昇格試験⑤ デメリット
圧縮時空間が解除され、眼の前に厄介な強敵が現れる。
「トリックスター引き継ぎコード入力! 前回登録者『狭間千秋』のデータを『姫嶋かえで』に引き継ぎ! フルアクセス権限オープン! トリックスター起動!」
術式なのだろうか、ニャースケから魔法文字が溢れ出して、それらが魔法の杖に染み込んでいく。
《トリックスター起動を確認しました。マスターかえでを承認。コア・プログラム、ニャースケの状態オールグリーン。セットアップ完了しました》
「な、なんかカッコいい」
「そうにゃ?」
初めて魔法少女に変身した時より魔法少女っぽい(?)演出だったから、少し感動した。
「それでニャースケ、トリックスターはどう使えばいい?」
「にゃ? ……じゃあ、とりあえずなんでもいいから破壊してみるにゃ」
「なんでもいいからって、私はピュアラファイしか使えないよ?」
「ご主人、とりあえず破壊してみようと考えてみるにゃ」
「うーん……」
じゃあ、端っこに残ってる木でも破壊してみるか。――と考えた瞬間、木が木っ端微塵に爆散した。いや、ダジャレのつもりはないんだが……。
「ど、どうなってるんだ?」
「ご主人は今、破壊と言えば木っ端微塵に爆散だな。と思ったにゃ?」
「えっ!? ……た、確かにちょっとは」
「トリックスターはそういう魔法にゃ」
「マジか。ていうことは、魔物を浄化したいと思えばできるの?」
「残念ながらあの魔物はトリックスターで浄化できないにゃ」
「どうして?」
「トリックスターの破壊魔法は自分がイメージできる範囲に限られるにゃ。今のご主人にあの魔物を浄化するイメージできるにゃ?」
「……いや、全然」
「なら、創造魔法を使ってもいいにゃ?」
「え? いいよ。どんなの?」
「こんなことできるにゃ」
ニャースケが前脚で空中にチョンチョンとすると、まさかの武器が現れた。
「なっ……! バカな、エクスカリバー!?」
先の戦いで武器再現し、使い切ったはずのエクスカリバーが眼の前にある。手に取ってみても本物の感触だ。
「ど、どういうことだ!?」
「ご主人、攻撃来るにゃ」
「うわぉっ!?」
レーザー攻撃を避けながら再度質問する。
「ニャースケ! これは一体!?」
「これがトリックスターの創造魔法にゃ」
「創造魔法ってまさか究極魔法の!?」
「あれとは全然違うにゃ。究極魔法の創造魔法は万物創造の巨大魔法にゃ。さっき言ったように、トリックスターは二面性の魔法にゃ。破壊魔法はふつー破壊しかできないけど、トリックスターは同一魔法で破壊と創造のどちらも可能にゃ」
「だからって、これはもうチートじゃないか!」
「そうかにゃ? デメリットのほうが強烈にゃ」
どんなデメリットなのかニャースケに訊こうと思うが、レーザー攻撃がしつこい。先に魔物を倒したほうがいいな。【エクスカリバー】があれば、あんな魔物は怖くもなんともない。
「湖の乙女の加護!」
スキル名を叫ぶと、剣から青いオーラが溢れ全身を包み込む。本当に発動した……。年一限定アイテムが、トリックスターで使い放題?
どんなデメリットかは知らんが、【エクスカリバー】が毎回使えるなら安いもんだろう。
「行くぞ!」
【湖の乙女の加護】はMPが尽きるか解除しない限り青天井に全能力強化が続く。つまり、今後はA++であろうと余裕でソロ狩りができる!!
「うおおおおお!!」
バフ始めは堅かったが、時間が経てば経つほど一方的になる。楽勝だな!
「これで、止めだぁー!!」
ガキィンッ!!
「――え?」
最後だと思って思いっきり斬りつけたら、手にすごい衝撃が来て思わず離してしまった。
え? なに? 何が起きたの!?
「ご主人、時間切れにゃ」
「へ?」
「エクスカリバーのバフ効果を維持するだけの魔力がもう残って無いにゃ」
「ええええええ!? ウソ!? だってこの前の時は一晩でも戦える感触が」
なんて言ってる間にレーザー攻撃が右肩を掠めた。
「きゃあああ!!」
掠っただけなのに……! 焼ける痛みが脳を刺す。熱いんだか痛いんだかも分からない。頭の中がぐちゃぐちゃになる。
「ご主人、トリックスターを使うにゃ」
「な、なにすれば……いいの!?」
「にゃー? とりあえずこれで応急処置にゃ」
ニャースケが魔法を発動した瞬間、頭がスッキリして視界が開けたような感覚になった。
「こ、これって……」
「これは緊急事態用の魔法にゃ。超強力な麻酔と考えるといいにゃ」
「ありがたい……。でもニャースケ、どうして魔力が切れたんだ? まだまだ行けると思ったけど」
「にゃー? 創造魔法のデメリットも分からないにゃ?」
「全く」
「おかしいにゃー……。創造魔法のデメリットは魔力総量の90%を消費するにゃ」
「……は?」
総量の90%? 確か俺の総量は15万くらい。ということは……。
「残り1万5000!?」
「それにピュアラファイと圧縮時空間の使用分も引かれるにゃ」
「はは……」
なるほどな。魔力量が物を言う魔法って、そういうことか。
確かにアブソリュート・レイに匹敵する力を持っている。しかしその秘めたる力を解放するには魔力がいくらあっても足りないようだ。
「使い所を見極めないとだな」
「にゃ。それで、どうするにゃ?」
「もう魔力残ってないから、棄権かな」
「にゃ……。ごめん、ボクのせいにゃ。引き継ぎがちゃんとできてなかったみたいにゃ。創造魔法のデメリット分かってると思ってたにゃ」
「いいって、気にしないで。私が魔力管理を怠ったせいだよ」
一応、魔法の杖のサブタンク機能もあるにはあるが、魔物を倒せるほどの量はない。
「すみませーん! 棄権しまーす!」
大きな声で叫ぶと、室内のスピーカーから帰来の声が聞こえる。
《棄権と言いましたか? 本当にいいんですか? こんなチャンスは二度とありませんよ》
「いやー、魔力管理ミスっちゃいまして、現実の戦闘なら撤退しないといけない。そう判断しました」
《……分かりました。では姫嶋かえでを失格とします。ロビーに戻って待機していなさい》
「分かりました」
話を終えるとニャースケを撫でる。
「にゃー?」
「トリックスターを使いこなせるよう、がんばるよ。よろしくね」
「にゃー。こちらこそにゃ。次からはご主人の足を引っ張らないよう、ボクもがんばるにゃ」
思わぬ形で相棒が増えた。千秋さんのためにもトリックスターを使いこなして、正規ルートで50キロメートルエリア担当になろう。
To be continued→
最後まで読んで頂いてありがとうございます。
応援よろしくお願いします。
まさかの結末になりました。これで楓人は正規ルートでの昇格を目指すことになります。いつ昇格できるんでしょうか……。




