学院の異変⑭ 4人の下僕
北見校長によると、様子のおかしい生徒はそれぞれ別の場所にいるらしい。
二階の教室に乃愛、一階廊下は水鳥、図書館は陽奈、体育館には俺が行くことになった。
ああは言ったけど、ニューラは相当狡猾な魔物だ。何事も無ければいいんだが……。
体育館に到着すると、真ん中に女の子が立っていた。他の生徒や教師も北見校長の計らいで避難済みだ。存分に戦える。
「といっても、ピュアラファイ撃って終わりなんだけどな」
微動だにしない女の子に向かってピュアラファイを放つ。一瞬で片付き、あとは北見校長にお願いしようと思った、その時だった。
「なんだ……?」
違和感を覚える。なんで女の子は無反応なんだ? ピュアラファイ当てたよな?
気になって仕方ないので、慎重に近づいて確かめる。
「あのー」
呼びかけにも応じない。これ、生きてるよな?
「メイプル」
『生体反応はあります』
「だよな」
じゃあ、どうして立ったまま微動だにしないんだ? 洗脳魔法は解除したはずなのに。
「ひょっとして、気を失ってるのか?」
『いえ、そうではないようです』
洗脳魔法が解けてない? それとも意識がハッキリしてないのか?
「とりあえず北見校長に連絡を」
と、その時だった。
「くっ!」
完全に油断していたところを襲われた。女子中学生の攻撃力じゃない。
「ちぇ、惜しいなぁ」
「君は何者だ?」
「あはっ、はじめましてー。あたしはニューラ様の忠実な下僕、アイクルよ」
* * *
「はぁ……かえで様」
かえで様と一緒にお仕事したかったなぁ。かえで様の事を想うだけで私は……。
「さて、さっさと制圧してかえで様に褒めて貰おう」
廊下をフラフラと歩いている生徒を見つけた。きっとこの子だろう。
「一緒に来てもらうよ」
様子のおかしいと思われる生徒の肩に手を触れた瞬間、バチッ! と弾かれた。
「なに!?」
「……あー、仕留められなかったかぁ」
「あなた……何者? 生徒じゃないわね?」
「私はイモン。ニューラ様の忠実なる下僕よ」
* * *
「さーて、どんな子かなー?」
可愛い子だといいなー、ふふ。
教室のドアを勢いよく開けて「助けに来たよー!」と高らかに宣言する。と、なんのリアクションもない。
「もぅー、リアクションないと恥ずいだけじゃん」
教室に入る。と、その瞬間に結界が発動した。
「なにこれ!?」
「あががぺぺ……」
「あなた、誰!?」
「がが、ぺぺぴーぷぷ。ワタシは、ニューラ様の忠実なる下僕、リュードクラ。ぺぴーぷぷー、キサマを殺す」
「へー、あたしを殺すって? いい度胸じゃない」
「ぷぺぴぴぽ。キサマのデータ、全部ある」
「そう。じゃあ、あたしの勝ちだね」
* * *
「図書館て、とても不思議な空間だと思わない?」
その子は、唐突に語りだした。
「他と隔絶された静謐な空間。木と紙の匂いが満ちる古今東西の叡智が集う場所。私は図書館が愛おしい」
「そうね、本は智の結晶。人類の歴史そのものだわ」
「やっぱり。あなたなら分かってくれると思ったわ」
「私を、知ってるの?」
「ええ。有栖川陽奈、有栖川グループ総帥の孫娘にして10キロメートルエリア担当の魔法少女。誰もが羨む才色兼備のお嬢様」
「……それは違うわ。私は才色兼備なんかじゃない」
「そんなこと言わないで。あなたは自分を過小評価してる。自分を卑下していては、高く飛べないわよ」
「過小評価も、卑下もしてないわ。私はただ事実を――」
「私はあなたをよく知ってる」
いつの間に目の前に!?
なんの気配も無かった。まるではじめから目の前に居たような、そんな錯覚さえ覚える。
「あなた……。ランクAの魔物ね!?」
「さあ、それは分からないわ。分かるのは一つだけ、私はニューラ様の忠実なる下僕の一人、フィノェラ。陽奈、残念だけどあなたでは私に勝てないわ」
「そんなの、やってみないと分からないわ! フリーゲン!」
魔法で作った武器を飛ばす。しかし手応えがない。
「もう一度言うわ、あなたでは私に勝てない」
「くっ、まだよ!」
短剣、長剣、斧、槍、ありとあらゆる武器を飛ばす。それでも、なぜか手応えはなかった。
「ど、どうして……」
「ごめんね、図書館ではお静かに」
「かっ……!」
何をされたのか分からなかった。ただ右肩に強い衝撃を受けて吹き飛ばされた。
「ぐぅ……!」
右肩が熱い。穴が空いたようだ。血が止まらない。
「陽奈、そのままではあと10分もすれば死ぬわ」
「はぁ、はぁ……!」
「でも、あなたなら生き残る選択肢がある」
「どういう、こと?」
「あなたも、私たちの仲間になるのよ。有栖川陽奈」
To be continued→
最後まで読んで頂いてありがとうございます。
応援よろしくお願いします。
今回は場面転換が多くてすみません。こういう時、漫画とかアニメならやりやすいんだろうなーと思ってしまう。ふとした回想やちょっとしたキャラのモノローグなんかも自然に入れやすいですし。
でも、それらを上手く文章で表現するのが作家なんですよね。文章力が欲しいです。




