学院の異変㉓ ミスティックペン
「陽奈」
「え? ああ、茜か」
「どうしたの? ボーっとして」
放課後、私は親友の茜と図書館で勉強しながら、傾いた太陽が世界を茜色に染めるのを見ていた。
「なんでもないわ」
「そう。ところで陽奈は世界平和に興味ある?」
「どうしたの藪から棒に。興味というか、世界が平和であればいいとは思うわ」
「そう。それは誰しも願うことよ。でも未だに実現していない。いえ、正確には平和を維持できない」
「今日はどうしたの? いつになく真剣じゃない」
「陽奈のためだもの、真剣にもなるわ」
「私のため?」
そう言う茜の眼は、まさに真剣そのものだった。
「陽奈には世界を導く力があるの」
「……え」
なんか急に雲行きが怪しくなってきた……。
「陽奈が真剣に取り組めば、世界征服だって夢じゃないわ」
「はいはい妄想を暴走させない」
「失礼。興奮してしまったようね。陽奈に会わせたい人がいるの」
「会わせたい人?」
「そう。世界平和に向けて本気で、真剣に、マジのガチで取り組んでる御方よ」
「そんな言葉どこで覚えたのよ……」
「会って話を聞けば必ず陽奈も覚醒するわ」
なんだかまた怪しくなって来たわね……。
「まあ、茜がそこまで言うのだから、会うだけ会ってはみるわ」
「それでこそ私の陽奈だわ」
「茜のものになった覚えはない」
頭にチョップすると、茜はなぜか照れる。
「ところで陽奈、図書館へはいつ来たのか、覚えてる?」
「なにまた急に。ついさっきじゃない」
「そう。思い出せたわね」
「――え?」
目の前に誰がいる。最初からいた? いや、今現れた。なんで違和感がないんだろう?
「フフフ、初めまして。私はニューラという者です」
「ニューラさん?」
「思ったより早かったですね、茜さん」
「ええ。私の想いが通じましたわ」
「それは結構。さて、陽奈さんには世界平和に向けてのご協力をよろしくお願いします」
「それは、構わないけど……なにをすればいいの?」
「まずは、我々の邪魔をする厄介者を倒して欲しいのですよ」
「厄介者? なんで邪魔するの?」
「平和が嫌だという利己的で自己中心的な人もいるのです。そういう輩は常に我々を目の敵にしてましてね、しかし私には対抗する力がない」
「茜は?」
「私は戦闘には不向きなの。だから火力のある陽奈が仲間になってくれて本当に助かるわ」
「……仕方ないわね、親友の頼みじゃ断れないでしょ」
「ふふ、だから陽奈好きよ」
「さて、と」
どさくさに紛れて抱きつこうとする茜を手で押し退けて杖を構える。
「それじゃ、厄介者退治と行きますか!」
* * *
「フフフ、やはり茜さん。貴女の魔法は素晴らしい」
「本当は好きじゃないんです。この魔法」
「どうしてですか?」
「この魔法、世界を書き換える筆は万能すぎるんです」
「それは良いことではないのですか?」
「だって、なんでも思うようにできて完璧なんて、つまらないじゃないですか」
「そうですか……。いや、なるほど。確かにそうですね。何事も障害があったり困難であるからこそ達成感はある。それらが無く、なんの苦労もなく全てが思い通りではつまらない」
「その通りです。ですので、私はこの魔法に色々と制限を設けているんです」
「構いませんよ。その魔法はもう貴女のものだ。自由に、思いのままに使うといい。しかし私の計画に必要な時はその制限を解除して下さいね」
「ええ、もちろんです」
「フフフ。さて、有栖川陽奈とどう戦うのか、見せてもらいましょうか、姫嶋かえでさん」
To be continued→
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