学院の異変⑱ イモン戦
「イモン?」
この子、魔法少女モードの私が見えてる? それに今のは……。どうやらただの洗脳じゃなさそうね。少なくとも陽奈の時とは様子が違う。
「惜しかったなー、今ので仕留めるつもりだったのに」
「今の、魔法だよね」
「そうよ。あたしのは雷魔法」
この子は知ってる。中学2年生の松本このみ。目立った生徒ではなく大人しい印象だった。けど、魔法少女ではないはず……。
「キミは魔法少女なんだよね?」
「そうよ」
「じゃあ、悪い子にはお仕置きしないとね!」
「悪い子?」
松本は魔法を見せつけるように雷撃を放ってきた。地面や校舎の壁が抉れるほどの威力。これは10キロメートルエリア相当の力がある。
でも、一つだけ分からない事がある。どうして魔法少女でもない、魔法の杖を持たない松本が魔法を使えるんだろうか。
「かえで様なら……」
かえで様ならご存知かも知れない。でもきっと戦闘中だ。邪魔だけはしてはいけない。
ここはかえで様から託された戦場。成果を上げて、かえで様への忠誠心を示さないと。
「誇り高き鈍色の夢。斜陽は世界の果てを照らす。――エグゼキューション。ライラッタ」
銀色の小さな球を10個召喚する。地上50センチほどの高さに浮いたそれを見て、イモンは「なにそれ?」と不思議がる。
「攻撃じゃないよね。罠? まあいいや、全部壊しちゃえばいいよね!」
イモンは銀色の球を破壊しようと電撃を放つ。しかし壊れるどころか地面に落ちることなく電気は消える。
「あれ?」
「その通り。これは攻撃魔法じゃないわ。避雷針よ」
「……してやったり、て感じ?」
「どうやって魔法を使えるようになったのかは知らないけど、魔法少女のことを知ってるのなら、これ以上の抵抗が無意味だというのも分かるよね」
「はいはい、降参しますよー……なんて、言うと思うの!?」
雷撃を封じられたイモンは突撃してきた。でも、それも予想通りだ。
「起きろ黒鉄の審判者。普天に逆らい足掻く求道者は魂を焦がす。――エグゼキューション。ルーインルイレセーブ!」
魔法の杖が両手剣に姿を変える。詠唱魔法の中でも変わり種の魔法。武器化ではあるけどアタッカーのそれと異なるのは、これが武器であると同時に魔法であるということ。
「やあっ!」
イモンは拳に電気を纏わせてパンチを繰り出す。なるほどそれなら避雷針も意味を為さない。
「はっ!」
両手剣を大振りでイモンの拳に当てると魔力の摩擦でバチバチと火花が散る。
「キャハハ! そんなモノ叩き折ってあげる!」
「ねえ、魔法剣って知ってる?」
「は?」
「バーストブレイク」
突然剣が爆発したのに咄嗟に後ろへ跳んでダメージを軽減した。松本――イモンは勘が良いようだ。危機察知能力に優れてるのかも。
「なによ、今の!?」
「この剣には魔法が宿っているの。その一つを発動させただけよ」
「魔法が宿る剣? そんなの聞いたことない!」
「それはそうでしょう。魔法少女でもごく一部の人しか知らない変わり種だから」
これは擬似的にデュプリケートを再現する魔法。戦闘スタイルを併用することで戦術の幅を広げるデュプリケートは、私のような魔力制御が未熟な魔法少女がやろうとすれば激しい副作用に見舞われる。
この魔法は一時的かつ擬似的ではあるものの、そんな私でもデュプリケートを可能にしてくれる。
一つ大きな欠点としては魔法を入力するブロックが一つしかないので、他の魔法を発動させたければ詠唱が必要になる。ただでさえ使い勝手が悪くて燃費も悪く、詠唱魔法の中でも最も人気がなく知名度も低い。
なんでそんな魔法をこのタイミングで使ったのかというと――。
「でも、爆発するのが分かれば怖くないもんね!」
「ありがとう。狙い通りに考えてくれて」
「はにゃん!?」
イモンの背中に激痛が走ったはずだ。まさか考えもしないだろう。避雷針が攻撃してくるなんて。
「なによ、これ……!」
「避雷針とは言ったけど、避雷針のためだけに10個も置くわけないでしょ?」
魔法剣には入力した魔法を発動させる擬似デュプリケート機能とは別に、もう一つ面白い機能がある。それが魔法の誘導だ。
「この魔法剣は避雷針を自在に操ることができるの。つまり、あなたの魔法を完全に封じられる」
「ぐぬぬ……」
実際は自在じゃないけど、戦いにはブラフも必要。こんな猪突猛進な子には効果的だろう。
「まさか、もう奥の手を使うことになるなんて……」
「奥の手?」
「ニューラ様、すみません。でもあたし、絶対勝ちますから!!」
魔力が急激に膨れ上がる。あり得ない! 魔力は器より増えることはない。増えるとしたらそれは――
「まさか、ローレス化!?」
To be continued→




