昇格試験③ トリックスター
北見校長から継承した魔法は『トリックスター』というものだった。
どんな魔法かは分からないが、それでも切り札となるものはこれしかないんだ。ぶっつけ本番で発動させてみるしかない!
「タダでやられる訳にはいかないんだよ!」
レーザーが発射されると同時にトリックスターを発動させる。と、眼の前の景色がカチッと止まる。
「へ?」
ど、どういう事だ? この魔法には時間停止の効果もあるのか!?
「あんたが次のご主人かにゃ?」
声のする方、右斜前に黒猫が座っていた。
「……え?」
「にゃ? あんたもしかして“引き継ぎ”してないのかにゃ?」
「えと、ひ、引き継ぎ?」
「あのご主人、ズボラにも程があるにゃー」
「あのご主人って、まさか……」
「んにゃ? 知ってるのにゃ?」
「いや……。けど、たぶんご主人の友人だと思うよ。私にこの魔法を渡してくれたのは」
「……友人?」
「うん。北見美緒っていうんだけど」
その名を出すと、黒猫は耳をピンと立てる。
「美緒ちゃんがあんたに譲ったにゃ!?」
「うん。継承魔法っていうので」
「……ということは、ご主人はもういないのにゃ?」
「あ……。うん。そう聞いてる」
「にゃぁ……」
そうか、この黒猫はトリックスターの本体で、今まで休眠状態にあったのか。
「君がトリックスターの本体なの?」
「そうにゃ。トリックスターのコア・プログラムのニャースケにゃ」
「ニャースケ?」
「ご主人に付けて貰った名前にゃ。あんたが次のご主人になるのなら、リセットもできるにゃ」
「リセット?」
「引き継ぎができないにゃ? なら以前のご主人が使ってた設定はあんたには使えないにゃ。名前も変える必要があるにゃ」
以前のキャラデータが使えないなら新しく作り直すしかない。みたいな感じか。
「分かった。ところで、どうして景色――というか世界が止まってるんだ? 時間停止が使えるの?」
「これはトリックスターにある機能の一つにゃ。圧縮時空間で擬似的な時間停止になってるだけにゃ」
「あ、圧縮時空間……?」
「にゃー、あんた頭良くないにゃ?」
「す、すみません。あまり良くはないです……」
「簡単に言うと、今あんたとボクがいるのは1秒の1万倍の時間がある空間にゃ。停止はしてないけど、ここでは1万秒経たないと現実世界の1秒にはならないにゃ」
マジか! てことは、約3時間もの猶予が生まれるってこと!?
「すごいじゃないか! これならいくらでも対策が打てるよ!」
「あんたバカにゃ?」
「え?」
「そんなずーっと居られる訳ないにゃ。この圧縮時空間に居る限り魔力を消費し続けるのにゃ。つまり、3時間どころか1時間も居れば干からびるにゃ」
「えええー!? どうしてそれを早く言ってくれないんだよ!」
「聞かれてなーいにゃ」
ニャースケはそっぽを向いて尻尾を丸める。
くぅ〜! なんか小憎たらしい!
「で、どれくらい魔力消費するんだ!?」
「そうにゃー、1分500ってとこかにゃ?」
「え? 1分500? ならギリギリ持つか」
「そうにゃ。だからさっさと……にゃ? 今なんて言ったにゃ?」
「え? ギリギリ持つかなーって」
「話聞いてたにゃ? 1分500にゃ」
「うん。私の魔力総量15万あるらしいから」
「15万!?」
「ね? だからギリギリ持つでしょ」
「……あんたバケモンかにゃ」
「他の人より少し魔力が多いだけだよ」
「ぜんっぜん少しじゃないにゃ」
黒猫は諦めたように深くため息をつくと、「イジメてやろうと思ってたけど、気が変わったにゃ」と言って肩に乗る。
「しばらくお世話になるにゃ、ご主人」
「じゃあ! 力を貸してくれるんだね!?」
「にゃー。ほら、あんな奴さっさと片付けるにゃ」
「で、でも圧縮時空間を出たらすぐやられちゃうんじゃ……」
「にゃはは、トリックスターを舐めちゃダメにゃ。行くにゃ」
圧縮時空間が解除されると、眼の前に迫っていたレーザーが俺を貫通……しない?
「あれ? どうなって……」
「ご主人の魔力を勝手に使わせてもらったにゃ」
「ど、どういうこと?」
「圧縮時空間の余った時間を逆流させて、魔物の攻撃をキャンセルしたにゃ」
「そんなことできるの!?」
「さあ、ご主人。反撃開始にゃ」
To be continued→
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