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魔法少女かえで@agent 〜35歳サラリーマンが魔法少女やることになりました〜  作者: そらり@月宮悠人
第三章

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昇格試験④ ニャースケへ

「トリックスター?」


 祖母である中原陽子の手伝いに来ていた悠月は、聞き馴染みのない言葉を聞き返した。


「て、なんですか?」

「先ほどスレイプニルが私に伝えてきたんだよ。継承魔法が行われたとね」

「継承魔法って、自分が愛用していた魔法を引退時に誰か他の魔法少女に移譲できるっていう、アレのことですか?」

「ああ。知っての通り、魔法の杖に登録された魔法を他人に移譲することは原則できない。それを可能にする例外的な措置だ」

「でも、同じ魔法を使いたければ自分で登録すればいい話ですよね?」

「ふっ、それができない魔法もあるんだよ」

「できない魔法?」


 陽子は理事長としての事務仕事を一つ終えて紅茶を飲み、ひと息つく。


「独自にカスタマイズされた魔法や、新たに編み出された魔法、あるいはオールドタイプなど、簡単には登録できないものがある。ものによっては使い手が死ぬと起動すらできなくなるケースもある。そんな一癖も二癖もある魔法を、それでも遺しておきたいという思いから生まれたのが継承魔法システムだ」

「その一つが、トリックスターなんですか?」

「そういうことだ。継承魔法は誰にでも継承できるわけじゃない。だから継承する者が現れたら天界に通知が届き、私や北見のような要職、あるいは100キロメートルエリ(デセム・マギア)ア担当などに報告されるのだよ」

「それで、トリックスターはどんな魔法なんですか? 誰が継承を?」

「名の通り、悪戯者で扱いが難しい魔法だ。以前の継承者は上手く手懐けていたようだったよ。ちなみに魔法の本体は猫だ」

「ね、猫?」

「そして、継承者は姫嶋かえでだ」

「姫嶋かえで……」


 *   *   *


「ところで、ボクの名前はどうするにゃ?」

「え? 名前って今決めるの?」

「じゃないと、トリックスター(この魔法)にフルアクセスできないにゃ」

「えー、リセットしないまま使えないの?」


 魔物は再びレーザーを撃つ体勢に入る。さっきの裏ワザみたいなのはそう何度も使えないから、仕方なく木々の間を逃げる。


「使えないこともないにゃ。でもそれだと、やはりフルアクセス権限は使えないにゃ」

「フルアクセスすると、なにができるようになるの?」

「にゃにゃ? やってみると分かるにゃー」


 一刻も早くなんとかしないとって状況なのに、この黒猫は……!


「分かったよ! フルアクセス!」

「リセットするにゃ?」

「ニャースケは、それでいいんだな?」

「……ボクは意見する立場にないにゃ」


 こいつ、わざと俺にリセットさせようと……。


〈ハロー、メイプル〉

〈どうしたの? 今試験中でしょ?〉

〈トリックスターって魔法を継承した。こいつの引き継ぎコードを割り出せないか?〉

〈天界のデータセンターにアクセスして、以前の持ち主のデータを洗えば……。望み薄だけどね〉

〈どれくらい掛かる?〉

〈ざっと10分〉

〈悪い、時間が無い。5分で頼む〉

〈無茶振りなんて珍しいね。ま、やってみるよ〉

「どうしたにゃ? 誰と魔法通信してるにゃ?」

「なんでもない。悪いがフルアクセスは後にしてくれ」

「なにゃ!?」


 こいつは俺のことをご主人と呼ぶが、なんとか前の持ち主を忘れたい。振り切りたい一心なんじゃないか。いくらプログラムだって、そんな悲しい顔見せられて軽々(けいけい)にリセットなんかできる訳ないだろ!


