法少女協会を頼れば良いではありませんか。例の一件で接触したと聞きましたよ」
「できれば、頼りたくないのよ」
北見はやや声のトーンを落とした。それが強い意思表示のサインであることを知るのは、この客人と一部の人間だけである。
「プライドを理由に私を動かそうとするのは貴方くらいですよ、北見校長」
「だめかしら?」
「……まったく、断れないと分かってるくせに。腹黒さは相変わらずですね」
「まあ、腹黒いだなんて。私にそんなことを言うのは中原さんと貴方くらいよ。今はなんて呼ぶのかしら?」
「――エースと」
「いいじゃない。貴方にピッタリだわ。じゃあ、よろしくね。エース」
エースは紅茶を飲み干すと、「ご馳走さまでした」とお辞儀して校長室を後にした。
「……聞いているか?」
〈なんやねん。まさかまた子守言うんやないやろな?〉
「鋭いな」
〈アホ。あの北見やで? 厄介事押し付けるに決まっとるやないか〉
〈あーあ、あたしライブ見たいなー〉
〈アホか。あんな所おったらソッコーでバレるで〉
〈だって三ツ矢女学院でミニライブやるなんて、たぶん最初で最後だよ?〉
〈ええ裏ワザ教えたろか?〉
〈え? なになに? 見れるの!?〉
〈ライブすんのは魔法少女やで? あとで記録見たらええがな!〉
〈うっわ! 天才じゃん!!〉
〈せやろ?〉
「魔法少女モードならな」
〈あっ! そうじゃん! 魔法少女モードじゃないと記録無いじゃん!〉
〈と、思うやろ? 姫嶋かえでは別やねん〉
その一言にエースは「なぜそう思う」と反応する。
〈実はな、あいつ特別試験からこっち来る時に魔法少女モード解除すんの忘れてんねん〉
〈あー、魔法少女あるあるだねー、あたしもやったことあるー〉
〈せやから今は魔法少女モードのままやねん。な? 記録残るやろ〉
〈でも、魔法少女モードのままだと姿見えなくない? 大丈夫なの?〉
〈それがなー、あいつ試験で魔力使い果たしてもうて、しゃーないからって電車乗ってん。そん時にステルス解除しとるから今も見えとるわけや〉
「よく見てるんだな」
〈ウチな、人間観察得意やねん〉
エースはなにか言いたげだったが、「そうか」とだけ返して体育館の方へと向かう。
〈でも、守るのはいいけど魔法少女協会の魔法少女は来ないの?〉
「問題ない」
〈あの北見やで? 裏で手ぇ回しとるんに決まっとるやろ〉
〈じゃあ、ステルスPlusのチェックだけすればいっかー。ライブ映像見るためにがんばるぞーっ!〉
「よし、任務開始だ」
To be continued→
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長かった第三章もあと3話で終わりです。
次回、「ミニライブ前編」!




