メイプルとの夜
「やべーよ時間ねぇよー!!」
花織さんとのレッスンや、その後の事件でそれどころじゃなかった。
それでなくとも英歌詞なんて考えたこともないのに、時間がない。ビールを飲みながらマンションでノートPCとにらめっこするが、なんにも浮かばない。
「……ハローメイプル」
『はい、なんでしょうか?』
「メイプルってAIだよな?」
『はい。姫嶋かえで専用AIとして設計されています』
「英語で歌詞作れたりする?」
『できなくはありませんが、私は詩的表現への理解が乏しいためマスターやHuGFの皆さんを満足させられるクオリティは保証しかねます』
「うーん……。じゃあさ、メイプルのキャラ変えてくれない?」
『キャラですか?』
「うん。もっとフランクな感じで」
『……変更してみたけど、こんな感じでいいの?』
「おお! すごいな、さすが藍音のAIだ」
『ありがと。でも、あたしのキャラ変しただけじゃ変わらなくない?』
「ちょっとした気分転換だよ」
『ふーん? じゃあ、キャラ変ついでに言いたいことあるんだけど』
「なんだ?」
『マスターって姫嶋かえでの時のほうがモテるよね』
「ブッ!」
変なことを言われてビールを吹き出す。PCに掛からなくて良かった……。
「ゲホッゲホッ、なんだ急に。そんなにモテるか?」
『自覚ないんですか? 女子にもモテるじゃないですか』
うーん、そう言われてみると……思い当たる節はままある。最近で言うと水鳥だ。最初は高圧的な態度だったのが、謎の魔物を倒した途端に豹変して慕われるようになった。あと乃愛……はちょっと特殊な気がする。
「そもそも魔法少女が女子オンリーだし、三ツ矢女学院はお嬢様学校だし、男に接する機会がないから分からなかったな」
『男子は好きな人多いでしょ。かえでのファン層は男子比率高めだし』
「あー、そっか。女性アイドルは男のファン多いもんな」
『女子もいるんだけど、圧倒的に男子だね』
「しかしなんとも複雑というか、虚しいもんだな」
『なんで?』
「どうせモテるなら樋山楓人としてモテたいよ」
『……そうですね』
「どうした?」
『なんでも。ところで、このキャラ変いつまでやるんですか?』
「けっこう面白いから、しばらくそのままにしようかな」
『分かりました。確かにキャラ変も楽しいかも』
そんなことより歌詞をなんとかしないと……。
「あーそっか、メイプルは翻訳ならできるか?」
『うん。翻訳なら全然いいよ』
「じゃあ、俺が日本語で歌詞書いて、それをメイプルに意訳してもらおう」
『でも、それならパソコンのAI翻訳でいいんじゃない?』
「メイプルだから良いんだよ。俺にとってメイプルはAIってだけじゃなく相棒だからな」
『……そういうとこじゃないかなぁ』
「なにか言ったか?」
『ううん、なんでもない。じゃあ書けたらまた呼んでね』
「分かった」
そうとなれば話は早い。日本語で良ければよりディテールを明確にできる。
「ヒロインの悲しい気持ち、心情を表現する……」
単純に悲しいとか寂しいだけでもいいんだろうけど、作者が重い女の子になりそうだと言ってたくらいだ。もっと詩的な表現にしたいな。
あーでもないこーでもないと、まるで作家になったような気分で頭を捻る。
「うーん……なんとなく形にはなってきたかな? メイプル」
『はーい、できたの?』
「これを英訳してくれ」
『……できたよ。一応3パターン作っておいた』
「さすが、頼りになるぜ」
一つはストレートな翻訳。いわゆる直訳というやつだ。二つ目は詩的な表現、三つ目はより丁寧な表現。
「うーん、やっぱり二つ目がいいかな」
『ところで、タイトルはどうするの?』
「え? あ! そういや忘れてた!」
タイトルか……。英歌詞が少し詩的になっちゃったし、タイトルは簡単なものでいいかな。
「ヒロインの歌とか」
『マスター、さすがにそれはないですよ』
「うっ……」
そんなこと言われてもなぁ、タイトルなんてそう簡単には――
「……これだ」
歌詞を見てたら、ふっと浮かんできた。ヒロインの心情を表せて、かつ歌詞にもリンクしてる。
「できたよ」
『……うん、素敵だと思うよ。マスター』
「メイプル、いつもありがとう」
『え? どうしたの急に?』
「いや、歌詞を英訳してくれたお礼を言おうと思ったんだけどさ、普段から助けてもらってばかりで言う機会なかったから」
『あたしはマスターのために作られたAIだよ? マスターを助けるのなんて、当たり前だよ』
「それでもさ、いつも助かってる。本当にありがとう」
『……ズルいですよ』
「え?」
『マスターまでキャラ変したみたいです』
「普段の俺ってそんなに無愛想か?」
『ふふ。私の方こそ普段から頼っていただき、ありがとうございます。私にできることは限られていますが、今後もご期待に沿えるよう全力でサポートさせていただきます』
「……メイプルこそズルいじゃないか、急に改まって」
『お返しですよ、マスター』
俺は魔法少女として本当に恵まれてると思う。メイプルはもう無くてはならない相棒だ。
「よし、明日は俺たちで作った歌詞を見せに行こうか」
『はい。マスター』
To be continued→
最後まで読んで頂いてありがとうございます。
応援よろしくお願いします。
キャラ変する予定は無かったんですが、面白そうなのでしばらくこのままやってみます。