「なに言ってるにゃ!? 早くフルアクセスしないと魔物にやられちゃうにゃ!」

「いいんだよ。どうせあれは試験用に作られた擬似的な魔物なんだから」

「試験?」

「50キロメートルエリア担当に昇格するための特別試験だよ」

「そ、そんな大事な試験なら、尚更にゃ!」


 魔物のレーザー攻撃は留まるところを知らない。次第に木は無くなり開けた場所が増えてきた。


「そうだな。合格できれば最高だけど、もしダメでも正規の試験がある。そっちで合格を勝ち取ってみせるよ」

「正規の試験がどれだけ大変か分かってるにゃ!?」

「もちろん。元々はそっちを目指してたんだ。目標もやることも変わらないよ」

「……ご主人、あんた何者にゃ?」

「姫嶋かえで。三ツ矢女学院中学2年生だよ」

「三ツ矢女学院? お金持ちにゃ」

「だったら良かったんだけどな」

「どういうことにゃ?」

「なんでもない。気にするな!」


 話しながらレーザーをピュアラファイで相殺する。流石に慣れてきたのもあって、回避はできるようになってきた。

 だが、ついに木は全て薙ぎ倒され、いよいよ後が無くなる。


「……前のご主人はお金持ちじゃなくて、文武両道でもなかったにゃ。でも聡明で優しく強かったにゃ」

「そっか」

「あんたは、前のご主人より頭悪そうだし魔力使いこなせてないし、本当に50キロメートルエリア担当の試験を受ける資格あるのか疑問にゃ」

「あはは……」

「でも、その奥には他の魔法少女と違うものがあるにゃ。優しいとか強いとかじゃない、もっと根本的なものにゃ」

「そ、そうかな……?」

「言いたくない秘密があるなら構わないにゃ。ボクを使うには困らないにゃ」


 魔物が狙いを定める。さて、いよいよ覚悟を決めないといけないな……と思った時だった。


〈マスター、残念ながら引き継ぎコードは見当たらなかったよ〉

〈そうか……〉

〈その代わり、メッセージがあったよ〉

〈メッセージ?〉

〈ニャースケへって〉

「なっ!?」

「どうしたにゃ?」


 まさか、前の使用者――北見校長の友人が、万一のために遺書を残してたのか!?


「……ニャースケ、圧縮時空間を頼む」

「にゃ? なんで今」

「早く!」

「にゃ!? わ、分かったにゃ」


 圧縮時空間に入ると、メイプルからメッセージのデータを受け取る。……間違いない。これはニャースケへのメッセージだ。


「ニャースケ、詳しい事情はまたあとで話すけど、これは前のご主人からのメッセージだ」

「にゃ? 前のご主人?」


 ニャースケにメッセージを見せると、ニャースケは小さく「ご主人……」と呟き、大粒の涙を流す――。


 ❐   ❐   ❐


 ニャースケへ。


 これを読んでる。または読んでもらってるということは、あたしはもういないんだと思う。

 あんまり感傷に浸ることはしたくないんだけど、最初に会った時は今でも覚えてるよ。いきなり圧縮時空間に引き込んで勝手に魔力を浪費させて、あたしがマジギレしてデリートしようとしたんだよね。あの時のニャースケの慌てた顔は今でも覚えてる(笑)


 こんな形で伝えることになってごめん。実はこの前、魔物から呪いを受けたの。余命半年もないって。だからね、急ではあるけど魔法少女は引退して、トリックスターも継承魔法のリストに入れてもらうことにした。

 リストは美緒ちゃんに託したから、次のご主人はきっと良い人だと思う。


 引き継ぎコードも同封するから、もし新しいご主人と一緒にやりたいってニャースケが思うなら、引き継ぎしてからトリックスターを使って欲しい。だって、ニャースケは私の友だちだからっ!


 ❐   ❐   ❐


 メッセージの続きには、この子にとってどれくらいニャースケが大切な存在だったのかが熱く語られていた。


『どこを探しても引き継ぎコードが無いわけね。まさか遺書に同封されてたなんて』

「ありがとな、メイプル。どこにあったんだ?」

『私物のストレージ。ロック掛かってたのを強引に突破しちゃった』

「私物の? 天界のデータベースじゃないのか」

『たぶん、本当は誰にもニャースケを渡したくなかったんじゃないかな? それでも相応しい人がいればその人に譲りたい。だから北見さんに託したんだと思う』


 確かに、北見校長の人を見る目は確かだ。それでも現れないのなら誰にも継承されることなく、静かにずーっと眠ったままだったろう。この子と一緒に……。


「……ご主人、ボクはトリックスターにゃ。悪戯好きで善と悪、破壊と創造の二面性を併せ持つクセの強い魔法にゃ。千秋ちゃんも慣れるまでに何年も掛かったにゃ」

「千秋……。それが前のご主人の名前か」

「にゃ。でも、この引き継ぎコードがあれば、千秋ちゃんのノウハウを活かせるにゃ」

「なるほど、強くてニューゲームができるわけか」

「ボクは姫嶋かえでをご主人として認めるにゃ。でも、千秋ちゃんの想いも引き継ぎたいにゃ!」

「もちろん。私も北見校長から託された。千秋さんの想いも、北見校長の想いも引き継いで行くぞ! ニャースケ!!」

「にゃーっ!!」



 To be continued→

最後まで読んで頂いてありがとうございます。

応援よろしくお願いします。


全く意図してない偶然だったんですけど、ニャースケ初登場の前回は『猫の日』でした。推敲してて気づきました……。


今まではスレイプニルがマスコット的な存在というか、位置づけだったんですが、果たしてどちらがマスコットになるでしょうか。

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