学院の異変㉕ 謎の女
「メイプル、良案はあるか?」
『有栖川陽奈を無力化するためには、ノックダウンしかないようです』
「選択肢は無いってことか」
『殺せ』という命令が優先されているからか、フリーゲンにも殺意が宿ったような気がする。物量だけでなく、今は武器の一つ一つが鋭く重い。
【双天緋水】の利点は双剣。立ち回りやすく攻撃を捌きやすい。だが、攻撃の性質が変わったとなるとその利点も潰れてしまう。
「一応撃ってみるか」
クイックドロウでピュアラファイを当ててみるが、やはり効果はない。どうやら山田さんが解析した洗脳魔法とは魔法式構成が異なるようだ。
「おっと!」
油断すると落とされるな。
「まったく、陽奈とガチでやり合うことになるなんてな」
つくづくオリジナル魔法を作っておけば良かったと思う。だがそんな泣き言を言っても始まらない。
今の俺にできるのはゲーム武器の再現だけ。【エクスカリバー】は使ってしまったし、【紅のヤシオ】は条件が合わない。
「……ちょっと難しいが、やってみるか」
ゲームにおいて、時に最大の攻撃は一撃の火力じゃない。複数回の行動や連撃こそが大ダメージを与える最良の手段となり得る。
「嵐牙剣!」
黒い剣身に赤く禍々しい模様。神話ではなくゲームオリジナルの剣。【嵐牙剣】の特殊能力はMPを消費しての連撃。初撃から10連撃を叩き込むことができる。
「せいっ!」
迫りくる斧を斬ると赤い模様が光り、ガガガガ! と10回の攻撃が入って斧は砕けた。
「よし!」
攻撃は思った通りに入った。しかしこの再現魔法はデメリットもキッチリ再現してくれる。つまり――
「くっ……腕が動かん……」
この攻撃最大の欠点は数秒のフリーズ。強力ゆえのデメリットだ。ゲームならボス相手に回復しながら削りまくれる最強の部類の武器なんだが、現実はなかなかリスキーだ。しかも今は一人。
「……よし!」
フリーズ時間は2秒ほど。毎回発動させる必要はない。要所要所で使えばいい。
あとは隙を見て陽奈の杖を壊す。壊せなくても叩き落とせば魔法は使えない。
「……」
陽奈は変わらず生気の無い眼で無表情に攻撃してくる。意識があるのかすら分からない。
「今助けるからな、陽奈!」
「……えで」
「え?」
今、一瞬、かえでって言わなかったか?
「陽奈! なにしてるの! 早く殺しなさい!」
ニューラに間接洗脳された女の子が命令を叫ぶと、陽奈はビクンッと身体を震わせ苦しみだした。
「うっ……こ、殺す……? 殺す……ころ……す!」
「いい加減にしろぉーっ!!」
陽奈の反応が鈍った隙に女の子に嵐牙剣を振り下ろす。
「ふん、私には効かないわ」
「なに!?」
11連撃は確かに発動してるはず。なのに涼しい顔をしていた。
「どういうことだ!?」
「言ったでしょう。私には効かないって。陽奈!」
呼ばれて飛んできた陽奈はボンバードを発動させた。
「陽奈! そんなのここで使ったらダメだ!」
「ボンバード……全てを焼き尽くして」
無差別に炎の雨が降り注ぐ。
このままじゃ図書館どころか学校が破壊されてしまう!
『やれやれ、見てられんな』
「――!?」
突然、頭の中で声がした。どこかで聞き覚えのある……誰だ?
『お前はいつまで経っても成長せんな。私が力の使い方を見せてやろう』
「この……感覚――!」
間違いない、さっきと同じ。そしてあの時と――
『……あれ? 意識がある。あの時は気付いたら目の前に紫がいた記憶しかないのに……』
「それはお前が暴走したからだろう」
『えっ、なに!? こ、これは……身体が動かない!?』
「しばらく借りるぞ、この体」
『ど、どういうことだ? 君は誰なんだ!? 一体どこから!?』
「ふん。私がどこの誰かなど、今はどうでもいい。そんなことより、この魔法をなんとかせんとな」
姫嶋かえでの体を乗っ取った謎の女は魔法陣を展開する。
「バニッシュ・フィールド」
青く光る円陣が広がる。と、ボンバードの炎がスゥっと消えてしまった。
『これは……すごい』
「この程度で驚くな。さて、邪魔な輩には退場していただこうか」
そう言うと魔法の杖を陽奈に向ける。
『待ってくれ! 陽奈は――』
「うるさい」
白い光。ピュアラファイとはまた違う光が杖から飛び出て陽奈に直撃する。
『陽菜あああああ!!』
「うるさいと言ってるだろうが!」
『この野郎! よくも陽奈を!』
「阿呆が! よく見ろ! 生きてるだろうが!」
『……え?』
意識集中すると、確かに陽菜の魔力を感じる。
『良かったぁ……』
「まったく、信じられんボンクラだな」
『君がいきなり攻撃するからだろ!』
「殺す魔法かそうじゃないのか、そのくらいも見分けられないからだ」
『そんなの無理だろ!』
「50キロメートルエリア担当でもそう言うと思うか?」
『……え?』
「お前が目指す50キロメートルエリア担当全員に今の攻撃を見せて、その中の一人でも殺すように見えたと言うのであれば、私は土下座して謝罪しよう」
『それって……つまり、高位魔法少女なら誰でも見分けられるってことか?』
「当たり前だ。それぐらいの能力がなくてどうして高位を名乗れる。
分かるか? お前は所詮そのレベルに過ぎんということだ。今の今までは生まれ持った仮初の力に頼り、高位魔法少女の力を借り、運良く生き残っただけだ」
正論でぐぅの音も出ない……。
「折角有り余る力を持っているというのに、こんな雑魚ども相手に苦戦してるようじゃ50キロメートルエリア担当なんて夢のまた夢だな」
『ていうか、どうして私が50キロメートルエリア担当を目指してるなんて知ってるんだ』
「さあ、どうしてだろうな? そんなことより、折角意識を残しておいてやったんだ。お手本をよく見ておくんだな」
謎の女は魔法の杖を女の子に向ける。
「少々おいたが過ぎたようだな。折檻してやろう」
To be continued→
最後まで読んで頂いてありがとうございます。
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謎の女は一体誰なのか?
ていうか謎の女いっぱいいますよね。それぞれの正体も早く書きたいんですが、それはまだ当分先になりますので、お楽しみに。




