事件後 - 日常
新種の魔物、ニューラによる事件が終わって2日が経ち、学校はようやく日常を取り戻した。
「あんなに破壊されまくった体育館や図書館があっという間に元通りか」
事件後、被害の大きさや花織さんの介入もあり、魔法少女協会としても流石に黙っているわけには行かず、事後処理部隊が派遣されることになった。
ニューラの情報も共有され、今後同じような未知の魔物を発見した際には報告するよう校長に釘が刺された。
「そのための専門部隊だからね」
「中原理事長」
理事長にも厳重注意の通達があったようだ。この人の場合はそんなの気にしてないだろうが。
「今回は助かったよ」
「いえ、皆のおかげです。ニューラは花織さんが倒してくれましたし」
「謙遜することはない。カレーに洗脳魔法が仕込まれていたことに気づいたのは君だ。それに協力者と良好の関係を築いていたからこそ、ニューラの野望を阻止することができた。悠月を温存できたのも大きい」
「温存?」
「悠月には魔法少女としての活動を大幅に制限させてあるんだよ」
「それはなんのために?」
「ふっ、いずれ分かるよ」
珍しい。わりとなんでも話してくれる中原理事長が秘密にするなんて。悠月にはそれだけの秘密があるってことか? 生徒として通う意味が強くなったかも知れないな。
「では、失礼するよ。やることが山積しているんでね」
「はい。また」
理事長を見送り、改めて学院を見て回ると、ニューラの事件があったとは思えないほどいつも通りだ。しかし、実は変わった事もある。
「あ、姫嶋さん」
「えーと、黛茜さん?」
「はい。覚えていてくださって、光栄ですわ」
黛茜。ニューラの間接洗脳によってフィノェラとして陽奈と戦った女の子だ。
他の3人もそうだが、ニューラによって強引に魔法少女として覚醒した生徒は記憶消去が効かなかった。
4人は魔法少女候補としてリストに載っていたこともあり、今回は特例として記憶そのままに日常に戻っている。
「あの時は本当にすみません、大変お世話になってしまって」
「いいって、やったのは私じゃないし、黛さんが元気になって良かったよ」
「茜でいいですよ。黛は呼びにくいでしょうし」
「そう? 分かった」
「あの……例の件については天界に話されたんですか?」
「いや、まだ言ってないよ」
茜がフィノェラとして立ちはだかった時に出てきた謎の女。魔法少女の身体を乗っ取るという前代未聞の離れ業をやってのけ、そのまま行方をくらませた。
「どうしてですか?」
「実は心当たりがあってね。先にそれを確認したいんだ。そのあとで報告するよ」
「あの存在に心当たりが? ――まさか、魔王ですか!?」
「どうかな。魔王でもおかしくない強さだったけど、魔王って感じしなかったんだよね」
「姫嶋さんには助けていただいた御恩があります。いつでもお力になります」
「ありがとう。その時にはぐふぅっ!」
後ろから「姫嶋さーん!」とタックルしてきたのはアイクルこと茅野芽衣。保健室で話した時は大人しそうな印象だったのに、回復したら元気で活発な子になった。
「か、茅野さん……元気そうでなにより……」
「茅野さん、変わりましたよね?」
「うん、そうなんだ」
「姫嶋さん! 真中が呼んでるよー」
「真中さんが?」
今回の事件の司令塔だったヤノウこと真中優。花織さんが直接相手になるという、なんとも不運な子だ。勝てるわけないだろ。
ちなみにリュードクラこと「寺門小百合」は結界魔法の技術を買われて技術班へ。イモンこと「松本このみ」は限界を超えた出力によるダメージが残っていて――正式な魔法少女ではないためRドリンクが効かない――休養中だ。
呼び出されたのは事後処理部隊によって完璧に直された図書館だ。あんな事があったなんて想像もできないくらい元通りだ。
「姫嶋さん、こちらです」
呼ばれて奥のほうの席に着く。
「真中さん、用事って?」
「ニューラについてです」
「なにか新しい情報?」
「その前に。――ここだけの話、私はスパイです」
「え!?」
「私は魔法少女協会から密命を受けて三ツ矢女学院に入学しました。もちろん正面から堂々とです。試験も合格してます」
「ちょ、ちょっと待って! 大丈夫なの? こんなとこでそんな話」
「問題ありません。この場所には遮音結界に封魔結界と保護シールドを重ね掛けできる仕掛けがありますので」
「そんな仕掛けいつ……もしかして、そのために図書館を半壊させたの?」
「お察しの通り、事後処理部隊を利用させていただきました。ですが、あくまで修理ついでに仕込んでもらっただけです。さすがに仕掛けの為だけに半壊させたりはしません」
「……分かったよ。ということは、名前は偽名?」
「いえ、名前は本名です。三ツ矢女学院の信用を得るには偽名では良くないと判断したので」
「はぁ……、なるほどね」
「もしかして、気づかれていたんですか?」
「まあ、なんとなくね。真中さんがそうだとは知らなかったけど」
考えなかったわけじゃない。いくら魔法少女協会に秘密で魔法少女を育てていると言っても、魔法少女協会が――天界がそれに勘づかないはずがない。
それに、何十年も黙認してるなんて、システム管理者としてはあり得ない。黙認してるのは表向きで、学院にスパイを送り込んで内情を探っていたわけだ。
「さすが姫嶋さんです」
「どういうこと?」
「ご存知ありませんか? 姫嶋かえでは天界にとって例外的特異点として監視対象なんです。なので、ある程度の情報は私にも降りてます」
「なるほどね……」
そういうことなら、なんとなく分かってた。ぷに助が散々言ってる事だしな。
「機密事項が多分に含まれるので、その詳細は分かりませんが、実際に見て接して、あなたは只者じゃないと分かります」
「そんな大層なものじゃないよ、ただの中学生だって」
「そんな言い分、信じるのは民間人だけですよ」
「うっ……」
「ですが、今日はあなたの正体を暴露するために呼び出したのではありません。花織さんとお話したこと、ニューラについてです」
「あれ? 花織さんとはお話しただけ?」
「はい。私が戦闘向きではないと看破されて、お話がしたいと言われまして」
流石だな。花織さんは魔法少女として一流なだけじゃなく、人を見る目も確かなようだ。姫嶋かえでにも早くから目をつけていたようだしな。
「でもなんで私に?」
「花織さんから、姫嶋さんにも話して欲しいと言われましたので」
「そっか、花織さんが」
「それに、姫嶋さんとお話してみたかったので」
真中さんの瞳がキラキラしている。なんだろう、ものすごく期待されてる感がある。
「じゃ、じゃあ話を聞かせてもらおうかな」
「はい。結論を先に言いますと、ニューラが狙っていたのは学院そのものではなく、地下でした」
「地下?」
「入口の無い地下にある結界の破壊。それこそがニューラの狙いだったんです」
To be continued→
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