学院の異変㉔ vs陽奈
「これは……!?」
図書館の上空に来ると、見たこともない結界に覆われているのが見えた。
「どうなってるんだ?」
『魔法少女による結界と思われますが、該当者無し。恐らくニューラに操られた生徒によるものです』
「中でなにが……」
と、その結界から一人飛び出してきた。
「陽奈! 無事だったのか!」
「……あなたね? 茜たちを困らせてるのは」
「え?」
「悪いけど、二度と近づけないくらいボコボコにするから」
「ちょ、ちょっと待って! 私だよ姫嶋かえで! それに茜って誰!?」
「姫嶋? 聞いたことないわね」
「えええええ!?」
「それに、茜は私の親友よ!」
〈マスター、茜という名前に該当者有りです。三ツ矢女学院中学2年生、黛茜。魔法少女候補です〉
「またかっ!」
陽奈の攻撃を避けながら、どうしたらいいのかを考える。
先ず状況を整理すると、陽奈はどうやら再び洗脳された様子だ。ということは図書館の結界にニューラがいるのだろう。……でも、どうやって学院の結界を抜けたんだ?
黛茜はアイクルと同じく間接洗脳を受けた子だろう。陽奈はその子の術中にも嵌められてしまった。ということか。
陽奈は他の子よりしっかりしてるし、魔法少女としても優秀だ。深い策が用意されてたのも頷ける。だが陽奈が図書館に行ったのはたまたまだぞ? まさかその前から図書館を選ぶよう暗示があったのか?
「私を相手にして考え事とは、余裕ね?」
「そういうわけじゃ……!」
陽奈の魔法の一つ、フリーゲン。魔法で作った武器を飛ばすというシンプルなものだが、本人から聞いた話じゃ最高速度は時速175キロメートル。秒速にして48.6メートルにもなる。つまり、アタッカーの間合いなら回避はほぼ不可能な攻撃だ。
「でも!」
中距離からの砲撃なら話は別だ。それに、今のピュアラファイには洗脳解除の術式がある!
「ピュアラファイ!」
逃げ場を無くすため、あえて拡散気味に放つ。
「よし、これで元に――」
「今のなに? やる気あるの?」
「なっ――!?」
ピュアラファイが消えたと同時に目の前に陽奈がいた。
「効いてない!?」
「こんなの効くわけないでしょ!」
フリーゲンで出した双剣を振り下ろす。咄嗟に杖で防ぐも、信じられないパワーに押されて地面に叩きつけられてしまった。
「ど、どういうことだ? 確かに洗脳解除の術式を起動して撃ったぞ?」
〈有栖川陽奈の魔力を解析しましたが、洗脳魔法とは違うようです〉
「違う? だってどう見たってあれは……」
洗脳魔法にしか見えない……。だが実際に解除術式を乗せたピュアラファイが効かなかった。ニューラの洗脳魔法の他に原因があるとすれば――
「操られた生徒のほうか!」
謎の結界に向かうと、当然のように陽奈が防衛に来る。
「ちょっと、私を無視しようなんていい度胸してるじゃない」
「陽奈、君は今操られているんだ」
「操られてなんかいないわ。ただ親友のために動いてるだけよ!」
「親友?」
近距離でフリーゲンを相手にするには、やはり【双天緋水】しかないか!
「へー、アタッカーもできるのね。あの人みたい」
「あの人?」
「ま、遠く及ばないけどね!」
飛んでくる武器を【双天緋水】でひたすら叩き落とす。これじゃアイクルの時と同じだ。あの時は背後にいる本体を叩けば終わったが、陽奈にピュアラファイを撃ったところで意味がない。
「ほんの僅かでも隙ができれば……」
〈それでしたら提案があります〉
「提案?」
「へぇー、けっこう耐えるのね。じゃあ、これで終わりにしてあげる」
陽奈は黒い球を作り出す。明らかに危ない魔法だ。
「じゃあね、ゼス――」
「閃光弾!」
「なっ……!?」
メイプルの提案は見事に成功した。以前に本部のショップで貰った特殊弾セットの一つ、閃光弾。使うことはないだろうと思ってたのに、まさか有効活用する時が来るとは。
「ごめんね」
陽奈が怯んだ隙に図書館の結界を破壊する。そこには一人の女の子がいたが、ニューラらしき姿は見えなかった。
「あーあ、もう突破されちゃった。陽奈も甘いわね。もっと早くゼストロン使ってれば簡単に勝てたのに」
「君が陽奈を操っていたのか」
「そうよ。でも少し違うわ。陽奈は自分の意思で私に協力してくれたのよ」
「自分の意思で……?」
「ええ。私の魔法は強制力を持たない。ただ従わせるだけなら、ニューラ様がやって下さるわ」
「……君のことを親友と言ってたよ」
「ええ、だって本当のことですもの」
「……私のことは忘れてたよ」
「忘れる程度の存在だったんじゃない?」
「――!」
胸の奥がザワつく。魔法少女の器がカタカタと震えるのが分かる。この感覚には覚えがある。
「ぐっ……!」
「あら、どうしたの? 陽奈にとってその程度の存在だったことが辛いのかしら?」
「そうじゃ……ない。陽奈の、人……の心を、弄ぶのは止めるんだ!」
「弄ぶ? 人聞きの悪いことを言わないで。私は陽奈の心を解放してあげただけよ」
「嘘だな」
「……なんですって?」
「さっきから君の目が泳いでる。左手で右腕を抑えてる。君は嘘をつけない人間のようだ」
「そ、そんなことで嘘だなんて決めつけないで!」
女の子が本に何かを書くと、陽奈の魔力が大きくなったのが分かった。
「なにをした!?」
「ふふ、たった一つの命令よ。目の前の敵を殺せってね」
「――! なんてことを!」
迫る陽奈は、さっきとは打って変わって眼に生気がなかった。これじゃただの殺人マシーンじゃないか!
「目を覚ませ陽奈!」
「無駄よ! もう誰の声も聞こえないわ。あなたを殺すまで止まらない!」
「いや、止めてみせる!!」
To be continued→
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