学院の異変⑰ 保健室
先生に出会ったのは、入学して間もない頃だった。
「茅野芽衣さんだね?」
「はい、そうですけど?」
三ツ矢女学院にいる数少ない男性教師の一人に声を掛けられたのがきっかけで、私の人生は大きく変わった。
私のことを第一に考えてくれて、優しくてカッコよくて、そんな先生が大好き。先生のためならなんでもできる。先生の命令なら、例え同級生だろうと……。
* * *
「……ん」
ここどこだろう……保健室? 私何してたんだっけ?
ああそうだ、先生に言われて反抗的な生徒をお仕置きしようとして……。先生って誰だっけ?
「大丈夫!?」
「……え?」
キレイな栗色のロングヘアに大きな瞳。こんな可愛らしい子、学院にいたっけ?
「うん。……大丈夫だと思う」
意識はハッキリとしている。まるで清々しい朝を迎えたようだ。
「あなたは誰?」
「私は姫嶋。茅野さん体育館で倒れてたんだよ」
「……だめ、思い出せない」
「無理しないほうがいいよ。頭打ってるかも知れないし。先生には私から言ってあるから」
「うん。ありがとう。……先生」
「え?」
「私、誰かに言われたの。反抗的な生徒をお仕置きしなさいって」
「誰に!?」
「分かんない。先生の誰かだと思うんだけど……」
記憶は朧気でぼんやりとしている。でも悪くない感情だったのは覚えてる。今となってはどうとも思わないけど。
「ところで」
「ん?」
「あなた、……姫嶋さん? どこかでお会いしたことありませんか?」
「ないと思うけど」
「そう。……どこかで見たことあるのよね」
「そりゃあ、同じ学校の生徒だし」
「ううん、そうじゃない。……そもそもあなたを学院内で見かけたことはないわ」
なんだろう。この胸奥のモヤッとする感じ。頭はスッキリ晴れているのに問題が解決してないような違和感がある。
「覚えてないだけじゃないかな……」
「ねぇ、なに隠してるの?」
「えっ」
「あなた、なにか隠してるよね?」
ジッと姫嶋さんの目を見つめると、明らかに目が泳ぐ。きっと三ツ矢女学院の生徒じゃないのね。
でもセキュリティはしっかりしてるから不審者は校門を通ることすらできないはず。なら学校の関係者? それとも外部の……。あっ!
「あなた、もしかして転校生?」
「えーと……はい。そうです」
「隠さなくてもいいのに」
「あはは……。それじゃ私は行きますね」
まだ何かを隠してそうな、誤魔化すように姫嶋さんは去って行った。でも怪しい人じゃなさそうで良かった。あとで助けてくれたお礼をしないとね。
* * *
「危なかったー!」
どこかで見たことあるって、まさか例のライブを知ってる子か? それにしては姫嶋の名を聞いてもピンと来ない様子だったが……。
「それにしても気になるな」
先生にお仕置きしろと言われた。そして記憶が抜けている。これはどう考えてもニューラの仕業だ。ということはニューラは教師として潜入していたのか?
いや、それはリスクが高すぎる。それに、そもそも巨大な結界に阻まれて本人は侵入するのが不可能のはずだ。もし侵入できるのならもっと効率的かつ効果的なやり方があったはず。
「ということは、茅野が言ってた先生は三ツ矢女学院にいる本物の教師か」
恐らくニューラに洗脳された教師だろう。その教師を使ってさらに生徒を操り、無理やり魔法を使わせる。そうすることで結界の外にいながら間接的に洗脳魔法を掛けられるわけか。どうりで魔物の反応がないわけだ。
俺たちの一歩もニ歩も先を行っている。一体いつから準備していたんだ? 教師の仕込みを考えると一週間やそこらじゃない。もっと前から狙われていたのか。
「まさかこれほどの策略家だとは……」
北見校長に報告しようとするが、魔法通信も携帯電話もまだ妨害されているみたいだ。こうなったら直接報告しに行くか。
「皆は大丈夫かな」
応援に行きたいが報告が先だ。それに協力者の皆は魔法少女としては俺なんかより実力も経験も上だし、陽奈も頼っていいと言ってくれた。なら、俺は3人を信じるだけだ。
To be continued→
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