学院の異変⑯ アニメの主人公みたいに
「なんだって?」
このアイクルと名乗る子が、魔法少女の候補だった?
「ということは、近い内に魔法少女になる予定なのか?」
『いえ。未だ規定に達してないため、あくまで候補として保留となっています』
少しずつ見えてきたぞ。ニューラの下僕というのはよく分からんが、なんらかの方法でこの茅野って子を支配して魔法を使えるように仕立てたってことか。
「でも、そんなこと可能なのか? 魔法って魔法の杖が必要なんじゃないのか?」
『そうとは限りません。魔物もローレスも魔法を使えますので、なんらかの手法で強引に魔法を使わせてる可能性はあります』
「それってなんかマズいんじゃないか?」
『はい。魔法の杖と契約していない状態の器から無理に魔力を使えば汚染される危険があります』
「なっ!? ニューラめ……!」
このままじゃ茅野がローレス化してしまう。でもピュアラファイは効かないし……。仕方ないか。
「アタッカーで攻める!」
ここはいつもの【双天緋水】で行くか。
突っ込むと、すぐにアイクルは反応する。
「へー? 武器も使えるんだ」
「さあ、どうする!?」
魔物と違うから思いっきり斬りかかる訳にもいかないなー、なんて思ってたら空振りした。
「あれ?」
「あはははは! どこ攻撃してんのー?」
今、ここに居たよな?
「せいっ!」
今度はちゃんと捉えたはずだった。これは……。
「ねえ、全然当たってないよー?」
瞬間移動? これも魔法の一種なのか?
「メイプル、どう思う?」
『魔法の発動は見られません。他の要因だと思われます』
「他の要因か」
まったく、やりづらい相手だな。
その後も何度か斬りかかるが、全て空振りしてしまい当たることはない。たが少しずつカラクリが見えてきた。
「その光の球だな」
「ピンポーン。やっと分かったー?」
「光の球とアイクルが磁力のように引き合ってるわけだ。あながち瞬間移動というのも間違ってなかったらしい」
「でも、分かったところで攻撃が当たるわけじゃないけどねー」
その通りだ。いくら【双天緋水】にスピードのバフがあろうと、瞬間移動されたらどうしようもない。つまり、そこじゃない。スピードとは違う何かで対抗する必要がある。
とはいえ、俺のゲーム武器シリーズも無尽蔵ってわけじゃない。それにコンプできなかった装備は知識でしかなく、使い方が分かる武器は限られる。
「……一つ試してみるか」
ちょっとしたアイデアを思いついた。握りやすい片手剣に武器を変更してアイクルに投げる。
「危ないじゃないの! なにすんのよ!」
「避けたな? はは、なんでも試してみるものだ」
「な、なんのことかしら?」
「避けたってことは、当たるんだろ? 投げられた物は」
「……あーあ、バレちゃったか。あんたの考えはほぼ合ってるわよ。あたしの魔法には弱点がある。それで? あたしが対策してないとでも思った? それにあんた、どうやって攻撃するのかしら?」
今投げた片手剣を人質ならぬ物質にするアイクル。しかしここで花織さんとのレッスンが活きる。右手を伸ばして軽く意識集中すると片手剣は魔法の杖に戻り、俺の手に戻ってきた。
「あれっ!?」
「残念だったね。私が対策してないとでも思った?」
「このぉ……! 生意気よ!!」
また光の球による攻撃が始まった。数発撃たれる程度なら問題ないんだが、弾幕になると手に負えない。情けないが、とにかく逃げ回るしかない。
「やべっ」
砲撃が一つ、顔面直撃コースで迫ってくる。回避できなくはない。だが無理に回避すれば体勢を崩した途端に集中砲火を浴びることになる。
「くっ、南無三!」
咄嗟に魔法の杖を【双天緋水】に切り替えて砲弾を斬ると真っ二つになった。
これって……。もしかしてアニメみたいな事できるんじゃないか?
試しにと剣を構える俺に、アイクルは「あのねー、そんなアニメみたいに上手く行くわけないでしょ?」と再び弾幕を張る。
「やってみないと分からないだろ!」
アニメの主人公みたいに剣を振り回して次々と迫る弾幕を斬りまくる。
「この……っ!」
予想外に粘る俺を見て、アイクルも次第に本気になる。加速する弾幕は流石に捌き切れなくなってきた。
「くっ!」
このままじゃジリ貧だ。それにアイクルにこれ以上魔法を使わせたくない。どうしたら制圧できるんだ!?
『マスター、分析完了しました』
「待ってたぞ! アイクル攻略の糸口は見つかったか!?」
『糸口になるかは分かりませんが、目の前のアイクルは本体ではないようです』
「本体じゃない?」
『高度な投影魔法だと思われます』
「投影魔法!?」
あれが投影? つまり立体映像だっていうのか!? 魔法は軽く科学技術を超えてくるな……。
しかし種が分かれば攻略は簡単だ。
「メイプル、本体の位置は分かるか?」
『アイクルの左後方にそれらしき反応があります』
「分かった!」
そろそろ弾幕を凌ぐのも限界だったし、決着をつけよう。
しかし今魔法の杖に戻すと蜂の巣になってしまう。……こうなったら仕方ないな。まだ上手く制御できないが、これしかない!
「いっけぇー!!」
【双天緋水】にピュアラファイを乗せて横一文字に薙ぎ払う。巨大な斬撃は弾幕を切り裂いてアイクルを通り過ぎて体育館の奥にぶつかった。
「きゃっ!」
奥の方から小さく女の子の声が聞こえると、砲撃は消えてアイクルも消えていた。
「負けちゃった……」
「君がアイクルの本体なんだね、茅野芽衣さん」
「ど、どうして私の名前を?」
「ちょっと調べたからね。茅野さんには訊きたいことがあるんだ」
「そう……。いいよ、また……あと……で」
「茅野さん!?」
『気を失っただけのようです』
「そっか……」
なんとか止めることができて良かった。まさか洗脳だけじゃなく魔法も強引に使わされてるとはな。他の3人も恐らくは同様に……。
「どうやって保健室に運ぶか」
漫画のようにお姫様抱っこか背負うかでめちゃくちゃ悩んだ末に、背中に胸の感触があるのは恥ずかしくて耐え難いという情けない理由でお姫様抱っこで運んだのだった……。
To be continued→
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剣で飛び道具を叩き落とすのはロマンありますよね。




