学院の異変㉖ 謎の女vsフィノェラ
俺と謎の女とのやり取りは相手の女の子には分からないようで、「さっきからなに独り言を言ってるの?」と理解できない様子だった。
「気にするな。魔法少女でもない民間人の貴様には関係の無いことだ」
「……馬鹿にしないで。私はフィノェラよ、特別な存在なの。ニューラ様に認めて頂いた唯一無二の存在なのよ!」
「特別な存在か、貴様のような年頃にありがちな話だな。 思春期には自分が特別な人間であると思いたがる」
「黙って!!」
フィノェラと名乗る女の子は、また本になにやら書き込む。すると本棚からいくつかの本が飛び出し、紙片を鋭い刃として飛ばしてきた。
「ふん。児戯だな」
謎の女は微動だにせず攻撃を受ける。
『って私の体ああああ!!』
「落ち着け愚か者。この程度の攻撃が直撃したところで掠り傷もつかんわ」
『...... ほんとだ』
どうなってるんだ? あんなすごい攻撃を受けておい て......。フィノェラも信じられない顔で姫嶋かえでを見つめていた。
「うそ......」
「もう終わりか? これだけでも力の差はハッキリと分かっただろうが、貴様には私が直々にお灸を据えてやろう」
魔法の杖をフィノェラに向けると魔法名を呟く。しかしそれがなんて言ったのか聞き取れない。というか、聞いたことのない言語だ。英語でもフランス語でもドイツ語でもない、もちろん日本語ではない。
なんと言ったのかは分からないが、確かに魔法は発動した。
『これは……』
見ただけで怖気がする。これが本当に魔法によって作り出された武器なのかと思うほどに禍々しい。唯一表現できるとしたら、それは槍としか言えなかった。
「なによ……それ」
「これか? 大昔の兵器だ。今で言う災害級の魔物を殺すためのものだが……。安心しろ。威力は抑えておいてやる」
ニヤリと笑う女はその槍をフィノェラに向かって投げる。フィノェラはそれをどうにかしようと本にペンを走らせる。
「舐めないで!」
禍々しい槍は、フィノェラの一歩手前で見えない壁に止められる。しかし女は「それがどうした?」と言わんばかりの笑みを浮かべて、同じ槍を3本召喚する。
「さあ、どこまで耐えられるかな?」
フィノェラは2本、3本と受け止める。だが、どう見ても苦しそうだ。
「ぐぅ……! こんな、こんなもので……!」
「ほう、思ったより耐えるではないか。なら、最後にチャンスを与えてやろう」
「チャンス?」
「最後の攻撃は出力を30%に上げる。それに耐えることができたのなら、貴様の望みを一つ叶えてやる」
「望み……ですって?」
『ていうか、今は何%なんだ?』
「今は10%未満といったところか」
10%未満でこの威力だって!?
「さあ、どうする?」
『無茶言うな! 耐えられるはずがない!』
「小僧は黙っていろ」
「――っ!」
この女の圧力はなんなんだ? 突然姫嶋かえでの身体を支配した事といい、只者じゃないことは分かるが……。
「……本当に望みを叶えてくれるんでしょうね」
「ああ。魔法関連ならな」
「いいわ。あなたが何者かは知らないけど、その誘いに乗ってあげる」
流石に中身が姫嶋かえでじゃないと気づいたか。
「では、行くぞ」
禍々しい槍に力が宿るのが分かる。さっきまでとは明らかに違う。フィノェラに向かって投げられた槍は、他の3本をも蹴散らして見えない壁にぶつかる。
「くっ!」
受けるフィノェラはペンを走らせる。見えない壁だけじゃなく、先ほど女を襲った紙片の残りをかき集め、さらに本棚の書籍を総動員して防壁を作り上げる。
そして、まだ足りないとばかりに土を集めてゴーレムまで造ってしまった。
『なんでもありだな……』
「そう思うか?」
『なにか知ってるのか?』
「あとで分かる。そろそろ決着をつけようか」
止められていた槍は見えない壁を破ると、紙片の壁もゴーレムも突き破りフィノェラへと迫った。
「私は……私は負けられないのよ!!」
最後の力を振り絞ってペンを走らせる。最後に現れたのは天使だった。どこか見覚えのあるような天使は、槍を止めたかと思うと突き破られ霧散する。
槍は勢いを失うことなくフィノェラに直撃して爆発した。
