昇格試験①
魔法少女協会にある訓練棟。その一室に試験を受ける魔法少女が集まっていた。
「遅くなりました!」
本業の調整が思ったより長引いてしまった。どうやら俺が最後のようで、「これで全員だね」と試験官らしき魔法少女がパンッと手を叩く。
「今回の特別昇格試験を担当する帰来です。さて、簡単に自己紹介をしてもらおうかな。右から」
「修善寺雅。アタッカーです」
「紅林望。同じくアタッカー」
「えーと、若月由和です。マジカルです」
「シャルロット・高槻です。つい最近マジカルからコンバットに転向しました」
シャルロットは技能試験以来だな。コンバットに転向したのか。
「姫嶋かえで、マジカルです」
「今回の試験は以上の5名で行いますが、それぞれ別部屋での試験となります」
「え? 別部屋ですか?」
「そうです。心配しなくても内容は同じですよ。擬似的に再現した魔物を浄化するか、魔物に関する情報を3つ以上報告すること」
「それだけ?」
紅林が訝しむように訊くと、帰来は「それだけです」と答える。
50キロメートルエリアへ昇格するにしては簡単に思える。だが、そんなに簡単な訳がない。恐らくは強力な魔物が待ち構えているんだろう。
「ああ、それともう一つ。中でなにが起きようと試験は中断しません。やり直しも無し。そして試験に関しての質問も受け付けません。ルームナンバーは1010、1020、1030、1040、1050です。早い者勝ちでもいいし、くじ引きでもいい。皆さんで好きに決めて下さい」
気になる言葉もあったが、質問は受け付けないらしいから、訊いても無駄なんだろう。
それよりも試験内容が単純で助かった。これなら試験が終わってからライブまで余裕で間に合うな。
「さて、どうしようか」
部屋の選び方を決めようとすると、紅林は「私、1010で行くから」と言ってルームナンバー宣言を始める。
「ちょ、ちょっと!?」
「なに? あんた、姫嶋だっけ? こんなのどれ選んだって変わらないんだから、テキトーに選べばいい」
まあ、一理ある。どの部屋にどんな魔物がいるか分からない以上は運ゲーだ。気持ちの問題である以上、無理に引き止めるわけにも行かないか。
「ふぅ。どうする?」
他3人を見ると、修善寺は「私もべつにどこでも」と言うし、若月は「わ、私は、その……残った部屋で」と消極的。そしてシャルロットは……。
「姫嶋さん、あなた夕方から用事があるんですってね?」
「え? ま、まぁ」
「友人として忠告してあげる。この試験は夕方までに終わらない可能性が高い」
「え!?」
夕方までに終わらないって、一日掛かるってことか? そんな馬鹿な!
「どうしてそう思うの?」
「あなた、気づかなかったの?」
「え?」
「この試験、時間制限が無いのよ」
「あっ!!」
そうか! さっき試験官の帰来は試験内容しか話してない。時間制限については触れていない!
「参ったなぁ……」
「で、でも、可能性の話ですよね?」
「そうですよ。さっさと終わらせれば良いだけです」
「そ、そうだよね!」
そうだ。サクッと終わらせればいいだけのことだ!
「なら、次は姫嶋さんね」
「え?」
「一刻も早く終わらせないといけないんでしょう? なら早く行きなさい」
「シャルロット……」
「私はどれでもいいので」
「わ、私は最後なので」
「……分かった。ありがとう!」
ルームナンバーはどうしようか。ま、順番通りでいいか。
「ルームナンバー1020M!」
宣言すると景色が後ろへと流れてワープする。着いた部屋は森のようだった。山の中かな?
「――!」
ガサガサと物音がして警戒する。魔物の気配はあるが、ボンヤリとしていてどこか分からない。
こういう時、メイプルがいれば心強いんだが、今日は封印しているため完全に独りだ。
「……。そこか!?」
クイックドロウでピュアラファイを撃ち込むと手応があった。
「よし、アナライズ!」
魔物を倒す作戦を練るために情報を得ようとする。が――
「なっ……」
視界ディスプレイには「NO DATA」と表示された。ニューラなどのERRORとは違う。単純に情報が無いということか?
「一体これって……」
あ。そういえば、さっき試験官の帰来が言ってたな。
『ああ、それともう一つ。中でなにが起きようと試験は中断しません。やり直しも無し。そして試験に関しての質問も受け付けません』
「なるほど、そういうことか」
この試験は未知の魔物と初めて遭遇したというシチュエーションなんだ。だからデータは無いし、どんなトラブルがあるか分からない。そんな中で浄化するのか、情報を持ち帰るのかを判断する。
恐らくこれは50キロメートルエリア担当の仕事なんだろう。つまりは斥候任務のようなものか。
「上等だ。ミニライブが始まるまでに終わらせてやるよ!」
To be continued→
最後まで読んで頂いてありがとうございます。
応援よろしくお願いします。
いよいよ50キロメートルエリア担当昇格を賭けた戦いが始まります。どういう魔物なのか、次回をお楽しみに。