『おいおい、爆発したけどフィノェラは大丈夫なのか?』
「心配ない。最後は私がガードしておいた。出力を上げたのは防壁を突破するためであって、奴を殺すためではない」
ちゃんと考えていたんだな。なんて言ったらまた睨まれそうなので飲み込んでおいた。
「……私は、負けたのね」
「ああ。しかし誇っていい。あれを防げるのは今の高位でもそうはいないだろう」
「あなた、一体何者?」
「さあな。私の正体などどうでもいい」
『いや、全然どうでもよくないんだけど』
「まったく、うるさい奴らだ。そんなことよりも、貴様の持ってるそのアイテムだ」
『アイテムって……フィノェラの本のことか?』
「これは私の魔法よ」
「私の魔法? ククク」
「なにが可笑しいの」
「知っているぞ、その魔法。そのペンで書いた内容を実現化するものだろう?」
「なんでそれを!?」
「名前は確か……。そう、世界を書き換える筆。それはレプリカだな」
「レプリカ……ですって? デタラメ言わないで。そんなはずないわ! だってこれは」
「ニューラによって覚醒した自分が発現した魔法だから。――か?」
「ええ、そうよ」
「残念ながらそれは違うな。そう思い込まされているだけだ」
言い切る女にフィノェラは食い掛かる。
「なんでそう言えるの? 証拠でもあるっていうの!?」
「オリジナルを知っているからだ」
「……は?」
「そして、オリジナルは私が封印した。だからここに在るはずがないんだよ」
あまりに突拍子もない話に、フィノェラは笑い出す。
「あっははは!! いいわ、あなた最高よ! ホラ吹きもそこまで真に迫ると馬鹿にできないわね」
「それはそうだろうな。本当の事なのだから」
「……じゃあ、質問してあげる。なんで封印したの? 破壊するなり燃やすなり、消しちゃえば良かったじゃない」
「愚問だな。貴様はそれを使っていて気づかなかったのか? そのアイテムの危うさに」
「……」
「それは下手に消去しようとすれば暴走し、世界に大きなダメージを与えかねない。それゆえに封じるのが最良だと判断したまでだ」
俺にとっては驚きの連続だった。
魔法は魔法の杖を使うものだとばかり思っていたのに、魔法のアイテムがあるとは……。しかもそれが書いた事を実現化できるなんて、チートじゃないか?
「しかしレプリカがあるということは、オリジナルの断片を隠し持った愚か者がいたということか。まったく面倒なことだ」
「一つ。質問していいですか?」
「ふむ。ようやく教えを請う態度になったか。いいだろう、答えてやる」
「この魔法は万能だけど、実はなんでも実現化できるわけじゃないの。もしこれがオリジナルなら……」
「ああ、オリジナルには制限がない。あらゆる事象を書き起こすことができる。だから封印したんだ」
「そう……」
フィノェラは戦意を失くしたようだ。これでニューラに間接洗脳された4人全員を止めることができた。
「姫嶋さん。あとで陽奈に伝えてもらえる? ごめんねって」
「それは自分で伝えたほうがいいんじゃ……って、あれ!?」
『用は済んだ。身体は返すぞ』
「ちょっと待って! どこにいるんだ? 君は何者なんだ!」
『お前に教える義理はない。――ああそうだ、さっき撃ち落とした……陽奈だったか? あれに残留していた魔法もついでに破壊しておいた。少し後遺症は残るかも知れんが……じゃあな』
「おい! ――っ!」
粋な置き土産と気になる言葉を残して気配が消えた。なんなんだ……。
「消えたの?」
「え? ああ、うん。そうみたい」
「その様子だと、姫嶋さんにも何者なのか分からないようね」
「うん。見当もつかないよ」
「気をつけてね。魔法少女の身体を遠隔操作するなんて、ニューラ様でもできないわ」
「分かった。ありがとう」
魔法少女の身体を乗っ取るというニューラにもできない離れ業。魔法少女を支配する魔法なんてあるのか?
言動から考えても魔法少女……だよな。一体何者なんだ?
To be continued→
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